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お茶くみと貴族参謀と惑星代表者 3

こんな調子で、1週間が終わってしまった。


この5日間、歩き通しだった。いつものお茶くみに比べたら充実した日々だったけど、足が痛い。


最終日は、昼には上がって駆逐艦内の会議室に集合。


そこで、この10組のペアの1週間の「成果」を見せられた。


目の前に映し出された画面に、この街の航空写真が出てきた。


そこに赤い点があちこちについてて、これを直接触ると、その部分が拡大した。


なんだか、ちょっと立体的な地図になった。すごい、なにこの地図?


最初に出てきたのは、私がエルディンガーさんに教えたお店の一つだった。下にはどんなお店なのか?私たちの言葉と彼らの文字で表示されていた。


青い点で「目印」が示されてるようだ。この地図、行きたいところを選ぶと、行き先の道順が出てくる。すごい!欲しいこの地図。


その後には、来週以降の仕事の話になった。2つあるそうだ。


一つは、今の仕事の延長。さらに街の向こう側の地図データを作るための作業だ。


そしてもう一つは、なんと宇宙船に乗って、宇宙へ行くというもの。


逆に私たちが駆逐艦、戦艦に案内されるというものだ。これは、うちの政府からの依頼だそうだ。


これを聞いた私、


「私、宇宙行きます!」


つい叫んでしまった。


もうここまできたら、宇宙に行くしかない。毒を食らわば皿まで、だ。


宇宙で人脈作っておけば、会社に戻ってからも何かと便利かもしれない。そうなればお茶くみ脱出だ。そう思った。


宇宙行きを志願した人は、私を入れて3人、あとは地上組だ。


なおこの駆逐艦は、来週補給のため宇宙に行ってしまうため、別の艦の人が担当になるとのこと。


そして、3人のうち、私がこの890号艦に乗ることが決まった。後の2人は周りにいる別の駆逐艦に乗船ということになった。


「同じ船で、今度は私が案内される番ですね。よろしくお願いいたします。」

「あ、よろしくお願いします。2週間の間、頑張ってサポートしますね。」


あ、2週間も宇宙に出ちゃうんだ。そういえば、いつものようにあの新しい部屋に帰れるわけじゃないんだった。


国外どころかもっと遠くに行くことになる。ちゃんと着替え、忘れずに持っていかないと。


しかし来週の月曜日には、ここを出発する。この土日が地球での最後の日々になるかもしれない。ということで、地球での最後の晩餐やるから付き合って!と友人誘って、今夜も飲むことになった。


そうだ、せっかくだから…


「エルディンガーさんって、飲み屋さんに行きたくないですか?」

「えっ?飲み屋?」

「今夜友人たちと一緒に飲むんですが、いかがですか?」

「ああ、ぜひ行きたいです。この5日間、一緒に歩いた仲間ですし。行きましょうか。」


なんと、貴族のイケメン宇宙人を誘ってしまった。


ということで、場所は空港近くの飲み屋にしてと友人に連絡。イケメン宇宙人さんの写真付きメールを送信した。


6時には友人たちが現れた。


それにしても人数が多い。どうも宇宙人に会えるって行ったら、別の友人もついて来たらしい。現金なやつらだ。絶対エルディンガーさんの写真見て来ただろう。


一方のエルディンガーさん側も、何人か連れて来た。揃いも揃ってイケメンだらけ。どうやら皆、男爵や子爵といったご身分の貴族らしく、この星の飲み屋さんに行くと言ったらついて来たらしい。


なんでも、地球(アース)576とこの地球とは、124光年離れてるらしい。120光年を超えた合コン。思ったより壮大なイベントになってしまった。


大きな飲み屋さんに行って、早速銀河を股にかけた合コンが開始された。あれほど前は宇宙人怖いとか行ってた連中が、イケメンを前にしてめろめろになってる。


相手は貴族、こっちは一流商社とはいえ、お茶くみ集団。不釣り合いな飲み会だ。


「メグミ~宇宙行くんだって?着いたらメール、ちょうだいね~。」


こんな馬鹿しかいない。宇宙の貴族様とは大違いだ。


メアドを教えてる人もいたが、まだ彼らの携帯は接続されてないらしい。繋がったら、メールするよといってたけど、果たしてこんな一夜だけあったやつなんかに、メールするのかな?


