宇宙戦艦と駆逐艦と第53条 4
「…で、あなた方は我々の星を連合側に組み入れるためやってきたと、そうおっしゃるわけですな。」
「そうです。ぜひ両陣営には我々と共に歩んでいただきたいと思っております。」
「冗談じゃない!」
先に怒鳴ってきたのは、火星解放軍の将官だった。
「我々はあの星に移住させられて20年!その間に地球政府から受けた屈辱と殺戮に歴史を我々は忘れられるはずがない!そんな星と手を組めなど、言語道断だ!」
「まあ将軍、ここでは結論を出せというわけではない。お互い政府に持ち帰って判断を仰ぐというのが我々の仕事ではないか?」
「先ほどまで、その我らの火星を滅ぼそうとしていたお方がしゃあしゃあとよく言うわ!帰って政府に聞いたところで同じ結論だ!我々はお前らを許さない!」
ああ、やっぱり一筋縄ではいかないなぁ…かなりこの両者の間には深い溝があるようだ。
地球統合軍の将官殿は、最後まで紳士だった。我々に対しても、まず先の話を政府に対し報告することを約束してくれた。
一方、わりと感情的な火星解放軍の将官殿は、帰り際にこう言ってきた。
「我々はあなた方に感謝している。火星の10億の人民はあなた方に救われた。だが、それでも彼ら地球から受けた恨みを、どうしても許すことができないのだ。申し訳ない。」
今度は手を握られて話された。この人、とにかく感情先行型だな。
両者を送り届けたのち、少し考えた。
両者に停戦と和平を持ちかける我々も、実は宇宙では敵対する陣営がいる。彼らに和平を勧める傍らで、我々自身は連盟軍と戦っているのだ。
もう160年以上も戦争状態を続ける我々が、彼らに和睦を勧める資格などないのだ。
だが一方で、このまま両者が敵対状態を続けることは、我々の二の舞になると感じている。このままで行けば、一方が連合側で、もう一方が連盟側に組する可能性だってある。
同じ恒星系で2つの陣営。間違いなく、慢性的な戦争状態に陥るだろう。
今までは数百隻単位の射程100キロの限定的な兵器だったが、今度は惑星表面を滅ぼしかねないほどの強力兵器を保有することになる。そうなると、どちらかが滅ぼされるのは目に見えている。
それがわかっていても、どうにもできないのが我々の立場だ。自分たちの星のことは、自分自身が決めてもらうしかない。
さて、そんな両軍との接触をしているうちに、我が艦隊主力が合流した。
地球統合軍と火星解放軍の艦艇は、総数850隻。
それを我々の1万2千隻がぐるっと囲んでいる。
こんな大量の艦艇に囲まれるなど、彼らには前代未聞なことだろう。
しかも今度は我々の戦艦もいる。全長3000メートル以上の艦艇が数十隻。
我々の艦が「駆逐艦」といった意味が分かっていただけたことだろう。我々の戦艦はこんなに大きいんです。
さて、そのまま彼らをお互いの星に返してもよかったのだが、せっかくだから戦艦に立ち寄ってもらおうということになった。
特に地球統合軍の方はこれから3日かけて帰らなければならない。中には狭い駆逐艦級の船もあり、このまま返すのは忍びないと感じた武官からの提案だった。
文官殿も了承し、戦艦内を我々と彼らとの交流の舞台として使うことになった。
地球統合軍、火星解放軍の艦艇を順次招き入れて、戦艦内を案内していく。
さすがに両者を引き合わせることのないよう、受け入れる戦艦を地球統合軍用、火星解放軍用に分けた。
戦艦だと言うのに、なんとものどかな街並みがあることに、彼らは少し違和感を感じたようだ。彼らの常識からすれば、およそ軍艦の風景ではない。
さて、そんな不自然な停戦状態を続けている中も、両者の政府への接触が行われた。
そこでの両社の回答は、とりあえず我々の艦隊の駐留を了承し、暫定的に連合側に入る。交易と技術供与については受け入れを開始、両政府の和平に向けての話し合いは継続する、と言うものだった。
というわけで、我々の遠征艦隊1万隻がそのまま駐留艦隊となり、5千隻づつがそれぞれの惑星に駐留することとなった。
交易も始まり、技術供与に艦隊運用、艦艇の製造などがそれぞれの惑星で行われた。
が、和平の方は一向に進まず。まだ地球の登録ができない状況が続いていた。