宇宙飛行士と駆逐艦と機械系女子 2
私は宇宙飛行局にいた。先に私が持ち帰ったカメラのフィルムの現像が終わったという連絡を受けたからだ。
そこには、青い地球の写真とともに、あの大きな灰色の宇宙船の写っているものも含まれていた。
私が見た宇宙船そのままの姿が写っていた。つまり、あれは幻覚ではなかったことになる。
さらに交信記録も、この宇宙人の存在を示していた。
地上が私と宇宙人との交信を捉えたのは、ちょうど彼らが自分たちのことを宇宙人だと行ったあたりからだ。
その後私の宇宙船から離れるまでの両者の交信が、しっかりと録音されていた。
いったい、あれはなんだったんだろうか?彼らの言を信じるなら、宇宙人ということになる。それはおそらく間違いないと思われる。
我々にはあれほどの宇宙船を作る技術はない。無論、他国にもない。よって、この地球で作られたものとは思えない。やはり外宇宙からやってきた存在だろう。
問題は、彼らが何者なのか?何のためにこの地球にきたのか?
あれだけの技術を持ちながら、なぜ攻めてこないのか。
いや、宇宙人だからと行って、侵略を意図していると思うのはちょっと短絡的すぎる。
だが、我々人類が新たな地域、大陸に進出したとき、圧倒的に技術が進んだ側が劣る側を侵略した歴史を何度も繰り返している。
遠くの星から来たのであれば、食料、燃料を確保しなくてはならない。なおのことすぐにでも我々を攻撃し、こうした物資の確保に走ってもおかしくないのに、あの接触以来、彼らは姿を現さない。
この宇宙人との接触については公表されなかった。ただ、宇宙に初めて人類が進出し、無事帰還を果たした。その事実だけが公表された。
我が連邦政府では、この事実を受けてどうするかの対応を迫られた。
2日ほどかけて話し合いが続き、決定されたことは2つ。
一つは、共和国政府にもこの事実を伝えること。
写真と交信記録を提示して、彼らに関する情報収集のため共和国の協力もあおぐ。
本来であれば、敵対する共和国にこのような軍事機密を提供することなどあり得ない。だが、ことはこの地球人類全体に関わる事態かもしれないのだ。この地球上の2大国家が手を結ぶ必要が出てくる可能性は高いと言わざるを得ない。
場合によっては、共和国とも協力して彼らに軍事的に対抗しなくてはいけない事態も考えられる。我々の軍事力が果たして宇宙人に対抗できるかどうかは不明だが、この地球を挙げての戦いも想定せねばなるまい。
もう一つは、この宇宙人との接触だ。
どうせ宇宙人がここに来ているのならば、先手を打ってこちらから接触する。我々のところに彼らを呼び出すのだ。
これには当然、反対意見が出た。敢えて我々のところに呼び寄せることは、危険が多すぎるのではないか?という意見だ。
だが、見えない相手のままでいられることの方がずっと危険だ。接触を申し出れば、相手も出てこざるを得ないだろう。いっそ彼らを表に引きずり出した方が、得られるものが多いという判断だ。
すぐさま、共和国側との協議が行われた。接触に当たり、共和国側にも協力してもらう。
接触の手段だが、一度宇宙船との交信に使った無線での周波数で交信実績があるため、この周波数で呼びかけることが決まった。
接触に当たり、私が我が連邦の代表者の1人になることが決まった。ほかにも、政府関係者、軍関係者も参加。
共和国側も大使館員と軍関係者を選抜してきた。
極秘で行われる作戦であるため、もちろん家族には内緒だ。
私の家族は、妻と子供1人。長男はもうすぐ学校に上がる。
宇宙旅行という危険な任務を成功させて、妻もやっと安堵したばかりだが、さらに危険な任務を引き受けることとなってしまった。
「あなた、どうかしたの?さっきからずっと黙り込んで…」
「あ…ああ、宇宙から帰ってからというもの、ずっといろんなところへ呼ばれているから、疲れてしまって。」
「まあ、いけませんね。でも今やあなたは我が国の英雄ですからね。」
もし私が死ねば、政府は家族の生活を保証してくれるという。これは宇宙旅行の際も交わした密約だが、今回も適用される。
こうして、ついに宇宙人への交信が実行される日を迎えた。
場所は、宇宙飛行局内の管制室。私の乗る宇宙船1号と地上との無線通信はここで行われた。
