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魔女と木彫りとパイロット 3

地上での詳細を艦長に報告するため、艦橋に赴いた。そこに艦長以下10人ほどが働く。


艦橋は艦のやや後ろ寄りの上部に位置し、前面は強化ガラス張りで周囲を見渡すことができる艦内唯一の場所。外壁に面した場所でも窓がある場所は少ない。


宇宙船なので、なるべく空気漏れになりかねない構造は取りたくないため、当然といえば当然の構造。おかげで艦内では、ほとんど外の様子がわからない。


さてうちの艦長だが、一見おおらかにも見えるが、何かをきっかけに突然怒り出すこともある、いわば二重人格的な人物。果たして今日はどちらが出てくるのやら。多分、後者か。


隠し立てしても仕方がないので、地上で起こったことを正直に報告。調査対象の村は村長がいたこと、言語は統一語が使われてること、保護した彼女はここで魔女として処刑寸前だったこと、しゃしゃり出た挙句にバリアを使用し村人の武器を二つ破壊したこと、村長の仲介で事なきを得たこと。


その村長殿と明日の正午に再度村で接触することになっているところまで話したあたりで、艦長が一言言った。


「…始末書ものだな。」


横の引き出しから用紙を一枚取り出した。


「明らかに越権行為だぞ、これは。今の話、これに書け。」


A4サイズの用紙とペンも渡され、艦長横の机に置き、指差してきた。ここで今すぐ書けということのようだ。


「再発防止のところは…そうだな、このような事態に遭遇したら、今後は艦内の交渉官に指示を仰ぐよう努める、とでも書け。あとは俺がなんとかする。」


なんだ?今日は妙に話のわかる艦長だ。てっきり逆鱗に触れるかと思ってただけに、拍子抜けだった。


「書けたらさっさと彼女のところへ行ってやれ。お前が助けたんだろう、落ち着くまでは責任を持て世話しろ。」


確かにちょっと心配になってきた。もう治療は終わった頃か、そそくさと始末書を仕上げ、艦長に一礼して医務室に向かった。


医務室ではちょうど診察が終わったところで、聞けば多少の打撲、擦り傷、脱水症状はあるものの、骨折といった大きなけがはなく心配することはないとのこと。入院の必要もないそうだ。


が、問題なのは今晩彼女が寝るところを確保しなきゃいけない。


彼女はどこか虚ろな感じだっただが、どうやら火あぶりの際に暴れないよう、麻酔の代わりにかなり強いお酒を飲まされたらしい。


本人の意思とは無関係とはいえ、酔っ払ってたのね。脳の障害というわけではないので安心した。


が、このまま酔っ払って病室で寝られるのは困る。慌てて生活課へ行き、空き部屋を一つ確保してもらった。


いろいろ話を聞きたいところだが、彼女にとって既に夜中の2時ごろ。すでにすやすやと寝てしまった。明日、改めて話すことにした。


私も10時間後にあの村へ行くことになってるし、さすがにいろいろあって疲れた。私もすぐに寝た。


翌日、地上の時間で朝の10時ごろに起床。


早速、彼女のところに行ってみた。


剣とたいまつの世界から、いきなり宇宙船の中に連れてこられたわけで、さすがに不安になってるんじゃないか?


おまけに、彼女の部屋にも窓はない。密室というのは、さらに不安感に襲われるのではないか。


おまけに今は通路を掃除用ロボットがうろうろしている時間だ。我々にとって見慣れたものでも、この惑星の人にとってやっぱり気味が悪いだろう。


などと考えながら、彼女の部屋につく。


ノックをしたが返事がないので、ノブを回したらあっさり開いた。そうか、鍵のかけ方教えてなかった。


ところで、中からかちかち音がする。部屋を開けると、部屋の明かりがついたり消えたりしている。


部屋を覗くと、壁についたスイッチを睨みつけオンオフしている彼女がいた。


どうやら、この照明のスイッチがすごく不思議らしい。私がいるのも気づかずかちゃかちゃやっている。


「あのー」

「ひいゃっ!」


まさかすぐ横に人がいるとは思わなかったようで、変な声をだしてのけぞった。


「・・・ええと、ご気分はいかがです?」

「あっ!大丈夫です・・・おかげさまで」

「ええと、もしよろしければ朝食とりませんか?ええと、なんてお呼びすればいいんでしょうか?」


助けたはいいが、なんて呼べばいいのかすらわからない。食堂に向かう途中、彼女の名前などを聞いてみた。


彼女の名前はエーテル。なんだか何かの溶媒のような名前だが、ここでは普通の名前らしい。


歳は20歳、数年前に流行り病で両親を亡くして以来独り身だという。


この流行り病というのが、あの村での魔女狩りがはじまったきっかけだったようで、彼女の前にも何人かが処刑されたそうだ。


やはりあの儀式は一種の集団ヒステリーによる所業だったようだ。どうやらこの星に本当の魔法使いがいるわけではなさそうだ。


ところでこのエーテルさん、髪の毛が肩にかかる程度の長さなのだが、その端が乱雑に切られたように見える。もしかして、昨日のあの処刑に先立ち、切られたんだろうか?


