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農場と幽霊とスマートフォン 1

私は、地球(アース)461所属の農産物普及団体に所属する研究員をやってる、クレメンツというものだ。


今、最近連合側と同盟を締結した地球(アース)764に来ている。


新しい惑星と同盟を結ぶと、駐留艦隊を維持するために、膨大な物資が必要となる。


燃料や武器に使うエネルギー粒子用鉱石というものはわりと簡単に手に入る。要は掘ればいい。


だが、そう簡単に手に入らないもの、それは食糧だ。


だいたいどこの惑星でも、外からきた艦隊にまわせるだけの食糧の余剰を持っているところは少ない。


他惑星からの駐留艦隊の人口は一般的に300万人と言われるが、それだけの急に増えた人間の食糧をどうやってまかなうのか?


それをなんとかするのが我々、農産物普及団体の仕事だ。


未知惑星では最初に人や言語、鉱山だけでなく、土壌、温度・湿度といった調査も行っている。


これは、調査地点で育てられる作物の選定に使われる重要なデータだ。


そこの地域の領主、支配者の了解が得られれば、直ちに我々がそこにあった作物の種子を選別して運ぶ。


大抵、肥沃な場所というのはすでに開拓済みであることが多いから、我々はあまり農作物の生産に適してるとは言い難い土地、砂利が多い土壌や、砂漠化の進んだ場所、山奥などを提供してもらう。


ある程度そこを整地するものの、その土壌にあった作物の種子をデータベースから選別する。


我々の持つ種子は数十万種類。様々な惑星から選りすぐった作物や、品種改良、遺伝子操作を行ったもの、いろんな出どころの種子がストックされている。


これを現地に持ち込み、育てるのが我々の仕事だ。


その作物を育てる時は、なるべく現地の人を使う。


3年間はその場で取れた作物は、我々が100パーセント取得する。現地住人は従業員として雇う。が、次の3年間は、現地の人がその農場を経営して、我々がそれを買い上げる。その後は現地に譲渡する。こういうプロセスを経て、改良農産物の現地での普及も行う。


農産物ばかりは、種付から収穫までどんなに早くても3~4ヶ月。主要作物の多くは6ヶ月はかかってしまう。


その間、本星から輸送部隊を使って食糧を調達し続けることになるが、この補給線の維持には膨大なコストがかかる上に、常に食糧危機の不安を抱えることになり、安全保障上もよろしくない。


ということで、我々は艦隊や宇宙港の街の住人が、日々美味しい食べ物を食べられるようこうして頑張ってるわけだ。ついでに、現地住人にも新しい作物の知識を伝え、こちらの食糧事情も解消する。一石二鳥な役割を、我々は担っている。


ただ、食料が食べられて当たり前だと思われてることもあって、正直あまり報われてはいないのが残念ではあるが。


なお、この地球(アース)764はいわゆる中世風の星。農業は古い形態のもので、小麦、大麦、牧草を年ごとに交互にローテーションさせて作付けを行う農法を行っている。


我々のは、機械任せ、肥料任せの”力業”農業とでもいうんだろうか。種まきから収穫、地力回復までをほぼ全て機械任せで行う。


人間の出番がなさそうな気もするが、育てる作物の種類は人間が決めないといけない。小麦がたくさん必要なのに、トマトばっかり育てちゃった!というのでは困る。


雨が降らないような場所では、大型船を使って水を運んできてもらう。まるで空飛ぶ水槽のような船があって、それで湖などから水を調達、そのまま灌漑池になるという便利な船をこの団体では保有している。だが、それはかなりの非常時での手段だ。


という具合に、食糧生産に特化している私の仕事だが、今はある街のそばに農作地を作ろうとしているところだ。


土壌は悪くない。気候も日当たりも上々。ただ、この辺りは川がなく、農業用水の確保がままならないため、農地として使われなかった場所があった。


そこで、近所の山に巨大なくぼみを作り、無理やり用水池を作り上げた。最初は空飛ぶ水槽で水を運んで池を作ったが、その後は雨水が自然に溜まって池の水を維持してくれるはずだ。


あっという間に、この街の周辺にある農地よりも広い農場ができてしまった。ここだけで10万人分の小麦、米、トマト、豆類を採ることができる。トマトならあと3か月で収穫できそうだ。


ところで、私の業務とは無関係だが、この街には妙な噂がある。


街はずれの道に、幽霊が出るというのである。


女の人の幽霊で、ぼーっと暗闇に突っ立ってるそうだ。


昔の戦で死んだ霊だのといわれているが、出てくるようになったのはここ1、2年くらいのこと。その間にこの辺りでは、戦は行われていない。


出所不明なこの幽霊のおかげで、人々は恐れをなして、夜に街の外に出ることはなくなった。


それにしても、宇宙船が往来するこのご時勢に幽霊なんて…と、私は個の噂、気にもとめていなかった。そう、あの日までは。


ある日、夜遅く街はずれを歩いていた時のこと。


農場でちょっとしたトラブルがあって復旧作業をしていたら、真夜中に街はずれの道を歩く羽目になった。時間は、午後11時くらいだろうか。


街灯などなく、真っ暗な道。懐中電灯だけを頼りに歩いていた。


途中、道がわからなくなってしまった。昼間なら慣れた場所でも、こうも暗いとどうしようもない。


そこで、スマホを取り出して地図で現在地を表示、帰り道を探している、その時だった。


「彼女」が現れたのは。

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