宇宙から来た貴族といっても、飲み始めたらみんな普通の若者って感じで、いよいよ我々と区別つかない。あちこちでお茶くみ女子どもがきゃあきゃあ言ってる。


だが、エルディンガーさんはちょっと浮いてる感じだ。あまり騒がしいのが好きではなかったのかな?


「エルディンガーさん、飲んでますかぁ?」


ほろ酔いしてるのをいいことに、絡んでみた。


「ああ、飲んでますよ。このビールって美味しいですね。」

「そお?女の子とあまり喋ってない気がするけど。」

「いつも観察する側なんです。私。でもこういうのは好きなんですよ。」

「じゃあ、私と会話しましょうか?」

「いいですよ。喜んで。」


これまでも5日間、いろいろな話をしたけど、まだ聞いてないことがあった。


貴族っていってたけど、あまり故郷のことを聞けてなかった。この際だから聞いてみた。


エルディンガー家というのは、500年続いた名門らしい。自分の星には領地もお城もあって、今でもそれなりの貴族として現地では力を持ってるらしい。


でも、その地位を受け継ぐのは長男のみ。次男の自分はただ貴族の出というだけで、ごく普通の人と変わらないらしい。


なので、軍大学を出て、艦隊に配属されて、今こうして別の惑星にたどり着いたというわけだ。


ここにいる他の貴族の人も次男か3男、同じような境遇だとか。


「結構厳しいんだね、貴族って。私なんかさ、ただの会社員の娘に生まれて、運だけで大学や商社に入って、変化のないつまんない毎日を送ってたから、貴族ってすごいなあと思ってた。大変だったんですね。」

「いやあ、でも駆逐艦のみんなは面白い人ばかりだし、この惑星も面白そうな建物がいっぱいある。ここに配属されてよかったと思ってるよ。」


エルディンガーさん、今でも幸せらしい。他の貴族の人たちもそうなんだろうか?


そんな120光年合コンは10時ごろに終わり、皆それぞれに帰っていった。


翌朝はひどい二日酔い。着替えは明日にでもまとめよう。


翌日曜日、二日酔いは治ったが、下着が足りない。慌てて買いに走る。


こうして、月曜日がやって来た。


自覚はないが、今日宇宙に行く。


大きいバッグを抱えて、駆逐艦に乗り込んだ。今日はもう、ここを降りることはないんだ。夜にはこの地球の大気圏の外に出ている。


なんでも、宇宙についたらすぐに補給のため、戦艦に寄港するらしい。


いつもの会議室に行こうとしたら、エルディンガーさんがまず2週間の間私が住む部屋に案内してくれた。


荷物を置くと、そのまま艦橋に案内される。


艦橋は、20人くらいの人が働いていた。前には窓があって、ちょうど空港の滑走路が見える。


「これより、駆逐艦フラムクーヘンは発信し、旗艦に寄港し補給、しかるのちに艦隊主力へ合流する。両舷微速上昇!」

「両舷微速上昇!機関出力3パーセント!」


レーベンブロイ艦長の掛け声とともに、船が浮き始めた。不思議なくらい静かに飛び始めた。やっぱり、私の知ってる飛行物体とは全然違う。この人たちってやはり宇宙人だったんだなあって思った。


徐々に浮き始めた。飛ぶというより、浮く。そういう表現がぴったりだ。


出力を徐々に上げてるようで、高度もだんだん高くなっている。


「高度3万2千!エンジン点火準備よし!前方に障害物なし!進路クリア!」


やっぱり軍艦だ。掛け声に緊張感がある。


「高度4万メートルになったらエンジンに点火して加重力圏を離脱するんですよ。」


エルディンガーさんが解説してくれた。


外はもう大気の上って感じで、上はもう真っ暗。地表近くに白っぽい太めの線が見える。線といっても、これが大気だ。私は普段、あんな薄っぺらい部分の空気だけを吸って生きてるんだ。そこが宇宙との境界線でもある。


「高度4万!エンジン点火!」

「両舷前進いっぱい!大気圏離脱開始!」


ゴォーっていう音が艦内に鳴り響いた。周りを見ると、景色が後ろに流れてく。


慣性制御という機械のおかげで、すごい加速をしてるにも関わらず加速度を感じることなく立ったままでいられるそうだ。そういえば宇宙に行くには、私の星では遠心機に入ってぶんぶん振り回す訓練を受けなきゃいけないとだめなようだけど、そんなことしなくても宇宙に行けてしまう、やはり宇宙人の技術は凄い。


