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南の島と包囲網と超音速少尉 3

翌朝になった。艦砲射撃はなく、こんなにぐっすり寝られたのはいつ以来だろうか。


おまけに武器も持たず、ヘルメットも被らず外に出られる。こんな普通のことが、とても貴重に思えている。


何よりも、私は今も生きている。昨日のうちに死んでいてもおかしくないあの地獄から、解放されたのだ。


眩しい太陽の元で朝食を食べた。この朝食、上の駆逐艦から分けてもらったものだそうだ。いわゆる缶詰だが、我々の缶詰と比べると格段に味がいい。


さて空を見ると、あの複座機というやつが2機飛んでいる。あのうちの一機が、アンナ少尉なのだろうか。


まだゆっくりと、ぐるぐると島の周辺を飛行している。


連邦の空母からも何機か離陸して飛んでいる。しかし、今日はこちらに襲いかかってくる気配はない。多分、上空を飛ぶこの2機を牽制してるつもりだろう。


突然、この2機のエンジン音がけたたましくなった。ゴォーッという爆音が響く。


みるみるうちに、2機ともものすごい速度になった。あっという間に島の端まで到達し、急上昇した。


普通、飛行機を直角に向けると、失速して落っこちてくるものだが、この複座機というやつは全く失速しない。どこまでも高く登って行く。


かと思うと、急に下降してきた。ちょうど連邦の艦船が並んでるあたりに向かって降りてくる。


艦船の手前で一機は緩やかに上昇に転じたが、もう一機はまだ降下している。


このまま降下を続ければ、海面に叩きつけられるか、連邦の艦船にぶつかるか。かなり危険な飛行だ。


あわや海面に激突か!?というところで、ぎりぎり上昇に転じた。


だがそこには連邦の艦船がひしめいている。その船の間を信じられない速度で飛んでいる。


その飛行機の周りには、円錐状の雲がうっすらかかっている。


そのままものすごい速度で連邦の艦船の間を駆け抜けていった。私の前を横切った後に、まるで空気が割れたかのような、凄まじい音が鳴り響く。


音よりも早く飛行機が通り過ぎていった。つまり、音の速さを超えていたのか?あの飛行機。


突然急上昇に転じ、さっきの複座機の後ろに回り込んだ。


回り込まれた方もやり手だ。すぐに方向を変える。


この機体、信じられないくらい早く飛べるのに、恐ろしく小回りがきく。


だがその急旋回した複座機に、後ろのもう一機も追従する。


ほぼ、一瞬の出来事だが、特に後ろの機体の飛行士はどういう反応速度をしているのか?あれだけの速度での急旋回、よくついていったものだ。


どっちに向いても、後ろから離れない。そこで前側の機体は急減速をかけた。


この意表を突いた行動に、後ろの機体は前に出てしまった。さすがにこの動きにはついていけなかったようだ。


ところがこの複座機、今度は急降下した。また海面に向かって全速で飛ぶ。


もう完全にキレている、あんな飛び方、普通じゃない。


再び連邦の艦船を隠れ蓑にし、不意に上昇して再びさっきの機体の後ろについた。


ここで、上空にいる一隻の駆逐艦から光が点滅した。これを合図に、この2機は減速、再びゆっくりと飛び始めた。


この2機が島の丘の方に降りてくる。私は急いで丘の上に向かった。


そこにはすでに何人かがたどり着いていた。2機が丘の平らなところをめがけて、ゆっくりと降りてきていた。


そして着地。エンジンが切られて、2機とも静かになった。


2機の風防が開いた。2人乗りだが、どちらも一人しか乗っていない。


ヘルメットを取って現れたのは、一方は見ず知らずの男の飛行士。いかにもベテランといった風格だ。


だが、もう一方の機体、あのキレた飛び方をしてた、あの機体だ。そちらに乗ってたのは…アンナ少尉だった。


この場にいた兵士は愕然とした。てっきり、ベテランの飛行士が出てくるものと思っていたからだ。


それが、まるでお人形さんのような滑らかな金髪に透き通るような肌の女性が出てきた。


「今日も私の勝ちですね、大尉!」


満面の笑みを振りまいている彼女。大尉の方は慣れているのか、ちょっと呆れた顔で彼女の方を見ている。


私は、アンナ少尉の複座機に近づいていった。


アンナ少尉は、私に気づいた。


「あら、ナタルさんじゃないですか。おはようございます!」


明るい澄んだ声で話しかけられる。私も、笑顔で返した。


