ほうきと哨戒機と魔女のお仕事 1
黒っぽい装束に長いほうきにまたがった空飛ぶ女性。
高度100メートル、時速20キロで飛ぶその飛行物体は、誰がどう見ても「魔女」だった。
私の名はダニエル。地球401遠征艦隊 第22小隊 6707号艦所属のパイロット。階級は少尉。
現在、6人乗りの哨戒機にて地形調査をしている。
先日発見されたこの惑星、まだ我々が到着して3日しか経っていないため、文化レベルもよくわかっていない。まだ基礎的な情報収集をしているところだ。
そんな時に見つけたひとつの光。近寄って見ると、ランプをぶら下げほうきにまたがって飛ぶ、典型的な魔女だったというわけだ。
「少佐殿!魔女が飛んでます!」
「はぁ?魔女?何言ってるんだお前は。」
「いや、見てください、2時の方向、高度100。あれはどう見ても魔女ですよ。」
後ろに乗ってるのは、機器操作担当の技術武官、ホイマン少佐だ。実は地球023所属の軍人で、派遣でここにきている。他の惑星探査を何度も経験した、この道20年のベテランだ。
そんな少佐殿も知らないものが空を飛んでる。しかも、人だ。魔術の類が存在する惑星というのは稀にあるらしいが、今回はそれに当たったらしい。
飛んでいる灯りを双眼鏡で確認する少佐殿。ようやく私のいうことをわかってもらえたようだ。
「本当だ。魔女だな。間違いない。」
「でしょ?何してるんでしょうね。」
「さあな、ちょっと行って、聞いてみるか。」
「ええ!?任務中ですよ!」
「大丈夫。今終わった。」
予定航路はあと3キロほどあるような気もするんですが…まあ、少佐殿がおっしゃることだし、行ってみるか。
ところで、私はこの哨戒機しか操縦できない。パイロットのくせに、ドッグファイトが苦手で、複座機に乗る資格を持っていないのだ。
でも、角ばってて鈍足なこの哨戒機、かっこ悪いと言われるが、6人乗れるし、操縦しやすいし、いろいろな機器を搭載できて様々な任務で使える便利な機体。私は好きなんだけどな。
ゆっくりと魔女のところへ降下する。だんだん近づいていくと、魔女さんもこちらに気づいたようだ。ちらっとこちらに振り向いた。
すると魔女さん、大慌てで逃げ始めた。速力は70キロまで上昇。どうやら、これがあの魔女さんの精一杯のようだ。
だがこちらは地上付近でも最大速度1000キロの機体。あっという間に追いつく。
「少佐殿、あの魔女さん、怖がってませんか?」
「当たり前だ!急に見たこともないどでかい飛行物体が現れたら、誰だってビビるだろう。」
「ええ!?じゃあ、離れた方がいいんじゃ…」
「いいから、横10メートルまで近づけろ。」
気の毒な魔女さん、得体の知れない哨戒機に追い回されてしまう羽目になった。
少佐殿のいう通り、10メートルまで近づけた。この位置だと、魔女さんの表情もわかるくらい近い。
見たところ20歳前後くらいの魔女さん。ほうきに前傾姿勢でしがみつき、長い髪をたなびかせて懸命に飛んでる。
ここで少佐殿、横のハッチを開けた。
「しょ…少佐殿!何するんですか!?」
「魔女さんに声をかけるんだよ!」
つくづく乱暴な人だ。本来、飛行中にハッチを開けちゃいけないんですが。
「おおーい、そこの魔女さん!怪しいもんじゃないから、ちょっと下に降りてくれないか?」
いや、怪しいだろう。特に自分で「怪しくない」というやつほど、怪しい。ましてや空中で声をかけるとか、非常識にもほどがある。
魔女さん、いぶかしげな顔で少佐殿の方を見ている。ここからでは見えないが、笑顔でも振りまいてるんだろう。調子のいい方だし。
魔女さん今度はこっちを見てきた。こっちの方も怪しくないか、チェックしてるようだ。仕方がないので、私も笑顔で応える。
