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南の島と包囲網と超音速少尉 2

「初めまして、私は地球(アース)551 遠征艦隊所属のマーク中尉と申します。」

「あ…初めまして。」


なんだか丁寧な人だ。しかも階級は中尉。どこの国の軍人だろうか?アースなんて国、聞いたことがない。


「ええと、私はナタルという一兵卒のものです。アース…551でしたっけ?どこなんです?そこは。」

「ああ、この星の上の地名ではありませんよ。早い話が、我々は宇宙人です。」


宇宙人、宇宙人って言ったよ、この人。


海中生物のようなものが銃を握り、容赦無く人々に襲いかかる宇宙人というものを雑誌で見たことがあるが、あれとは随分違うようだ。姿格好は、我々とまったく同じ。言葉も通じる。


だが、常識外れなこの飛行機や、空飛ぶ大きな物体。宇宙人の仕業といわれれば納得がいく。


「ああ、別にあなた方を侵略しにきたとか、そういうのはないですよ。我々のここでの目的は、戦闘の停止、殺し合いをやめさせにきたわけです。」

「はぁ…そうですか…でも、これだけすごい力をお持ちなのに、なぜ戦闘停止だけなのです?」

「そこにはいろいろと事情がありましてですね…話せば長い事情ですよ?」


さっきまで艦砲射撃を食い止めたり、上陸艇に向かって発砲していた人たちとは思えないくらい、遠慮がちに話す。


私が何事もなくこの人と話しているのを見て、他の兵士も出てきた。宇宙人という言葉は聞こえたようで、それが気になったようだ。


「つまり、あんたは遠い宇宙の星からやってきたのか?」

「なんでこの飛行機、滑走路もないこんなところに降りられるの?」

「あの大きな物体、ありゃ一体なんなのさ?」


この中尉さんにみんな聞きたいことをぶつけてきた。あまりに謎だらけな存在だ。気になって仕方がない。


「ええと、すいません、いっぺんには答えられないので、まず目の前にあるものから順に答えていきましょうか。」


目につくのはこの飛行機。彼らは複座機と呼んでいるこの機体、なんでも重力子エンジンというやつで飛んでるそうだ。


重力そのものを操って飛ぶから、滑走路も必要なく自在に飛べるんだそうだ。


同じ仕組みで、あの大きな物体も飛んでいる。彼ら曰く、あれは駆逐艦だそうだ。


ということは、巡洋艦や戦艦もあるのかと聞くと、戦艦というのはあるらしい。あれの10倍もの長さがあるそうだ。


武器は大きく2種類。一つは我々も見た青い光。高エネルギービーム砲と呼んでるそうだが、拳銃サイズのものから、駆逐艦に搭載されてる大型のものまであるそうだ。


もう一つは、耐衝撃粒子散布機、通称「バリア」と呼ばれるもの。あの砲弾を跳ね返していたのは、このバリアのおかげらしい。


ちなみに駆逐艦は、主砲を大気中で使っちゃいけないそうだ。さっきのは未臨界砲撃といって、音だけの威嚇射撃。あれが本気を出したら、一隻でこの島を吹き飛ばせるほどの威力になるらしい。


しかし、なぜ我々を助けてくれるのか?今さら負けそうな軍隊など助けたところで何ら利益などない。むしろその強大な力で、我々も連邦も屈服させられるのではないか?そう考えてしまう。


そこでこの中尉さんが話してくれたのは、この宇宙の「事情」というやつだ。


この宇宙には、地球と呼ばれる星が全部で760個あるそうだ。我々は761番目になる。


その700以上の星は二つの陣営に分かれている。彼らの属する連合と呼ばれる陣営と、彼らと敵対する連盟と呼ばれる陣営だ。


ずっと以前に、ある惑星が武力で圧力をかけていた歴史はあったらしい。が、それが宇宙の二つの陣営同士の対立を生みだすきっかけとなり、ゆえに同盟星を増やさなくてはいけない事情になってしまったらしい。


要するに、彼らは我々の星に連合側へ加わってほしいということのようだ。


ゆえに、彼らの目的はこの星との同盟を結ぶことにある。それを進めるためには、この地上で争いごとをなくしてもらわないと、同盟どころではない。


このため、こうして我々の戦闘行為に介入し、停戦させて、早く同盟を結んでもらうようにしているということだ。


なんだか我々が救われたのは、彼らの利害のためだと言われたようで少々がっかりだが、正義のためなどと胡散臭いことを言われるよりは、よっぽど納得できる。


だが、彼らの利害のおかげで、我々が救われたのは事実だ。


まだ艦砲射撃が時折起こっているが、すべて彼らの駆逐艦が弾き飛ばしてくれている。だから我々はこうして太陽の元でなんの心配もなく中尉の言葉を聞いていられる。


そういえば、太陽の真下に出てこられたのはずいぶん久しぶりだ。艦砲射撃に怯えなくてもいいとは、こんなにもありがたいことなのだと思った。


「…というわけでですね、ここのあなた方の指揮官と話がしたいんですよ。どなたか、取り次いでもらえませんかね?」


そこで、伝令兵を使って、彼らのことを司令部に伝えてもらうこととなった。


司令部から誰かが来るまでの間、この飛行機を見せてもらった。


なんでも、もう200年以上前に設計された機体らしい。我々から見れば未知の機体だが、彼らにとってはごく普通のもののようだ。大した機密でもなく、壊さない限りは自由に触らせてくれた。