「おはようございます。アンナ少尉。ええと、すごい格闘戦闘でしたね。」

「そうでしょう?私これでもなかなかすごいんですよ。」


彼女は誇らしげにしゃべりながら、はしごを伝って降りてきた。


もう一機の大尉殿もきた。


「やれやれ、少尉には敵わないよ。私があんな飛び方をしたら、きっと海面に叩きつけられていた。なんて吹っ飛んだ飛び方をするんだ。全く。」


ふふっと笑っている少尉殿。私よりも背は低くて、可愛らしい見た目の彼女。それがこのベテラン飛行士を上回る飛行をやってのけた。なんだかとても信じられない。


地上に降りれば、彼女はまるで天使のようだ。どちらかというと、ちょっとおっとりしてて、いじられ役なタイプの女性だが、空に出たらまるで流星のような速度で飛び、鬼神の如くキレた飛行をする。


この落差が大きすぎる。どうしても信じられない自分がいた。


そんなことを考えながら、ついじーっと少尉を見てるものだから、


「な…何ですか?ナタルさん。私の顔になにか付いてます?」


などと言わせてしまった。


「ああ、ごめんなさい。外の世界が眩しいもので、つい…」

「そうですか?いつも通りですよ?」

「いや、一昨日まで我々は地下壕にこもりきりだったもので…」

「あ、そうでしたね…大変でしたよね、ここの戦い。」


ところで、彼らの艦隊がこの戦場を把握したのはまさに一昨日だったそうだ。


島の周囲を包囲されていて、しかも砲撃を加えてる様子から、ここが戦場であることを悟ったそうだ。


そこで、アンナ少尉の所属する第12小隊に、派遣命令が出たそうだ。


「ところで…アンナ少尉がおっしゃる小隊とは、何隻の船のことをおっしゃってます?」

「ああ、ここにいる約300隻が私の小隊ですよ。」

「ええ!?300隻が小隊!?」


てっきり小隊とは3隻くらいかと思っていただけに、驚いてしまった。こんな大きな空飛ぶ船が300隻集まって「小隊」とは。一体彼らは全部で何隻いるのだろうか?


気になったので、少尉に聞いてみた。すると、彼らの艦隊は全部で30小隊、総数1万隻だそうだ。


さらに各小隊には旗艦となる戦艦が1隻づついるそうで、あれの10倍の長さの船が一つの艦隊に30隻もいることになる。


宇宙には760もの地球(アース)と呼ばれる人類のいる惑星が存在するが、全部で1千艦隊以上が存在しているという。


アンナ少尉のキレっぷりもすごいが、どちらかというと今は宇宙の壮大さに気を失いそうになってしまった。


宇宙ではそんなことになってるというのに、我々は呑気にこの狭い島で戦争をしていたわけだ。


確かに、我々は星の表面で殺し合いなどしてる場合ではない。連邦とも団結して、この壮大な宇宙のたくさんの艦隊に対抗できるだけの力を持たなくてはいけない。


ところで、私は徴兵前、大学で物理学を専攻していた。


戦争がなければ、私は研究者として天文台にでも勤めたいと思っていたのだ。


だから「宇宙」というものが気になる。できることなら私も行ってみたい。


そう少尉に話してみると、彼女はいう。


「これからいくらでも行けますよ。でも宇宙空間なんて何にもないし、あまり面白いものではないですよ。」


そうなんだ…そういえば彼らにとってみれば、宇宙はもう生活の一部なんだ。


少尉曰く、10年もすれば我々も1万隻の艦隊を持てるはずだという。大抵、どこの星でもそれくらいで自前の艦隊を保有するのが一般的だそうだ。


それまで、地球(アース)551の艦隊が駐留して、我々の惑星の防衛、人材育成、技術供与を行うそうだ。


さらに10年もすれば、遠征艦隊を結成して彼ら同様に他の星に出向くことになるだろうという。


「毎年、2個から5個ほどの惑星が発見されてますからね。20年もすれば、地球(アース)の数は800を超えてるでしょうね、きっと。」


恐ろしく壮大な話だ。その頃には我々が「宇宙人」になっているのか?


あの大尉殿がアンナ少尉に声をかけた。そろそろ戻るそうだ。


鬼神のような天使のアンナ少尉とは、これでお別れだ。


--------------------


島の戦闘終結から、2ヶ月が経った。


私は島から引き揚げて、首都に戻っていた。


このまま家に帰されるかと思いきや、首都近くの駐屯地で待機させられていた。


ここから私に、人生の転機が訪れる。

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