すると魔女さん、ほうきを手前に引いて減速し、地上に降下していった。私も慌てて減速、垂直降下を開始した。
地上では、ほうきを片手に立つ魔女さんが、こちらを睨みつけるように立っていた。
こちらもその横に着地。少佐殿は空いているハッチから飛び降りて、魔女さんのところに向かう。
とりあえず、私は駆逐艦に連絡した。
「タコヤキよりクレープへ、上空100メートルでこの惑星の住人と接触、現在地上にて、少佐殿が接触中。」
「上空100で接触?航空機か?」
「いえ、なんというか…魔女ですね。あれは。」
無線では、何をいってるかわからないだろう。ともかく連絡だけはしておいた。
ところで「タコヤキ」とは、この哨戒機のコールサイン。タコヤキの容器に似てることからつけられた。「クレープ」とは駆逐艦の非公式艦名のこと。
折り返し、艦長より接触許可を頂いた。事務的なことだが、降下任務以外で許可もなく機体を降下させるなどすれば軍務違反、懲罰になる。
事務的なことを済ませ、私も外に出た。早速、少佐殿が魔女さんと何か話している。どうやら言葉が通じてるみたいだ、ということは、この辺りは統一語なのだろうか。
「おお、来た来た!こちらはパイロットのダニエル少尉。こいつが、この機体を飛ばしてるんだぜ。」
軽いノリで紹介してますが、相手はまだこっちを不審者でもみるような眼差しで見つめてますよ。
「ええと、ダニエルです。どうぞよろしく。」
思わず、魔女さんに敬礼してしまった。女の人って、あまり相手にしたことないから、こういう時どうすればいいかわからない。
「男で、しかもほうきでもないこんな巨大なものを、私よりも早く飛ばすなんて…あなた、何者!?」
どうやら魔法使いだと思われたようだ。
「いや、私の力で飛んでるわけではなく、この機体に搭載された重力子エンジンというのを使って飛んでるんでして…」
などと言っても、ピンとこないようだ。おそらくこの星には、まだ「エンジン」という概念はない。
「この魔女さん、空を飛べるやつじゃないと話さないというんだ。少尉、あとは頼んだ。」
そういうと少佐は、そそくさと機内に戻っていった。
困った…初対面の魔女さんと、野原の真ん中で2人っきりだ。
しかも、相手は気が強そうな魔女ときた。
「ええと、魔女さん…」
「マデリーン!」
「はい?」
「名前よ名前!私の名前はマデリーン!これでも一等魔女なのよ!」
魔女にも階級があるらしい。
「一等魔女って、どれくらいすごいの?」
という私の質問になぜか気を良くしたようで、ほうきを掲げて演説するように語り始めた。
「私は一等魔女 マデリーン!この国で最も速く飛べる魔女!敵陣の上を矢のように駆け抜け、敵の将軍の前に颯爽と降り立ち密書を手渡した私は『雷光の魔女』と呼ばれてるわ!」
つまり、速力70キロも出れば、この星では雷のようだと言われるのか。話から察するに、彼女の役目は書状の運搬のようだ。
「それ以来、私は『雷光の魔女』と呼ばれてるわ!速きこと雷光のごとく!!私に追いつけるものなど、この地上には誰一人いない!!」
あー、多分めんどくさいやつだ。いわゆる中二病ってやつか。
ほうきをふりかざして高らかに自身の成果を誇る。もっとも、生身の体で時速70キロも出せるのだから、確かにすごい。
「だが!」
急にほうきの先をこっちに向けた。
「そこ!そこのあなた!この私よりも速く飛び、おまけに他の人間までのせてるじゃない!どういう力の持ち主なのよ!」
「だから、私の力じゃなくてですねぇ…」
「ちゃんとほうきで勝負しなさいよ!男でしょう?」
だめだ、聞いてない。
「あのー、私、ほうきは乗れないんですよ。」
「はぁ!?あんなでかいの飛ばせるのに、ほうきがだめだなんて、どういうこと!?」
呆れられてる。いったいこの娘にどう説明すれば、理解してもらえるんだ?
