ドラゴンと貢ぎ者と人型重機 3
やつは私の乗る人型重機を覚えていたようだ。こっちをみるなり、いきなり炎を吐いてきた。
すかさず「バーベキュー網」作戦を発動。右手の網で、ドラゴンの炎を遮った。
これは面白いほど上手くいった。全く炎がこっちに飛んでこない。
そのまま私の人型重機は前進、ドラゴンに襲いかかった。
…のだが、あまりに遅い。のっしのっしと動く感じで、なかなかたどり着けない。あっさりドラゴンにかわされる。
やはり戦闘用兵器ではないので、動きの遅さがネックだ。ああ、せめてアニメに出てくるようなすごいロボットだったら…
ついでにビームサーベルとビームライフルも欲しい。いや、複座機に付いてるビーム砲、あれがあるだけでもかなり有利なのに。
武器と言えるのは、接近戦にしか使えない削岩機。この削岩機を奴の胴体に当てられれば、あの硬いウロコをそぎ落とし、内臓ごと破砕できるというのに。
などと考えてると、ドラゴンは尻尾で攻撃してきた。
右腕のショベルにつけた金網当たる。網がぐしゃっと凹んだ。
さらにやつは尻尾による攻撃を続けた。
その時、私は人型重機の右腕を上げた。
尻尾が胴体右に当たる。コクピットに衝撃が伝わってくる。
そのまま、右腕を下ろすと、尻尾が掴めた。
これで、やっとこのドラゴンを捉えた。左腕の削岩機を、やつの右脇腹に押し当てる。
ギャーっいうすごい悲鳴と共に、やつは暴れ始めた。
だが、私はまだ削岩機を押し当てる。ドラゴンの薄黒い血液がどばっとあたりに飛び散る。グロい光景だ。
ドラゴンは、渾身の力を振り絞って私の人型重機を振り払った。
私の人型重機は、脇の木の根元に叩きつけられた。そこにやつの尻尾が振り下ろされてきた。
バリアを展開しようとしたが、間に合わなかった。コクピットのハッチのガラスに尻尾が直撃、粉々に砕け散った。
だが、これがこのドラゴンの最後の抵抗であった。その場でやつは、ついに力尽きた。
あたりにはドラゴンの血が飛び散り、金網やガラスの破片も散らばっていた。
ハッチを開けて、私は降りた。
気がつけば、私も怪我をしてるようだった。だが不思議と痛みを感じない。
鉄格子に歩み寄り、中の彼女の鎖を、拳銃で焼き切った。
「あなたはもう自由ですよ。」
この時の私は、そんなようなことを言ったはずだ。だが、これ以降の記憶がない。
気がつくと、目の前には天井の照明が見えていた。ここは病院のベッドだった。
宇宙港のそばにできた病院に、私は運ばれたようだ。
ベッドのすぐ横の椅子に、誰かが座っている。
彼女だ、あのドラゴンの貢ぎ者にされていた、あの娘さんだ。そういえば、名前を聞いてない。
私が目覚めたのを見て、駆け寄ってきて手を握ってくれた。
この星に来て、初めて私に暖かく接してくれた人に出会った。
その直後に技術武官の1人も現れた。
すぐそばで見ていた彼から、あの時の話を聞かせてもらう。
私がドラゴンの尻尾を掴み、削岩機を撃ち込んだ後に跳ね飛ばされてコクピットを尻尾で破壊された。そこまでは、私も覚えている。
そのあと、コクピットから出て来た私は、かなりグロいことになってたようだ。
全身、ドラゴンの返り血を浴びてる上に、朦朧と歩く姿はまるでゾンビのようだったという。
その場にいた3人は皆立ちすくんでいたという。
彼女の鎖を拳銃で切ってなにかを喋った後に、私はその場で倒れたそうだ。
慌てて彼女が抱えようとする。技術武官たちも駆け寄った。
その後、彼らは駆逐艦に無線で連絡し、なんとか哨戒機を手配してもらった。私と技術武官1人と彼女を乗せて、宇宙港そばまで運んでくれたそうだ。
あとの2人はあの場に残り、後始末をしてくれてる。
それがつい3時間前の話。今はこうして皆落ち着いた。彼女の服も血まみれだったため、新しい服を調達してもらったようだ。
しかしこの戦い、要約すると「二足歩行重機でドラゴンと戦い、全身血まみれゾンビとなってヒロインを救い出した後にぶっ倒れた」ということになる。
