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城と魔術と艦長補佐 4

あれから2週間後、どうも艦長の機嫌が悪い。


だが、今回ばかりは自業自得だから仕方がない。


さてあの後、タケダ軍5000は撤退した。我々の説得に応じてくれたわけだ。


その条件として提示したのは、タケダ領内に宇宙港を作ること。これは私の提案を受けてのことのようだ。


宇宙港を作ることは、我々にとってもむしろ望ましいこと。当然、すぐに合意した。


早速、港と街の建設が始まった。


宇宙港というのは、宇宙で組み立てたドッグを地上におろして配置するだけでできるため、大体一週間で港は完成。


港に隣接する街も同様に宇宙で作られたプレハブを地上に配置するため、2週間もあれば街として機能できるだけのものができてしまう。


この港を礎に、タケダの親方様はいずれこの星にできるであろう統一政府内での覇権を目指し、動き出した。一方で我々は、この星すべての国との同盟条約締結するため、ほかの国との交渉を続ける。一見ばらばらの動きを取っているようで、同じ方角に向けて両社は動き出した。


さて、このタケダ殿を味方につけた私に、論功行賞の話がきた。


艦長ではない、私にその話が来たのだ。私のほかには交渉官と広報官、なんどもタケダ殿のところに向かってくれたパイロットの名も出た。が、艦長の名は論功行賞の対象者として全く出てこない。


5日ほど前には、彼自身この交渉に関する一部始終を報告する場があった。どんな内容を話したのかは知らないが、どうせ自分がやったように話したに違いない。


ところが、この報告を受けて、軍が直接調査に向かった。調査官を、マツ姫様とその家臣、タケダ殿とその配下の8武将のところに派遣し、話を聞いたようだ。そこには艦長の名前ではなく、私の名前ばかりが出てきたようだ。


そりゃそうだ。現場には一切艦長は来ていない。交渉の現場にいたのは、ほとんど私だ。


マツ姫様曰く、


「カール殿にはお世話になった。カール殿が最初に来たときは何事かと思ったが、初めの言葉通り、タケダ殿すら説得して戦を収めてしまった。あのお方こそ誠の武人。えっ?艦長?誰じゃそれは。」


タケダ殿に刃を向けられてもたじろぐことなく答えたという私の姿に、例の四天王の方々が感心して曰く、


「我はこの国でもっとも強い魔術を使うもの。だが、あの魔術にだけはかなわない。どうして首を斬ろうとしていたあの親方様を、一瞬にして味方に変えられたのか?ぜひあの”魔術”を我々も知りたいものだ。」


タケダ殿に至っては、


「カールとかいう剛胆な若造なら、いろいろ世話になったぞ。刀を向けてもまったく動じることなくわしをたぶらかしおった。艦長?誰だそれは、そんなやつのことは知らん。」


それぞれ以上のような話を調査官にされたようで、、結局、艦隊内で艦長は全く評価されないこととなった。


艦長は反論する。私は”艦長補佐”という形で派遣されたのだから、艦長自身が直接いなくても、艦長権限を行使することで彼自身が成果を上げることができた、だから、彼の成果は艦長の成果でもある、と主張した。


だが今回の事例、艦長権限とやらは全く行使されていない。せいぜい駆逐艦を動かしたことくらいだが、あれは文官殿の権限によってであって、艦長権限ではない。


交渉事というのは、現場で命を賭けて奔走した者が特に評価されるものらしい。でないと、誰も命を懸けて交渉しようとは思わなくなってしまう。


ましてや交渉相手に信頼を得た者は、特に評価が高い。信頼があるかないかは、その後の交渉の行く末を大きく左右するからだ。


その信頼を命懸けで得てきた者、ただ裏方で指示を出しただけのもの。どちらが評価されるかなど、あえて議論するまでもない。


しかもこの交渉を文官ではなく、武官が成し遂げたことが、宇宙連合内でも注目されたようだ。


そんなわけで、私はてっきり文官殿からはやっかみを受けるかと思ったら、これが意外にもそうではない。命がけの交渉、特に刀を突きつけられたときの話など、さすがは武官殿の交渉術だと、文官殿の間でも思われてるようだ。


しかし当の本人は、あの瞬間のことを忘れたいと思っている。今まで生きてきた中で、一番命の危機を感じた瞬間だった。事と次第によっては、あの場でばっさり首を斬られていただろう。正直、今でも冷や汗が出る。


