爆撃機と駆逐艦とローストチキン 2
爆撃機編隊まであと40キロの地点まできた。高度は4000メートル。そろそろこちらに気づく頃だろう。
我々の駆逐艦はだいたい250~300メートルの中型艦クラスで編成されている。この距離ならば、目のいい人なら見つけてくるはずだ。
我々の側からは300機の爆撃用大型4発機と、小型の単発戦闘機との区別がつけられるほどくっきりとレーダーが認識してくれている。我々の駆逐艦は横一線でこの編隊と相対することとした。
この編隊の前に立ちはだかり、編隊の向きを変えさせる。発砲できない以上、この方法でしか相手を引き返させることはできない。
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「前方に大型機!距離30マイル!数は10機!!」
突然、先行機より無電が入った。
大型機とは敵機だろうか?しかし、この内容では大きさがわからない。この機より大きいとは思えないが、せめておおよその大きさを知らせてほしいものだ。
この連絡を聞いて、戦闘機隊が集結し始めた。空中戦があり得ると睨んだのだろう。相手はたかが10機。すぐに排除できると思われる。
それにしても、先の基地からの無線のことが気がかりになる。そういえばあれも10機だと言っていた。エコーではなく、本物だったのか。でもさすがに6万フィートからはやってくるまい。
そうこうしているうちに、こちらからも敵機が見えるようになってきた。機首の風防ガラス越しに敵機を見るが…なんだか妙だ。
敵機にはどう見ても翼がない。機首には大きな穴が空いている。およそ飛行機とは程遠い形だ。
なによりも、大きすぎる。大型機どころではない。正面から見る大きさだけでも70フィート以上はある。
これは戦艦だ。空中に浮かぶ戦艦と言った方がいい。徐々に大きく見えるこの謎の飛行物体に、我々は驚愕した。
なんなんだ?これは。敵の新兵器か?
この謎の飛行物体は脅威だが、この攻撃は国王陛下勅命の作戦。我らの意思で引き返すわけにはいかない。
隊長機より無線で檄がとんだ。
「我々の生死を決められるのは唯一陛下のみである!恐れをなして撤退するなど我が軍にはありえない!たとえ最後の一兵になろうと、前進を止めるな!」
その直後に戦闘機隊が突撃態勢に入った。突然現れたこの巨大飛行物体に対する攻撃が始まる。
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相手の無線を傍受する限りでは、我々の姿は捉えられたようだ。だがどうやら引く気はないらしい。
それどころか、護衛機が戦闘態勢に入った模様だ。
想定された事態だが、ここはただ受けるより他に方法がない。
威嚇用の未臨界砲撃を使うことも考えたが、空中を飛ぶ航空機相手では未臨界砲撃の起こす爆風は危ない。間違っても、墜落の事態は避けたいところだ。
戦闘機の機銃ごときでは駆逐艦はビクともしないが、ちょっと艦橋の窓だけが心配だ。傷がつくと、航行に支障が出る可能性もある。
幸い、艦橋の窓は艦で最も弱いところであるため、専用のバリアというものが備え付けられている。それでしのぐしかないだろう。
「1時の方向、距離800!機数25!当艦に接近!」
おいでなすった。護衛戦闘機の群れがやってきた。
事前情報通り、単発のレシプロエンジンを搭載した機体で、武装は機銃のみのようだ。速力500キロ程度。他に飛び道具はなさそうだ。
しかしこの戦闘機相手に艦砲用バリアを展開すれば、瞬時に消し飛んでしまうだろう。各艦には、艦橋の窓以外のバリアの展開は禁止との旨を伝えた。
高度4500まで上昇してアタックをかけてきた。はなから本体は効かないと踏んだようで、全機、艦橋の窓を狙ってきた。
急降下で甲高い音を立てて航空機25機が襲いかかってきた。
ババババという機銃の音が響く。艦橋の窓の前に展開されたバリアがそれを弾く。
数回アタックしてきたが、まるで効果がないことがわかったのか、それとも弾が切れたのか、引き揚げていった。
これで護衛戦闘機200機のうち100機ほどが帰還していった。戦闘のため増槽も切り離し、しかも弾切れになったからだと思われる。
だが肝心の爆撃機は引き返さない。我々の方に向かってくる。どうしたものか。
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戦闘機隊がアタックを仕掛けたが、やはり無駄だったようだ。
相手は戦艦。機銃ごときではビクともしない。せめて急降下爆撃機でもいれば損害を与えられたのだろうが。
ただ、不思議なことに敵は全く撃ってこない。機銃掃射一つしてこない。どういうことか?
