爆撃機と駆逐艦とローストチキン 1
私の名はリチャード。階級は大尉。世界最大の国家、ネイチャー王国の空軍に所属する。現在、交戦中の隣国エミナーに向け爆撃任務に出発するところだ。その爆撃機の機長を務める。
今回の作戦は敵首都を300機により爆撃する作戦で、護衛機200機とともに出発するところだ。
すでに敵地の制空権は我々が握っており、主要な工業地帯はほぼ爆撃され、敵国は壊滅状態にある。が、依然として降伏に応じないため、今回の首都への大規模爆撃が立案された。
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私の名はロバート。階級は大尉。地球411の遠征艦隊 第11小隊所属の1420号艦所属の作戦参謀を務めている。
このほど発見された惑星の探査に訪れた。いずれ地球742となるであろうこの星だが、地上で不穏な動きがキャッチされた。
無線などを解読すると、どうやら爆撃による大量殺戮が行われるらしいとのこと。まだこの惑星とは接触前だが、この作戦を速やかに阻止せよとの艦隊司令からの命令が下された。
だが確認されている兵力は、レシプロ4発の爆撃機らしき機体がおよそ300機、護衛用の単発戦闘機が200機程度とのこと。
それを迎え撃つ駆逐艦は、我がチーム10隻のみ。
もちろん我々は連合軍規第53条の縛りがある。要するに、発砲できない。
10隻対500機。大きさが違うため一概に比較はできないが、いくらなんでも10隻は少なすぎる。
せめて小隊300隻でぐるっと囲んでしまえばすぐに撤退してくれるはずだが、そういう威圧的な行動は控えよとの方針。いや、10でも300でも、相手はビビるでしょう?そういうのを50歩100歩というらしいですよ?
などといってみたところで、我々の軍上層部が方針を変えるわけはない。というわけで、500機もの航空機をたった10隻で、発砲もなしに本国に引き返させよという、かなり無茶な作戦が開始された。
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時刻は午後6時。我が編隊が爆撃地点に到達するのは3時間後の午後9時。夜の爆撃となる。
無論、首都は市街地が大半であるため、民間人が多数犠牲になることは間違いない。だがこの戦争を一刻も早く終わらせるためにはやむを得ない犠牲。そう言い聞かせるしかない。
私の機は離陸し、少し先の空域で待機、残りの爆撃機の合流を待つ。数が多すぎるため、5つの基地から発進し合流しているが、合流完了には今しばらく時間がかかりそうだ。
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さて、大気圏を突破した我々は、一旦高度2万メートルで待機。10隻集合し陣形を整えて降下開始。今回作戦に参加したのは1411~1420番艦の10隻。連合側では、リーダー艦は下一桁が0の艦が務めるという決まりがある。つまり我々の艦がリーダー艦だ。
この艦のみ参謀本部が設置され、艦長も大佐級が務める。今回の作戦を取り仕切るのはまさにこの艦の艦長と、我々作戦参謀の仕事だ。
なおこの艦には「文官」が数名乗艦している。可能であれば、この星の住人との接触を行うためだ。
連合側の軍は文民統制が基本。このため、この艦に乗る最高位の文官である交渉官が、この10隻で最高権限を有する。作戦の承認も中止もこの交渉官殿次第だ。
幸いこの交渉官殿はこういう事態の経験はある方で、過去にも未知惑星の戦闘停止に関わったことがあるらしい。それ故にここに派遣されたようだ。
ただし、前回は文化レベル2の戦闘の仲介だったらしい。しかし今回は文化レベル3から4の間くらいの、多くの航空機を有する国が相手。そう簡単に行くかどうか。
わが艦のレーダーが、地上付近の大規模な編隊を捉えた。総数500。いよいよあちらは動き出した。降下開始だ。
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集結を終えた我々は、敵首都に向けて進撃を開始した。
私の乗るこの爆撃機は4発のレシプロエンジンを搭載、乗員は10名。この爆撃機製造工場を1420番目にロールアウトした機体ということで、外には「1420」という数字が書かれている。
さて、500機が集結し、攻撃目標へ向かい始めた時、地上から妙な通信が入った。
10機の航空機らしきものがこちらに向かっているという連絡だった。
ただしこの10機は高度も速力も非常識なもので、高度6万フィート、速力100ノット以上というのだ。
高高度に飛ぶ能力を持つ我々の機体ですら高度3万フィートがせいぜい。いくら何でも、6万フィートはありえない。
おそらく、大気層によるレーダー波のエコーによる残像ではないかと考えられるが、一応警戒されたしという連絡だった。
大作戦を前に不吉な現象だ。幸先が悪い。ともかく我々は作戦遂行に全力を注ぐだけだ。
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一応この艦はステルス塗装により、通常のレーダーでは航空機ほどの大きさにしか映らない。
それでも、この星の軍隊のレーダーで捕捉されている可能性があるため、作戦の第一段階を実行することにした。
あの航空部隊の使っている無線の周波数は解析済み、言葉も統一語を使用していることがわかっている。
そこで、無線でまず撤退勧告を行う。
これで引き返してくれれば一番だが、奇妙には思っても無視して飛ぶのは間違いない。我々が姿を現さない限り、撤退することは考えられない。
とはいえ、まずは勧告を行う。我々が出て行く前に、こちらの目的を明確に伝えておくことは、その後の行動をする上でも必要だ。
ここで、交渉官殿の声で撤退勧告が出された。
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さて、先ほどの地上からの連絡の直後に、妙な無線が入った。
「我々は宇宙連合 地球411の遠征艦隊所属の駆逐艦部隊。貴殿らには速やかに撤退されることを希望する。我々は宇宙連合軍規にしたがい、民間人への虐殺行為を阻止するための行動を行う。繰り返す、貴殿らに…」
なんだ?平文で妙な撤退勧告とやらが流れた。
敵の策略と考えるのが自然だが、こんな荒唐無稽な工作は聞いたことがない。なんだ?艦隊とは。我々は空の上だ。まさか下の海上に敵の艦隊でもいるのか?
それにしても駆逐艦では爆撃機を落とせない。せめて空母でもあるなら別だが、すでに敵にまともな空母部隊は残っていない。先の海戦で我が軍は徹底的に敵機動部隊を壊滅に追いやったはずだ。
駆逐艦など、対空機銃もろくに付いていないそんな船で我々に脅しをかけるとは笑わせる。まあいい、いつでも相手になってやる。
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さて、撤退勧告は出した。いよいよ第二段階。いよいよ彼らに前に10隻の駆逐艦が立ちはだかる。
おそらく、これほどの大きさのものが空中に浮かぶなど、彼らにとっては常識外であろう。それで驚いて進撃の意欲を失わせ、撤退に追い込めれば良いのだが…そんなに簡単にいくものか?
なんとなく、長い戦いになりそう。そんな予感がする。