「じゃあ、私の勝ちってことで、いいのよね?」
「はい?」
「だ・か・ら!!魔女としては私の方が上ってことでいいかって聞いてるの!!ほうき乗れなきゃ勝負にならないでしょう!」
何と戦ってるんだろうか?私にとっては本当にどうでもいい勝負だ。
「じゃあいいですよ。あなたが上ってことで。」
「そ…そうなの?いいの本当に?」
変な反応をする娘だ。嬉しそうな顔をしている。よっぽど魔女としての誇りってやつが大事らしい。
この辺から、やっと少しまともな会話ができるようになった。彼女はこの国で、他国や前線に書状や小さな荷物を運ぶ仕事をしているそうだ。
今日も隣国へ書状を届けて、その帰り道だという。
魔法といっても、できることは空を速く飛ぶことだけ。もっとも、航空機など存在しないこの世界では、空を飛べるということはとてつもない能力ではある。
「でも最近は戦争もなくて、たまに書状を運ぶだけの仕事しかないのよ。商売あがったりだわ。どこかで派手に戦でも起こらないかしら?」
物騒なお嬢さんだ。もっとも、今から戦が起これば、我々が防衛行動に出てそれを止めてしまうだけだろう。
「おかげで最近はちょっと苦しいの。いよいよ職を考えないとだめそうね…」
さっきまで強気な魔女さん。急に落ち込んでしまう。
「いやあ、すごいと思いますよ、魔女。そんなに自信なくすことじゃないと思うけどな。」
成り行き上、持ち上げておいた方がよさそうだ。でもこんな能力、そうそうあるものじゃないし、私はお世辞抜きですごいと思う。
「本当?そういってくれる人に初めて会ったわ。」
「そうなの?魔女って尊敬されてるんじゃないの?」
「いや~やっぱり普通の人間じゃないし、私の国も私の能力を買ってくれてるだけで、ただの運搬屋にしか思ってないわ。裏では結構嫌われてるのよ、魔女って。」
出る杭は打たれる、やっぱりどこでも異質なものを排除する感情というのはあるようだ。
「ちょっと、さっきのあの空飛ぶベッドのようなやつ、見てもいい?」
哨戒機のことらしい。確かに四角いから、ベッドと言われれば見えなくもない。
全長22メートル、幅10メートル。機体の前半分が座席エリアで、最大6人まで登場可能。核融合炉と重力子エンジンを搭載し、垂直離着陸が可能な「空飛ぶミニバン」などと言われる。
複座機と違って、多用途、快適さ、低コストが売りの機体であり、そのぶん速度が犠牲となっている。最大速力はせいぜい1000キロ。音速も超えられない。
もっとも、最近は複座機でも超音速が必要な任務はほとんどない。哨戒機も複座機もほぼ同じサイズなので、最近はどの星でもこの哨戒機への置き換えが進んでると聞く。
そんな哨戒機を、まじまじとマデリーンさんは眺めている。みたことのない装備ばかりで、あれこれと聞いてくる。
「ねえ!中に椅子が4つもあるわよ!なんでこんなにあるの!?」
「いや、これ6人乗りとして作られてるんです。」
中では少佐殿がシートを倒して寝てる。呑気なものだ。
マデリーンさん、さらに後ろにも回り込んだ。
「ここに四角い穴が空いてるけど、なんなのこれは。」
「ああ、それは噴射口。重力子によって周囲の気体を加速させて、ジェット効果で前進してるんだ。」
どうせ見せてもよくわからないだろうが、ついでに核融合炉と重力子エンジンも見せた。
「こいつがエネルギーを作る出して、そのエネルギーを使って重力子というものを操り、この大きな機体を浮かせてるんだ。」
「はぁ…そうなの…」
エネルギーとかエンジンとか言われても、さっぱりだろう。
「ちなみに、この上空にはこれよりでっかい駆逐艦がいるんですが、あれも同じ原理で飛んでるんですよ。」
「えっ!?もっと大きいのがあるの?」
さらに大きいのがあると聞いて驚いていた。
「さっきからあなた、どこか変だと思ってたけど、いったい何者なの?どこから来たの?」
「ああ、我々は宇宙からやって来たんです。ここから200光年離れた地球401って星があってですね…」
「宇宙?なにそれ?」
夜空に輝く星々の中に、我々と同じ地球と呼ばれる星が700以上もあること、我々の目的がこの星と友好関係を結ぶことで、今はその調査に来ていること、などを彼女に話した。
「我々の星も100年ほど前に発見されて、宇宙船を作って他の星に行けるようになったんだ。」
