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豪華客船と星空ツアーと香辛料 2

客船内で火災が起きたのだ。場所は機関やボイラーのある機関室。


すぐに消し止められたものの、火災よりも深刻な事態が起きていた。


消火作業では外の海水を引き込んで行われたが、どうやらかけすぎてしまったらしい。


なんと、機関室にかなり浸水し、機関は停止。使い物にならなくなった。


経験の浅い船員が多くて起きた事態。世界最大の豪華客船の名が聞いて呆れる。


おかげで、我々は海の漂流者となってしまった。


食料はあと7日分。もうあと3日で到着予定だったから、それでも十分すぎる食料のはずだったが、漂流となると心許ない。


船長は連日他の乗客に責められており、我々と話をする余裕などない。


救難要請の無電はずっと打ち続けているようだが、救助のための船がなかなか用意できず、難航しているようだ。


なにせ乗客乗員合わせて3000人以上。これだけの人数を一隻で救助できる船舶など、この世にはない。


機関停止によって困ったことがもう一つ。


それは、夜が真っ暗になってしまうことだ。発電機が回せないため、電灯が使い物にならない。


ガス灯等の古い照明をやめて、発明されたばかりの電灯を使うことがこの船最大の売りだったのだが、電気がなければ使えない灯など、かえって不便な存在だ。


各部屋にはろうそくが支給され、真っ暗闇からは多少解放されたが、豪華客船だというのに夜はろうそくの火のみ。全く、なんのためにこの船に乗ったのやら。


こんな感じで3日が経過した。


真っ暗ではすることがないので、彼女と一緒に大人のひとときばかりしているが、その日は快晴で星空が綺麗だったので外に出てみた。真っ暗な船の甲板に出てアリシアと2人、空を眺めていた。


「もしこのまま死んでしまうのなら、一緒に星の旅に出ましょう。」

「まだ諦めちゃだめだ。私はこの世の食べ物を食べ尽くしてはいない。」

「そうでも思わないと、やってられないでしょ。でもほら、この空を眺めていたら、なんだか星の世界に行ける気がするの。」


あとで思えば彼女の言葉通りになるのだが、この時は星空の美しさに引き込まれていた。


星空なんてものは見慣れているはずだが、その日の空は立体的というか、星の一つ一つに奥行きを感じた。


あの星一つ一つに我々の知らない世界があり、きっと美味しいものもあるに違いない。あそこに行く方法があれば、我々の世界一周を超える旅行になるだろう。


そう思うと、急に星空を飛んでみたくなってきた。なんて思ったからなのか、星空の一つが我々夫婦を誘うかのように動いたように見えた。


…いや、本当に動いている。なんだあの星。


赤と青の点滅する光が動いている。


アリシアもその星に気づいたようだ。


その星は、どんどんこっちに近づいてきている。


正確にいえば、それは星ではなかった。


ぐぉーんという低い音を出しながら、それは近づいてきた。


船だ。空飛ぶ船だ。そう直感した。


船は船だが、全体的にずいぶんと四角い形をしている。奥の方は広がっていて、あまり船という形ではない。


その船は我々のところに向かっていた。


「大型の空中船が接近!距離は3000、大きさ…およそ300!」


見張りの船員が船内の伝令員に向かって叫んでいる。その声につられて、たくさんの人が外に出てきた。


低い音を出しながら、やがてその船はこの客船の真上で止まった。


こんな船が作られたという話を、私は知らない。第一、人ひとり飛ばせるものすらないというのに、船一隻を飛ばすことなどできない。


私は、この船を眺めていて思った。


もしかして、我々の船は沈んでしまったのではないか?そういう記憶はないが、この客船内にいる全ての人は死んでいるんじゃないのか?


あの船は、我々を迎えにきて、これから天国へと案内してくれるのではないか。


そうでも考えないと、辻褄が合わない。とてもこの世のものとは思えなかったからだ。


その船から小舟が一隻、飛んできた。


この小舟、我々の客船の横付けし、ガラス製の丸く細長い窓を開いた。中には2人乗っているようで、後ろに座ってる人が叫んだ。


「我々は~あなた方の救助に来ました~!船員さんはいらっしゃいませんか~?」


おい、天国へ連れてってくれるんじゃないのか?そんな船員など呼ばなくとも、不思議な御光で我々を引き揚げてくれればいいんじゃないのか?


