爆撃機と駆逐艦とローストチキン 3
撤退する我々を、奴らはまだ追いかけてくる。
なぜか7隻が何処かに行ってしまったようだが、3隻はぴったりとくっついてくる。
しかし不思議だ。あの大きさのものが何で我々と同じ速度で飛べるのか?
それ以上に不思議なのは、なぜ攻撃してこないのか?ということだ。
結局あの爆撃の後も全く攻撃してこない。我々に砲を向けたはずだが、結局発砲はなかった。一体何が目的なのか、さっぱりわからない。
不思議といえば、あれだけの大きさの船を、地上のレーダーが捉えられないようだ。
いくら確認しても、基地からは航空機程度の大きさにしか見えないという。
1000フィートほどの大きさで、我々爆撃機より大きいというのに、ほとんど変わらない大きさにしか映らないという。
その地上のレーダー観測によると、離脱した7隻は高度6万フィートまで上昇して停止したそうだ。
信じられない。あんなものが6万フィートまで上昇?信じられない話だが、今はこの報告を信じるしかなさそうだ。
さっきから彼らのことを敵国の新兵器だと考えていたが、どう考えても違うだろう。
もしこれが敵のものならば、とうに制空権を取り戻しているはずだ。
爆弾すら効かない相手だ。逆に我々が窮地に立たされていることは間違いない。
にも関わらず、そういう事態は起こっていない。つまりあれは第3者のものと考えるのが妥当だ。
しかしあんなものを開発できる国が存在するのか?こういっては何だが、我が国は世界で最も進んだ国。我々をはるかに凌駕する技術力を持つ国など、この地球上には存在しない。
ということは、あの船は…
などと考えている矢先、強い衝撃とともに右側2発のエンジンが停止した。
1発ならともかく、2発同時に停止。どういうことだ!?
残りの2発では機速を維持できない。このままでは不時着だ。
だが下は海面。あまりいい不時着場所ではない。しかも、後ろからはまだ正体不明の戦艦がついてくる。
さて困った。
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「一機だけ、妙な機体がいます。速度、高度ともに低下中。このままでは海面に落ちる可能性があります。」
オペレーターより報告があった。おそらくなんらかのトラブルが発生した機体のようだ。
どうするかを艦長と参謀、交渉官殿と検討したが、我が艦の上に不時着させるのが最も良さそうだという結論になった。
我が艦は10隻のうちで最も大きな艦。全長300メートル。艦中央付近は比較的突起物もない平坦な部分があるため、あの大きさの機体なら1機くらい着陸できる。
またこの艦はこの星の住人との接触に備えて文官殿が乗艦している。不時着させるならうってつけの機体だ。
ということで、複座機を使ってこれを誘導。着艦させるということになった。
複座機が発艦。今度は、爆撃機救出作戦が開始された。
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何やら小さな機体があの艦から飛び出してきた。なんだあの戦艦、戦闘機を持っていたのか?
その機体は、まっすぐこっちに向かっている。
どのみち不時着寸前のこの機体。今さら撃ち落としにきたとは考えられない。何しにきたのか?
その機体は我々の真横についた。
2人乗りの機体で、後ろの席の人が何やら手招きで機体を水平にしろといってるようだった。
機銃で応戦も考えたが、この状況で機銃を打つと機速が落ちる。残念ながら撃てない。第一、撃ったところで、謎の力で跳ね返しそうな気がする。
それにしてもこの戦闘機も奇妙な機体だ。プロペラもないのに飛んでいる。翼はついてるようだが、異様に短い。
するとこの機体を射出させた戦艦が、いつのまにかこちらの下に潜り込んでいた。
相対速度はほぼ同じ。横の機の後部席の人は、今度は両手を上下に上げ下げしている。ゆっくり降りろと言ってるようだ。
こうなったら従うしかない。言われるがままに機体をゆっくり下げた。
ギアを下ろし、この艦の最も平らな部分めがけて降りた。
そして着地。とんでもないところに降り立ってしまった。
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さて着陸させたのはいいが、これからどうするのか?まさかそのまま乗っけていくわけでもあるまい、などと考えていたら、艦長から私に命令が下った。
「大尉!あの爆撃機の乗組員を艦内にお迎えしろ。」
…はい?私が行くんですか??