かっこ悪い、悪すぎる。とてもアニメ化されそうにない展開だ。
戦いに勝ったあと、街の人が感動のあまり駆け寄って来て、互いに勝利の美酒を分かち合う…なんて終わり方が理想だったが、まあそもそもあの街の住人とは仲が悪かったし、それはあり得ないか。
でも、あの町長には一言いってやりたかった。「ドラゴンを倒しましたが、何か?」って。そんな機会すらなかったとは。
がっかりする私に、彼女が言った。
「いいではありませんか、私はあなたのことを凛々しく思います。1人だけでもあなたの戦いぶりに感謝している人がいることを忘れないでください。」
ああ、そうだ。私は、1人の人間を救ったんだ。軍人として、これほど誇らしいことはない。
その後、彼女といろいろな話をした。
彼女の名はミカさん。元々隣国の豪族の3女だったそうだが、一年ほど前にあった戦に巻き込まれて、家族は皆殺しに会い、生き残った彼女は国王軍に捕らえられて農奴階級に落とされる。
しばらくは、とある商人の屋敷で使えていたのだが、急にドラゴンの貢ぎ者として差し出すよう勅命が下り、彼女は連れ出されてしまった…
この国にはまだそんな非人道的な制度があるとは驚きだ。もっとも、我々と接触してまだ3ヶ月ほど。人道という概念が伝わるまでに数年はかかると言われているし、ミカさんのような人は、この星にはまだたくさんいるのだろう。
それにしてもミカさん、私なんかよりずっと苦労している。かっこいいとか悪いとか、こだわっていた自分が馬鹿みたいだ。
これからどうするのかと聞くと、彼女の返答は、
「私はドラゴンのものだったんですが、そのドラゴンを倒し、私を救い出してくれたのはあなたです。だから、私はあなたのものです。」
…と言っても、私のところには「人の所有権」なんてものはないんですけど…どうしたものか?
だが、こうしてじっくり見ると、ミカさんってばすごい美人だ。面長な顔に白い肌。長いストレートヘアは金色に輝いている。スタイルもいい。こういってはなんだが、ドラゴンの貢ぎ者ということで、それなりの人が選ばれたんだろう。
姿だけではない。こうして話してると、性格もいい。あれだけ酷い目にあった後だというのに、丁寧で落ち着いた話しぶりをするあたり、どことなく芯の強さを感じる。
年齢イコール彼女いない歴の私には、どう考えてももったいない人だ。
翌日には退院となり、一旦駆逐艦に戻ることになった。
当然、彼女がついてくる。仕方がないので、一旦私専属の従業員という扱いで、艦内に招き入れた。
彼女にも部屋が割り当てられたが、彼女は私の部屋に来てしまう。
こんなに女性に好かれたのは初めてだ。
こんな調子だから、結局は本能が理性に負けてしまった。ドラゴンに勝った男、ミカさんの執念に敗れる。
その翌日、私は再びあの現場に戻った。そこには別の人型重機が届いていた。
まだドラゴンの返り血が生々しい場所だったが、依頼された鉱山調査を最後までしなくてはならない。他の3人の技術武官と共に、作業に戻る。
だが、おとといから変わったものもある。
まず、私にはミカさんがいること。
作業中は仮設の小屋に待機してもらってるが、昼食時など休憩中は私にべったりだ。まるでストーカーのようだ。私にはありがたいことだが、ちょっと恥ずかしい。
また、我々に対する街の人の態度が変わった。
私はドラゴンを倒した勇者ということになっていた。巨大な操り人形に乗って、ドラゴンを切り刻んだとされている。そんなかっこいいものではないのだが、こういう話は装飾されて伝わるらしい。
そんな話を聞いた街の人は、私に気軽に話しかけてくるようになった。
もちろん、町長の態度も大きく変わる。笑顔で語りかけてくるようになった。これはこれで気味が悪い。
ドラゴンを倒すということは、ここでは想像以上に大変なことのようだ。
この功績で、ついに国王陛下から騎士の称号までもらうこととなった。
確かに、私が元々望んでいたことには違いないが、こうも話が上手くいくとそれはそれで違和感のようなものを感じてしまう。
