表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/144

お茶くみと貴族参謀と惑星代表者 1

私の名はメグミ。首都トキオの郊外にあるビルの23階にある、とある一流商社に勤務する女性社員だ。


都会に憧れて、大学卒業してここ首都に単身やってきたけど、私の仕事はお茶くみ、書類の整理、シュレッターかけ、社内便の発送などなど雑務ばかり。ちっとも面白くない。


今日も定時上がり、昼休みに同じような仕事をしている別の部の友達と話して、近くの繁華街に繰り出して飲みに行こうなんて話になった。仕事中に、携帯に行き先を知らせるメールが来た。みんな暇なんだな。


毎日が刺激のない日々、何か面白いことでも起こらないかなぁ。ってそういえば昨日の夜に、政府の重大発表というのがテレビでやってた。


なんでも、地球(アース)576とかいう星からやってきた宇宙人が、今日トキオに降りてくるってことらしい。なにそのダサい星の名前?本当に来るの?宇宙人。


そのときの記者質問は大荒れだった。どうしてここにその宇宙人の存在を示す証拠が出てこないのか、とか、侵略しにやってきたかもしれない宇宙人を安易に首都内に迎え入れていいのかとか、質問というより怒号を浴びせていた。でも政府の回答は、明日になればわかります、この一点張り。


で、今日空港に宇宙人がやって来るけど、皆さん混乱しないよう冷静に普段の生活をお続けください、と言って会見は終わった。


でも今のところ、何にも起きていない。やっぱりあの発表は嘘だったのかな?


「おーい、メグミちゃん、ちょっと。」


次長の声だ。どうせいつものお茶くみだろう。


「はーい、今いきまーす。」


席を立った。


そのときだった。


「なんだ…あれ!」


前に座っていた主任が急に立ち上がった。いつもは冷静な主任が唖然とした顔で、窓の外を見ている。


私も後ろを振り向いた。


信じられないものが目に飛び込んできた。灰色で、まるで窓のない高層ビルを横倒ししたような物体が、私のいるこの23階と同じくらいの高さのところをゆっくりと飛んでいる。


オフィスの中は大騒ぎだ。みんな窓の外を見ていた。


あれが、昨日政府が今日やって来る「宇宙船」なのだろうか?いや、間違いない。あんな飛び方する物体なんて、この地球上にはない。絶対あれは宇宙人だ。


でもテレビ番組でよくやってる宇宙船とは随分違う。前側はビルのように四角いけれど、後ろは広がってて、上の方に小さな窓のようなものが見える。


よく見ると1隻じゃない、たくさんいる。10隻くらいかな。1隻だけ、空港にあたりに着陸したみたいだけど、他のはそのまま空中に浮いてる。


先端には大きな穴が見える。これって、ビーム砲とかいうやつじゃないの?我々地球人が彼らの要求を拒んだ途端に、いきなりこれを撃ってくるんだろうか?


私のいるビルは、この辺りで一番高くて目立つから、真っ先に撃たれるよ。ヒェ~。


誰かがテレビをつけた。どのチャンネルもこの宇宙船の中継をやってる。


『ああ、今降りてきました!あれが宇宙人のようです…見たところ、普通の人間に見えますが。』


さっき降りていった宇宙船が着陸して、中から宇宙人が現れたところのようだ。ナレーターが興奮気味に伝えている。


確かに見たところ、普通の人間だ。もっとネバネバした液体に覆われた、イカのような宇宙人が出てくるものと思っていた。


もう仕事どころじゃない。次長も私を呼んだことを忘れ、テレビに見入ってる。


このあと、宇宙人と政府が合同の記者会見をやるそうだ。それまで、宇宙人から提供された映像というのを流すそうだ。


この映像というのが、衝撃的な内容だった。


この宇宙には、地球みたいな惑星が760個もある。それが二つに分かれて勢力争いをしてるらしい。今日やってきたのは「宇宙連合」って方の勢力で、この星にも連合と同盟交渉のため、ここにやってきた。いずれ交易と技術の提供が始まって、私たちの生活も一新して、輝かしい未来がやってくる。そんな感じの内容だった。


で、今空に浮かんでるのは、地球(アース)576っていう星からやってきた遠征艦隊の駆逐艦だそうだ。やっぱり軍艦なんだ、あれ。


テレビに流れている映像では、彼らは地球上の人類を攻撃しません、心配しなくてもいいですよ、っていってるけど、幼児をつれさろうとするおじさんも同じこと言うよね~、信用できるか!