この場所に共和国の人間が入り、共同で宇宙人との交信をすることになろうとは、つい2週間前までは考えたこともなかった。
「アース098の駆逐艦 2230号艦へ。こちら宇宙船1号飛行士のフルシェンコ大佐。聞こえていたら、応答願いたい。」
一度交信したことのある声で呼びかけるのが最も良いということもあって、私が呼びかけることになった。
ところで、先日宇宙から帰還した私は、大佐に昇進していた。初めて階級を名乗る相手がまさか宇宙人になるとは、夢にも思わなかったが。
数分すると、相手から応答があった。
「こちら地球098 遠征艦隊所属 駆逐艦 2230号艦。そちらからの通信極めて良好。先日宇宙船にて交信された方ですね。無事のご帰還おめでとうございます。」
宇宙からの帰還をお祝いされた。なんだか緊張感がない。
「ありがとう。今日は我が連邦の代表者として呼びかけている。我々政府は、貴艦らとの接触を希望している。どのような接触手段があるかを知りたい。」
この問いに対する回答は驚くものだった。なんと、駆逐艦で来ることが可能だそうだ。
というか、すでにこの地球の大気圏内の、この宇宙飛行局付近の上空にいるため、呼ばれればいつでもこられると言う。
結局、今日の12時にこの無線通信の発信場所である、この宇宙飛行局に来てもらうこととなった。
あんなに大きなものが大気圏内の、それも我が国の上空にいて気づかないとは、どうなっているのだろうか?レーダーで感知しそうなものだが。
そして約束の時間まで、あと1時間となった。
近くのレーダー基地に問い合わせたが、それらしい物体は捕らえられていない。
だが、小型機らしき機影を発見したため、近くの空軍基地から迎撃機2機の緊急発進をかけたそうだ。
もしかして、船ではなく、付属の小型機だけがくるのか?
確かに、あの船で我々の前に現れるとは考えにくい。軍事機密の塊には違いないだろうから、最初の接触でいきなり我々の前に晒すことは通常ではありえない。
と、我々は考えていたのだが、迎撃機からの無線通信から、衝撃的な事実が判明する。
「こちらヴィリーキイ01、不明機に接近!目標は大型船!繰り返す!目標は大型船!目視にて確認!全長およそ300メルティ!」
なんと、小型機かと思われた機体は、実は大型の船だった。
迎撃機から報告された大きさからして、私の見た船に間違いない。約束通り、彼らは来たのだ。
だがどうしてあれだけ大きな物体がレーダーにほとんど映らないのか?原理は不明だが、そういう技術があるようだ。彼らの技術の高さをまざまざと見せつけられる。
迎撃機に対しては、この大型船の監視を指示した。今のところ、順調にこちらに向かってるようだ。
そして、11時57分。我々もついに目視でその姿を捉えた。
灰色の巨大な船体。私が宇宙空間で見たそのままの姿で現れた。ゆっくりとこちらに向かっている。再び、あの船から通信が入った。
「こちら駆逐艦 2230号艦。そちらの空港が見えた。着陸許可を頂きたい。」
宇宙飛行局の前には一本の滑走路を備えた空港がある。ここに着陸しようというのだ。
「こちら宇宙飛行局、着陸を許可する。」
といったものの、あれだけ大きな飛行物体。滑走路は足りるのか?
だがこの大型宇宙船、空港手前で減速を開始、みるみる速度が落ちるが、高度は落ちない。
随伴していた迎撃機も合わせて速度を落としていたが、失速寸前となり、再び増速。仕方ないので、大型艦着陸まで上空で待機、その後は基地に帰還してもらうこととなった。
ついにこの船は空港の上空で完全に停止した。失速して墜落するわけでもなく、あんな巨大なものが空中に停止してしまった。いったいどういう原理で動いているのか、全くもって不明だ。目の前の光景だというのに、信じられない。
今度はゆっくりと降下して来た。滑走路の端の方に着陸しようとしているらしい。
我々は外に出た。この目であの船が着陸するところを見たい。我々連邦はもちろん、共和国側もそう思ったようだ。
直に見ると、まるで高層ビルを横に向けて空に持ち上げたような大きさだ。
これがついこの間には宇宙空間にいた。地上になんか降りてしまったら、再び宇宙に戻れるのだろうか?