ある夜などは、急に不安になって目が覚めてしまった。私はやっぱり、正義の味方にはなれない気質だろうか。
横では、ミカさんがすーすー寝息を立てて寝ている。
そんなミカさんの寝顔を見て、少し考えた。
私がやったことは、ただ1人の人の命を救ったこと。そのために、全力を尽くしただけだ。
正義の味方ではなく、軍人としての責務を果たしただけ。そう思うと、少し気が楽になった。
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ドラゴン退治から7ヶ月が経った。
あの直後に、私とミカは結婚した。もうこうなったら、一生べったり暮らそう。そう思った。
私の住まいは宇宙港のそばの街。そこの小さな家にミカさんと暮らしている。
そんな私は地上勤務となり、この星の悩み事や困り事を解決するために我々の持つ技術を使う仕事をしている。
今日も私は仕事に出かける。今日の依頼は「ゴーレム退治」だ。
なんでも、山奥のある村のそばでは度々ゴーレムが現れて村人に襲いかかってくるらしい。
てことで、早速村に出向く。ミカさんも付いてくるつもりだ。結婚してからも、よく仕事にもついてくる。留守番しててもいいのに。
そういえば先日も「グリフォン」と「サイクロプス」退治をやったところだ。
という具合に、最近私には「怪物退治」の仕事が増えている。
要するにだ、「ドラゴンを倒したくらいだから、ほかの怪物も退治できるだろう」という理由でこの手の仕事がくるようになった。
それにしてもこの星にはどんだけ怪物がいるのか?一匹くらい捕まえて、うちの星の動物園にでも送った方がいいんじゃないか?
私も、あのドラゴンの一件で人型重機を改良した。
まず全体の機動性を上げた。パワーは落ちるが、足の敏捷性を特に引き上げておいた。
削岩機を右に付け替えた。やはり利き手側に武器がないといけない。で、左腕は普通のハンドをつけてみた。これなら状況に合わせて防具や武器を選択できる。
左肩には、複座機と同じ10センチビーム砲をつけてもらった。大きな敵ならこれで一撃だ。いちいち接近戦に持ち込まなくても勝てる。
元々は重機ということで黄色と白のカラーだったが、これを青と白のカラーに塗り替えた。大して意味はない。ちょっとでもイメージをよくしようという工夫だ。
今、あのドラゴンとやりあっても負ける気がしない。
だが、幸か不幸か、あれ以来ドラゴンには出会わない。
個人的には再戦を望んでいるのだが、ドラゴンというのはそんなにたくさんいるわけではないようだ。活動期も数十年に一度現れる程度。普段はどこにいるのか、全くわからない。
今日の相手のゴーレムは、大したことはない相手だ。左手でやつの腕を掴んで、右腕の削岩機で粉砕。あっという間に倒した。
そんな様子を、ミカさんはすぐ脇でお茶を飲みながら眺めてる。
村人は大喜び。拍手喝采を浴びる。これで、王都に行く道が安全になった。
ゴーレムというのはあちこちで出没するため、珍しくはない。ただし、普段一体何を食べてるのか?どうやって彼らは数を増やしてるのか?全くわからない。
ところで、この星には怪物と呼ばれる存在はいるが、エルフなどのいわゆる「亜人」はいない。そこまでファンタジーではないようだ。残念。
週末はいつもショッピングモールへ、ミカさんと買い出しに出かける。
彼女はプリンが大好きだ。甘いものは全般的にいけるクチだが、彼女の中でプリンは別格らしい。週末には必ず1週間分のプリンを買う。
プリンをおいしそうに頬張る時は、本当に幸せそうな顔をしてる。今までが波瀾万丈な人生だったから、これからはこういう顔で過ごせる日を増やしていきたい。
というわけで、彼女の笑顔を守るため、怪物を退治する。まるでなにかのゲームの主人公のような暮らしを送っている。
私は、今はこう思っている。
「技術武官やってて、本当によかった~」
(第17話 完)




