核と大都市と特例砲撃 1
この世界の終わり、というのはどういうものだろうか?
どこの惑星でも概ね描かれるのは、表現の差はあれ、阿鼻叫喚の地獄の中で人々がばたばたと死んでいく、そんな光景だ。
そういう事態は、この宇宙では一件しか起こっていない。あの地球003の悲劇だ。
大気圏内で高エネルギー砲を撃ち続け、地表の環境を一変させ、その星の大半の住人を死に至らしめた、あの事件だ。
あれ以外の「この世の終わり」というのは、我々の宇宙ではまだ確認されていない。
だが、ここで2度目の「世界の終わり」が起ころうとしていた。
それは我々のエネルギー砲ではなく、まだ発見されたばかりの惑星で、それは起ころうとしていた。
1週間前のこと。我々、地球266はこの惑星にたどり着いた。
ここは文化レベル 4で、テレビやラジオがある世界。コンピュータはまだそれほどないというレベルの惑星。
そんな星なので、どこが統一語圏の場所まで把握できていた。
しかし、ここは随分と不穏な惑星だった。電波で流れている情報を聞く限りではまるで戦争前夜の状況。あちこちで軍のにらみ合いが始まったとか、一部では小競り合いも起きているようだった。
どうやら世界規模での戦争状態になろうとしているようだ。2つの陣営がお互いを非難しあい、軍事衝突にまで発展しつつあるようだ。
ということで、どう彼らのこの緊迫した事態を打開するかを打ち合わせることとなった。
私は遠征艦隊 第13小隊 駆逐艦 3800号艦 艦長 アルティオ。階級は大佐。
現在、惑星軌道上には3小隊 1000隻が展開中であり、この3小隊で打ち合わせを実施。各小隊の司令部、参謀長、そして末尾0の号艦の艦長が集まって今後の行動を決めるという会合だ。
この中では私は一番下っ端なので、たいして発言権もなく、じっと聞いてるだけの役目しかない。
さて、ここで報告される地上の現状はかなり深刻なものであった。
すでに空母やイージス艦らしき船も活発に動いており、今にも戦争状態に突入するだろうということだ。
大規模な軍事衝突が懸念されている場所は3箇所に絞られつつある。1つ目は、ある大陸の海岸沿いの都市。2つ目は、とある湾内。3つ目は、両陣営の中間地点にある島。
ということで、今回の打ち合わせは、この3箇所に我々3小隊を分散配置して、停戦行動を起こすというものだった。
各戦場に約300隻づつ。これだけあれば、彼らも軍事行動を止めざるを得なくなるはず。
ということで分担が決まり、各小隊が12時間後に行動を起こすことで決まった。ちなみに私の小隊の担当は、大陸の都市である。
さて会議も終わり、解散という時になって、緊急事態が起きた。
「大変です!…核ミサイルの着弾を確認!第2目標の湾内にて、大規模な爆発を確認しました。」
ちょっと震え気味で、伝令係が報告してきた。
爆発規模は、古い単位で表すと50メガトン級だという。この湾内に集結しつつあった艦隊と、周囲の軍港、都市が一瞬にして消滅した。
えらいことだ。これは、報復戦に発展する恐れがある。つまり、核ミサイルの応酬が始まってしまう可能性が高いということだ。
そのまま緊急会議となった。まず想定される報復合戦に対してどうするか?ということが話し合われた。
まず決まったことは、我々は直ちに惑星軌道上に分散展開。不測の事態に備える。
もちろん、目的は「核ミサイルの迎撃」だ。我々の主砲ならば、タイミングさえ外さなければ可能だ。
ただし、このためには特例措置が必要だ。すなわち、大気圏内での「特別砲撃許可」だ。
我々は先の”地球003の悲劇”の教訓として、大気圏内での砲撃を禁止されている。
だが、核ミサイルを大気圏外で落とせなかった場合に備えて、特別に大気圏内での砲撃許可を取っておく必要がある。
特別許可なく撃つわけにはいかない。軍法会議もので、即刻死刑と決められている。
幸い、すぐには核ミサイルの撃ち合いは起こらなかった。だが、地上から流れてくる放送を聞く限りでは、時間の問題だろう。
すでに一方の政府は報復のミサイル発射の許可を出しただの、もう一方の政府も反撃の準備を整えただのと、連日のように勇ましい内容の放送を流している。
そして、ついに1週間が経過してしまった。特別許可はまだ出ていない。
あの悲劇が起こる以前には大気圏内での砲撃というのはよく行われていて、その時の事例では、数百発程度の砲撃なら大気圏内への影響は限定的なもので収まるそうだ。
「悲劇」の起きた時は、数万発もの砲撃で、しかも地面に対して行われた。
被害を最小限に止めるためには、撃ち込む数を制限すれば悲劇には至らない。そんなことよりも、核弾頭を放置する方が遥かに悲劇だ。
前回、あの核ミサイルは上空1000キロまで上昇し、あの湾内に着弾したようだ。
距離が短かったがゆえに高度が高くなったようだが、この性能ならば大陸間での撃ち合いでは、だいたい高度100~300キロ程度となりそうだとのこと。
100キロ以上ならば「宇宙」だ。今でも気兼ねなく撃てる。
撃ってきたらすぐにその最高到達地点付近に急行し、宇宙空間で迎撃すればよい。
問題は撃ち漏らした時や、迎撃が遅れた場合の対処方法だ。
その場合は、着弾地点に降下して地表近くから迎撃するしかない。しかし、これは特別許可なしにはできない。
ゆえに再三にわたり申請しながら、一向に来ない特別措置命令を待っていた我々だが、すでに事態は最悪な方向に進みつつあった。
ついに「核ミサイルの応酬」が開始された。地上より、核ミサイル発射を確認。数およそ100。
彼らは、ついに破滅へのカードを切ってしまった。
我々は行動を起こす。小隊旗艦より作戦発動の合図がきた。
「全艦全速前進!核ミサイルの迎撃作戦を開始する!」




