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宇宙戦艦と駆逐艦と第53条 2

最初の曳航軌道は、2番星の軍を欺くためのフェイクだった。我々も騙された。


当然、「2番星」の艦隊は出撃。おそらくは全軍と思われる450隻。


そこに、近くに控えていた1番星の艦隊300隻が向かってきた。先の100隻と合わせて、こちらもおそらく全軍の9割以上を投入。


この空域に存在するほぼ全ての艦艇が、2番星側の空域に集結しつつあった。


さて、小惑星落下による2番星への被害規模を推定した。結果は…一言で言えば「逆テラフォーミング」だ。つまり、人が住めない星になる、ということだ。


今回投入された小惑星のサイズは3~40キロ。


最大のやつが衝突する場所周辺は、一つの国家が丸ごと蒸発するほどの破壊規模。


さらに、その爆発がもたらす粉塵で太陽光が遮断されて、寒冷化が起こる。


テラフォーミングされた惑星ゆえに、あちこちに酸素生成工場があると思われるが、これらも当然いくつかは破壊されるだろう。深刻な酸素不足が発生する。


すると、この惑星表面に住む人々はそのほとんどが死に絶えるしかない。


何人の人が住んでいるのかはわからないが、この惑星にある都市を観察する限り、数億人は下らないだろう。


未曾有の大虐殺が、まさに行われようとしている。


だが、幸いなことに「第53条」が適用できる事態となった。これはまさに「大気圏内における殺戮行為」に該当する。


皮肉なことだが、ここに至って我々の出動する法的根拠が整った。ついに、この殺戮行為阻止のため、全艦隊1万2千隻が投入されることが決定された。


しかし、すでに残り時間は16時間。あまり時間がない。


このとき立案された作戦はこうだ。


まず、約300隻の小隊がこの惑星に向かっている小惑星郡に急行。その目的は、小惑星郡の軌道変更だ。


この小惑星郡のそばには1番星軍、2番星軍の艦隊が集結しているため、1万隻以上の我が艦隊が直接小惑星郡を直接狙撃することは、彼らを巻き込んでしまう恐れがある。


そこで、まずは軌道を変える。軌道を変えて十分彼らから離れたところを、残りの1万1千隻でこの小惑星郡を一斉砲撃し消滅する。


念のためこの300隻の「盾」としてもう2小隊 約700隻を加えて、この小隊の作戦遂行を支援することになった。


なお、小惑星群に向かうこの1000隻に戦艦は随行しない。


機動力重視の、駆逐艦のみの分艦隊だ。


こういう構成は、駆逐艦を旗艦としている我が地球(アース)113艦隊にこそできる編成だろう。


1万隻以上の艦隊で小惑星群を消滅するのはいささかやりすぎるのでは…という文官の方々からの意見もあったが、このまま残しておくと、今度は2番星軍が1番星攻撃のために活用しかねないため、ここ完全に破壊すると武官側は主張。


若干刺激が強すぎるデモンストレーションになるが、これは我々の意思表示でもある。この出来事は確実に彼らの和平を促進することになるだろう。そこまで考えての作戦だ。いきなり正体不明の1万隻以上の艦艇が現れて、小惑星をいとも簡単に消滅してしまえば、いやがおうにも危機感を持たずにはいられまい。


半年間もぐずぐず待たせてきた文官殿への反感も、この作戦立案にはあったのかもしれない。結局、この提案は承認された。


ということでいよいよ作戦行動に移ることになったわけだが、私の小隊に一つ大きな問題が生じた。


その小惑星の軌道修正を担う第一次攻撃隊が、我が30小隊に決まったことだ。


そんな面倒な仕事を…いや、名誉ある任務を我々ごときが遂行できるのだろうか?不満…いや不安で一杯だ。


さて、すでに1番星、2番星の両軍は小惑星郡の攻防を巡って戦闘が始まろうとしていた。


2番星軍の目的は、この小惑星郡の軌道変更。


一方で、1番星軍はそれを阻止できればいい。


ほぼ同数の艦艇同士、おそらく艦隊戦をするのが精一杯ではないか?


ここで2番星軍は、考えられない行動をとった。なんと、1番星軍の艦隊に背を向けたのである。


おそらく、全ての攻撃をその先にある小惑星郡に向けるためである。


小惑星群の軌道を変えようと艦艇を向けると、どうしてもそういう布陣になってしまう。というか、1番星軍があえてそうなる位置に艦隊を配置したというところか。


彼らの目的は、小惑星群の軌道を変えさせないことである。当然の処置だろう。


悲惨なのは2番星軍である。


おそらく2番星の艦隊をの全火力を小惑星群に向けたところで、全ての小惑星の軌道を変えられないと考えられる。


しかし、特に大型の小惑星の軌道を変えられるだけでも被害は最小限に食い止められる。


だから、1隻も艦隊戦に向ける余力がない。全火力を向けるしかない。


ここで艦隊戦を仕掛けたところで、惑星に小惑星郡が落ちてしまえば意味がない。


そう判断したのだろう。もはや、全滅覚悟の布陣である。


我々も戦慄した。


同じ軍人であるが、果たして、我々にここまでの覚悟はあるのかと。


能天気に戦艦内のショッピングを楽しみにしている毎日が、急に馬鹿らしく感じた。


背を向けた2番星艦隊を、1番星の艦隊が射程に捉えようとしていた。


冗談じゃない!


これを見た我々3小隊、合計1千隻の艦隊は、全速力で突撃を開始した。

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