ほうきと哨戒機と魔女のお仕事 6
さらに1週間が経過した。
私も教官としての業務が始まった。
それに伴い、階級が「中尉」となった。
昇進の理由だが、教官だからというより、先の地上との接触、交渉のきっかけを作ったことに対する功績が評価されたためだ。
教官として手探りな1週間を過ごして、今日は土曜日、最初の休みを迎えた。
この日は、近所のショッピングモールの開店日だった。近所だし、今後お世話になる店だからと行くことになった。
店内に入ると、いろいろな店がある。服や飲食店、雑貨屋、スポーツ用品店もある。
「まるで戦艦の中の街のようだね。」
マデリーンさんのおっしゃることごもっとも。あの街をプロデュースした会社が作ったショッピングモールだ。似ていて当たり前だ。
しばらく歩くと、意外な人物のペアが現れた。
アルベルトとロサさんだ。
マデリーンさん、ロサさんに声をかける。
こういう場所が苦手なはずのロサさん、アルベルトと一緒に一体どうしたというのか?
聞けばロサさん、どうやらアニメにハマったらしい。
アルベルトの仕業だろうが、最初にこの2人が出会った日に、アルベルトがどこかに連れて行ってたようだが、あれはロサさんが人との接触を嫌ってるのを察して連れ出したのだという。
人気の少ない公園にたどり着いた2人、そこでお互いのことを話すうちに、スマホにある動画を見せたら、ロサさんが興味を持ったのだという。
で、他に見たいという彼女のリクエストに応えるため、アルベルトが自分の家に連れて行ったらしい。あの日見かけたのは、そういうわけだったのか。
で、結局そのままロサさん、アルベルトの家に住み着いたようだ。
今日はアニメのグッズを買うために、ここへきたらしい。
それにしてもアルベルトよ、よくぞロサさんの奥に潜むオタク精神を嗅ぎ取ったものだ。
しかし、そのアニメというのが「魔法少女もの」らしい。いや、ロサさん、あなたも魔法少女でしょう?年齢は少女かどうかは微妙だが、少なくとも少女で通用する外観だ。
まあ、仲睦まじく盛り上がってる姿は、決して悪いことではない。このまま2人とも、お幸せに。
そうなると、心配なのがもうひと組の方だ。サリアンナさんとロレンソ少尉だ。
その後この2人を見かけない。同じ軍属でも、整備課とパイロット教官とでは働く場所が違う。
ところが、その2人が現れた。やはり開店セールにきてたらしい。
ところがこの2人、ちょっと怪しい。サリアンナさんが何かどなっている。
「もうぐずぐずするんじゃないよ!次はこっちに行くよ!」
「なんだ、サリアンナじゃないの、今度はこの街で草でも食ってるの?」
マデリーンさんが皮肉たっぷりの挨拶をかける。にしても、草ってなんだ?草って?
「おう、かっ飛び魔女!こいつと買い物してるんだが、せっかくのバーゲンセールに遅れていらいらしてるところだ。そうでなくてもこいつは鈍くて…」
なんだか愚痴ってるぞ。大丈夫なのか?
一方のロレンソ少尉。
「やあ、昇格したんだって?おめでとう!」
「先輩…大丈夫ですか?何やらサリアンナさん、機嫌悪いですよ。」
「なあにいつものことだよ。ああ見えて優しんだよ、彼女。」
「おい!ロレンソ!余計なこと言ってないで、さっさと行くぞ!」
ロレンソ少尉の手を引っ張って、サリアンナさんはどこかに去っていった。
「あの調子なら大丈夫でしょう。サリアンナ、以前より張り切ってるし。」
長年付き合ってるせいか、サリアンナさんのことをよくご存知のようだ。あれはあれで、幸せの姿なのか。
さて、ショッピングモールができてからというもの、我々夫婦の生活は一変した。
何と言っても便利、この一言に尽きる。
食材や日用品、雑貨など、ありとあらゆるものが我が家の近所で揃う。
一部の食材で、王都でしか手に入らないものもあるが、むしろここでないと手の入らないものが多い。
電子レンジの使い方を覚えたマデリーンさん、レンジで一発調理のものをよく買ってくる。調理も楽だし、レンジが面白いらしい。
そんなショッピングモールができて早3週間が経過した。
この日も買い物を済ませて、いざ帰ろうとでいる口に向かう途中、人混みに遭遇した。
何かイベントでもしてるのだろうと思ったら、ほうきに乗った魔女が飛んでていた。
あれは…ロサさんだ。
ついに、コスプレに手を出してしまったらしい。
本物の魔女が魔法少女をやってるということで、たくさんの人が集まってきた。
それにしてもあの服、どこで手に入れたんだ?いやそれ以前に、どうしてこうなった?謎は多い。
アルベルトは何をしてるんだと思ったら、彼女のすぐ下で何やらものを持って待機している。
多分、ロサさんのサポートをしてるんだろう。ロサさんが時々降りてきては何かを手渡している。
このアニメの魔法少女というのが、いろいろな道具を出して戦うらしく、その道具を取っ替え引っ替え渡しているようだ。
にしても、あれほど人混みを嫌っていたロサさんが、こんなににこやかな顔をして人前で飛んでられるのは、きっといい傾向なのだろう。
それを見ていたマデリーンさん。
「うわぁ…楽しそうだなぁ…私もやってみようかな。」
こちらの魔女も、感化されそうだ。
「私は嫌だなぁ…」
「どうして?あんなに注目浴びれるのよ?最高じゃない!」
「いや、だからこそだよ。私だけのマデリーンさんじゃ無くなってしまう。」
それを聞いたマデリーンさん、腕にしがみついてきて、そのまま家まで歩いた。
ところで、サリアンナさんとロレンソ先輩はついに籍を入れたらしい。
我々同様、式は挙げないつもりらしい。それにしてもあの夫婦、常に旦那さんが罵られっぱなしのようだが、本当に大丈夫だろうか?あれでうまくいってるというのが、どうにも信じられないのだが…
妹のアリアンナさんは、もうシェリフ交渉官殿とべったりなようだ。旦那がMっ気たっぷりというのが気がかりだが、それゆえにうまくいってるようだ。この姉妹、うまいことマゾな旦那を見つけられたものだ。
ロサさんとアルベルトのコンビも、ちょっと普通ではないが、うまくやってる方だろう。最初に会った時のロサさんからは考えられない変化。きっとこちらもいい夫婦になるだろう。
正式に地球760となったこの惑星で、私はあと10年は駐留することになっている。が、その先もここにいて、マデリーンさんを含む魔女たちの幸せな姿を眺めていたいと思った。
(第14話 完)




