艦隊決戦と超大型戦艦と遺恨の連鎖 2
艦隊戦が始まってから、1時間経過したその時。急に地球001の総旗艦から、我々の艦隊に向けて命令が発せられた。
敵の右翼、ちょうど地球001の前あたりに集中砲火を浴びせよというものだった。
揺さぶりをかけるのか、通常より艦隊数が多く、地球001のすぐ横に布陣している我々こそできる作戦だ。
我々も目の前の艦隊の相手をしなくてはいけないため、余力の3千隻をその攻撃に割り振った。
ところがここで、地球001艦隊に妙な動きが見られた。
なぜか、艦隊を上下に分け始めたのである。
この陣形変化時のため我々に援護をさせたようだが、一体何のためにこんな陣形をとるのか?不思議だ。
左右ならともかく、上下に分けることの意味はない。
しかもこの上下の裂け目は幅100キロ程度。上下に鶴翼陣を作るにしては幅が狭すぎる。
彼らの意図はこの時点で知らされなかった。全くの謎の陣形変化だ。
だが、その陣形を取った理由がすぐに分かった。
その裂け目のすぐ後ろのワームホール帯に、大質量体がワープアウトしてきた。
戦艦クラスどころではない。大きさ数百キロ、質量は数百兆トンの、まさに大型の小惑星サイズの物体がこの空域に飛び込んできたのだ。
これは地球001の持つ最大の切り札。
超大型戦艦「ゴンドワナ」だ。
私も実物を見るのは初めてだが、これが戦場に現れるなど予想だにしていなかった。
この戦艦、大型も大型、超大型。全長700キロ、質量900兆トン、収容艦艇数は1万隻、10メートル級砲門3000門、そして、この戦艦最大の武器である2000メートル級砲門2門装備している。
1バルブ砲撃で、数百隻を消滅できるほどの大口径砲。射程も、我々の持つ砲門より長射程の40万キロ。
ワープアウトと同時に、この艦は主砲装填を開始した。
装填時間は約1分。この口径にしては随分と早い。
実は我々よりも、地球001の武器の能力は一段進んでいる。我々に開示されている技術というのは、少し古い技術なのだ。
このため、主砲の装填時間が我々よりも早い。通常1バルブ10秒かかるが、彼らは8秒だ。大口径になるほど、装填時間の差が大きくなる。やはり独自の技術を持っているようだ。
しかし、この最新技術は未だ開示されていない。もっとも、今の開示技術で充分敵とは戦えるため困ることはないが、この秘密主義的な姿勢に、我々の陣営内でもやや反感があるのは事実だ。
さて、地球001より超大型戦艦の主砲発射まで敵艦隊の分散を食い止めよという命令が発せられた。
当の敵艦隊は、突然の巨大兵器の登場で大混乱に陥っていた。さすがに相手が悪すぎる。
一個艦隊であれば大きく横に逃げれば避けられる。
むしろ、一個艦隊相手にこの戦艦が出てきたら、逆にやられてしまうだろう。大型すぎる戦艦ゆえに、動きが鈍すぎるからだ。
それゆえに、この超大型戦艦が戦場に出てくることはほぼ皆無。
敵が身動きのとりづらい複数の艦隊で、攻撃位置にすぐワープアウトできるワームホール帯の多い空域という条件が満たされて、はじめて威力を発揮する。
なにせ今の敵は5つの混成艦隊である。特に中央部は右も左も動きようがない。
上下に分散するという方法があるものの、そこは他の艦が分散を防ぐため砲火を敵艦隊上下に集中させて逃げ道をふさぐ。
そうなるとあとは後退するしかないが、のろのろとバックしていてはこの戦艦の長い射程外へは逃れられない。
上下、左右、後退とそれぞれの艦が各々判断して行動しているため、場所によっては艦同士が衝突しているようだ。
我々にとっては好都合だが、敵にとっては地獄絵図だ。
もっとも、さすがの超大型戦艦「ゴンドワナ」といえど、数万隻を消滅させられるほどの威力はない。一発でせいぜい数百隻。
だが、一発で数百隻も沈められる巨砲が艦隊のどこを狙っているかがわからないため、その恐怖心が敵艦隊全体で混乱を引き起こしている。
混乱は収まることなく、ついに超大型戦艦の主砲は発射準備完了。
第一射が、発射された。
もの凄い太さの光の束が、我々の横から伸びていく。太さはおよそ数十キロ。
艦隊中央を狙ったようで、中央部付近の敵の艦艇が光の束で隠れてしまった。
しばらくすると、光は消滅。そこにいたはずのたくさんの艦艇の姿はなく、艦隊にはぽっかりと大きな穴が空いていた。
概算で、700隻が消滅。この中には戦艦クラスも一隻、含まれていたようだ。
つまり瞬時に8万人もの人命がこの世から跡形もなく消え去ったということになる。
戦艦すら消滅させられる大口径砲。恐ろしい兵器を目の当たりにした。
この超大型戦艦はさらに第2射準備に入った。
敵は我々に背を向けて逃走を開始した。何隻か我々の通常砲の餌食になったが、なりふり構ってられない。
すでに我々の射程外になった敵艦隊を、再び大型砲の砲火が襲いかかる。
また太い青白いビームが放たれた。砲撃音が聞こえないため現実感がないが、あの光の先では相当数の艦艇が飲み込まれて消されているはずだ。
先ほどよりはやや少ない500隻が消滅。とは言っても、一撃で500隻である。少なくとも5万人の人命がまた消えた。
もはや、虐殺行為である。
味方艦艇からの砲撃は止んでいた。あの艦隊を追撃するのはあまりにも罪悪感があるが、すでに潰走状態の敵艦隊を攻撃する理由はない。
戦闘は1時間余りで終了。
味方の損害は、撃沈530隻、200隻が大破。人的被害は6万人。
6万3千隻の艦隊数から見れば微々たる損害だが、それでも6万人の人命である。決して少なくはない。
しかし、敵はもっと多い。推定2000隻以上撃沈。その内1200隻はあの砲撃だけで沈められた。
戦術的にも、戦略的にも、我が連合側の大勝利である。最大の切り札が、この艦隊決戦を制した。
だが、これは再び連盟側に大いなる遺恨を植え付けることになるだろう。
長い目で見れば、この戦術は正しかったのだろうか?このままでは、連盟との和平など望むべくもないだろう。
この超巨大戦艦を眺めつつ、私はこの戦争の終わりがますます見えなくなるのを感じた。
(第10話 完)