お茶くみと貴族参謀と惑星代表者 5
戦闘の後が大変だった。旗艦に呼ばれて、艦隊総司令官である大将閣下にお目にかかるわ、その後旗艦内で晩餐会に呼ばれるわ、飲み会の女王と言われた私でも、こんな格式張った飲み会では緊張する。でも、こういう場のお酒って、やっぱり美味しい。
エルディンガーさんに会えたのは、戦闘が終わって1日経った夕方。それまではひたすらいろんな人に会っていた。
「ええっと、エルディンガーさん?そのぉ…あの戦闘前のお話、覚えてますか?」
「もちろんです。場所が場所だけに、他の人も覚えちゃってるようですが…すいませんね。もう少し、配慮していれば。」
「まあ、終わっちゃったことを言っても仕方ないですし。ところでこのあとおひまですか?」
「はあ、大丈夫ですよ。」
「なぜだか10年もののワインもらったんです。生き残ったお祝いに、エルディンガーさんのお部屋でいっしょに飲みませんか?」
「いいですね。飲みましょうか。」
食堂からコップを2つほどもらってきて、エルディンガーさんのお部屋に行った。
壁には、盾の形をした紋章のようなものが飾られてた。エルディンガー家の紋章らしい。
やっぱり、この方は貴族なんだよな。私なんかで本当にいいのかな。
「私ね、一流商社に勤めてるんだけど、そこでお茶くみしてたの。」
「そうなんだ。」
「だから刺激を求めて、ここの派遣に手を挙げたの。」
「ふうん。」
このワイン、美味しいけど酔いがまわるのが早い。おかげで、どうでもいいことをしゃべってる気がする。
「だから、要するにただの雑用係だったのよ~。それが宇宙に出てきて~、貴族様と一緒にワインを飲むなんて、夢のようだなぁって。」
「じゃあ、もうちょっと素敵な夢を、見ようか。」
…などと言いつつ、そのままベッドに連れていかれた。
ワインを持って現れると聞いたエルディンガーさん、最初から私を包囲戦に持ち込むつもりだったようだ。
結局その夜はまんまとエルディンガー作戦参謀の策略にのせられて、大人の最前線を突破してしまった。
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それから、1週間が経った。予定通り、私の地球にたどり着いた。
地球に帰ってきて驚いた。私がすっかり英雄扱いされていた。
「商社の社員であるメグミさんは、宇宙での戦闘の際に『惑星代表者』となって最前線に立ち、艦隊の戦闘を最小限におさめた。」
だいたい、こんな論調だった。
おかげで地上に着いた時は大騒ぎになっていた。記者会見に引っ張り出されるし、街の沿道を引き回されるし、まるでスポーツ選手の優勝パレード状態だ。
まさか艦橋でビビって腰抜かしていたなんて言えず、記者会見では、
「惑星代表者として、最前線に立てたこと、誇りに思います。」
なんて言っちゃいました。その最前線では、腰を抜かして座ってました、私。
この調子で3日ほど振り回されたのちに、ようやく普段の生活に戻る。
帰ってきた時点で、私の宇宙艦隊への派遣業務は終了。元職場に復帰となった。
ただ、住居はそのまま使っていいことになった。家賃も政府持ち。英雄ってことで、こういうところで優遇された。
どうやらこの英雄騒ぎ、ここの政府が艦隊からこの話を聞いて故意に煽った可能性があるというのが、私の彼氏、エルディンガー作戦参謀のご意見だ。
地球576の艦隊の多くの人命を救ったのがこの星の代表者の活躍によるもの、それはこの星にとって初めて宇宙で挙げた功績だ。連合との融和政策を危惧する勢力もいる中、これは絶好の宣伝材料となる。
…なんて、真顔で分析する作戦参謀の顔をこうして拝めるのが、今の私の幸せの一つ。政府の思惑なんてどうでもいいや。そんなことより、一人では広すぎるこの2つ部屋の住居で、あなたと一緒に寝られればそれでいいのよ~。
さて、私が会社に戻ってからというもの、仕事の中身が大きく変わった。
まさか「宇宙の英雄」にお茶くみをさせるわけにもいかず、地球576の人たちとの接触を担当することとなった。
あの出来事のおかげで、結果的に社内でもっとも地球576との人脈を持つ社員になってしまった。おかげで、いろいろな宇宙関係の商談に顔を出すこととなった。ついに我が社も宇宙進出である。私もお給料がどんと増えた。
そういえば、この惑星も地球762となった。いよいよ、交易と自前艦隊の設立に向けて動き出した。我が社も大忙しだ。
エルディンガーはというと、地上勤務となった。あの時私を惑星代表者にすることに成功し、艦隊の損害を最小限におさめたという功績で一気に少佐に昇進。この地上で、宇宙での作戦に関する講義・指導を行うことになった。
さて、私が地上に帰ってきて3カ月ほど経ったある金曜日。友人からメールが来た。
出撃艦艇数 7、私を入れると8。やばい、エルディンガーには5って言っちゃった。
すでに、地上と地球576の人の間では相互にメールのやりとりが可能になったので、早速エルディンガーに打電。「地球762側の艦数3隻増加、至急、増援されたし。」
エルディンガー少佐から返信。「地球576側は3隻の増援確保に成功、出撃準備完了。」
決戦時刻は1830、場所はいつもの空港そば居酒屋。
こうして、ほぼ毎週恒例の「120光年合コン」が始まった。
「えーっ、惑星代表者として、乾杯の音頭をとさせていただきます!その前に重大発表がありまーす。では、作戦参謀殿、一言。」
つい3カ月前には「1万隻の船、150万人の人員の艦隊を救った英雄」とされた人物が、毎週飽きもせず合コンで乾杯している。店員さんも呆れ顔だ。
エルディンガーもいきなり話をふられて戸惑っているが、男としてここはバシッと決めていただきましょう。
「ええっとですね、私、エルディンガーと、このメグミは、結婚することになりました!」
ええ~って悲鳴が上がる。店員も持っていたコップを落とした。とんでもない爆弾発言だ。なにせ、おそらくこの惑星初の星系外結婚を宣言したのだから。
「と、いうことで、地球576、762双方の惑星の未来と私たちの結婚祝い、そしてあの次長の左遷を願って、乾杯!」
結婚宣言に刺激されて、この夜はふた組の120光年を超えちゃったカップルが誕生した。
翌日の土曜日。二日酔い。エルディンガー作戦参謀に、梅茶漬けを作ってもらう。昼には復活して外に出た。
この日は近所にある城址に行った。歴史的な建築物の好きなエルディンガーのため、休み毎に1つ、こういう史跡巡りをしている。
このお城は、400年前に3000の大軍を、わずか500の兵で追い返したという戦で使われたお城だったそうだ。その時の様子が事細かに石碑に書かれている。こういう話、エルディンガーは大好きだ。
いつかは、彼の故郷に行って、お城を見せてもらいたいなぁ。そんな幸せを、2人で今日も堪能していた。
(第16話 完)