一通り映像が流れたところで、記者会見の会場が映し出された。まだ、宇宙人と政府の人は出てこない。


「おーい、メグミちゃん、ちょっと。」


このタイミングで呼ぶか!?次長!今一番いいところなのに…


お茶くみ、というか、ここにいる全員分の缶コーヒーを買ってくるよう頼まれた。全員って…20人いますよ、ここ!


か弱い女子に20本の缶コーヒーを買いに行かせるなんて、もはや暴力だ。絶対訴えてやる。ていうかあの宇宙人、まずこの次長だけ狙い撃ちしてくれないかしら?


同じような用事を頼まれた女子が自販機の前にいた。みんなブーブー言ってる。


「信じられない、私だって見たいのに~。」

「毒でも混ぜて渡してやりたいわね。宇宙人に毒を混ぜられましたって。」

「私なんか30本だよ~どうやって持って行こう?」

「宇宙人に運んでもらえば?」


そういう下らないおしゃべりしてると、ますます記者会見に遅れるよ。


「メグミんとこは何本なの?」

「ん~20本。」

「ええ!?絶対この自販機だけじゃ足りないよ、どうしようか。」


ちょうどそこに、缶を補充に来た人が現れた。冷えてないけど、私は直接この補充員から20本を買った。この方が早い。


袋に入れた20本の缶コーヒーをかかえて事務所に戻ると、もう記者会見は始まってた。


海軍の軍人さんのような恰好の人と、背広姿の人。どうやらこの2人が宇宙人だそうだ。


見た目だけでなく、話してる言葉も同じ。現実味がない。まるで、映画「宇宙人が来た」の製作発表会でもやってるような、そんな感じに見えてしまう。


『ところで、なぜあなた方は、我々と同じ言葉を使ってるんですか?』


ある記者が質問した。背広の宇宙人が答える。


『ちょうどあなた方が話している言葉は、統一語と呼ばれる言語なんです。どの地球(アース)でもこの言葉が使われているため、我々は宇宙の共通語としてこの統一語が使われてるんです。』

『つまり、我々が統一語を使っていたから、我々に接触して来たと、そういうことでしょうか?』

『そうです。まず意思疎通が取りやすい人たちか接触するのが、混乱を最小限にする最も良い手段ですから。』


なんと、私は宇宙の標準語を話せたの?知らなかった。それってすごいことじゃない?私、こんなところでお茶くみなんてやってる場合じゃない気がしてきた。


冷えてもいないコーヒーをすすりながら、みんなテレビに釘付けだ。それにしてもこのテレビ、小さな画面だから、私からは見えづらい。


後ろから背伸びをして見ていたが、だんだん疲れてきた。諦めて席に戻って、音だけ聞くことにした。


窓の外を眺めると、駆逐艦がまだそこにいた。いつもと違う風景、本当に宇宙人がやってきたんだ。テレビだけ見てると映画の1シーンが流されてるように感じちゃうけど、私の見る窓の外には本物の宇宙船が見える。紛れもなくこれは、現実で起きてることなんだ。


これが私の人生にどんな影響を及ぼすんだろうか?宇宙人と恋に落ちたりするんだろうか?はたまた、人質を要求されて、私が宇宙に連れていかれるなんて運命が待ってるんだろうか?


不安と期待が入り混じる中、翌日を迎える。


翌日の朝礼で、もう宇宙人来襲の影響が現れた。


なんと、この職場から宇宙人に1人差し出せ、というのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