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爆撃機と駆逐艦とローストチキン 4

宇宙人だと思っていても、なぜかさっきまでの警戒心はなくなった。この艦内を見るだけでも技術自体の差を感じるが、人間としてみればあまりに我々と同じ過ぎる。


相当な軍事機密の塊である戦艦…いや駆逐艦のはずだが、その最重要機密が集まっているはずの艦橋も我々に見せてくれた。


なんだかみたこともない表示装置がたくさん並んでいる。ざっと10数人がここで働いているようだ。目の前には大きな窓が見える。


上に我々の爆撃機を載せてるため、落とさないようにゆっくりと飛行中とのこと。我々の基地の方角に向かってるようだ。


そこで彼らに聞かれたのは、どの空港に立ち寄ればいいかということ。ちょっと大きめの表示装置には航空写真が写っていて、そこに5つの空港が示されていた。


つまり、我々の行動は全てお見通しだったようだ。発進した5か所の基地すべてが明らかになっている。


我々の空港を指し示すと、そちらに向かって飛んでくれるそうだ。このまま空港まで飛んで、そこで上の機体を下ろす。その前に、無線で地上に着陸許可をもらいたいとのことで、地上との交信をお願いされた。


すでにこちらの通信も傍受していたようだ。なんと、通信も筒抜けだったとは。しかしこれだけの技術力なら、その程度は容易いのだろう。


さて、地上との通信の前に、一つ聞いておかないといけないことがある。


「地上のレーダーが、あなた方の船をうまく捉えられていないようだ。何度聞いても、大きな物体ではなく、航空機程度のものしか映っていないと言われた。あれは、どういうわけだ?」

「ああ、それはステルス塗装のせいでしょう。この艦に塗られた灰色の塗装が電波の大半を吸収するため、レーダーには小さく映るんですよ。」


なんと、そんな技術があるのか。それにしてもかなりの軍事機密だと思うが、こうもさらさらと我々に話して大丈夫なのか?


まあ、これで地上に我々の位置を伝えやすくなる。地上には、レーダーに映ってる単機の影を探して貰えばいい。


「こちら爆撃機隊 1420番機 機長 リチャードだ。」

「やあ、リチャード!生きてたのか!他の航空機から正体不明の船に捕まったと連絡を受けてたんだが、大丈夫だったのか?」

「その船から今通信している。今から信じられないような話をするが、ちょっと聞いて欲しい。」


そこで彼らが宇宙人で、我々との接触を希望していること、爆撃機の返還も兼ねて地上への着陸許可を求めていることを話した。


「分かった。ちょっと司令に話をしてくる。ところでそちらの位置を知りたいのだが、どこにいるか分かるか?」

「なんでもこの船、電波を吸収する塗装のおかげで、レーダーには小さく映るらしい。単機でゆっくり飛んでる物体は見えないか?」

「ああ、それなら40ノットで2機がぴったりくっついて飛んでるのが見える。これのことか?」


2機?速度的にはこれに間違いなさそうだが、2機いるとはどういうことだ?どうみてもこの船だけだが…ああ、そうだ。上に乗ってる爆撃機が映ってるんだ。だから2機か。


「そうだ。それだ。それが、我々の位置だ、間違いない。」

「分かった、ちょっと待ってくれ。」


しばらくすると、司令から許可が下りたとの連絡を受けた。


さて、いよいよ着陸だ。


まさかこんな大きな船で帰ってくることになるとは思わなかったが、これを見る地上も大騒ぎになるだろう。それにしてもこの船、どうやって降りるんだろうか?滑走路長さは足りるんだろうか?まあ、ここは彼らの技術力がなんとかしてくれるんだろう。我々の常識で考えてはいけない。


1時間ほどかけて、ようやく基地にたどり着いた。空港の滑走路が見える。


すでに我々以外の機体は帰還しており、我々が最後の帰還者だ。


「あの円筒形の建物が管制塔だから、あれの近くに着陸してくれ。」


私は指示を出した。


しばらくして、地上から連絡がきた。


「リチャード、念のため本人かどうか確認したい。この基地の”符丁”を答えてくれ。」


我が国の空軍は、偽装機を侵入させないため、不明機がきた時には基地ごとに決められたある符丁を返すことになっている。


「"赤い川"だ。」

「正解だ。着陸を許可する。」


ちなみにこの基地の符丁「赤い川」とは、この基地の近くを流れる川のことだ。


かつてこの国が戦乱の時代に、この基地の近くで行われた激しい戦闘により赤く染まったことからつけられたものだ。この戦いで今の王国が誕生したそうだから、いわば”赤い川”とは我々の歴史の転換点を意味する。