というのも、その髪の毛のことを気にしているようで、はじめ襟の部分で隠すように歩いていた。


が、艦内の女性は大半がショートヘアー。軍属では身動きのとりやすい格好をするのが当たり前なので当然といえば当然だが、おかげで彼女の短めの髪型が目立たない。これは彼女にとってはやや救いだったようだ。


さて、艦内唯一の食堂に到着。


奥では無人のロボットが調理、配膳を行なっている。


たった100人でこの船を動かすため、食事、掃除、洗濯といった作業は人工知能搭載のロボットにお任せされている。


エーテルさんは初めて見る光景。しかし、怖がるかと思いきや、興味津々な眼差しでみている。


ところでこの食堂に彼女が食べられるものがあるのかと心配した。なにせ、ここがどんな食文化なのか、まだわかっていない。しかし特にためらうこともなくサラダとハンバーグ、パンなどを取っていた。


中でもハンバーグが気に入ったようで、嬉しそうに食べていた。


口数が少ない娘だが、この表情を見る限り、ここの雰囲気が嫌だというわけではなさそうだ。


さて、食事が終わった彼女は、今度は食堂の入り口のあるものをじーっと眺めていた。


全長1メートルのこの船の200分の一の模型だ。


さっきの照明のスイッチといい、食堂のロボットといい、変なものに興味を持つ人だ。


もうちょっと彼女の話を聞きたいところだったが、早く行かないと約束の時間が来てしまう。後のことを女性士官にお願いし、格納庫に向かった。


ところで、昨日の調査でこの星の住人にコンタクトを取ったのは私だけだったようだ。しかも村長というそれなりの人物。ここを起点にこの国を治める首長へのコンタクトが取れるといいのだが…その辺は政務を司る”文官”殿の仕事だ。


我々”武官”は無事に文官殿が仕事できるよう彼らをお守りするだけだ。これが文民統制下の軍隊の基本だ。


昨日とは異なり、複座の戦闘機にはもう一人交渉官が搭乗することになっている。私の任務は、この文官殿を村まで案内し、村長との間を取り持つことだ。


村の広場の横に着地。機体をみて村長殿も現れ、我々も地上に降りた。


さて交渉官だが、さすがに交渉を生業としているだけあって話がうまい。国王陛下は無理だが、陛下に近い子爵の一人に繋がりがあるようで、早速その子爵殿との面会を依頼した。


帰り際に村長から彼女のことを聞かれたが、さっきの様子を話したところ安心したようだ。


そんな穏やかな村長や村人なのに、何故昨日はあんな所業に及んだのか。


集団心理とは恐ろしいもので、一人一人は虫も殺せぬの集まりでも、集団になると突然残虐な行為に及ぶことはままあることらしい。そんな話を、帰り際に交渉官殿が話してくれた。


艦に戻るとエーテルの元へ行った。私があまりにもエーテルさんエーテルさんと探し回ったものだから、周りの同僚はエーテル姫とハンス王子と揶揄していた。いや、心配になるでしょう、人として。


で、姫・・・じゃない、エーテルは食堂の入り口にいた。なんと私が地上へ降下している間、あの艦の模型をずっとみていたらしい。そんなにきにいったのだろうか?


そういえば、服は女性士官用の服になっていた。元々の服は洗濯中らしい。着るものがないので、女性士官が貸してくれたそうだ。


そういえば明日は補給のため戦艦内のドッグへ向かうことになっていた。30時間ほど寄港する予定のため、その間に戦艦内の街で必要なものを調達したほうがよさそうだ。


ところでこの娘、いつまで艦内に留まるんだろう?いずれは地上に戻り生活できるようにしないといけないが、連合とこの星が正式に国交を樹立したらこの娘の生活基盤について交渉をすればいいか。


あまり先のことを考えても仕方がない。なるようになるさと、このときは思っていた。

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