魔女と木彫りとパイロット 7
あれから、およそ一年が経過した。
私は王都にほど近いところに作られた、宇宙港のそばに建設された街に暮らしている。
正式に「地球736」として登録されたこの惑星では、統一政府樹立に向け活動が続いている。
この星には多くの技術やものが入り始めていて、この宇宙港の街はその玄関口。彼らにとって最先端の技術やものが溢れるここは、いわば宝の山と言える街だ。
一攫千金を求めて多くの商人が集うこの街の片隅に、私の家はある。
もちろん、エーテルと一緒に暮らしている。約束通り、私たちは結婚した。つい半年前に結婚式を挙げたばかりだ。
その式の場所はなんとあの村の広場。かつて、彼女が処刑されそうになった、あの場所だ。
何もそんな嫌な思い出の場所でやらなくても…と思ったが、彼女たっての希望だった。
亡くなった両親眠るこの地で、結婚式を挙げたかったそうだ。
それが彼女にとっては一番やりたかった親孝行とのこと。
式には村長さん、そしてあの神経質男も参列した。
なんでもあの神経質男、王都近くの宇宙港で現地と宇宙からくる人々との間をとりもつ仲介人となり、かなりうまくやっているらしい。
統一語を使える現地住人で、しかも弁舌は達者のようだから、そういうのに向いていたのかもしれない。
最初にあったときのことを思い出してしまうため、正直あまり会いたくない相手だったが、彼の運命もこの出来事以来大きく好転。まるであの時のことはなかったかのように上機嫌に接触してくる。
この村も、我々と最初に接触した場所として、王国の中でも有名な場所になってるそうだ。最近、旅人が増えてるらしい。
あの日、彼女の運命を変えた出来事は、この村の住人をも大きく変えることとなったようだ。
で、私はというと、この星が艦隊編成できるまで教育・訓練を行う駐留艦隊の一員として赴任している。
パイロットなので、航空機の教育訓練が仕事だ。
ところで、私はこの王国ではもう1つの顔がある。
それは私はこの国の「貴族」であるということ。
連合とこの王国を最初に橋渡ししたという功績によって、国王より「男爵」を賜わった。
私が男爵とは、何かの冗談のようだが、本当に賜ったのだからどうしようもない。
貴族となった理由には、私がパイロット養成に関わる人物だったことも関係しているようだ。
というのも、この国でパイロットといえば「騎士」。その騎士を指導する立場のものが無位無冠では、いろいろと示しがつかないという事情もあったようだ。
が、爵位をいただいた教官は私一人。他は無位無冠のままであることを思えば、やはり最初に接触による功績が大きかったのかもしれないと思う。
実際、この国は我々との接触後、大きく変貌した。
わずか一年で国の経済は倍増。宇宙港がもたらす利益はこの王国にとって、計り知れない価値を持っている。
そんな事情もあって、私は王都にも屋敷を持っている。領地も賜るとの話だったが、さすがに領地までは管理しきれないのでお断りした。
月に一度は晩餐会に出席する必要があるが、現地の関わりは軍事教練をする上でも何かと役に立つので、この地位をありがたく使わせてもらっている。
てことで、エーテルはこの星では一介の村人ではなく、男爵夫人ということになっている。
もっとも、相変わらず木彫りは続けてて、街の中で見つけた面白いもの(バスやタクシー、トラックなど)を片っ端から掘り続けている。
相変わらずハンバーグが好きで、週に一度は街の料理屋に食べに行くのが習慣になった。自宅でも2日に一度は作ってる。そろそろ飽きないんでしょうかね?
なお、私の軍での身分は「少佐」となった。
貴族の称号をもらっているものが佐官ではないのは軍の威厳に関わるということで、男爵になったすぐ後にこちらも賜わることとなった。おかげで、この歳にしては給料がいい。
さて、少なくとも10年はこの場に駐留することになっているが、その後はどうしようか?
エーテルを連れて故郷に帰るもよし、このまま貴族として残るもよし。まだ先のことだし、彼女とじっくり考えて決めようと思う。
魔女とパイロット、この数奇な組み合わせは、この星の上で新たな生活を歩み始めた。
(第1話 完)