などと反論できるわけもなく、
「ロバート大尉!爆撃隊乗員保護のため、甲板に向かいます!」
つくづくサラリーマンだ、私は。
相手が私に向かって機銃を撃ってくるかもしれないから、携帯バリアだけ身につけて向かった。
ちょうど艦上面の中央部分にはハッチがあって、彼らの近くに行くことができる。ちょっと狭い通路を通り、ハシゴを登ってハッチにたどり着く。
ハッチを開くと、強い風が入ってくる。高度2000メートル、速度は時速70キロほど。なんとか歩けないレベルではないが、私にはちょっと強過ぎる風。20メートルほど先に、あの爆撃機がいた。あそこまでたどり着けるのか!?
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さっきの航空機は、我々の後ろ側で開いたハッチの中に入っていった。
それとは別に、今度は小さなハッチが開き、人が出てきた。
さっきから思っているのだが、彼らはこの地球の外からやってきた宇宙人ではないか?
そういう存在があるとどこかの雑誌で見た覚えがある。我々を凌駕する技術を持ち、空飛ぶ大きな乗り物に乗って宇宙からやってくるんだそうだ。
だとすれば、この技術差は納得がいく。つまり、今我々の方に向かってきているこの人のようなものは、宇宙人ということになる。
そんな三流雑誌の作り話のような事態にまさか遭遇するとは夢にも思わなかったが、そう考えるのが現状もっとも合理的だ。
それにしても、あまり我々と変わらないようだ。その雑誌でみた宇宙人とは、目が大きく、足は4本あって、テカテカの服に身を包んだ異様な生物だったが、こっちのは手足も顔も我々と同じ。服もいかにも軍服といったものを着ている。もっと凄いのが出てくるかと思っていたが、普通すぎて拍子抜けだ。
しかし、宇宙人ならばどんな超能力を使ってくるか、分かったものではない。十分に警戒して…
…あ、今転んだぞ。なんだこいつ。大丈夫か?
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…大体、私は運動がまるでダメ。軍大学での行軍訓練も途中でリタイアした経歴を持つ。
そんな私が上空2000メートルを時速70キロで飛ぶ駆逐艦の甲板上を歩けというのは無茶な話だ。もはや機銃で撃たれようものなら、バリアで避ける余裕も無く、あっさりと撃たれてしまいそうだ。
なんとかたどり着いた。さて、一体どうやって彼らと接触すればいいんだ?
などと思ってたら、1人機首側から降りてきた。
「私はこの爆撃機の機長、リチャードだ。何の用か?」
向こうから話しかけてきた。これはチャンスだ。
「すいませ~ん。私はロバートと言います。皆さんをお迎えに参りました!」
とにかく風が強い。先ずは艦内に入ってもらおう。話はそれからだ。
中から5、6人くらい、いやもっと出てきた。数を数えてる余裕がない。相手は警戒してるだろうが、まずはこちらにきてもらおう。
「こちらのハッチからお入りください!」
…などと叫びながら、またこけてしまった。ちょっと今度のは打ち所が悪い。甲板上の配管に、向こう脛をぶつけてしまった。痛くて立てない…
などと1人であがいていたら、あの爆撃機の人が2、3人やってきて、一緒にハッチの方まで肩を貸してくれた。
まあなんとも情けない話だが、おかげで皆さんこちらにきてくれた。頼りないのもたまには役に立つものだ。
そんなこんなで、爆撃機の乗員と私はハッチの中に入った。
「いやあ~助かりました~。こういうところを歩くのは慣れてなくて…ところで、皆さんはお揃いですか?」
「ああ…これで全員だ。ところで、聞きたいことが山ほどあるのだが、よろしいか?」
「はい、私がわかることであればなんでもお答えしますよ。先ずはこのハシゴを降りて下さい。ここの通路細いですから頭を当てないように…痛っ!」
もうやだこの通路。ハシゴを降りた先の狭い通路の角に後頭部をぶつけてしまった。かっこ悪すぎだ。
なんとか通路を抜けて、艦橋そばの会議室まで案内するのが私の役目。
その道すがら、この機長さんからいろいろ聞かれた。
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なんだか頼りなさそうで、思わず手助けしてしまい、気づけばこの戦艦に乗り込んでいた。まあ、仕方がない。ここまで来たらいっそ、彼らには聞いてみたいことがたくさんある。
最初に気になったのは、彼らがどこからきたのかということだ。
「あなた方は、いったいどこの国の方です?」
「ああ、我々はこの星のものではありません。簡単にいうと、宇宙人ですかね。ああ、でも姿格好はご覧の通り、あなた方と同じです。」
「なぜ、我々と同じ言葉を?」
「これ宇宙の統一語と呼ばれる言語なんです。なぜかどの星にもこの言葉を話す民族がいてですね…」
「えっ!?他にも星が!?」
「ありますよ。今全部で740くらいあります。私の星はその中の411番目、地球411と呼ばれる惑星です。」
衝撃的な話だ。我々のような星が全部で700以上もある。このロバートという人から語られる話は信じがたいことばかりだ。
それにしても、随分と入り組んだ通路だ。大きな船のわりに中はさほど広くはない印象だ。
「すいません、狭い駆逐艦ですが、もうちょっとしたら広い部屋に出ますので、もうしばらく我慢願います。」
「えっ!?駆逐艦?これが駆逐艦!?戦艦ではないのか?」
「いやあ、こんなに狭くはないですよ、戦艦は。」
ここで衝撃的だったのは、この船が「駆逐艦」だということだ。これでも彼らにとっては小型艦の扱いなのか?
