ドラゴンと貢ぎ者と人型重機 1
私は地球393 遠征艦隊 第29小隊所属の駆逐艦 9521号艦に勤務する技術武官のアキールというものだ。階級は中尉。歳は27。独身。
遠征艦隊というと、他の惑星に行って同盟関係を樹立して、連合の体制強化に大いに貢献する…というイメージがあるが、我が艦隊にはちっともそういう話がない。
未知の惑星に降り立ち、颯爽と地上に現れて、地上の争いごとや災害から人々を救い、街の人々からは英雄として迎えられる…
というつもりで私は遠征艦隊に志願したのに、やることといえば我々の領域内における海賊退治、民間船の護衛など、地味な仕事ばかりだ。
しかも私は技術武官。
技術武官とは、戦場における工作を専門に行う部隊のことだ。例えば、宇宙機雷の敷設や小惑星を偽装艦隊に仕立てるなどの工作は、我々の仕事だ。
だが、そんな仕事はそうそう無い。第一、戦闘自体がほとんど行われないため、我々の仕事の大半は航路上の小惑星の撤去や、外惑星の開拓支援といった、およそ軍事とは無関係な仕事ばかりだ。
考えてもみれば、たとえ遠征艦隊で未知惑星にたどり着いても、表立って技術武官が活躍できる場などない。せいぜい裏方で治水工事や、鉱山の開拓をするくらい。
しまった、職種の選択を誤った。つい技術系が得意だからという理由で、技術武官の道を選んでしまった。そう気づいたのは今から2年ほど前。25年もの月日をかけて、一体俺は何をやってたんだ。
せめてパイロットを目指すべきだった。哨戒機でも、うまく活躍すれば現地住人から羨望の眼差しで迎えられる。今の職には、そんな中二病な私を満足させる事態は期待できない。
私が操縦できるのは、この人型重機。全長3メートル。複座機と同じ核融合炉と重力子エンジンを搭載しているが、せいぜい地上から10メートルほど上昇するか、山肌に沿ってぷかぷか浮かぶことしかできない。
重機なので武装はない。崩落事故などに備えて護身用のバリアだけは実装されている。二足歩行のロボットだが、両腕の先端はそれぞれショベルと削岩機。あまりかっこいいとはいえない機械だ。
こんなものに乗って活躍できるのはせいぜいアニメの世界だけ。現実で二足歩行ロボットが行ったところで、スピードも遅く航続距離も短く、宇宙空間では駆逐艦に、地上では複座機にはかなわない。
こいつの役目は、鉱山の掘削調査に、簡単な土木作業。穴を掘らせればいい仕事してくれるんだが。
もっとも、こいつを使う場面すらあまりない。民間ならともかく、駆逐艦勤務では穴を掘る機会そのものが少ない。元々、軍は穴を掘るのが仕事ではないので、しょうがない。
さて、そんな我が遠征艦隊にもついに未知の惑星を担当する機会がやってきた。
我が地球393からわずか30光年の場所に、新たな人類生存惑星が発見されたのだ。
これでやっと活躍できる!…なんてわけないのだが、なぜか心踊るニュースだった。
しかし、私がこの星に降り立った時は、発見から3ヶ月経過しており、すでに交易や宇宙港の開港も終わり、連盟軍との一戦も終わったあと。
未知惑星での華々しいイベントはほぼ終わっていて、私はただそこの鉱山調査を行うという任務に就いた。
そこは小さな街のそばにある新たな鉱山だった。
断崖絶壁に我々の欲しい鉱物が大量に埋まってる可能性があるとのことで、私がそこに派遣されることとなった。
私の他3人の技術武官と、建物4つ、そしてあの人型重機を含むいくつかの機械が駆逐艦で送り込まれた。
地球763となったばかりのこの星は、文化レベルが2で、いわゆる「中世」と行った趣の星だ。
ただ、ここにはいわゆる「怪物」がいる。まれにではあるが、ゴーレムやグリフォンという、我々の星では架空の怪物に遭えるそうだ。
