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核と大都市と特例砲撃 4

私が先導して2人を案内し、艦橋にたどり着いた。


他の乗員はこの星の2人をみて少々驚いた様子だった。まさかこんなに早く乗り込んでくるとは思わなかったからだ。


艦橋に着くと、世間話で花を咲かせてた担当者が、急な艦長の帰還に驚き慌てて持ち場に戻っていった。


「すいません、だらしない艦内で。」


2人には、艦橋内の適当な場所に座ってもらった。


「ちょっと、小隊に離陸許可をもらいます。お待ちください。」


担当者の1人に、お茶を出すよう頼んだ。


「駆逐艦 3800号艦より戦艦リオへ。これより我が駆逐艦3800号艦は、この惑星の客人2名を乗せて惑星を離陸し、小隊への一時合流し再び地上に戻る。合流許可を頂きたい。」

「リオより3800号艦へ。了解した、小隊司令へ許可をもらってくる。待機せよ。」


しばらくすると、小隊司令部より許可が下りた。早速、私は艦の発進を指示した。


「これより駆逐艦『チキンカレー』他9隻は、大気圏を離脱し戦艦に合流・補給に向かう。機関始動!微速上昇!」

「機関始動よし!微速上昇!」


低い音をたてながら、艦は離昇した。


フラーレン少佐殿が、怪訝そうな顔で聞いてきた。


「艦長殿…この艦だが…今、名はなんといったか?」

「ああ、『チキンカレー』という名ですか。駆逐艦には番号しかつかないんですよ。3800番目なので、3800号艦。でもそれじゃ言いにくいし、味気ないので、我々が勝手に艦名をつけてるんですよ。」


なぜ食べ物の名前がつくのかとか聞かれたものの、私も聞きたいくらいだ。なぜかそういう艦が多いとだけ伝えた。


他にもレーダーに関することや、艦が空を飛ぶことができるのはなぜかなど聞かれた。そして、


「ところで、あなた方は全部で何隻いるのですか?」

「現在3小隊、1千隻が惑星軌道上に待機。艦隊総数は全部で1万隻ですよ。」


この数には驚いたようだ。10隻などごく一部であることを悟ったようだ。


そうこうしているうちに、高度4万メートルに到達。いよいよ、大気圏離脱だ。


「機関最大、両舷前進強速!大気圏離脱を開始する!」


ゴォーという低い音が艦内に響く。ものすごい加速なのだが、慣性制御のため加速を感じない。周りの景色が流れていく。


窓に釘付けの少佐殿と政府高官殿をよそに、我々は小隊合流を果たす。


この小隊には約300隻もの駆逐艦がひしめいていた。この数でも視界いっぱい駆逐艦だらけになるため、この地上の人々からすれば驚くべき光景だ。彼らはこれが1千隻すべてだと思っていたようだが、ここには300隻しかいないと告げると、ちょっとくらくらしていたようだ。


さて、しばらくすると小隊旗艦である戦艦「リオ」が見えてきた。この艦は全長3300メートルと、戦艦としては並みの大きさ。しかし、この惑星の人にとっては恐怖を与えるには十分すぎるほどの大きさだ。フラーレン少佐殿、ちょっと緊張気味だ。


「あの戦艦内には、街もあるんですよ。もっと時間のあるときにご案内しましょう。」

「えっ?街?あの船にはそんなものもあるのか?」

「そうですよ、戦艦といっても、我々にとっては息抜きのための街がある船、といった方がいいくらいですね。」


巨大で恐ろしい様相の宇宙戦艦だが、今の言葉で彼らのイメージが変わってしまったようだ。


戦艦へは距離500メートルまでランデブーしただけで、すぐに離脱。


あとは、ミサイルを迎撃したポイントや、最初の核ミサイル着弾ポイントなどを上空から確認した。


私も1つだけ彼らに聞きたいことがあった。今回の引き金となった一発目の核ミサイルは、なぜ撃たれたのか?


普通、核ミサイルとは戦略上、複数同時に攻撃を行うものだ。たった一発だけ撃たれるなど、不自然に感じていた。


すると、彼らからの回答は驚くべき内容だった。


なんと、あれはミサイル発射基地の一将校の独断による発射だったそうだ。


このため、さすがの連邦側も共和国側に事実を伝え、秘密裏に事態の収拾を図ろうとしたらしい。当然、その将校は処刑、その映像を共和国側に送るということまでやっている。


だが、状況が状況だけに話し合いは決裂。事態の収拾がつかぬまま全面核戦争に突入するところだったらしい。


これを食い止めたのが、宇宙人の指揮官による独断専行だったというのがまた皮肉な話だ。正直、我々の存在が無ければ、たった1人の人間によって惑星中が滅ぶところだったことになる。


艦橋の前面にある窓には、青い惑星が見えている。静かに佇むこの青く輝く星、危うくこれが別の色の惑星に変わるところだったわけだ。


惑星をふた周りほどして、再び首都の公園に降り立ち、彼らを下ろした。


次の接触日時を決めて、彼らと別れた。我々は再び上昇し、小隊に合流した。


さて、共和国側と我々の接触だが、あちらは統一語圏ではなかったため、連邦側に通訳をお願いしてなんとか話し合いにこぎつけたが、ここはここで全面核戦争の回避ができたことに対して安堵しているようだった。


こっちは将校の暴走ではなく、政府の命令で発射したはずなのに、ミサイル迎撃を感謝してくるとか変な話だと思ったのだが、こちらはこちらで複雑な事情があったようだ。


簡単に言ってしまうと、こちらでも核攻撃による戦争の回避を主張する人がいたが、強硬派が報復攻撃を主張、それが通ってしまった。


我々のミサイル迎撃が、強硬派を黙らせるいいきっかけになったそうだ。


全面核戦争を一方的に阻止した我々だが、撃った当事者達からは感謝されるというおかしな事態になってしまった。


けれども、我々が接触した彼ら自身は全面核戦争のもたらす結果がどういうものかを理解していた。すなわち、勝者のない戦争であると。


分かっていても、回避できなかったことの戦争。ここに人類の愚かさを感じずにはいられない。


もっとも、我々も人のことは言えない。こちらにも重大な問題が発覚した。


なかなか特別砲撃の許可が下りなかった件、あれは一部の将校による「怠慢行為」で起こっていたことが分かったのだ。


実は核ミサイル迎撃に限って大気圏内の砲撃特別許可の命令書は即日発行されていた。


それを伝達するべき将校が、この1週間ずっと止めていたというのだ。


「怠慢行為」という表現は適切ではない。実はこの将校、この大気圏内砲撃を出すことは自分の名を汚されると勝手に考えて、わざと止めてしまったようだ。


そんな命令などなくてもなんとかなるだろう、そう考えていたようだ。


私が独断専行で行った砲撃行為が報告されて、初めてこの行為が発覚したそうだ。


組織のチェック体制にも問題があるが、ここでもたった1人の人間による独断で、えらいことになるところだった。


もし私が、あの時自身の保身のため大気圏内の砲撃を決断しなかったら、一体どうなっていたか?


恐ろしいことだ、それ以上考えるのをやめた。


なお、その命令書を保留していた将校は、当然重大な命令違反のため、軍事法廷にて即日「銃殺刑」が言い渡された。彼自身が嫌った、彼自身の汚名を残すという形で、この一件は幕を閉じた。

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