姫と貴族と世直し騒動 5
謁見の時間は朝の10時ごろ。
この上屋敷より登城する。
ということで、大急ぎで貢ぎ物を用意してもらう。なんといっても、相手はここの最高権力者。下手なものはあげられない。
もうテロ対策のことなどどうでもいい感じになってきた。なんとしてでもこの謁見を乗り切らないといけない。
しかし、目的はあくまでもサカエの街を守ること。そのための承認を取り付けること。その後の交易に関する交渉は交渉官にお任せする。
できれば今回の一件も交渉官に引き継ぎたかったが、ここまできてしまったらもう引き継ぎは困難ということで、このテロの帽子が終わるまでは私がやることになった。やはりブラックだ、惑星調査業務は。
そういえば、昨日はおキヨ殿にほとんど会っていないなぁ。あの笑顔に癒されたい。そんな気分だ。
さて、ついにタイコウ様との謁見だ。
なんだか、上屋敷など問題にならないくらい大きな広間に通された。
「上様、おなーりー。」
傍にいる家来の掛け声とともに、いかにもな人物が登場した。
非常に小柄な老人だが、歩くのが早い。すたすたと高座についた。
「いや、待たせたな。では、さっさと始めるとするか。」
いきなり単刀直入だ。とてもせっかちな感じがする。
「お主らのことは、昨日トダより貰った動画とやらで見聞きしておる。そして、世直しとやらの企みもすでに知っておる。」
トダ、とはこのおキヨさんの父上のこの殿様のことだな。そういえば、名前を聞いてなかったな。
「で、お主らの用件を聞こうか。」
「はい、我々のお願いは、まずこのサカエの都上空に大型の船を3隻浮かべます。その御許可をいただきたいのです。」
「なんだそんなことか。なぜそんなことをいちいちわしに確認する?」
「未知の船があなた方の真上に現れては、不安になります。場合によっては大きな音や光を放つことがあるかもしれず、事前通告なしではさらに不安が増大することもあり得ます。我々の願いはあなた方との交易と同盟。その前に不安を抱かれるのは我々の意図するところではありません。」
「なるほど、わしらに対する配慮ということか。しかし…」
少し身を乗り出して言った。
「この世直しとやらを片付けたら、次はお主らにこのサカエは奪われるのではないか?」
同行した殿様や、周りの家臣も一同、タイコウ様の方を見た。
「決してそのようなことは致しません。」
「そうだろう、お主らは我々を武力で制圧することはないだろう。おそらくはわしらを凌駕する力を有していながら、わざわざこのようなことまで配慮している。この点は間違いなかろう。」
武力制圧の可能性がないと認めているのに、なぜ我々がこの都を奪えるのだろうか?
「しかし、新しいものの出現は、古い体制を破壊する。1年先か、10年先かはわからんが、いずれ飲み込まれるだろうな。」
つまり、我々の思想侵略を警戒しているようだ。
「その点についてもご安心ください。我々自身がそのようなことが起こらないことを体感しております。」
「どういうことじゃ?」
「私の星でも昔、同じように交易と同盟を結びました。以来49年経過しましたが、私のシュタインブルグ家は未だ絶えておりません。我々の国王陛下も未だ健在です。」
「ほう…お主もダイミョウか?」
「我々は貴族と呼んでおります。ダイミョウと同じようなものと思ってください。」
そういえば、私も誇りある貴族の一員だ。すっかり忘れていたが、私とて決してタイコウ殿、ダイミョウの方々に引けを取らない家柄なのだ。
「私は次男ゆえ、家督を継ぐ兄を支えるため宇宙に出て、自身の星に貢献せよと言われこうして働いております。」
「ほほう、面白いことを申す。つまり、新しい時代でもわしとこのダイミョウ達はお主らの交易により消える運命ではなく、恩恵を受けるといいたいのか。」
「その通りです。」
「だが、若いものならともかく、わしのような老人は役に立たぬであろう。」
「いえ、1人として役に立たない方はおりません。ましてやそこまでお見通しであれば、必ずこのサカエの人々のため、必ずやお力をいただけるものと思います。」
「ほほう、面白い男じゃの。だが不思議と信じてみたくなるのぉ。」
ああ、ちょっと、言い過ぎたかな…あとで何か言われないといいのだが。
「よかろう、お主らと交易しよう。」
突然、タイコウ様は叫んだ。
私の目的は、ただ駆逐艦の領内への侵入の許可をもらうことだったのだが、思わぬ収穫が得られた。
「後のことはこのものらに任せる。お主らからいただいたカスティーラと申すこの菓子を食べねばならんからのう。」
そういって、タイコウ様は立ち去られた。
なんとも度量のあるお方だ。まさかこんなところでこの国とのつながりを約束できることになるとは思わなかった。タイコウ様には感謝し足りないくらいだ。
さて、いよいよ今夜には駆逐艦3隻を使って運河をせき止め、「世直し」テロを阻止する作戦を始める。