もっとも、そんなものにあったところであまりいいことはなさそうだが…
降り立った街は人口1000人ほど。あまり我々を歓迎している雰囲気は感じられない。国王の命により仕方なく受け入れたものの、外者が来たという警戒感だけが漂う。
そんな状況だから、新たな出会いなどあろうはずもなく、ピリピリした雰囲気で鉱山の調査を行うことになった。
調査場所は断崖絶壁だ。ここはあの人型重機に頼ることにした。
機関始動、重力子エンジン作動、ショベルと削岩機の腕、短いあし、コクピットを兼用する胴体を持つゴツゴツしたこの重機は、空に浮かんだ。
街の住人もこっちを見ている。子供は大喜びだ。だが、大人は気味悪がって子供らを家に連れ込んでしまった。
あまりかっこいいとはいえないこの重機、やっぱりこいつ、デザインが駄目なんだよな。せめて、アニメに出てくるようなかっこいい機体ならば…
無い物ねだりはやめよう。うちの艦隊、いやこの宇宙にそんなかっこいい重機はない。そんなもの作ったって、使い道がないし。
崖に沿って登っていくと、鉱脈らしきものが見つかった。早速掘り始める。
両足を崖に引っ掛けて、左腕についている削岩機を押し当てる。この削岩機、先端がバリアに使われている耐衝撃性粒子を使い、対象物を破砕する。
鉱山表面をばらばらと砕く。下に落っこちるので、これを下に控えている他の技術武官が小型の重機で拾い上げる。
そんな作業を1時間ほど行っていた。
そろそろ地上に戻るか、と思ったその時だった。
空に大きな鳥のようなものが現れた。
驚いて振り向くと、そいつはどう見ても「ドラゴン」だ。
唖然とする私に向かって、やつは襲いかかって来た。
鋭い脚の爪で襲いかかってきたので、まずはバリアで対抗した。火花とともに、そいつは弾き飛ばされる。
生身の体でバリアの衝撃を受けたら耐えられるはずはない…のだが、そいつは平気で空中を飛んでいる。
続いて、炎を吐いてきた。バリアで対抗するものの、熱は伝わってくる。まるでコクピット内はサウナのようだ。
私は崖を蹴飛ばして、そのドラゴンに向かって飛んだ。左腕についている削岩機を押し当てて、やつを倒そうとした。
だが、空中ではやつは軽快に動く。かわされてしまった。
だが、危ないと感じたのか、やつはその場を去っていった。
地上に降りて、人型重機を確認する。
バリアのおかげでほとんど損傷はない。まださっきの炎の攻撃で、胴体が熱い。
街の人に聞くと、やはりあれはドラゴンだそうだ。何十年に一度現れ、街を荒らすのだという。
「お前らがきたから、ドラゴンが現れたのかもしれんて。厄介なことじゃ。」
…まるで我々が元凶のように語るこの町長は、我々を信用してないということを、ここぞとばかりに露骨に言ってきやがった。関係ないだろう、我々は。
だが、彼らにはドラゴンの対処法があるのだという。すでに王都に使いを送り、手配済みとのこと。
なんでも、「貢ぎ物」を捧げればいいらしい。数十年前に現れた時は、それで現れなくなったらしい。
なんだかあまり信用できる話ではない。単に別の場所に行っただけでは?聞く限りでは、あまり科学的な解決法ではない。
そんなやつ倒せばいいじゃないかと、他の技術武官が言ったのだが、一笑にふされた上にこう言われた。
「お前らでさえ敵う相手ではない。やめておけ。」
いちいちムカつく町長だ。だが、敢えて口出ししても仕方がない。彼らに任せよう。
で、翌日にはその貢ぎ物が届いた。
それを見て、私は驚いた。
その貢ぎ物とは、上面が空いた鉄格子の箱の中に、若い娘が1人入っているものだったのだ。