かくて私は艦隊司令に呼び出されて、勲一等を授与することとなった。中尉という身分で、しかも戦闘以外のことで、この勲章を受けるのは極めて異例のことのようだ。


さて、さらに6か月が経った。


論功行賞のお話の直後、嬉しいことに私は艦長補佐から地上勤務へと転属になった。場所はタケダ領にできた宇宙港。


同時に大尉へ昇進。その1か月にはさらに少佐となった。事実上の2階級特進。生きてる人間としては異例の昇進のようだ。


とりあえず、タケダ領内へ行くことになったため、マツ姫様に挨拶に行った。


宇宙港が開港して、物資がタケダ領に入り始める。交易により、珍しいものが入ってくるため、これを求めてさまざまなところから商人が集まってくる。


特に需要が高いのは都。この国で最大の人口を抱える都市で、しかも貴族階級の人々が多く、宇宙から来た珍しいものに飛びつく人が多い。


そうなると、タケダ領と都の間は急に物流が増えることになる。


ところで、あのマツ姫様のお城だが、あの戦で相当破壊された上に、軍事的意味もなくなったため、廃城となったそうだ。


で、マツ姫様をはじめ城にいた方々は麓の街に移住。


ちょうどこの街は都とタケダ領の中間地点であり、宇宙港のおかげで急に人の往来が増えたため、にわかに活気付いた。


姫様は街中に作られた屋敷に住んでいたが、この屋敷も急に増えた宿泊者のため、解放してるそうだ。


なんとも不憫な生活に追いやってしまったものだと思ったが、当の本人はあまり気にしていない。それどころか、街から戦乱の匂いが消えて、平和な日々を謳歌していたようだ。


そんな話を姫様とするなどと、つい半年前までは考えたこともなかった。


「では、そろそろ行きます。またいずれ立ち寄らせていただきます。」

「あ、いや、カール殿!ちょっと待たれよ!」


マツ姫様に呼び止められた。


「はい?」

「なあ、カール殿…その、嫁が欲しいと思ったことはないか?」


突然変なことを聞く姫様だ。


「まあ、独り身ですし、いずれは妻を迎えて家庭を築こうとは考えないでもないですが…」

「で、では、妾がお主の妻になるというのはどうか!」


一瞬、何を言っているのか、理解できなかった。ようやく意味を理解したときは、もう姫様は顔が真っ赤で、私をにらみつけるように見つめていた。


これが2人きりならばいいのだが、ここはよりによって元城兵たちやあの指揮官男のいる宿場の受付の前。周りには、20人が働いている。


ところが、なぜか周りの人たちは私の方をじーっと見ている。姫様の言動で驚いた様子はなく、私の出方を待っている、そんな態度だ。


どうやら、この姫様の決断を、彼らは既に承知しているようだ。


1対20。私はぐるりと姫方の軍勢に囲まれた。


「ひ…姫様、有り難いお話ですが、私のような平民とあなたとでは、あまりにも身分が違いすぎるのではないかと…」

「そなたはタケダ殿の侍大将ではないか。別に身分は申し分ない。」


指揮官男が突然そんなことを言い出した。


ああ、そういえばあの宇宙港ができた直後あたりに、タケダ殿より賜わりました、侍大将。あまりにも色々ありすぎて、すっかり忘れてました。


なんでも、タケダ殿と接見するのに無位無官ではあまりにも不憫ということで、いただいた身分だ。


「妾はあの時、皆を助けてくれるならこの身も捧げる覚悟だと言った!その約束を果たしたい!」

「いやいや姫様!我々はそんな見返りなど求めませんし。ぜひご自分のことを大切になさってください。」

「…では…妾がそなたのことを、その、好きになった、だからというのでは、だめか?」


急に姫様、それまでの当主の振る舞いから、1人の女性になった気がした。私はそんな姫様の姿に、きゅんとなった。


姫様が言うには、この数か月、私と別れるたびに、いつも後ろ髪惹かれる想いを感じるようになったのだという。


「わしらからもお願いします。姫様のお気持ちを、どうか受け止めてあげてください。」


家臣の1人が言った。そして家臣一同20名、私に向かって頭を下げてきた。あの強面の指揮官男もだ。


私も心を決めた。私とて、このまま姫様と別れるのは辛い。


「そんなに思っていただけるのであれば、私は…マツ姫様と結婚したいと思う…皆さま、本当にそれでよろしいですか?」


そういった瞬間、宿場の前はちょっとしたお祭り騒ぎのようになった。私はなぜか強面の指揮官男に抱き疲れた。ああ~。


おかげで、隣の宿の宿泊客まで何事かと騒然になったが、理由を知って、客まで大騒ぎだ。


「ところで、お主の妻になるというのに呼び名が『マツ姫様』では変であろう。」

「ええっと、じゃあマツさん?マツ殿?」

「『マツ』で良い。」


こうして、マツは私の妻となることが決まった。


宿屋の皆さんと、多くの宿泊客に見送られて、マツはそのまま私についてくることになった。


さて、突然同棲生活がはじまってしまった。その次に考えなきゃいけないのが結婚式。ここで今度は、タケダ殿が出てきた。


いわゆる仲人役をやってやる、というのだ。


「わしの5000の兵に最後まで抵抗した城の主人と、わし自身を翻弄した若造が結婚するというのに、この役はわし以外には務まらんじゃろう。」


想像以上の大物登場だが、結局は受けてしまった。短い付き合いだが、この方は言い出したら聞かないことは重々承知している。


式まであと2か月。この先どうなることやら。


さて、私の仕事は、このタケダ殿と文官、武官との間を取り持つこと。


タケダ殿はこの惑星での主導権を握ることが狙い。当然、交渉官や艦隊司令などとの接触を望んでくる。その橋渡し役だ。


気難しいタケダ殿の相手は大変だ。おかげで仕事は増えたが、やりがいはある。なんと言っても、私のやり遂げたことは、私自身の成果として認めてくれる。さすがは大物の武将だ。


そういえばあの艦長がどうなったのか?風の噂では、今は艦長ではなくなったそうだ。理由はわからないが、人間落ちぶれる時は一気に落ちぶれるらしい。


てことで、私は軍と文官とタケダ殿の間で挟まれながら、マツのいる幸せな生活を、この惑星の上で過ごしている。

(第11話 完)

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