そういえば、彼らと遭遇する前の謎の無電。あそこで駆逐艦と言っていたが、これのことだったのか。つまり、あの無電の発信元は、間違いなく彼らだ。
それよりも、彼らのいう「戦艦」も気がかりだ。どれほどの大きさなのか。みてみたい気もする。
などと話しながら歩いてると、ある部屋に通された。
そこには、ずらりと正装の人たちが並んでいた。
「ようこそ!我が艦、1420号艦へ。艦長のチャールズと申します。」
さすがは艦長というだけあって落ち着いたいでたち。
それにしても、この艦も1420番という数字が割り振られているんだ。
私も応えた。
「爆撃機 第1420番機 機長、リチャードといいます。エンジン停止トラブルのところを救っていただき、感謝いたします。」
爆撃をした相手だが、不思議と敵対感はない。さっきのドジ…いや親切な大尉殿のおかげか。
1420という偶然同じ番号の機体と駆逐艦。運命の出会いという奴だろうか。数字の一致に、この艦長殿も驚いたようだった。
ここで簡単に彼らの話を聞いた。この宇宙には、連合と連盟の二つの勢力があり、160年も戦争状態にあること。で、我々の星を、彼らと同じ連合側に加えたいと考えてること。それに先立ち殺戮をまず食い止めたかったというのが、今回の彼らの行動だったこと。
この先、我々の地球上全ての人が一致団結しないと対処できないほどの状況になるため、禍根を残す殺戮行為はさせないことが我々の利益になると言われた。
なるほど、だから彼らは我々を攻撃しなかったのか。話に飛躍があってまだ納得はできないが、確かに合点が行く。
他にもいろいろ知りたいことはあるが、まず彼らからの要請を聞く必要がある。
それは、この艦の空軍基地への着陸許可を取り付けること。
上に乗せた爆撃機を送り届けるため、また交渉官と呼ばれる人が我が政府と交渉をしたいという旨を伝えること、これらのために一度我らの空港に立ち寄りたいそうだ。
なんだか、妙な宇宙人だ。侵略も拉致もしないばかりか、低姿勢で交渉を求めたがってる。
我々は安全が保証されるなら、地上に許可を求めてみると回答した。
さて、我々は今度は食堂に招かれた。なんでも今度に作戦成功をお祝いするお祝いパーティーをするそうだ。
我々にとっては作戦失敗に追い込まれたわけだが、このパーティーに巻き込まれてしまった。
お祝いの席に、この艦ではローストチキンという料理を食べるのが習わしらしい。
「えーっと、本日は作戦がうまくいったこと、そして爆撃機を無事救出できたことをお祝いして、乾杯したいと思います。我が惑星と、この星の今後の発展を願って、乾杯!」
「乾杯!!」
乾杯の音頭をとっていたのは先ほどのロバート大尉だ。皆一斉に手元のドリンクで乾杯した。
我々にもローストチキンが配られた。食べてみたが、確かに美味い。
我々にとっての「失敗」を祝うこの宇宙人達のパーティーに、我ら10名もいつの間にか飲み込まれてしまった。