よく見ると、表面には何やら色々ついているが、大砲もなければ機銃らしき武装も見当たらないようだ。まさかとは思うが、対空兵器がないのだろうか?空飛ぶ船のくせに。
武器と思えるものは、この船の先端に開けられた大きな穴。明らかにこれは「砲」だ。
しかしそれすら撃ってこない。威力は不明だが、あの大きさなら一発で爆撃機を何機か叩き落とせるんじゃないのか。
威圧感だけで一向に攻撃してこない敵に、我々は躊躇しながらも、これを迂回してやり過ごそうとした。
ところが、あるところから相対速度が変わらない。あの10機、いや10隻、あの大きさで、しかも後ろ向きに我々の爆撃機編隊と同じ速度で飛んでいる。一体、どうやって?
迂回はできないが、攻撃も仕掛けてこないため、このまま飛行を続けた。
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爆撃機編隊を1機も落さず、どうやって引き返させるか?
早速、私を含めた作戦参謀が集まり、会議を開いた。
残り時間はあと2時間ほど。このままでは、目標と思われる大都市上空に達してしまう。
こちらも航空機を出してみてはどうかという意見が出た。が、出たところで攻撃できなければ役には立たない。だいたい空飛ぶ駆逐艦を見て引き返さない相手に、今さら航空機を見せたところで威嚇にはならないだろう。
我々の威嚇の手段が意外と乏しいことに気づいた。考えみれば、艦を並べておけば引き返してくれるだろうと考えていて、それ以上のことを全く考えていなかった。
だがこれだけの編隊なので、引き返そうにも身動きが取れなくて引き返せないのではないか?そもそも威嚇したところで、彼らは前に進むしかないのではないか?
無線の内容を聞く限り、もうこちらが攻撃してこないとバレているようだし、さっきは国王陛下のため最後の一兵まで戦うとか言ってたし、全く前進を止める気配がない。
そうなると、威嚇ではダメだ。
何か別の方法で引き返させることを考える必要がある。
そういえば、さっきの戦闘機隊は引き揚げていった。
燃料と武器を消費したためだ。そんな状態で爆撃機編隊にこれ以上ついていっても仕方がないという判断だろう。
ということは、彼らも武器を使ってしまえば、引き返さざるを得ないのではないか?
しかしここにいる爆撃機というのは、爆弾を下に落っことすしかできないようだ。どうやってあの爆弾を落とさせるか?
ということで、私は発言した。
「10隻で一斉に、彼らの下に潜ってはどうでしょう?」
「下に潜る?そんなことしてどうなるんだ?」
「少なくともあの機体は真下が弱点のようです。何せ爆弾抱えてますし、機銃はほとんど上からの攻撃に対する備えのようです。我々が潜り込んだら、さすがに何か仕掛けてくるんじゃないでしょうか?」
「なるほど、奴らが下にもぐる我々をみて爆弾を落としてくるかもしれないということか。やってみる価値はありそうだ。」
参謀長を兼任する我が艦長が決断した。その場にいた交渉官殿も同意。
これより「爆撃機下に潜って爆撃させる作戦」が開始された。
なんてセンスのない作戦名だって?エレガントな名前を考えている暇がないんですよ。今は。
さて、全艦で高度を下げ、爆撃機編隊の真下に突入した。
やや思わせぶりに艦首を上げながら航行。いかにも撃つぞというそぶりを見せるわけだ。
すると彼らは爆弾を投下してくると思われる。もし攻撃してくるつもりなら、彼らの持つ最大の武器を使ってくるはずだ。
仮に攻撃の意図がなくとも、爆撃機というのは攻撃回避のために機体を軽くしないといけないはずなので、戦闘の意思があろうがなかろうが、爆弾を投下する。
早速、我々は高度を2000まで下げた。
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前方のあの奇妙な艦隊に動きがあった。高度を下げ始めたのだ。何をするつもりだ?