「へぇ。そうなの。そんなことがこの星空で起こってたの。全然知らなかった。」
登場時は中二病くさい感じだったが、今は素直に人の話を聞いてくれてる。こうしてみると、案外きれいな人だ。
「じゃあ、あんたたちは、ここの国王陛下とつながりを持とうとしているわけ?」
「そうだよ。ただそのためにはどうやって接触するかなんだけど…」
「書状を書けばいいんじゃない?私が運ぶわ。」
ああ、そうか。そういえば国の書状を運ぶのが仕事って言ってたよな。
この魔女さんに親書を届けてもらえばいいが、残念ながら我々はこの国の文字が読み書きできない。ただ、ビデオレターなら可能だろうと思い、それを届けてもらうことにした。
「でも、どうやってその書状を渡せばいいの?」
「簡単よ、うちに持って来て、お金を払って、届け先を教えてくれれば、国王陛下宛でも届けるわ。」
「そんな国王陛下とつながってるお店に、簡単に入れるんです?」
「大丈夫よ。うちの店は一般客から貴族に国王陛下まで、誰でもお客様よ。」
随分と幅広くやってる店だ。だが、一般人も国王陛下も一緒でいいのだろうか?セキュリティ上問題がないか?それはそれで心配だ。
その店の場所を教えてもらうため、哨戒機にマデリーンさんを乗せて、そのお店のある街まで飛ぶことにした。
マデリーンさん、初めて乗るこの乗り物に興味津々だ。魔女以外の空飛ぶ物体がこの星に存在しないため、一体どうやって飛ぶのか気になるらしい。
「少佐!離陸しますよ、起きてください。」
寝ている少佐殿を起こし、飛行準備に入る。
離陸前に駆逐艦に連絡する。
「タコヤキよりクレープへ。これより本機はこの惑星の住人と共に、この先にある街へ向かう。飛行承認を乞う。」
「クレープよりタコヤキへ。艦長に確認する。待機せよ。」
マデリーンさんには、横の席に座ってもらっている。街まで案内してもらうためだ。そのマデリーンさん、今の無線のやりとりが気になるらしい。
「今、声がしなかった?なんなのこれ?」
ああそうか、この人、無線連絡というものをみるのは初めてなんだ。
「これは無線機、たった今、上空にいるうちの艦に連絡して、街へ向かうための許可をもらうところなんですよ。」
どうやらこの機体よりも、この無線機に衝撃を受けたらしい。
「ええっ!?こんなものがあるのなら、もう書状なんて要らないじゃない!遠くの人と話できるなんて、すごい仕掛けじゃないの?」
遠く離れた人と瞬時に会話できる仕掛け、これがあればもはや書状など必要としない。書状を運ぶのが仕事の彼女らにとっては、存在意義を問われる脅威的な存在だ。
「でも、我々も書面でのやり取りはしますよ。大事な契約などは証拠の残る書面というのが基本ですから、全ての書状が不要というわけではありませんよ。」
「そ…そうなんだ。そうなのね…」
それを聞いて、少しホッとしたようだ。
考えてみれば、我々の出現はこの星の仕組みを大きく変えてしまうことになる。この魔女さんの仕事だけでなく、多くの人の職業を脅かすだろう。
だが、新たな惑星で失業者であふれたという話は聞いたことがない。それは失われる仕事よりも、生み出される仕事の方が多いからだろう。一時の混乱はあれど、この魔女さんにもすぐに何か新しい職ができると思う。
などと考えてると、駆逐艦より返信がきた。
「クレープよりタコヤキへ。街への訪問許可が出た。直ちに向かわれたし。」
「タコヤキよりクレープへ。これより離陸する。」
魔女さんにはこのコールサインの意味がわかってないため、変には思っていないようだ。タコヤキやクレープの存在を知ったら、どう思うだろうか?
「エンジン始動!重力子ゲージ上昇、離昇する。」
ヒィーンという排気音と共に、機体はゆっくりと上昇。
「高度70!微速前進!」
噴射口からゴォーっという音と共に、今度は前進を始める。
マデリーンさんどころか、後ろでひっくり返っている少佐も載せたまま、軽々と動き出す哨戒機。マデリーンさん、この機体の出すパワーに圧倒されている。
「マデリーンさん、どっちに向かえばいいです?」
「え?ええと…この辺りからなら街の灯りが見えるはずなんだけど…」
少し先にある山の緩やかな斜面のあたりに、ぽつぽつと灯りが見える。あれだろうか?
