爆撃機と駆逐艦とローストチキン 5
あれから3ヶ月ほどが経過した。
我々の王国は、この宇宙連合と呼ばれる陣営への参加を決めた。隣国を含む諸外国に呼びかけ、統一機関の成立に向けて動き出した。
同時に、我が国への技術供与が始まり、様々なものが入り始めた。滑走なしに空を飛べる重力子エンジンや、それを動かすための核融合炉と呼ばれる機関、エネルギー砲やバリアなどの主要技術が、我々の研究機関にもたらされた。
もはや戦争どころではない。宇宙にはさらに強大な勢力がいて、我々は一致団結してこれに立ち向かわなければならない。彼ら地球411の力を借りてばかりもいられず、我々自身で自前の艦隊を結成できるようにしなければいけない。そういう危機感が我々の星から戦争をなくしてしまった。
ところで、私はというと、今駆逐艦に乗船している。
第1420号艦。私の爆撃機を乗せて飛んだ、あの艦
だ。
我々の星を代表し、艦の運用に関する知識を習得するため、彼らの艦に同乗させてもらっている。
もちろん、ロバートも一緒だ。
階級が同じということもあり、この1ヶ月で随分と仲が良くなった。
「よお、ロバート。今日は戦艦に合流するのか?」
「ああ、リチャード。今夕には軌道上にでて合流する予定だ。」
すっかりタメ口である。
あの爆撃機のところにやってきた時と同じで、相変わらず運動神経が鈍くてドジなところはあるが、このロバートという男は参謀役をやってるだけあって頭がいい。
実はあの爆撃阻止をされた後、我々と隣国の間に和平交渉が行われたが、その交渉に反対する隣国内の勢力が反乱。ある基地に立てこもり、徹底抗戦を主張してきた。
そんな反乱を無血で解決させたのが彼の立案した作戦だった。
彼らの徹底抗戦を主張する根拠に、彼ら自身の今後の地位が保証されていないことに関する不安があるとわかるや、彼らの国が宇宙艦隊の運用方法を担当することになり軍の士官が足りないという情報を彼らにそれとなく流した。その上で、懐柔策と駆逐艦を駆使した強行的な演出を組み合わせ、ついに基地の奪還を成し遂げた。
この軍事的センスは、彼らの持つ技術力とは違う何かを感じさせる。もし彼が我々の国に生まれていたなら、もしかしたらもう一年早く戦争終結できていたかもしれない。なかなかの逸材だ。
しかし普段の彼はどうにも頼りない。ここ1ヶ月ほど見ててわかったのは、同じ艦橋勤務のサラという女性少尉に片思いしているということだ。
彼の知略を持ってすれば簡単に陥落しそうなものだが、こういう分野はひどく苦手らしい。
彼女も決してロバートのことを悪くは思ってなさそうな雰囲気。性格もお互いのんびり屋でぴったりな気がするんだが、おっとり同士なのが返ってことの進展を阻害しているようだ。
というわけで、他の女性士官と結託して、戦艦内の街で彼らを引き合わせようという作戦を立案した。
名付けて「ロバート・リサ デート作戦」。
名前はどうでもいい。要は彼らを引っ付けてしまうのが作戦の目的だ。後はどうにかなる。
まず、私がロバートを、エレナという女性士官がサラを連れて戦艦内の街に来る。
そこで我々が偶然を装って合流し、同じ店で昼食を食べることを提案する。
その後、私とエレナはさりげなく離れて、彼らを2人きりにする。
あとはロバートの努力次第だ。奴ならば、この作戦の意図に気づき、必ずや成功に導くであろう。
あまりにもあざとくて単純な策だが、知将ほど単純な策ほどかかりやすいという意味の、私の星のことわざがある。
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何かあやしい。リチャードのことだ。何か企んでる。
根拠はないが、直感的に何かを感じる。裏でエレナさんと何やら話してるようだ。
だいたい何をやろうとしているのかは分かる。むしろ、あからさまにやってる気がする。
サラさんは気づいてるんだろうか?普通気づくと思うが、あまりそういうそぶりは見られない。でもこの場合、あまり気づいて欲しくない。私が恥ずかしい。
もうすぐ戦艦に寄港するが、そこで何か仕掛けて来る。単純な策だというのに、回避する手段を思いつかない。困ったものだ。作戦参謀ともあろう私がそんなことでいいんだろうか?
