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宇宙戦艦と駆逐艦と第53条 1

私の名はエマニエル。地球(アース)113 遠征艦隊 第30小隊所属の9980号艦の副長を務めている。階級は中佐。


この艦、実は第30小隊の旗艦であり、所属する340隻の指揮・命令権が集中する。


戦艦を旗艦とするところが普通だが、我々は機動力を重視し、駆逐艦を旗艦としている。


さすがに艦隊旗艦は戦艦だが、全長1500メートルの小型戦艦が使われている。


そうなった経緯には色々あるが、我が星の伝統となっている。


今回、新たに745番目の地球(アース)が見つかった。


この惑星の調査、交渉のため我々の艦隊が派遣された。


なお、我々の艦隊は、通常の一万隻に、防衛艦隊の6小隊、2千隻加えた1万2千隻で構成されている。


というのも、今度の惑星は今までとは大きく違う文化レベルだ。


ここは文化レベル5。すなわち、宇宙進出をすでに成し遂げている惑星だ。


進出しているだけではない。なんと、宇宙で戦争までしているのだ。


などと、普段宇宙空間で戦争している我々が驚くのも変だが、今まで発見された地球の中では、地球(アース)001に次ぐ技術力がある星だ。


彼らの恒星系は、2つの居住可能な惑星がある。


どうやら、テラフォーミングでもう一つの「地球」を作り上げたようだ。


ところが、その2つの惑星同士で戦争が起きてる。理由はわからないが、戦争状態に陥っている様子だった。


こんな星との交渉を任されたわけだが、さてどこから手をつけるべきか分からない。


戦争状態ならば、両軍の間に割り込み停戦を呼び掛けて、それをきっかけに彼らと交渉を始める…という手がよく使われる、これが今回は難しい。


彼らはまず、我々から見れば近距離戦用の兵器を使っている。


射程距離はせいぜい100キロ程度。40~50センチほどの砲塔から打ち出すビーム兵器を3~12門ほど搭載している。


近距離の戦いなので、戦闘機、爆撃機やミサイルなども普通に使っているようだ。


仲裁に入るなら、この近距離用兵器の対策を立てないといけない。


何せ、我々の艦艇は遠距離戦に特化している。近距離には弱いのだ。バリアを張る以外に防ぐ手立てがない。


我々と彼らが戦えば負けはしないだろう。なにせたった100キロ程度の射程しかない彼らを、30万キロ先からロングレンジで撃てば、彼らはなすすべもなく壊滅する。


ただ今回は彼らの殲滅は目的ではない。わが陣営に加えるのが目的。どうやって接触するかがまず問題だ。


宇宙空間なので、珍しく威嚇用に主砲を使うことができる。未臨界砲撃などと厄介なことを考える必要はないが、主砲が使えるからといって、何か有利なことがあるわけではない。


なにせ撃ち方を誤れば相手を撃墜してしまう。やや過剰な威力の兵器による威嚇射撃は難しい。


彼らの艦艇数は少ない。確認されてるだけで、双方合わせてせいぜい1000隻程度しか確認されていない。戦闘は20~30隻同士の撃ち合いがほとんどで、まれに100隻規模の艦隊戦がある。


艦艇の大きさは数種類あるが、大きなものでも我々の駆逐艦よりちょっと大きいくらい、全長500メートル程度だ。おそらくこれは彼らにとっては「戦艦」クラスなのだろう。


中には50メートル程度の艦艇もある。あの狭い艦内で、片道に3日以上はかかるこの両方の惑星間を行き来しているわけで、現場の苦労が偲ばれる。


我々1万隻以上の艦隊が現れれば何らかのリアクションが得られるのではないかという意見もあったが、その後どうやって交渉に結びつけるのか筋道が立てられないということで、却下された。


さて、実は最大の障害は「法律」の壁だ。


戦争の仲裁に入るための拠り所としてよく用いられるのは「防衛規範」などと呼ばれている宇宙連合軍規 第53条。


大量殺戮の恐れがある場合は、艦船・武器の使用を認めるという法律だ。


これをうまく運用し、これまで多くの惑星では停戦に結び付け、交渉の足掛かりとしてきたのだ。


だが今回のケースでは、この法律には大きな欠点に引っかかった。


それは、この条文が「大気圏内」に限ると書かれていることだ。


大気圏内での戦闘行為の恐れがある場合は、この法で遠慮なく仲裁に入ることができるが、なにせ今回の相手は大気圏外で撃ち合ってる。こういう相手を想定した防衛規範はないのだ。


このため、宇宙空間での戦闘を察知しても、仲裁に入ることができない。法的根拠がないのだ。


結局何もなせないまま、半年ほど経過していた。


我々の艦隊はアステロイドベルトのさらに外側にあるワームホール帯近くで待機していた。いたずらに資源を浪費するだけの状態が続いている。


ところで、彼らの戦闘は大抵、外側の軌道を周るやや赤みがかった惑星の周辺で起きている。人口も少ないと思われるこの惑星、おそらくこっちがテラフォーミングで居住可能にした惑星だと考えられる。


というわけで、我々は便宜上、元々から地球だったと思われる内側軌道の惑星を「1番星」、テラフォーミングされたと考えられる外側軌道の方を「2番星」と呼称することにした。


今は、高速偵察艦を派遣してこの両者を観測しているのみだ。


おかげで偵察隊と艦隊司令部は大忙しだが、我々末端の者は暇を持て余していた。


時々補給のため寄港する戦艦内の街へ繰り出すのが楽しみなくらいで、あとは狭い艦内でじーっと命令を待ってるだけの日々が続いている。


「今日も動きはなさそうだな。」


艦長兼小隊長殿がため息をつきながら言った。


「せめて通信で呼びかけくらいできないんですかね?」

「いや、すでにやってるらしいが、他の星からの通信とは思ってもらえないらしい。お互い、敵の撹乱策だと思っているようで、何のアクションも得られないそうだ。」

「じゃあ、いっそ出向いて姿さらしてやればいいじゃないですか。宇宙人はここにいるぞ!って。」

「慎重派が多いらしい。そういう手段に出る前にやれることがあるはずだ!と主張する文官が多いようだな。まあ、我々武官にはどうしようもないよ、中佐。」


おそらく、変に軍が動き面倒を起こして責任問題になるのを懸念しているのだろう、文官殿は。この調子では、解決まであと何年かかることやら。


いっそ連盟側でも攻めてこないものか。派手に1万隻以上の撃ち合いをやれば、彼らもびっくりして話し合いに応じるのではないか?


しかし、こういう時に限って、奴らは姿を現さない。


などと不謹慎なことばかり考えていたある日。


1番星から飛び立った100隻ほどの艦艇が、2番星に向かわずさらに外側のアステロイドベルトに向かってきた。


しばらくそこで何かしていたようだが、そこから20個ほどの小惑星を曳航し始めた。


念のため軌道を計算すると、1番星の近くまで引っ張っていってるようだった。


資源回収でもするのか、要塞でも作るのか、それとも我々のように小惑星で大型艦艇でも作ろうと思ったのか、そんなところだろうと思っていた。


だが、事態が深刻であることが判明したのは翌日。


その小惑星群が2番星側を通過したあたりで、爆発が観測された。


軌道を変えたおよそ20の小惑星。その向かう先は、2番星だった。


衝突まで、あと20時間。


間違いなく、小惑星による2番星への「大質量攻撃」だ。


艦隊内に、緊張が走った。

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