爆撃機と駆逐艦とローストチキン 7
あれから、さらに1年ほど経った。
我々の星は正式に地球742となり、連合側に加わることとなった。
我々は比較的技術が進んでいると星だったこともあって、すでに300隻程度の艦隊を保有することとなった。
艦隊と呼ぶにはひよっこ過ぎる。宇宙一般では「小隊」レベルだ。それでも我々自身が運営する最初の艦隊。といっても、まだ地球411の人たちのサポートはまだまだ必要。
なんといっても、人が足りない。操艦、砲術、索敵など、宇宙用艦艇に必要な技量を備えたものが少なすぎる。
この300隻の艦隊の最初の使命は、まさにその人を育てることだ。直に宇宙に出て、艦隊運用に関するノウハウを体で覚える。そんな荒療治的な理由で創設された。
この艦隊を起点にさらに人を育てて、徐々に艦艇を増やす予定だ。
で、私はその新しい艦隊の駆逐艦艦長として就任。
操艦もままならないのに、いきなり艦長である。最初に宇宙船に触れた人物であり、元々機長だったから艦長も務まるだろうという、そんな理由で艦長になった。
なお、他の艦の艦長はほとんどが海軍出身。空軍出身は私の他に一人いるだけだ。
それにしても、機長から艦長。思えば、あの時我々を恐怖に陥れたあの船を、今は私が操る側になったのだ。
私の駆逐艦は、地球742 第1艦隊所属の第10号艦。つまりリーダー艦だ。
リーダー艦に乗船させてもらっていたから、そのままリーダー艦につくことになった。そんな勢いで人事を決められても困るんだけど。
リーダー艦というのは通常「大佐」が務めるものだが、私はようやく少佐になったばかり。私のチームには海軍出身の中佐もいるというのに、少佐がリーダーでいいんだろうか?
まあせっかく艦長になったし、やりたいようにやるさ。
まずやったことは、駆逐艦の”命名”。自分の船を「ローストチキン」と名付けた。
あの爆撃作戦阻止を祝った、忌々しい料理だ。あの時の味が忘れられなくて、真っ先に名付けた。
他の艦はまだ名前を付けられていないようだ。わが艦隊でこの船以外に名前が付いたのは戦艦くらい。なお、戦艦の名前は「赤い川」だそうだ。
さて、新しく作られた艦艇ばかりだが、すでにこの艦の主砲の試射を実施。その威力というのは体験した。
今思えば、あれほどの威力の砲を持つ船に我々はあの程度の爆撃で対抗していたわけだが、知らぬこととはいえ随分と無謀だったことを悟ったものだ。
今は模擬艦隊戦を繰り返し、練度を高めるのが我々の仕事。
我らが恒星系にあるアステロイド帯にて、月に2度は出向いて砲撃訓練を行なっている。
2年前ならこんな場所まで私自身が来るなどと思ってもいなかった。それが今やワープによる超光速転移までできる時代になってしまった。私も最近、地球411を訪れた際にワープ航法というものを体験した。
と、我々の周りは大きく変わった。しかし時代や兵器が変わっても、変わらないのが人のつながりというやつだ。
ロバートとサラのその後だが、あの2人は予想以上に早く進展してしまった。もう結婚して、先日子供が生まれた。男の子だという。
この子も策士になるのかどうかは分からないが、親父のおっちょこちょいなところは似ないで育って欲しい。
その親父殿は、我が艦にて戦術教官として赴任している。
ロバートも最近少佐になった。しかし、給料が上がった以上に忙しくなっている。せっかくオヤジになったというのに、ここ2週間は駆逐艦内で缶詰状態だ。早く帰りたいだろうに。
さて、私とエレナだが…こちらは最近ようやく結婚したばかり。
別に仲が悪かったとか、結婚に積極的ではなかったとか、そういうわけではない。我々もロバートには負けていない。
だが、惑星を超えた結婚というのはいろいろ面倒なことがあって、制度上の問題、親の反対などなど、思いの外壁が多い。ようやく最近、それらを乗り越えたところだ。多分、私がこの星で最初に星系外結婚をした人物だろう。
あの爆撃ではじまった運命の転換点から、皆それぞれの人生を歩み始めている。
いつかは我々も他の惑星を訪ねて、同じように誰かの運命を変えることになるんだろうか?
そんな日のために、我々は今日も鍛錬に励んでいる。
(第7話 完)




