南の島と包囲網と超音速少尉 1
私はナタル。エタリアーノ共和国軍の兵士だ。階級は、2等兵。
東の大国であるアングルモア連邦との戦争が始まり、徴兵によって戦場に駆り出され、我が国の南方の島の防衛陣地に配属された。
だが、今まさに我々は窮地に追い込まれている。
島の周りは、連邦の奴らの船で囲まれている。連日の艦砲射撃で、島の軍事拠点の多くが破壊された。唯一の反撃手段であった島の砲台は3日前には壊滅した。
航空機による爆撃も始まり、我々は昼の間、地下壕から出られなくなった。夜でも艦砲射撃が行われるため、おいそれとは出られない。
制空権、制海権共に失ったこの状態では、本国からの補給など届くわけもなく、我々防衛隊7000人は完全に孤立した。だが、本国からは徹底抗戦の命令だけが打電されてくる。明らかに、我々は本国防衛のための時間稼ぎにされているようだ。
しかし、ここを連邦に取られれば、我が国の主要都市の多くが敵の爆撃圏内に入る。私の家族のいる街も、爆撃にさらされてしまうことは間違いない。
だが、この戦力差は如何ともしがたい。我々も敵の攻撃から身を守るのが精一杯だ。
今日、決死の偵察により、外の状況が分かった。東側の海岸付近に兵員輸送艦が集結中とのこと。おそらく、上陸部隊だろう。
ついに、敵が乗り込んでくる。数は分からないが、我々の倍は確実にやってくると思われる。準備状況から、上陸は明日と考えられた。
つまり、私の命も明日までかもしれない。まだ恋人もいないのに、こんな南の島で死ぬのか。
その日の夜。珍しく艦砲射撃が行われていない。おそらく明日の上陸作戦に備えて、弾薬を温存しているのだろう。今撃ったところで、明確な攻撃目標もすでにない。
星が綺麗な夜だ。久しぶりに外に出て、空を眺めている。できれば、昼間に出たかったな。
と、その時、上空に何やら黒い物体が現れた。
大きくて、四角く長いその物体。明らかにこれまで見た連邦の爆撃機ではない。大きすぎる。
全長は、敵の戦艦よりも大きい。ブーンという不気味な低い音を立てて飛んでいる。
しかもこの飛行物体。一つではない。私が見ただけでざっと6つはある。木々が邪魔でそれ以上見えないが、他の兵士の話だと、別の場所でも目撃されており、もっとたくさんいるようだ。
連邦の新兵器かもしれない。そう思った我々は地下壕に戻る。だが、その夜はついに何も起こらなかった。
翌朝、艦砲射撃で目を覚ます。ついに上陸作戦が始まった。
私は銃を取り、地下壕の入り口付近に行く。
しかし、今日の艦砲射撃はおかしい。爆発音はするのだが、地面が全く揺れない。
伝令兵が走ってきた。外に出ろとに指示。艦砲射撃の真っ只中に出ろとは、随分無茶な命令だ。
地下壕を出て、近くの丘に上がって海岸を見た。
そこには、信じられない光景が広がっている。
この島を、たくさんの灰色の四角い飛行物体がぐるりと囲んでいる。数は…優に100は超えている。
東側の海岸付近ではない、連邦の艦艇が砲撃しているが、この飛行物体が、その砲弾が島に着弾するのをくい止めている。
それにしてもあの飛行物体、艦砲の弾が何発も当たっているようだが、まるでびくともしない。
まるで夢でも見ているようだが、どうやら現実のようだ。しかしあの物体はどこから来たのか?
爆撃機、攻撃機もこの物体に襲いかかったが、同様に全く効果がない。ここから見ていると、どうやら物体のすこし外側で爆発している。見えない壁のようなものがあるようだ。
しかし敵の上陸艇が海岸に向かってきている。大きな飛行物体は、爆弾や砲弾は受け止められても、下をくぐり抜ける上陸艇には無力なのだろう。
と、その時、この灰色の飛行物体が一斉に回頭した。
すべての飛行物体が、東側の海岸に向いた。この物体、正確にはどっちが前なのか分からないが、細くて穴が開いている方がきっと前ではないかと思われる。
あれだけ大きなものが、一糸乱れず動くというのは気味が悪い。何が始まるのか、皆固唾を飲んで見守っていた。
突然、この物体の穴の開いた先端が青く光ったかと思ったら、凄まじい爆発音が鳴り響く。我々はその場に伏せた。
ちょうど雷が一斉に落ちたような音だ。周囲の空気がびりびりとしている。てっきり、敵の艦砲射撃が着弾したのかと思ったくらいだ。だが、音はすごいが、敵にもこの島にもなんら変化はない。
上陸艇はこの爆発音で一時止まったものの、再び動き出した。
すると今度は、小さな機体が飛んできた。ちょっと黒っぽい、明らかに航空機が数機飛んできた。
小さいといっても、敵の小型の爆撃機くらいの大きさがある。幅は小さく、全体的に三角形の形をしている。先端に風貌ガラスがついていて、2人ほど乗っているようだ。そんなものが、飛行機にしてはゆっくりと海岸に向かって飛んできた。
あんな速度で飛んで、よく墜落しないものだ。この不思議な飛行機は、海岸手前でなんと停止した。
上陸艇が海岸に迫ってきている。一体彼らはどうするつもりなのか?
突然、この飛行機から青い光が放たれた。
砂浜に向かって撃ったが、光の当たった場所が大爆発を起こした。
これを、上陸部隊のいる前で一斉に撃った。その爆発によって発生した爆風が上陸艇を襲った。
この攻撃で、さすがの上陸部隊も引き揚げて行った。
しばらくこの飛行機部隊は上空にとどまっていた。その間、連邦の戦闘機が現れて機銃でこの飛行機舞台に攻撃を仕掛けていたが、上の飛行物体と同様に、全く効果がない。
上陸艇が引き揚げたのを見届けたのち、この謎の飛行機部隊も引き揚げていった。
が、そのうちの一機が、ちょうど我々のいるこの丘に向かって降りてきた。
思わず、我々は近くの茂みに逃げ込んだ。
近くで見ると、不思議な飛行機だ。プロペラもなく、垂直に着陸するなど、我々の常識では考えられない動きをする。
風防ガラスが上に開き、中から人が出てきた。やはり2人乗っている。
そのうちの一人が下に降りてきた。何か叫んでる。
「すいませーん、どなたかいませんか?」
見たところ、銃などの武器は持っていないようだ。だが、周りの誰もが怪しんで出て行かない。
そこで、私は横にいた同僚に言った。
「私が出て行く。もし何かあったら、私に構わず撃て。」
元々死を覚悟していた私は、あえて出て行くことにした。
恐怖よりも、彼らへの興味が私を駆り立てる。銃を置いて、茂みから出て歩み寄った。
私に気づいたその人は、私に敬礼してきた。
これが、彼らとの最初の接触であった。