そしてそのまま、こちら側に向かってくる。真下を通過しようとしているようだ。
いよいよ攻撃するつもりになったのか?この行動からは、それ以外考えられない。
ゆっくりとこちらの真下に入り込んでくる。
それにしても大きい。今まで真正面ばかり見ていたが、真上から見ると800~1000フィートはありそうだ。
それにしても、少し艦首を上げ気味だ。まさか、あの先端の砲を使うつもりか?
「全機!爆撃準備!」
隊長機より無線で指示が飛んだ。我が隊の指令も、やつらがついに攻撃してくると踏んだようだ。
真下に潜られては我々の爆弾倉をさらけ出すことになる。すぐに投棄しないと危ない。逃げるにせよ、攻撃するつもりにせよ、我々は爆弾を投下せざるを得ないだろう。
ならば、我々は攻撃手段として用いるべきだろう。どうせ捨ててしまうなら、その方がましだ。
我々が持っているのは、大都市を火の海にできるほどの強大な武器。これをまともに食らえば、いかに戦艦といえどもひとたまりもないはずだ。
爆弾に付けられた安全ロックを解除、下部ハッチを開いた。
私は照準器越しに、下の戦艦を見た。
1000フィートはある大型艦だ。大きいがゆえに、簡単に当てられる。
隊長機に攻撃許可を求めた。すぐに攻撃命令が下りた。
我々は持てる爆弾を全て真下の戦艦に叩きつけた。
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思惑通り、爆弾倉が開いた。
早速爆弾の雨が降ってきた。
「爆弾多数!直撃します。」
真上で凄まじい爆発音とともに、複数の爆弾が炸裂した。
だが、爆弾相手なら遠慮なくバリアが使える。直撃弾はバリアで防がれ、当たらないものは横をすり抜けて海に落ちていく。
こうして、第1波の攻撃はあっさりしのいだ。
後ろに控える爆撃機が第2、第3波と攻撃してくるが、こちらはその攻撃の数百倍の威力に耐えられるよう作られた船。この程度では傷一つ付けられない。
こうして、我々は彼らに大量殺戮の兵器を投棄させることができた。作戦は成功だ。
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我々の落とした爆弾のうち、何発かは直撃したはずだ。
だが奴らは悠々と浮かんでいる。全く当たった形跡がない。
後続機の攻撃をみたが、どうやら着弾する少し手前で炸裂している。
彼らは見えない壁のようなものでも持ってるんだろうか?そんな感じだ。
しかもその壁は硬い。第5攻撃まで加えても、傷一つつかない。
ついに全機、爆弾が尽きてしまった。
こうなっては敵首都に行く理由もない。隊長機より撤収命令が出た。
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どうやら、爆撃機隊全機に撤退命令が出たようだ。次々に回頭していく。
我々も再び高度を取り、今度は彼らの後方からついていくことになった。
ただし10隻は多いので、3隻を残しそのほかはこの空域から離脱させた。
すべて帰還してもいいのだが、もしかしたら何機かは爆弾を残していて、我々が撤収したのちに再び爆撃任務に戻られる可能性があるため、彼らの基地まで見張る必要がある。
ちょっと距離を取りつつ、後ろからついていった。このまま終わればいいのだが。