表面はつるっとしていて、ちょっと薄黒い灰色をしている。ステルスという、電波の反射を抑えるためにこんな表面をしているんだとか。そんなことしてどうするのかと聞くと、電波で飛行機の位置を割り出すレーダーという技術があるそうで、このレーダーから見つかりにくいようにするためらしい。


操縦席や動力も我々とは全然違う。宇宙空間も飛ぶことが可能ばこの機体、こんなものが200年も前に存在していたとは驚きだ。


この機体も製造されてすでに30年経ってるらしい。部品を交換すれば60年は使えるらしい。本当に古い設計であることがわかる。


そうこうしているうちに、中尉殿は司令部から派遣された将校に連れて行かれて、操縦席にいた少尉殿だけになった。


この操縦席の少尉は中尉殿ほど鞭撻ではなく、我々に対してちょっと引けてる感じだ。変な宇宙人だ。これほどの武力があるのだから、もっと堂々としててもいいのに。


少尉殿曰く、彼はまだ軍に配属されてまだ数ヶ月、訓練以外で飛んだのはこれが初めてらしい。戦闘経験はなし。


名前を聞くと、アンナという。いや、この人、ヘルメットをかぶっててわからなかったが、よく見ると女だ。


この星では、女でも飛行士になれるのか?驚いた。


女性と考えれば、このおっかなびっくりな態度も納得がいく。周りは男ばかりだ。


「中尉殿と一緒に行かなくてよかったの?」

「いや、私パイロットですから、この複座機を見張ってないとダメなんです。」

「ヘルメット取ってみてよ。」

「ええっ!?それはちょっと…」

「まあまあ、彼女が困ってるようだし、ちょっかい出してはかわいそうだろう。」


すでに女だとバレてしまったので観念したのか、ヘルメットを取った。


滑らかな金髪がこぼれ落ちる。白い肌の顔に青い目、ちょっと丸顔の女性だった。


24歳だと言ってたが、なんだか歳のわりに幼く見える。ましてや、飛行士には見えない。


体つきも飛行服でごまかされているが、華奢な体型なようだ。よくこんな体で飛行士としてやっていけるものだ。


つい昨日までは、こんなところで宇宙から来た女の人に会えるなどとは考えてもいなかった。ついここが戦場であることを忘れる。


こんな戦場の真っただ中に、いきなり現れた女性飛行士。おかげで男どもからは質問攻めだ。しかし、あまり困らせてるとあとで中尉殿から何か言われそうだ。ちょっと話題を変えよう。


「アンナ少尉は、どうして飛行機に乗ろうと思ったんですか?」

「えっ!?私そんなにパイロットっぽく見えない?」

「いや…というより、私の知る限り、女性の飛行士というのは聞いたことがないものですから…少尉のところでは、ごく普通のことなんですか?」

「ううん…そうですね、確かにあまり女性でパイロットというのはいないですね。」

「すごいですね!そんな世界に飛び込むとか、かなり勇気がいるんじゃないですか?」

「ええ?そう?そうかな。私はただ単に飛行機好きでパイロットになろうって思っただけなんですよ?」


謙遜しつつも、にやにやしている。ご機嫌な証拠だ。


それにしても、少し気持ちが和らぐ。女の人と喋るなんて、どれくらいぶりだろうか。


学校を出てすぐに徴兵され、もうすぐ任期というところで戦争になった。


そしていきなり辺境の島へ配属。艦砲射撃で眠れない日々を送る羽目になる。和らぐ暇なんてない。


女の人が一人いるだけで、こんなにも和やかな空気になるものなどとは、考えたこともなかった。


中尉殿が帰ってきた。司令部とどういう話し合いがあったか分からないが、満足のいく結果ではあったようだ。明日には司令部の人間が駆逐艦に行くそうだ。


「ご苦労様です、中尉殿。」

「いや、ナタルさんがいなければ、こんなにうまくはいかなかった。声をかけてくれてありがとう。」


中尉殿から感謝された。あれだけの力を持つ宇宙人だというのに、やっぱり変だ。


「飛行士のアンナ少尉殿には、この場を和ませていただきました。我々も久しぶりにのんびりした時間を過ごさせてもらいましたよ。」


と、私がいうと、中尉殿はちょっと怪訝そうな顔つきになった。


あれ、何かおかしなことを言ったのか?中尉殿は私のそばに来て、こう言った。


「彼女を甘くみてはいけない。」


意外な中尉殿の言葉だった。


「あれでも、この小隊でトップクラスのパイロットだ。格闘戦闘をやらせると、我が小隊で勝てるやつはいない。ありえない飛び方をする奴なんだ。」


…可愛い顔で笑顔を振りまいてくれた、あの少尉殿が格闘戦闘!?ますます信じられない。この中尉殿は、私をからかってるのだろうか?


「明日、この島の周辺で模擬戦闘を行うんですよ。ベテランパイロットと彼女が一騎打ちをする予定です。それをご覧になれば分かりますよ。」


なんでも、この空域であの複座機というのを目一杯飛ばすらしい。我々の退屈しのぎというのもあるが、上陸作戦を強行しようと狙っている連邦への牽制という意味も込めて行うそうだ。


連邦側にも使者が向かってるそうで、今日中には一時的な停戦となるであろうと言われた。


今夜は、ゆっくり寝られる。


だが、さっきの中尉殿の言葉が気になる。


とにかく、今日は寝よう。明日はその模擬戦闘とやらが行われるそうだし、中尉殿の言葉の真意が分かるだろう。

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