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南の島と包囲網と超音速少尉 6

それから2週間が過ぎた。


私は地上に降り立ち、核融合炉の技術習得に向けて動き出した。


宇宙港のそばに技術習得用の工場ができており、そこに私は勤務することとなった。今日は3日目である。


今日出勤すれば、明日からは2日間のお休み。張り切って働くか。


っと、その前にやらなきゃいけないことがある。


「アンナさん、アンナ!朝だよ!」


横で寝てるアンナさんを起こす。


彼女も地上勤務となった。地上での仕事は、やはりというか、パイロット養成だ。


あの連邦の艦船の間を超音速で駆け抜けた伝説のパイロットとして、我々エタリアーノ国内では英雄扱いだ。そんな彼女に教えを受けられるとあって、パイロット養成学校の士気は高い。


もっとも、彼女の後席に乗って正気でいられる奴がどれほどいるのか分からないが、ある意味で彼女の与える試練がパイロットの素質を見出す「ふるい」となってくれるだろう。


そんな伝説のパイロットと同棲しているというのも、なんだか妙な気分だ。ちなみ来週には籍を入れて、ついに正式に夫婦となる。


式はこじんまりとした式場で、お互いの家族だけを招いてやるつもりだ。


それにしてもアンナさん、いくらなんでも朝っぱらから素っ裸で家の中を歩き回るのは、どうにかなりませんかねぇ。私の理性が吹っ切れそうだ。


伝説のパイロットも、自宅の中ではこの通り、ずぼら過ぎる。


ずぼらといえば、電子レンジ。あれの使い道が彼女のおかげでよく分かった。


というか、アンナさん、電子レンジしか使わない。レンジで温めてすぐにできるという食品が近所のショッピングモールで売っていて、毎週末にはこれを大量に買い込む。


ほかほかの朝食が食卓に並ぶが、今日の朝食はレンジで温めるリゾットというやつだ。アンナさん、このレンジで温めるシリーズが本当に大好きだ。でもちょっと適当すぎやしませんか?


だが、出かける寸前には、綺麗な長い金色の髪を整えて、パリッとして出かける。養成学校は、この街の外れにある。


私も出かけた。宇宙港のそばの工場に向かう。


今日は小型の核融合炉が届くことになっている。これをバラして、自分たちで組み立てが出来るようにするのが目標だ。


自前の核融合炉が作れるようになれば、我が惑星も近代化に向けて大きく前進する。


職場に着くと、ちょうどその核融合炉が届いていた。複座機に搭載されている小型の核融合炉だが、小さいながらも出力は大きい。これが6つあれば、エタリアーノの首都の全電力が賄える。


だが、この街の電力を賄うには、これが10個あっても足りない。どんだけこの街は電力を消費してるのか?


さて、まずは動かしてみる。ここには、まだ核融合炉が動いてるところを見たことがないものが多い。


燃料は、水素と重水素と呼ばれる物質を使う。重水素は天然に存在するものの、濃度が少ないため、これを取り出すのに特殊なフィルターを使う。


こうして集めた燃料を炉の中に送り込む。炉内に送り込まれた燃料は数千万度のプラズマと呼ばれる状態になり、核融合反応によって熱を連続発生する。


この熱と、プラズマにより発生した電磁場を取り出して、電力を生み出したり、重力子を操る重力子エンジンを動かす。


早速臨界状態に達した核融合炉、電力を起こしてみると、この工場1つ分を余裕で賄えるほどの電気が起きた。


太陽もこの核融合反応によって輝いていると聞く。つまり、我々はここに太陽を作り上げているのだ。


これだけのエネルギー源でありながら、航空機に使うとたった一機分にしかならない。それだけ重力子エンジンがエネルギーを消費するのだ。


さて、そんな核融合炉を使って、キレた飛び方をしている機体がすぐ上を飛んでいる。


あの飛び方は、間違いなくアンナさんだ。


きっと後席ではパイロット候補が失神してるに違いない。慣性制御があっても恐怖を感じる飛び方をするのが、我が妻となるアンナさんだ。


こうなったら「最恐の女パイロット教官」を目指すと言ってたから、きっと今頃は嬉々として飛んでるんだろう。


さて、こちらは地味な作業だ。部品を1つ1つバラして、これを組み立てる。


マニュアルもあるが、なかなか上手くいかない。結局夕方までかかってしまった。


明日は、この中の部品の1つを我々自身が作ったものに置き換えてみる。こうして次々と部品を置き換えて、最後には全て作れるようになるのが目標だ。


このエタリアーノ随一の職人が集まって、この核融合炉の自力生産を可能にする。そうすれば、宇宙艦隊の設立や、今後増大する電力需要に応えられる核融合炉を惑星全土に供給できる。


