宇宙戦艦と駆逐艦と第53条 5
さて、我々を受け入れたものの、「火星」と「地球」の両惑星は依然として和平に向けて歩み出そうとはしていない。
だが、我々の駐留により、戦争継続は不可能となった。なにせ、彼らよりも我々駐留艦隊の艦船数の方が多い。
このため、ここで下手に軍事行動を起こすよりも、今は我々駐留艦隊より技術供与を受けた方がいいと考え始めているようだ。
さて我々は火星と地球、双方に我々の持つ技術を提供し始めた。
さて、この両者のここまでの歴史を調べてみた。
まず、「火星」がテラフォーミングで居住可能惑星に変えられた背景だが、これは「地球」の資源枯渇によるものが大きい。
この火星には、膨大な鉱物資源が埋蔵されており、これが彼らの工業、農業を支えるものとして必要なものだったようだ。
このため、火星では数十年前にゴールドラッシュのような状態になり、急速に人口が増加した。
そこで、火星そのものを居住可能な星にしようという機運が高まり、一気にテラフォーミングされた、というわけだ。
こうして20年前にはテラフォーミングが完了し、火星は第2の地球としての機能を備えるに至った。
ただ、そのおかげで、火星にはナショナリズム的な思想が生まれた。
どちらかというと、これまでは火星は地球の資源基地といった扱いだった。
ところが、火星内でも工業・農業が行われ、市場が誕生すると、地球との間に対等外交を求める空気が生まれたわけだ。
それらに対する地球側の対応は、苛烈を極めた。
簡単にいえば、軍事的圧力をかけてきたのである。
具体的には、上空からミサイルを使って、火星内の市場や、農業施設を攻撃したのである。
無論、当初は軍事力を持たない火星側は、なすすべもなく降伏した。
そこから10数年かけて、徐々に軍備力を整えていったらしい。
地球側には、宇宙にいる海賊から商船を守るための自衛組織と称して、宇宙戦艦などを建造していったようだ。
そして2年前。
火星は突如、地球統合政府に対して、独立を宣言。
これが事実上の宣戦布告となり、戦端が開かれた。
火星側から地球側への物資輸送は停止。当然、地球側はこのままでは資源不足に陥る。
で、そこで話し合いでも行われればよかったのだが、彼らからの回答は「艦隊出動」だった。
だが、以前の火星とは異なり、今度の火星には宇宙艦隊があった。
開戦当初に、火星近くで数百隻の艦隊戦が行われ、辛くも火星側が勝利した、らしい。
このあたりは地球側と火星側の言い分が異なる。要するに引き分けだったのではないかと思われる。
だが、戦術的に引き分けなら、戦略的には火星側の勝利となる。
地球側は火星解放軍を突破し、火星を軍事的に制圧しなければ資源確保といった目的が果たせないが、火星側はただ地球側の侵攻を阻止できればいい。
ゆえに、地球統合軍は攻め、火星解放軍は守る、そういう戦争が続いていたようだ。
我々が現れたのは、そういう状態が1年以上続いた時だったようだ。それで、火星周辺でのみ戦闘が行われてきたわけだ。
もっとも、火星側にも問題があった。
火星側の人口は10億人、一方、地球側は60億人いる。
この人口差でほぼ同数の宇宙艦隊を維持する火星側は、経済的には大変な負担だ。
軍事費は火星政府の予算の半分近くを占め、産業も多くを軍需製品に向けなければならない。
当然、国民の生活は逼迫する。実際、一部の物資が配給制になっていたようだ。
一方の地球側も、資源備蓄が少なくなり、いよいよ追い詰められた状態になっていた。
こちらもやはり一部の物資が配給制へ移行した。だが、こっちはこの先ジリ貧になるというおまけ付きだ。
そこで、あの非情な作戦「小惑星落とし」が立案されたようだ。
で、その後の話はご存知の通り。
この時点で、どちらも戦争継続能力はほとんどなくなっていたといえる。
いいタイミングで、我々が現れたといってもいいかもしれない。
だが、20年もの恨みはやはり大きく、火星側の抵抗はなかなかなくなりそうにない。
さて、どうしたものか。
1小隊の旗艦に乗艦する副長ごときでは、この状況をどうこう出来るわけでもなく、ただ与えられた任務を遂行するだけの日々を過ごしていた。
それにしても、ここの「火星」と「地球」の話。我々の連合、連盟の成立に関わる歴史とよく似ている。
地球001の苛烈な軍事的圧力に対し、多くの「地球」が001に反旗を翻し、地球001は窮地に追い込まれた。
その時、我が地球113は数少ない001側についた惑星の一つだ。
ここの恒星系と違って資源には事欠かない状況だったため、160年以上経った今でも戦争状態を続けている。
我々が仲裁に入った結果、この両者はどうなったか?
地球側は我々との交易で、資源確保ができるようになった。
一方、火星側も、停戦によって民需向け生産に振り向けられるようになった。
だがそれは、ちょうど我々の連盟、連合と同じで、対立構造を維持できる体制が出来てしまったことにならないか?
だから、我々の登場は返って彼らの和平の道を遠のけてしまったのかもしれない。
そんなことを考える日々が続いた。