数分ほど加速したら、もう宇宙に出てしまった。青くて丸い地球、何度か写真やテレビの映像で見たことあるけど、奥行き感というか規模感というか、映像で見るのとは全然違うスケールで広がっている。


地球に見とれてたら、突然艦長が叫んだ。


「戦艦ヴァルトブルグまであと300キロ!戦艦へ寄港用意よし!アプローチに入る!」

「ヴァルトブルグより返信!入港許可おりました!第15ドックへ入港されたし、だそうです!」


艦長と他の乗員とのやりとりが続く。いきなり「戦艦」に行くんだ。


そういえば、さっきこの駆逐艦って「フラムクーヘン」て呼んでなかったっけ?そんなかっこよさそうな名前がついてるのに、なんで私たちには「890号艦」なんて呼んでたのかしら?


「ああ、フラムクーヘンてのはこの艦内で勝手に呼んでる名前なんです。駆逐艦は名前がなくて、単に数字だけで呼ばれるから、みんな愛称をつけてるんですよ。」


ちなみにフラムクーヘンというのはピザのような食べ物のこと。他にはニュルンベルクソーセージなんて船もいるそうだ。一般的に、食べ物の名前がよくつけらるんだとか。ここは飲み屋か。


なんだか、宇宙人の印象が大きく変わった。最初は「恐怖」、次第に「安心」に変わり、今は「呆れ」だ。


宇宙人だからって、私たちとは全然違うなんて、誰が言い出したんだろう?テレビに特番でやってた、海中生物のようなべたべたした触手のある宇宙人に会って、宇宙船に連れ込まれて人体実験されたっていうあの証言は、今思えば全部嘘だったのね。


ついでにあのテレビ番組では、政府は宇宙人の存在を隠してるってさんざん言ってたのに、いざ本当に現れたらうちの政府はあっさりと公表しやがった。あの政府ごときが宇宙人なんて存在、隠せるわけないよね。


その宇宙人はお茶汲み女子社員と楽しくビールを飲む人ばかりだったし、この1週間で随分とテレビ特番の洗脳が抜けてしまった。


そして、私はこうして宇宙にいる。2週間前には次長のお茶くみ役してた私でさえ、宇宙に来られる時代になったんだ。


そんなこと考えてたら、戦艦に到着したようだ。


この戦艦というのが、呆れるほど大きい。まるでどこかの映画に出てくる宇宙要塞だ。ごつごつしてて、なんだか悪役宇宙人の基地みたい。


全長はこの船の10倍、3400メートルもあるそうだ。同時に30隻もの駆逐艦を寄港させて補給できるとか。さらに、駆逐艦についてるのと同じ砲門が、30個もついてるらしい。


そんな商社の社員には難しい知識の説明を受けているうちに、あの悪役要塞のような戦艦にドッキング。これから10時間かけて補給作業だそうだ。


「じゃあ、行きましょうか、メグミさん。」

「えっ!?行くってどこへ?」

「戦艦内の街ですよ。今度は私が案内役です。」


驚いた。あの悪役要塞、街があるんだ。


非常識な大きさに加えて、そんな至れり尽くせりな施設がついてるなんて、宇宙生活も悪くはないかな。


ただし、この街に行けるのは1~2週間に一度の補給時のみ。それでも宇宙に何ヶ月もいる人にとっては、この上ない息抜きだという。


戦艦に入ったら、電車が走ってた。大きい船だから、当然だよね。街があるくらいだし。


その電車に乗って、街にある駅に着いた。


こじんまりとした空間にぎゅっとお店を詰め込んだようなその街は、なんともきらびやかだ。


悪役要塞なんていってごめん。すごいよさそうな街、悪役もびっくりだわ。


食べ物屋は私の星の街にあるのと似たような雰囲気だけど、服屋はどこか違ったデザインのものが売られてる。


しかしアイスやパフェのお店はなんだかすごいのが売ってた。青や紫、7色に光るクリームなんてものがある。一体、どんな味がするんだろう?あとで食べてみよう。


薄っぺらい壁や上からつるされている垂れ幕に映像が流れている。立体的な映像を出しているやつもある。やっぱり技術がずっと進んでいるよね、ここ。


そういえば、エルディンガーさんが持ってるあの四角くて画面の大きな携帯をみんな持ち歩いてる。こっちの世界では、あれが普通なんだ。私たちもあれ手に入れたら、使いこなせるかなぁ。


