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城と魔術と艦長補佐 1

先日発見されたばかりの惑星に、地球(アース)424の遠征艦隊所属の駆逐艦10隻が降下していた。


私の名はカール。私はそのうち一隻に乗艦しており、艦長補佐をやっている。階級は中尉。


いかにもご立派な職名だが、一言でいえば雑用係。早い話、艦長の思いつきを具現化するための”便利屋”だ。


今日も、その艦長の思いつきによる行動が開始された。


それは、昨日のブリーフィングでのこと。地上の調査進捗についての報告の中で、我々には無視できない事態が発生していることを知った。


それは、この星のある場所にある小さな山城が、総勢5000の兵に囲まれ攻撃を受けているという。


城の兵士は何人いるのかは定かではないが、広さから推測しておそらく1000に満たない数。少なくとも5倍以上の兵力の囲まれているようだ。攻守3倍の法則といわれるが、5倍以上の兵力差ではすぐに落城するのは間違いないだろう。


この山城を救出するためにこの戦場を停戦させるというのが、今回の任務だ。


これをうちの艦長が受けた。


「私の艦が、この戦争を止めてみせましょう。」


などと意気揚々に行ったらしい。


でも、あなたがやるんじゃないんですよね。どうせ私に丸投げしてくるんでしょう。


この駆逐艦は、第11小隊所属の3560号艦。随伴する艦艇は3551~3559号艦。つまり、末尾が0の我が艦がリーダー艦のチーム艦隊10隻だ。この10隻が今回、停戦に向けて動いた。


ところで、この惑星についてやや気がかりな話があった。


それは、どうやらこの星では”魔術”が使われてるということだった。


駆逐艦が空を跳び、ビーム砲で撃ち合うこの科学至上主義のご時世に魔術なんて…いやこの星はまだ科学技術が未発達な場所だったが、魔術と言っても呪術的なものではなく、ちゃんとした物理的なものだ。


火や水、土を操り、攻撃に使う本物の魔術だ。


実はすでに我々の連合側にも、魔術を使っていた惑星というのは3つある。


非常に稀だが、そういうものが実在する星もあるのだ。


ある程度の原理は分かっている。要するに「重力子」を操ってるようだ。火や水の魔術と言っても、何もないところから火や水が出てくるわけではない。そこにある物質を操っているだけだ。と言っても、重力子エンジンもなしに重力子制御をやってるわけで、それがどういう原理でやってるのか、そこまでは分かっていない。


ただ、その惑星で魔術が使える人を宇宙や別の惑星に連れて行くと、全く魔術が使えなくなることもわかっている。


また、その星の住人なら誰でも魔術が使えるわけではなくて、だいたい200人に1人程度の割合でそういう才能を持っている人が出現する。


我々が魔術というものに関して知っていることは、以上だ。


この魔術というのが、この城の攻防戦でも使われてるのが観測されたようだ。


城内外ともに、火や水を動かしたり、石垣を崩そうとして石を引きずり出そうとしている様子が観測されている。攻城戦兵器として使うには、魔術というのは便利なものだろう。


だが、魔術を使っていようがいまいが同じ人間であることには変わりない。戦乱や災害から地上の人々が1人でも多く生き残るよう行動する、それが我々連合側の軍人の使命だ。


というわけで、その山城に降下してきたわけだが、さてどうやって停戦へと導くのか。


やることと言えば、艦をこの両軍の間に並べて、攻撃の意図を挫くというのが一般的なやり方だが、そのためには救援要請を受ける必要があるという。


なんでも、この惑星の住人になんの予告もなく駆逐艦を差し向ければ、両方に対する威嚇となってしまうため、後々外交問題になりかねない。劣勢側からの救援要請という大義名分があれば、威嚇ではないという体裁が整う。


なんとも面倒な手続きだが、我々が節度ある行動を取っていると印象付けることも、その後の交渉の行方に多大な影響を与える。


早速、艦長から命令が出た。


「中尉、艦長代理として、あの城の救援要請を貰ってこい。」


…ああ、きたよついに。得意の丸投げだ。宇宙人の存在も知らない、刀や魔術を使う相手に救援要請をもらえとか、そのことの大変さを理解していないだろう。


「こういうのは交渉官殿の仕事では?」

「何を言う、下は戦場の真っ只中。戦場での交渉は武官の務め。ならば、艦長の代理人たる補佐官の仕事だろう。」


あなたも武官ですし、あなたが行くのが一番では?などと言えるわけもなく、しぶしぶ地上へ降下する。


この艦長、いつもこの調子だ。面倒なことを引き受けてくるのはいいが、いつもこっちに回ってくる。そのくせ、あたかも自分がやったかのように上層部へ報告する。


どこの小隊、艦隊にもこういう人はいるようだが、できれば自分の上司にはなって欲しくなかった。


私は複座機を操縦できないので、パイロットに依頼する。


「大変だねえ、また艦長代理かい?」


パイロットにまで同情されてしまった。艦長の私への丸投げっぷりは、艦内では誰もがよく知られている。


さて、まずはあの山城に降りるわけだが、どこに降りようか?しかも、降りてからどうやって話をしたものか?


そもそもここでは統一語は通じるのか?


もう不安しかない。もう嫌だ、この仕事。


私の山のような不安を抱えたまま、複座機は城に向かって降下していった。

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