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おてんば姫の侍女と無残業少尉と断崖の城 1

私の名はパスカル。地球(アース)502 遠征艦隊所属の駆逐艦 4569号艦に乗艦するパイロット。階級は少尉。


私の信念は、勤務時間はきっちり守る。定時開始、定時終了。残業はしないのが原則。


だから、私自身は防衛艦隊を希望していた。連盟側への牽制でしかない防衛艦隊なら、時間外労働などありえない。


だが、パイロットという職種は防衛艦隊にはほとんど必要とされない。というか、ない。航空機はもはや遠征艦隊だけに使われるものであり、結局私は遠征艦隊に配属となった。


それでも、パイロットというのは普段はやることがない。外宇宙でたまに偵察に出たり、小型天体に着陸、調査する程度の仕事しかない。


おかげで「航空機不要論」が出て、航空隊を廃止した惑星もあるほどだ。だが、なくすのはやり過ぎたようで、惑星探査では大混乱に陥ったと聞く。


我が惑星はきちんと航空隊を維持してくれるため、こうして私のような人間でもちゃっかり給料を貰えて、楽なポジションに居座ることができる。


が、ここにきて憂慮すべき事態が発生した。


我々の遠征艦隊に、未知惑星との同盟交渉を行うよう、命令が下ったのだ。


未知惑星調査の担当は、パイロットにとってはまさに悪夢だ。時間超過、生命の危機、担当外任務のオンパレードだと聞く。これはもうブラック職場だ。


よりによって、私の所属する小隊に地上調査・交渉任務が回ってきてしまった。最悪だ。


そんなわけで、今私は地球(アース)768となる予定のこの惑星にきている。


ただ、艦長も私の人となりをよくご存知だ。鉱物調査や気候調査など、対人関係が絡まない任務ばかり私に回してくる。これはありがたい。


しかし、どうも同乗する奴がとろいのばかりで、簡単に時間超過しやがる。今日も気候調査のために地上に降りたのだが、担当者がセンサー設置に戸惑って、1時間も計画を超過してしまった。


「艦長!ちゃんと1時間分は残業代としてつけてもらえるんですよね!?」

「分かってる!いつものことだろう、そうかっかするな。」

「しかも今回はあまりに帰りが遅いので、私も探してしまいましたよ!担当外任務です!手当は出るんでしょうね!?」


毎回この調子で艦長に食ってかかるものだから、どうも煙たがられてるのはわかる。


だが、きっちり要求する人物がいないと、艦隊というところは平気で残業代や手当を支払わない。それは、労働者として看過できない問題だ。


「お前のいうことはよくわかるが、もう少し軍人としての自覚はないものかなぁ…」


などと艦長は言うが、たとえ軍人でも労働者。要求するべきは、要求する。意識や自覚で片付けられては困る。そういう曖昧な意識とやらを利用して、我々労働者の権利と、私の懐に入るはずのお金を差っ引かれるのは断じて許せない。


もちろん、働かないで給料をよこせとは言わない。だが、与えられた任務を全うし、目に見える成果は残した。その分をちゃんとよこせと言って何が悪い!


という調子で私は働いていた。そのおかげか、同期が次々に中尉に昇進する中、私は少尉のままだ。


別に自分1人生きられる給料が貰えれば十分。昇進して危険な戦場に行って停戦交渉してこいといわれて、そこで命を落とすようなことがあっては、何のために生きてきたのかわからない。


さて、この惑星とはすでにいくつかの国と交渉がまとまりつつあるようだ。私の駐留する空域の近くの王国ともすでに宇宙港の場所をどうするか、話している段階だという。


つまり、誰かがこの王国の重鎮か王族と接触してその後の交渉につなげたのだろう。いくら手当がもらえるのだろうか?もっとも、私にやれと言われてもそんなことできないだろうが。


ところで、この星の文化レベルは2。中世風の城と街並みが広がり、まだ銃すらも発明されていない。剣と弓と甲冑が戦場の主役。そんなレベルの星だ。


そういえば、この王国に出向いた交渉官を迎えに行く任務についたことがある。


そこは国王陛下の別邸で、多くの貴族が集まっていた。国王陛下の娘であるエリザベート姫の誕生パーティーが行われたそうで、国中の貴族が参加したようだ。


というわけで、我が交渉官殿も参加したようだ。人脈づくりというわけだ。パーティー参加では業務外ということで残業代も出ないのに、ご苦労様なことだ。


その姫というのをちらっと拝見したが、すごい美人だ。育ちの良さは遠くからでもわかる。


多くの侍女を従えて、おしとやかに歩く姿は、多くの人を魅了する。


私が見たときはちょうど姫が退場するところだったようだ。交渉官殿もそれを見届けたのちに、私のところに来た。


10分超過だ。我々の残業代は15分刻みで出る。あと5分遅れてくれてれば残業がつけられたのに。


だがほろ酔いの交渉官殿はなかなかうまく乗ってくれない。私も手助けしてなんとか後席に乗せた。複座機で来てしまったが、乗り降りを考えて哨戒機できた方が良かっただろうか。


だがおかげでさらに5分遅れが生じた。この余計な業務行動は私の信条に反するが、この遅れのおかげで残業時間がついた。


そんな交渉官殿との帰途で、誕生パーティーについて聞いてみた。


「綺麗な方でしたね、お姫様。」

「ああ、とても綺麗な方だ。なんでも、隣の王国との婚約が決まってるそうで、そこの王子が羨ましがられてるそうだ。」

「さぞかしおしとやかな方なんでしょうね。遠くから見てそう思いましたよ。」

「いや、そうでもないらしい。聞くところによると、かなりのおてんばだそうだ。」


えっ?あの綺麗な方がおてんば?


「どうも高いところが好きらしく、王国の一番高い塔に登ったり、山に登ったりしているそうだ。だが最近はさらに高いところを目指そうとしてるようで、国王陛下もやきもきしてると言われてた。」


なんとまあ、見かけによらない人というのは身分や惑星に関係なく、存在するようだ。


交渉官殿を駆逐艦に連れて行き、本日の営業は終了。残業代は15分、そこへ王都へのお迎えの特別手当が付いた。


もう今更残業しないポリシーを貫くのは困難、ならば取れるだけ取ろうと頭を切り替え始めていた。


だが、そんな私でも看過できないほどの担当外任務が発生した。


先のおてんば姫が原因である。

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