どうやらこの船、空は飛べるくせに、我々を空に引き上げる神の御光は出せないらしい。


思わず、アリシアに言った。


「全く、さっさと天国へ連れてってもらいたいものだ。いつまで待たせるのか。」

「あら、あちらも乗る人を選別しないといけないんですよ。ここにいる全員が、天国行きではないはずですからね。」


なるほど、我が妻よ、ごもっともなご意見だ。ならば船員などではなく、私を呼べばいいのに。


だいたい、船員の不手際から起こったこの事態。彼らが天国へなど、行けるわけがない。


いや、もしかしたら先に地獄行きが来たのかもしれない。船員を最初に呼ぶわけだ。


が、彼らは船員のところに近づき、なにやら話していた。その後複数の船員が前側の広い甲板に行って、そこにいる人々を立ち退かせていた。


するとさっきの小舟がそこに降り立った。


中からは2人の人が出て来た。横からハシゴが飛び出して来て、それを伝って降りてきた。


天使とは思えない、随分と暗い色の服を着ている。やはり地獄からの使者なのだろうか?近づいてきた船員に向かって、右手で敬礼っぽい格好でなにやら話しかけている。


なにが起こってるのか、早く知りたくてしょうがない。天国の使者なのか、地獄行きなのか、あるいは、まだこの世で起こってることなのか。


今度はこの船の船長が出てきて、この2人と話しはじめた。どんな会話がなされているのかは全くここからではうかがい知ることができない。


他の乗客も同じ思いのようで、中にはこの2人に向かって叫び始めるものもいた。


やがて、2人は再び小舟に乗って飛び立った。


真上にいるこの船よりも一回り大きい空飛ぶ船に戻っていった。


それからしばらく、上に船は上にいたまま動かない。


しかし、下では船員が慌しく動いている。


どういうわけか、甲板の端の柵の一部を壊し始めていた。


驚いた我々が船員に聞くと、船長の命令でやってるらしいという。落ちるといけないので、柵を取り除いた場所には近づかないように言われた。


一方で、船長からの話では、どうやら助けが来るらしく、さきほどやってきた2人に言われた通りやってるということだった。


加えて、皆船内で待機してほしいと言われた。


そう言われても、この状況下で中に戻るものなどいない。皆、なにが起こるのか、気になっているからだ。


やがて、真上の船がゆっくり動き始めた。


いよいよ我々を引き揚げてくれるのかと思いきや、だんだん離れていってしまった。


何をしにきたのかわからない船だ…と思ったその時、あの船が移動した理由がわかった。


さらに大きな船が到着したのだ。


さっきの船が小さく見える。どう見ても10倍以上の大きさだ。


その船からは、今度は随分と平たい形状の大きな船が下りてきた。


こっちに近づいてくると、甲板付近で大きな口を開けた。


その口に続く大きな板が降ろされ、これが先ほど船員が柵を壊していた辺りに接続された。


つまり、ここをたどってこの船に乗れ、ということらしい。


船長が、まず一等客室のお客から誘導を開始した。お金を払っているだけあって、こういう時は優先される。


だが、他の客から不満の声が出るかと思いきや、案外すんなりと従っていた。


それはそうだ、こんなものにいきなり乗れと言われても、さすがに尻込みする。最初に乗ったものの様子を見て、そのあとに乗りたいと思うだろう。


だいたい船長自体がこの船の正体を知らない。そんなものを急に信頼しろと言われても、すぐには信じられないだろう


だが、この船に飽き飽きしていた我々夫婦は、荷物を抱えて真っ先に乗りこんだ。もう地獄行きでも構わない。ここでじっとしているよりはましだ。


板を登りきると、その先には何人かが立っていた。彼らは登ってきた我々を奥の部屋に誘導してくれた。


そこは殺風景な場所だったが、妙に明るい。我々が使っている電灯など比べ物にならないくらいの明るさだ。なんなのだ、ここは。


50人くらいが集まったところで、1人出てきてこう言った。


「我々は地球(アース)325所属の遠征艦隊 第14小隊のものです。こちらの政府から救難要請を受け、あなた方を救助に参りました。」


なんと、あの世行きだと思っていた船は、我々の政府が要請した船だったようだ。


それにしても、こんな船を政府がすでに持っていたなどとは…いや、さっきなんて言ったか?アース325?なんだそれは?


「これより我々の戦艦へご案内いたします。」


戦艦?あれは戦艦だったのか。豪華客船から軍艦とは、随分と格下げされた乗り物に移乗させられるものだ。


アリシアに言った。


「すまない、今度ばかりは私はついていない。とんだ旅行になってしまった。」

「そう?私はこの先に何があるのか、楽しみだわ。」


存外嬉しそうだ。確かに見たことのない船。乗ってみる価値はある。


こうして、我々夫婦は彼らの「戦艦」へと移乗した。


まさか、これがその後の私たちの運命を大きく変える出来事になろうとは、その時は思ってもいなかった。

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