着いたばかりだけど、食事をとることにした。だけどエルディンガーさん、あまり食事に興味がなかったらしく、いいお店を知らない。そこで、あの携帯で調べてた。


一番人気のお店ってやつに行ってみることになった。ソーセージやシュニッツェル、グラーシュという料理があるそうだ。


そこで見つけた「フラムクーヘン」ていうのをたのんでみることにした。せっかく知ったばかりだし、ちょっと興味がある。


出てきたのは、四角いピザのような食べ物だった。じゃがいもが多いためか、ピザより少しあっさりしてる。ちょっと物足りない。


エルディンガーさんが頼んだ「シュヴァイネブラーテン」という肉料理は美味しそうだった。そこで、私のフラムクーヘンとちょっと交換することにした。エルディンガーさんもちょっとくどかったようで、喜んで交換してくれた。


このシュヴァイネブラーテンという料理のお肉は柔らかい。とっても美味しい。これだけではくどいかもしれないが、ちょっと食べるのはすごくいい。今度来る機会があったら、サラダと一緒に頼もう。


ところで私たち、はたから見たら恋人同士みたいなことしてるかな?もしかしてエルディンガーさん、迷惑じゃないか?


急に心配になったので、ちょっと聞いてみた。


「エルディンガーさんって、付き合ってる人、いるんですか?」

「いないですよ。男ばっかりですから、この駆逐艦。」


女性士官は100人中たったの5人しかいないらしい。私が6人目の女性だそうだ。


そんなに少なかったの?女の人。最初に私たちを案内してくれたあの少尉さん、貴重な女性陣だったのね。


やっぱりここでもお茶くみやってるのかな?エルディンガーさんに聞いてみたら、


「ああ、そういう雑務は全部機械がやってくれますよ。」


だって。その機械、うちの会社にもほしい。


他にも掃除、洗濯、調理なども機械がやってくれるんだとか。そうでないと、たった100人であの大きな駆逐艦は動かせないそうだ。


やっぱりここはスーパーテクノロジーの塊だ。掃除洗濯をしなくていいなんて、ついでに、お風呂で体を洗ってくれる機械なんてのもあるのかな?飲み会のあとには活躍しそうだ。


服のお店に行くと、意外と女性用の服が少ない。そりゃそうだよね。100人中5人じゃ、男用を売った方が儲かりますし。


最後に、エルディンガーさんオススメの場所というところに行った。


そこは、個室に入って、映像を楽しむというお店。


そう聞くと、なんだか変なビデオでも流してるお店だと思ってしまうが、ここはそういうところとは違うらしい。


いわゆる自然や古い建物がある場所の映像を、臨場感たっぷりに見せてくれるところらしい。


で、2人で真っ暗な部屋に入った。…ちょっと緊張する。


すると、急に周りが明るくなった。高い場所にいる。建物の上だ。


どうやら、お城の上から見た風景らしい。緑が広がってて、すごく気持ちいい風景だ。


この映像は、エルディンガーさんのお城によく似てるらしい。古い建物好きのエルディンガーさん、ここで故郷の風景に浸るんだそうだ。


映像が切り替わる。今度は山の上だ。


別に気温は変わっていないが、なんだかちょっと寒く感じる。周りは一面の雪。ここはまさにエルディンガーさんの故郷の風景だそうだ。空気が澄んでいるのか、遠くの山々まできれいに見える。


エルディンガーさんが指をさす。その先には、小さなお城が見えた。あれがエルディンガー家の居城だそうだ。


宇宙人ていうから、てっきりすごい都市に住んでるものだと思ってたら、すごい田舎…じゃない、空気の綺麗な自然のただ中にいたんですね。


そんな感じで、映像を堪能していた。


そのうちにエルディンガーさんと一緒に、このお城に行ってみたいなどと思ってしまった。お城なんてそんなに好きじゃないのに、なぜだろうか?

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