遭難艦と鉄道と天使 1
「エンジン被弾!出力低下!軌道速度を維持できません!」
ここはワープ航路の「交差点」といわれている、ワームホール帯が集中する空域。
近くに白色矮星があり、この星の強大な重力場のためか、この空域には様々な場所につながるワームホール帯がたくさんある。
そのため、連合と連盟双方がこの空域の制空権を巡って、しばしば遭遇戦が発声する場所でもある。
今まさに、その遭遇戦の真っ最中だ。
そして、わが艦が危機的状況に陥ったところだ。
私の名はリーナス。階級は中尉。地球303の第1遠征艦隊 第4小隊の駆逐艦 1133号艦に勤務する戦闘機乗りだ。
なおこの1133号艦は、駆逐艦としては比較的長い全長400メートルの艦。我々は「ロングボウ」と呼んでいる。細長くて、愚鈍な感じの響きがぴったりだという理由でつけられた名前だ。
そのロングボウの左上側エンジンが被弾、エンジン停止、軌道速度を維持できない状態に陥った。
わが小隊の旗艦にいる小隊長殿に、戦線離脱許可を求めた。
早くこの空域から離脱しないと、我々は白色矮星の重力場に捕まりこの星に吸収されてしまう。
すぐに旗艦から離脱許可が下りた。直ちにワープ準備。
ここはワープ航路の交差点、ワームホール帯が密集しているため、ワープポイントを探すのはそれほど苦ではない。
白色矮星に向かって落下しつつあったが、ここであるワームホール帯を発見。
このワームホール帯の座標を戦艦に送信。戦闘が終わった後に、ワープ先で拾ってもらうためだ。
そのあと、大急ぎでワープ体制に入った。
駆逐艦のエンジンは後ろに4つついている。
ただ燃料系統は対角線上の2つづつが共用化しており、一つが被弾すると、対角線上のもう一つもやられてしまう構造だ。
今回は左上側エンジンが被弾したため、右下のエンジンも共連れで停止。右上、左下のエンジンのみで艦を動かす必要がある。
しかし、運の悪いことに左下のエンジンの噴射口にダメージを受けたようで、左下の出力が安定しない。結局右下のエンジンのみを使うことになるが、エンジン出力が偏るため左に曲がろうとしてしまう。
それでもなんとかだましだまし噴射し、姿勢制御エンジンも使ってなんとかこのワームホール帯に取り付いた。
そこでワープ開始。周りが一瞬暗くなり、ワームホールに入ったことを認識させる。
そして次の瞬間、ワープアウト。
手近なワームホール帯に潜り込んだため、一体どこに出たのかこの時点では全くわからなかった。
そこで事前のログと座標情報、そして艦内にある航路データとを照合して場所を割り出そうとした。
が、そこで異変に気付く。
すぐ目の前には、青い惑星が広がっていた。一見すると地球型惑星のようだ。
今度はこの惑星の引力につかまった。近すぎる。
「惑星までの距離、約500キロ!さらに降下中!」
「残ったエンジンで離脱できないか?!」
「だめです、まっすぐ飛ぶことができません!」
残ったエンジンを吹かすと船体が左回転するため、出力を上げられない。
残された手は、この星に着陸すること。大気圏突入時の反力で減速し、地上近くで姿勢制御エンジンを使って軟着陸する。それしかない。
ただこのまま惑星表面に降りてしまうと、救援にきた他の艦が我々を見つけられなくなる可能性が高い。そこで、この惑星の軌道上にビーコンを発する多目的衛星を放出し、この惑星に着陸していることをわかるようにした。
幸い、衛星程度を軌道に乗せるだけなら、使い道のないミサイルを活用できる。急いで衛星をミサイルに載せて射出、4基の衛星を軌道に乗せることができた。
ついに軌道を維持できず大気圏突入開始。この時点では大気成分は不明。人が生きられる星かどうかもわかっていない。
さて、大気圏突入により減速した我々の艦は、姿勢制御と慣性制御で着陸を試みていた。
そんな中私は、窓のある休憩所から外を眺めていた。
ここは時間的に夜のようだ。辺りは真っ暗で、何も見えない。
が、遠くにやら灯りが見えてきた。
それもかなりの数の灯りだ。
灯りがあるということは、人が住んでるのだろうか?ここは、地球型惑星なのか?
結局その正体はわからぬまま、その場を通り過ぎてしまった。
さてようやく減速し空中停止して、徐々に地上に降下するロングボウ。
幸い下は平坦な場所。400メートルの巨体を下ろすにはちょうどいい場所だ。
ゆっくりと着地。駆逐艦というのはどれも先端が細く、後ろ側が広がった形状をしているため、やや先端を下向きにした格好で降り立った。
さてここでようやく外の調査を開始。
大気成分の分析、周囲風景から、ここが地球型惑星だとすぐに判明した。どうやら、偶然にも我々が生存可能な星に降り立ったらしい。
人類がいるかどうかはわからないが、ともかく宇宙空間や、人の住めない過酷な惑星に降り立つよりはマシな状況である。
艦内で少尉以上が集められてブリーフィングが開かれ、夜が明けたら周囲を探索することで意見が一致した。
無論、その探索任務は、パイロットである私の仕事だ。
これが、その後の激務の始まりである。