横では、重力子エンジンに取り組むチームがいる。どちらが先に自力生産ができるか、競争してるところだ。


家に帰ると、先に帰っていたアンナさんが出迎えてくれた。


今夜は街中のピザ屋に行こうということで、早速街に繰り出した。


ビザを食べながら、アンナさん、なかなかの素質を感じるパイロット候補生を見つけたらしい。


今日も後席に乗せて飛んだが、彼女の操縦に全く動じないという。シミュレータの結果も上々だ。


ちょっと不安になった。そんなパイロットがいたら、私よりもそのパイロット候補生と恋に落ちてしまわないかと。


しかし、心配ご無用だった。なんと、その候補生は女性だそうだ。


彼女が見ている内では、間違いなくトップクラスだそうだ。彼女に匹敵するパイロットになるのは、間違いないという。


それはそれで心配だ。今度はアンナ同様、周りに男性からドン引きされる存在になりはしないかと懸念される。


まあ、私がいうのもなんだが、キレた操縦をする女性を愛してくれる稀有な男性が、彼女のもとにも現れてくれることを願う。


明日は、アンナと一緒に街の式場に行く。本番前の最後の打ち合わせだ。いよいよ我々は、夫婦になる。


----------------------------


時は流れて、翌週になった。


まだ核融合炉の自力生産まで程遠いが、今週は新婚旅行だ。


行き先は、あの南の島だ。


私が以前いた時は戦場だったが、元々ここは観光地だ。


まだ砲弾の跡が生々しく残るが、我々はあえてここにやってきた。


なんと行ってもここは、2人が出会った場所だ。


あの丘の方に行ってみた。すでに展望台が作られていて、何人かの人が海の方を眺めていた。


1人が我々の方にきて、片言のエタリアーノ語、いや今は統一語と呼ぶべきか、で話しかけてきた。


その人は、なんと連邦の人だった。つい3ヶ月前までは、戦争していた相手だ。


彼曰く、彼は島の砲撃を加えるべく巡洋艦の艦橋にいたそうだ。


ところが、駆逐艦が現れて砲撃を阻まれた。上陸部隊も島に辿り着けず、諦める他なかった。


翌日にはあのドッグファイトが始まった。目の前を超音速で飛んでいった航空機を見て、一目で惚れ込んでしまったらしい。


ということで、休暇を利用して、この島巡りを始めたらしい。もしかしたらあのパイロットと会えるかもと期待してのことだ。なんとも変わった人だ。


しかし、こんな人と私は戦争をしていたのだろうか?明るくて元気のいい中年男性だ。


奥さんも連れて来ており、戦争が終わって生き残れたことを祝って、2人で旅行してるそうだ。ついこの間まで自身の軍が砲撃を加えていた場所へ「お祝い旅行」とは、どこか発想が飛んでいる。


しかし、まさか目の前にあの時、超音速で駆け抜けた張本人がいるなどとは思わないだろう。


だがその後、ホテルで彼女の正体がバレる。


この島唯一のホテルにチェックインしようとした時、アンナの名前に気づいたホテルの受付嬢が、サインを求めてきた。


受付のすぐ後ろには「伝説のパイロット」の話が書かれているパネルが貼られていた。この島に観光客を戻すため、この伝説が一役買ってるらしい。


そんなところに伝説の本人が現れたとあっては大騒ぎだ。あっという間に他の観光客にもサインや写真撮影を求められた。


そこにあの連邦の人も現れた。大喜びで記念撮影、サインも当然書かされた。


「フウフ ナカヨク スエナガク オシアワセニ!」


別れ際に、我々夫婦に、片言の統一語で祝ってくれた。


それにしても、ここではアンナは有名人だった。宿泊客の正体を周りに教えるなど、ちょっとホテルの対応は配慮がなさすぎる気がするが、本人は悪い気はしてないようだし、この一件は見過ごすことにした。


地下壕跡にも行ってみた。まだ生々しく当時の様子が残っていた。それはそうだ。まだ3ヶ月ほどしか経っていない。


奥は立ち入り禁止になっていた。あまり強い地盤に掘られた地下壕ではないため、崩壊が進んでるらしい。


絶望と伝説、この2つが共存する島に5日間滞在したのち、我々は宇宙港の街に帰っていった。


帰りの船の上、私は己の運命を変えたこの島を眺めて、この先の人生をこの惑星とアンナのために捧げることを誓った。

(第15話 完)

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