灰色の大きな船体、ブーンという低く不気味な音、そして、艦首には大きな穴が見える。紛れもなくあれは武器だろう。
我々の常識とは随分と違う船だ。無論、あの口径の砲から放たれるものも、きっと非常識なものに違いない。
今ここであれを撃たれたら、おそらく我々などひとたまりもない。ここにある建物は瞬時に消滅できるほどの威力ではないか?ならば隠れたところで、なんの意味もない。
この時私は、恐怖よりも好奇心の方が先行していた。この船のほぼ真下にまで来てしまった。
船体下面から足のようなものが出てきて、これが地面に設置して止まった。
船体の設置部近くが開いた。そこから、2人の人らしきものが見えた。
ついに宇宙人が登場した。
だが、見たところ我々と全く同じにしか見えない。軍服を身に纏い、我々と同じように歩いている。
この2人、どう見ても男女のペアだ。1人は30代後半くらいの男性、もう1人は若い女性のようだ。
こちらに向かって歩いてくる。我々も彼らの方に向かって歩み寄った。
あまりに我々と同じ格好だが、もしかして変装しているのかもしれない。中は映画でよくある粘液に覆われた宇宙人がいるのかも知れない。
宇宙人の男性側が口を開いた。
「私は、地球098、遠征艦隊所属の駆逐艦 2230号艦の副長をしてます、フェルディナンドと申します。」
「同じくこの艦で作戦参謀を勤める、ベアトリーチェと申します。」
2人とも我々に敬礼してきた。我々も思わず敬礼で返す。
「私は先日、あなた方と接触した宇宙船1号に乗船していた、フルシェンコと申します。ようこそ、我が宇宙飛行局へ。」
全く宇宙人との接触という感じがしない。言葉が同じだけに、共和国よりも同胞のように感じてしまう。
さて、彼らと話をするにも、外というわけにもいかない。場所を変えようと提案すると、彼らは艦内の会議室での会見を提案してきた。
もしかしたら、我々を連れ込んで拉致するつもりなのかもしれない。一瞬私は身構えたが、考えてみれば、もしその意思があればこんな回りくどい方法など取らず、武器によって脅して連れ込むだろう。
だが、不思議なほど、この2人からは敵意が感じられない。話しぶりも友好的だ。なんとなくだが、あまり作為的なものを感じられない。
悪魔を負かすには、悪魔の巣に入らなくてはならない。そんなことわざが我が国にはある。ここまできたんだ、覚悟を決めて相手の巣に入ってやろう。
というわけで、こうなったら彼らの船に乗り込んで見ようと思った。彼らの提案を受けて、この艦内で会見することにした。
船の下部に開いた開口部から、艦内に入る。通路と階段を歩くと、会議室についた。
そこには、3人の人物が待っていた。艦長と参謀長、そして交渉官と紹介された。
ここで、この宇宙のこと、そして彼らの目的が明かされた。
宇宙についてだが、我々が思っていたよりもずっと壮大で、複雑だ。半径7千光年の宇宙には、我々と同じ人類が生存する星が現在すでに760以上もあること、この星々は2つの勢力に分かれて160年も戦争状態にあること、この船がやってきた星は宇宙連合に所属していること、などが話された。
時折壁に映像が表示されたが、とても綺麗で繊細な映像だ。人の映像などは、髪の毛一本一本が見分けられるほどに細かい。
彼らの目的は、要するに我々を連合側に加盟させること。そのために彼らはこの地球にやってきて、交渉相手を探していたようだ。
我々がこの星の2大国家の代表だと聞いて、かなり喜んでいた様子だった。ここにいる人と交渉を行うだけで、世界の8割と交渉をすることと同じことになる。こんなに手っ取り早いことはない。
「ところで、我々が宇宙連合側に加盟すると、何が起きるんです?」
私は聞いてみた。
「そうですね、交易と技術供与がはじまります。あなた方が持っていないものや技術が手に入るわけですが、例えば、この駆逐艦の建造技術や運用に関する知識なんてものもあります。他にも…」
「ちょっと待った!この船の建造技術!?そんなものを提供!?それは本当ですか?」
思わず交渉官殿の言葉を遮って聞いてしまった。
私は宇宙に行った身だから分かるが、宇宙船というものは国家の最高機密に該当する。
この艦に至っては、宇宙船であると同時に軍艦だ。間違いなく彼らの最高機密であるはずだ。そんなものの作り方を我々に提供するなど、ありうるのか?
