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宇宙戦艦と駆逐艦と第53条 8

今は前後に動いている艦隊運動、これを今度は一斉に左に動かす。


敵艦隊の右翼に集中砲火を浴びせるがごとく、とにかく全力で左の動く。


全艦に伝達、艦隊は一斉に左に動いた。


無論、敵も呼応して左に動く。当たり前だ、片側を集中砲撃されるのを嫌うため、こういう時は連動してくることが多い。


だが、戦艦を追従させる必要のある艦隊とそうでない艦隊では、この動きに大きな違いが生じる。


当たり前だが、敵は戦艦に合わせて動きが鈍い。一方、我々は早く動ける。


時間が経つにつれてその差は大きくなる。


すると、なりふり構わず動く艦艇が出てくる。


戦艦と合わせて動く艦艇とそうでない艦艇。この両者はやがて分断し始める。


ちょうど、敵艦隊が斧で薪を割った時のような割れ目のできる形になるため、我々は「薪割り戦術」と呼ぶ。


果たして、我々の思惑通り、敵艦隊は引き裂かれた。


その裂け目をめがけて、砲火を集中させる。


だいたいその裂け目には、敵の戦艦がいる。戦艦と連動している艦としていない艦とが分断されるのだから、その境界に戦艦が取り残されるのは当然だ。


いくら練度の低い我が艦隊でも、的としては大きな戦艦。そこに集中砲火を浴びせれば、さすがの戦艦と言えども無事では済まない。


1千隻の艦隊には、通常3隻の戦艦がいる。


そのうちの2隻を射程に捉えた。全艦でこの2隻に砲火を集中。


ほかの駆逐艦の後ろに控えて動いていた戦艦が、突如むき出しになり集中砲火を浴びたものだから、この2隻はたちまち大混乱に陥った。


ここで、我々の艦隊は一斉に後退。ワームホール帯に向かった。


あとは目眩し弾で弾幕を張り、その隙にワープで撤退。


まあ、訓練艦隊ではこの辺りが限界だろう。このとき、訓練艦7隻、我々の艦4隻、人員1万人ほどが犠牲となった。


さてその後、我々の艦隊主力がこの空域に到達したが、戦艦に損傷を受けた敵艦隊は、すでに撤退済みだった。


微妙な判定ではあるが、訓練生による艦隊戦の初勝利。しかも、火星、地球両者混成の艦隊での勝利である。


つい数ヶ月前までは死闘を繰り広げていた両者が共同で敵を排除、成功したとの報は、この両惑星の世論に少なからず影響をもたらした。


結果を言うと、和平が成立し、ついに終戦となったのである。


ただし、「地球」が地球(アース)745、「火星」が地球(アース)746と別々の惑星として登録された。


しかし、軍は共同で運用されるというものだった。


住民にとって、一度終わった戦争を再開するなど許容できるものではない。


せっかく一時の停戦によって、日常生活が豊かさを取り戻しつつある状況で、またあの時の困窮した生活に逆戻りなど、望むものはいない。


火星側には依然地球への恨みをつのらせる者もいるが、そんなことよりも生活の方が大事である。


そんな厭戦ムードが漂う中、この両者が共同で敵艦隊を撃退したと言う報は、世論を和平に傾けるのに十分すぎるきっかけだった。


軍部は軍部で、あの時のやや感情的な火星の将官殿も含めて、両軍の上層部もこの戦闘で思うところがあったようだ。


我々にとっては1万隻同士の撃ち合いというのがスタンダードな戦闘だ。今回のは威力偵察に来た敵艦隊との偶発的な武力衝突に過ぎない。


だが、彼らにとっては1千隻もの艦隊同士の戦闘が「小規模」戦闘呼ばわりされるような情勢に、衝撃を受けていたようだ。


両軍の上層部にとっては、軍備増強の必要性を痛感することとなったようだ。とても惑星間でやりあってる場合ではない。


こんな感じで、国民、政府、軍部それぞれがこの戦闘をきっかけに大きく転換することとなった。


戦争を終わらせるのに戦争が利用されたというのは妙な話だが、共通の敵があると結束が固まりやすいのは事実だ。


今回ばかりは連盟軍に感謝するべきなのだろうか?それもなんだか妙な話だが。


しかし、これによって、この星系の火星、地球両者が結束に向かったものの、連合と連盟の間はさらに遠のいたことになる。連盟に敵対する勢力が増えたことになるからだ。


この先、連盟と結束することはあるのだろうか?より強大な勢力が我々の前に現れない限り、そんな事態は起こりえない気がするが、それ以外の未来というのは存在するのだろうか?未だ続く教育の日々の中、私は思う。

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