マデリーンさん曰く、あそこがこの国の王都だそうだ。
高度を500まで上げて、王都に向かう。
すでに王都の灯りが見える距離だったため、あっという間に到着。マデリーンさんもびっくりだ。
だが、王都の真ん中に降りるわけにもいかず。郊外の広場の片隅に着地した。
「ほお…これが王都か。」
先に降りた少佐が、街並みを見て言った。
「少佐殿なら既にいくつかの街をご覧になってるんじゃないですか?」
「ああ、これまでに10の惑星を渡り歩いてきたから、この手の街並みはよく見てる。だが。」
くるっとマデリーンさんの方を向いた。
「この街は随分と落ち着いている。最近は戦乱が起きてないんじゃないか?とてもいい街だ。」
「そうよ、今の国王陛下になられてから、ほとんど戦は起こってないの。」
少佐が言うには、中世風の街というのはどこへ行っても戦の匂いがするそうだ。
傷ついた兵士が道端で物乞いしていたり、兵がうろつき治安が悪いため、夜でも見張りが巡回していたり、街の中がどこか落ち着きがないのが普通だそうだ。
この街は、街並みこそ古いが、雰囲気は我々の街と同じだと言う。長年戦争が起きていない証拠だと言う。
やはり、いろいろな惑星に立ち寄った経験がある方だけに、一目見てそんなことが分かるものなのか。大した方だ。
すでに現地の時刻は夜の9時頃。どうやら文明レベル 2のこの国では、表通りにはほとんど人がいない。
いくつか明かりがついてるが、店はほとんど閉まっている。空いているのは、酒場くらいだろうか。
ほうきを抱えたマデリーンさんに連れられて、ある店にたどり着く。
ドアを開けると、奥には誰かいた。
「おかえりなさい。マデリーン。遅かったので、心配してたんですよ。」
出迎えたのは、同じくらいの歳の女性だ。もしかして、この人も魔女さんか?
「ただいま、アリアンナ。いろいろあって、寄り道してたの。」
「そうでしたか。で、後ろにいらっしゃる、変わった格好の方々はどちら様で?」
「ええと、うちに国王陛下まで書状を届ける予定のお客様。今日は店の場所を教えるために来てもらったの。」
我々も軽く挨拶して、中に入った。
この人はアリアンナさん。マデリーンさんの1つ後輩の一等魔女だそうだ。
こっちはさほど中二病っぽくなさそうだが、実際はどうだろうか?
ところで、一等魔女というのは自分自身を浮かべることが可能な魔女のことのようだ。二等魔女というのもあって、こちらは自分自身を飛ばせないが、ものを浮かせることができる魔女とのこと。
アリアンナさんはマデリーンさんほどではないが、結構速く飛べるそうだ。マデリーンさんの半分ちょっとくらいと言ってるから、推定速度40キロくらいか。
「雷光の魔女」マデリーンさんに対して、「疾風の魔女」アリアンナと呼ばれており、この店の2大魔女として君臨してるそうだ。
だが、性格は随分とのんびりしてて、とても速く飛べる魔女には見えない。
ただ、ちょっと気になるのは、言葉のところどころに毒があること。
「私、マデリーンのように脳筋野郎じゃないので、速く飛べませんよ。」
こんな調子だ。
他にも、私のことを「三流の仕立て屋」と言ったり、少佐殿は「野山をうろつく野盗」だと言う。思ったままをストレートに表現してしまう人…いや、それにしてもかなり毒のある発言の主であるとわかった。
それはともかく、「親書」ができ次第、ここに持ってくることにした。
「そうそう、アリアンナ。あなたが仕立て屋のようだといったこの男、私よりも速くて重いものが運べるのよ。」
「ええっ!?もしかして、マデリーンよりも脳筋野郎なんですか?」
「今度乗せてもらうといいわ。びっくりするわよ。」
最後までこの調子だ。客が少なくなって来たと聞くが、受付をしているこの人の性格に問題があるんじゃないかと勘ぐりたくなる。
店を出て哨戒機に戻り、駆逐艦に向けて発進した。
「なあ、少尉さんよ。」
「何でしょう?少佐殿。」
「おまえ、多分あのマデリーンって魔女、気になってるだろう。」
「はぁ~?何言ってるんですか。」
この少佐は地質・鉱物資源調査にかけては天才だという。上空から、鉱脈を読み取る「心眼」があるようだ。
だが、性格はこの通り。真面目なのか、冗談なのか、時々分からないことを言うことがある。
しかし、あとから思えばこの言葉は案外真実を突いていた。「心眼」というのは人のかかわりをも見通せるのか?でもこのときはまだ、ただの冗談だと思って聞いていたのだった。