だが交渉官殿が言うには、この駆逐艦にはたいした機密はないそうだ。希望すれば、艦内を見学することも可能だという。
さらに衝撃的なことに、この船は彼らに言わせれば小さい方だという。
さっきから「駆逐艦」と言っているのが気になっていたが、当然これよりも大きな「戦艦」もあるのだという。
驚いた、これが彼らの持つ船では小さい方だというのだから、一体その戦艦というのはどれほどの大きななのか?一度見てみたい。
大きさはともかく、数も気になったので、彼らがここにどれだけの船を連れてきているのかと聞くと、これまた驚くべき数字が出てきた。
1万隻、今彼らが我々のこの太陽系に展開している軍艦の数は1万隻もいるという。
1万隻の内訳はこの駆逐艦がほとんどだが、大型の戦艦も30隻いるらしい。
多くは我々が「小惑星帯」と呼んでるところ付近にいて、この地球には300隻だけが展開しているそうだ。
しかし、我々も10年あれば、その程度の艦隊が作れてしまうという。
「でも、あなた方はすでに宇宙船をお持ちになるほどの技術力をお持ちだから、多分10年もかからないと思いますよ。」
彼らが言うには、私の息子が成人になる前に、もう我々は宇宙艦隊を保有できるというのだ。
だが、それにはひとつだけ条件があると言う。
それは、我々の地球上がひとつにまとまることが必要なんだそうだ。
1万隻の艦隊には、少なくとも150から200万人が必要となる。通常、自惑星の防衛用艦隊と、外に出て行くための遠征艦隊のふたつの艦隊を所有することになるため、多くの人員と費用がかかる。
これを1つの国家で賄うなど到底不可能で、星を挙げて取り組まない限り宇宙艦隊は保有することができない。
これは連合だけでなく、連盟側でも同じ事情だという。どちらに属するにしても宇宙艦隊を保有し、その陣営内での義務を果たせるだけの惑星にならなければいけない。
彼らと接触してしまった以上、もはや後戻りはできないようだ。我々は大急ぎで宇宙にあるどちらかの陣営に属し、その陣営での義務を果たせるよう宇宙艦隊を運用できるようにならなければいけない。
連合と接触してしまった以上、連合に属するしかなさそうだ。聞くところでは、こちらの陣営の方がよさそうだし。
だが、宇宙進出は一方で莫大な利益を生む。交易と外宇宙の資源採掘だけでも、艦隊を維持できるだけの費用など回収できてしまうそうだ。
彼らの話は、あまりにも我々の常識や概念を超えている。ひとつ言えることは、もはや我々は惑星単位で考えなくてはいけない時代に入ってしまったようだ。国家などというものは、たいして意味をなさない。
ここに共和国の人間を連れてきて正解だった。彼らも同じことを考えているに違いない。すぐにでも我々連邦と彼ら共和国との間で協議が必要だ。
いずれこの事実は国民、いや地球中に公表しなくてはいけない。その際の映像提供や人員派遣が必要なら、彼らは応じてくれるという。
そんな壮大な話を聞かされた後、我々は艦内を見学することになった。
案内役は、副長殿と女性の作戦参謀殿だ。階級はそれぞれ中佐と中尉だという。
まず見せられたのは、この駆逐艦の動力源だ。
外で聞いたブーンという低い音は、この動力源が発生している音だと分かった。近くだとかなりうるさい。
そこにあったのは、核融合炉と重力子エンジンというものだった。
駆逐艦を動かすのに必要な膨大なエネルギーは、この核融合炉が生み出す。そのエネルギーを利用して、後ろにある重力子エンジンを動かしてるという。
重力を制御できるというこの重力子エンジン、この艦を動かすだけでなく、慣性制御という、宇宙空間でも艦内に重力を作ることがこのエンジンによって可能になっているという。
「なんてったってこの核融合炉ですよ!これが作るエネルギーがすごい!こんな重たい駆逐艦がいともあっさり動いてしまうのはまさにこの核融合炉2基の威力でして…」
「あー中尉殿!ちょっと興奮しすぎだ!客人の前でみっともない。」
副長殿がたしなめていた。確かにこの中尉殿、いささか気分が高揚しすぎている。
次に艦橋へ案内された。ここには艦長以下20人ほどが働いている。
このうち、交代勤務なのは10名ほど。3交代で運用されてるそうだ。
この駆逐艦は通常100人で運用されてるということだが、軍艦にしては少なすぎる気がする。だが、さまざまな仕事を機械に置き換えることでこの人数での維持が可能になっているそうだ。
食堂に案内されたが、そこには省人化に貢献している機械があった。
料理を作る機械だ。器用に包丁やフライパンを使って何かを作っている。
ここには数人の乗員の姿があった。世間話をしながら食事をしている。技術力に差はあれど、人間の方は全く我々と同じだ。
そう、同じ過ぎる。どうしてこんなに同じなのだ?