そこに今度は灰色の巨大な船がやってきた。


これは、我々にとって”赤い川”以上の大きな時代の転換点となるだろう。なんとなくだがそう思った。


「取り舵10度!俯角2度!両舷前進微速!」

「取り舵10度!両舷前進微速!」


艦長の指示と航海士の復唱が艦橋内に響く。


さて、滑走路の上に来た。


なんとここでこの艦は停止した。


翼もなく飛べるくらいだから、空中停止なんぞ簡単なものだろうが、それにしても我々にはかなり違和感がある。おそらく、地上にいる人々も同じであろう。


「微速降下!ギアダウン!」


艦長の指示が続く。外から見たら、さぞかし圧巻だろう。驚いた地上の人々の顔が目に浮かぶ。


ただこの艦橋は艦上部についているため、下側がよく見えず。窓も前方にあるだけなので、地上の様子はほとんど見えない。


ただ管制塔の中はこちらよく見えた。窓にへばりついて驚いた顔でこちらをみていた。


ずしーんという音とともに、艦の動きは止まった。


「接地よし!機関停止よし!重力固定よし!着陸、完了いたしました。」


艦長に報告が飛んでいる。どうやら、着陸したようだ。


「外におります。こちらです、案内いたします。」


といってきたのは、ロバート大尉だ。また通路の角にぶつかったりしないか心配だ。


が、下に降りる通路は比較的広い。いくらおっちょこちょいなロバート殿でも、さっきのようなドジはさすがにしないようだ。


地上には人が大勢集まっていたが、艦の真下まで近づくものはいない。これに乗った我々10名以外のこの地上の人々にとっては、まだ未知の船だ。


さて、上ではちょっと大きめのこの船の航空機が飛んでいる。どうやら我々の爆撃機を降ろすようだ。


-------------


さてようやくあの爆撃機を下ろせる。


駆逐艦にこれが載ってると気を使う。落とそうものなら将来の外交問題にもなりかねない。


クレーンの類はここにはないので、我々の哨戒機にくくりつけて下ろすことになった。


哨戒機が発艦、と言っても、ハッチからゆっくり出てきてホバリング、爆撃機の真上に移動した。


甲板上では整備課の人たちが爆撃機にワイヤーを取り付けている。これを哨戒機につけて引き上げようとしていた。


そんな哨戒機の動きが、この星の人たちには不思議なようだ。滑走もなしに、あんな重そうなものがどうして飛んでるのか?などと考えてるに違いない。


いずれ不思議でもなんでもなくなるだろう。なぜなら、我々と同じ陣営、連合側に組み込まれるのは間違いない。そうなれば技術供与が開始されて、こんな機体はそこら中で見られるなんでもない存在になる。


さて、哨戒機が早速爆撃機を引き上げ始めた。ゆっくりと上昇、一旦止めて整備課の人がチェック、再び持ち上げた。


そのまま艦の上を通過し、滑走路に下される。


で、無事に彼らに引き渡された。ただ、このままこれが使われない世界になるだろう。


そんなやりとりの中、我らが文官の皆様はこの基地の司令との交渉を開始していた。このままこの国のトップに繋がり、戦争中の隣国との和平につなげ、この星を我ら連合側の一員とする。


それにしても、こんなに早く彼らと接触できるとは思わなかった。この爆撃機を拾ったのが幸いした。


-------------


その日の夜、私は司令に呼び出された。もちろん、彼らのことだ。


爆撃機を拾われて艦内に入ってからの出来事を詳細に報告した。わかったことは、彼らは確かに我々をはるかに上回る技術を持っているが、中身はほとんど我々と同じだということ。武力による制圧などは考えていないようだとの見解も述べた。


もし武力制圧が目的なら、あんな回りくどい方法で我々の作戦阻止を行わないだろう。あの艦の先端についた武器を使って我々を殲滅することなど造作もないと思われる。


なぜかはわからないが、彼らは武力制圧より対等の交易をする方がよいと本気で考えているようだ、と述べた。そうでなければ、この行動は説明できない。


一通り報告が終わり、やっと私の長い1日が終わった。


すでに夜は開けて、翌朝になっていた。興奮していたため寝ることを忘れていたが、ここにきて急に眠くなった。さて、少し寝るか。

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