ドラゴンと貢ぎ者と人型重機 2
貢ぎ物の彼女は、鉄格子に鎖でつながれており、逃げられないようになっている。
これは「貢ぎ物」ではなく、「貢ぎ者」だ。
だが、連れてきた者も街の住人も、一向に彼女のことを気に留めていない様子だ。
一方で、檻の中の彼女は泣いている。
そりゃそうだろう。自分の運命が分かっているから、絶望しかない。
一体どうなってるんだ!?町長に抗議した。が、全く気に止める様子がない。
「ドラゴンには、若い娘を貢げばいいということになっとる。だから、国王陛下に頼んで、奴隷を1人譲ってもらったのだ。」
なんと、この宇宙船が飛び交う時代に「生贄」だ。そんな非人道的な行為は認められない。
散々抗議したが、国王陛下よりの勅命によって捧げられる貢ぎ者、ドラゴンを倒さぬ限り、この貢ぎ者に手を出すことは許されない!と言われてしまった。
こうなったら、連合軍規の第53条だ、人命救助だ。
人1人助けられなくて、何が宇宙艦隊だ。
などと興奮気味になった私は、早速駆逐艦に救援要請を出した。
しかし、肝心の我が駆逐艦には、複座機が搭載されていなかった。
我々を運ぶために、航空機を全て下ろしてきたそうだ。なんてことだ…
近隣の駆逐艦にあたってみるようだが、今の時期、攻撃力のある複座機はあまり地上にはないらしい。
さりとて、あの化け物に対抗できそうなものといえば、複座機しかない。ドラゴンと渡り合えるだけの旋回性能を有し、10センチビーム砲を搭載する複座機なら、一撃であんなトカゲ野郎を撃墜してくれるに違いない。
しかし、駆逐艦の返事を待ってる余裕はない。今にも現れそうだ。
鉱山の崖の前にある野原の真ん中に、彼女は放置されている。しかし、ドラゴンを倒さなくては彼女を助けることができない。
法も軍規もかなぐり捨てて、彼女を連れて逃げてやりたい気分だが、そんなことをすればいずれ捕まって、彼女は生け贄に逆戻り、私は軍法会議で懲罰。あまりいい未来は描けない。
ここであのドラゴンを倒すほかない。
今あるものでもっとも強い兵器は、この人型重機だ。
だが昨日の一戦で、そのままで歯が立たないことも分かっている。どうするか?
まずは、炎対策だ。
私はいろいろ考えたが、右腕のショベルに、柵用の網を溶接した。
網ならば軽いので、この人型重機につけても機動性を維持できる。
網は穴が開いているが、炎は通さない。バーベキューなどで実証済みだ。だから、こんな網でも帆脳を防ぐことくらいはできる。
問題は、どうやって奴の体に削岩機を撃ち込むか?
これも散々考えたが、ここは彼女に囮になってもらうしかなさそうだ。
生け贄の効果があったとされる伝承があるくらいだから、多分ドラゴンは彼女めがけてやってくるだろう。
なお、援護としてここにあるだけの機体を総動員する。
といってもあるのは、ショベルカーとダンプカー。一応どちらにも防御用のバリアが装備されている。
この3機で、体長6メートルあまりのあのドラゴンに立ち向かう。
私は鉄格子に歩み寄り、彼女に向かって言った。
「今は残念ながら助けられない。だけど、必ず助け出す。私を信じて待っててほしい。」
そう言って、水筒と非常食料を置いて立ち去った。
一度は行ってみたかったセリフには違いないが、ちょっと今度ばかりは本気だった。誰にも頼れない以上、私が戦うしかない。
そんな会話をして、1時間ほど経った時だった。
上空に、奴があらわれた。
黒い体、コウモリのような羽根に頑丈そうなウロコをまとった胴体、恐竜のような大きな口に、鋭い目。
まさしく、あれはドラゴンだ。
上から鉄格子を見つけたらしく、地上に降りてきた。
だが、こっちには3機のマシンがいる。
ついに、この怪物との戦闘がはじまった。