彼らに聞くと、実はよく分かっていないという。ただ、同じ人間が半径7千光年の円状の領域に存在し、しかも統一語と呼んでいるこの言語が全ての惑星で話されているという。
とても偶然の産物ではありえない。なんらかの意思によるものと思われるが、それがなんなのかは彼らの技術力をもってしても未解明とのことだ。
ほかにも格納庫や砲撃管制室なども見せてもらった。
この駆逐艦というのは、ひとつの大きな砲台であることがわかった。艦の半分ほどが主砲で占められていて、残りの半分に乗員の居住空間や格納庫があるといった具合だ。
残念ながら、主砲は宇宙でないと発射できないそうだ。威力がありすぎて、大気圏内での使用は禁止されているとのこと。
そんなものをしょっちゅう宇宙で撃ち合ってるのかと思いきや、戦闘というのはめったに起こらないという。この艦隊の人もほとんどが戦闘未経験なんだそうだ。
こう言ってはなんだが、彼らに緊張感がないのはそういうことか。威圧感ある駆逐艦に乗ってるわりにはどこか隙だらけな感じを受けていたが、今の話を聞けばなんとなく納得する。
夕方になり、我々は駆逐艦2230号艦を出た。
この艦には、しばらくここにとどまってもらうことになった。我々と、彼らの艦隊や政府そして宇宙連合との連絡のためだ。
家に帰ってみると、妻が心配そうに私のところに来た。
「あなた、今日この辺りにとても大きなものが空を飛んでたらしいわよ。隣の御主人が見たって。近くの街でも大騒ぎになってるらしいわ。本当なのかしら?」
あの駆逐艦、目撃されていたようだ。まあ、あれだけ大きければ仕方がない。元々彼らも隠す気はなかったようだし、すぐに多くの人に知れてしまうだろう。
「大丈夫だよ。今その船は宇宙飛行局にいるんだ。」
「えっ!?あなた知ってるの?その空を飛ぶ船のこと。」
「知ってるもなにも、ついさっきまでその船にいた。」
妻にはその船で見たことを話した。いずれ公表されることだから、妻に話しても問題ないだろう。
というか、その日の夜のうちに宇宙人との接触についての情報がテレビで公表された。私が聞いた宇宙の2つの陣営の話や、あの駆逐艦のことも説明されていた。
すでに目撃されていることもあるし、早めに公表する方が良いと考えたのだろう。共和国側でも同様のテレビ放送が流された。
翌日の新聞はこの話題が一面に出ていた。新しい時代の幕開けを感じるもの、不安を感じさせるもの、論調はさまざまだ。
妻は不安でいっぱい…ではないな。目がキラキラしている。
私が妻と出会ったのは10年前。ちょうど宇宙飛行局が設立された時のことだ。
彼女はこの局の衛星追跡担当だった。無類の機械好きで、計器類を飽きずに眺めていられるということで担当が決まった。
そんな彼女と、当時宇宙飛行士候補に抜擢されたばかりだった私は、訓練の場で出会う。
この時彼女は遠心機の担当だったが、徐々に上がる加速度の数値に興奮して、12Gを超えても止めなかった。
それでも私が気絶しなかったことから、のちに「トップ7」と呼ばれる7人の飛行士候補となれたわけなのだが、さすがのこの時は私は激怒し、抗議しにいった。
だがそれがきっかけでこうして結婚、その後長男も生まれて、ごく普通の家庭を営んでいる。
この宇宙人のニュースは、彼女の封印された何かを呼び起こしてしまったようだ。
なにやら起こりそうな予感がする。
その予感は、予想もつかない方向で的中することになる。