そんなことを悩んでるうちに、戦艦に到着。早速、リチャードが来た。
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「ロバート、買い物に付き合ってくれ。」
こういう時はさりげなく誘うのが最良だ。どうせ奴のことだ、薄々気づいているだろうが、断る理由もないから、必ず乗ってくる。
「もう3度目だから、1人で行けるんじゃないの?」
「そんなこと言うなよ、まだまだ未知の世界だよ、ここは。」
さて、エレナとはショッピングモールの前にてばったり会うことにしてる。予定時刻は艦内標準時で1400。あと30分だ。今から行けばちょうどいいくらいだ。
ロバートをうまく連れ出して、なんとか所定の場所にたどり着く。だがちょっと早かった。あと5分ある。
5分もショッピングモール入り口に足止めするのは至難の技だ。なにせここには何もない。どうしたものか?
私も「スマートフォン」とか言う奴が使えると良かったんだが、ここの文字が読めないため使えない。あれがあれば、エレナとも臨機応変に連携できたんだが。
…よく見ると、すでにエレナはそこにいた。彼女らも早く着いてしまったようだ。都合がいい。
「おっ!エレナじゃないか。サラさんも一緒でどちらへ?」
「何、リチャード。私だけ呼び捨て?」
「まあいいじゃないか、で?どちらへ。」
「食事よ、ずっと駆逐艦のまずい食事ばかりなので、舌がおかしくなりそうなの。」
「奇遇だな、我々も食事するところだったんだ。一緒にどう?」
明らかにそんな話は聞いてないと言う顔でロバートはこっちを見てきた。まあいいじゃないか、そんな細かいこと。
パスタが美味しいと評判のお店に着いた。私はここのペペロンチーノが好物だ。いや、今日はペペロンチーノが目的じゃない。いつぞやの爆撃作戦を阻止されたお礼をこいつにするのが目的だ。
私とエレナが向かい合わせに座る。必然的にロバートとサラは向かい同士になる。ここまでは作戦通り。
まずは雰囲気づくりだ。目標までの距離を縮めるのはどこの世界の戦術でも基本だろう。もちろん、恋愛でも、だ。
ロバートとサラはあまり会話したことがないようだ。お互い奥手だからな。まずは両艦の距離を縮め、砲撃可能なところまで持っていく。
やり方は簡単だ。私とエレナがたわいもない会話をする。つられてしゃべらないといけない雰囲気になってくる。
それにしてもエレナは駆逐艦への文句が多い。
「本当になんとかしてほしいわ、あれ。ねえ、ロバートさん、なんとかならないの!?」
いきなり喧嘩売り始めた。大丈夫か?
「いやあ、私に言われても…」
「あなた艦長のそばにいるじゃないの!なんとか進言して直してほしいのよ!ねえ、サラ!」
「いやあ、艦長にもの言いは大変ですよ~。あの艦長、結構きついですし。」
「そ…そうですよ。艦橋勤務なればこそ、艦長からの意見でのみ動かないといけない立場なんですよ、我々は。」
そうか、エレナの意図が読めた。艦長つながりで2人を引き込もうとしてるんだ。
考え無しに動いてると思っていたが、なるほどうまい手だ。
「でもあなた、艦長に結構意見してるじゃない。現にここの爆撃機乗りが一杯食わされた件も、あなたの意見でしょ?」
「痛いこと言うな…だがそうだな、お前、艦長に一番意見してるんじゃないか。」
「そうですよね~、私から見てもロバートさんって、艦長にもの言いしてる印象、ありますよ~。」
サラもうまく乗ってきた。いい感じだ。
「そうですかね?じゃあ、今度相談してみましょうか?」
「そうですね~ダメ元で言うだけ言っちゃいましょうよ。」
「はい、頑張ってみます。」
とまあこんな感じに、エレナの作戦が功を奏した。
このあと、街中の人混みの多いところに入って、エレナがわざと逸れる。私はそれを探しにいく。そうやって、ロバートとサラを2人きりにする。
あとはロバート、お前次第だ。




