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魔女と木彫りとパイロット 2

突如、森の方から奇妙な格好をした男が現れた。


このときの私はパイロットスーツ。当たり前だが、ここの住人は初めて見る姿だ。


さっきまで罪状を読み上げていた神経質男は、驚いてこちらを見ていた。


「な…なんだ!お前は!」

「通りすがりのものだ。」


もうちょっと気の利いたことをいえないのか、私は。


「何故、彼女が殺されなければならないのか?」

「この女は魔法で他人の分身を作り上げ、その分身を使って呪い殺そうとしていた魔女だからだ!」


そういうと、神経質男はなにやら木で作られた人形を見せてきた。


たしかにうまくできた木彫りだが、しかしどう見ても何の変哲もない木製の人形。これのどこが”魔法”なのか?


「ただの木彫りだろ、これ。」


思ったことは、口に出す性分だ。


「何を言うか!こんなに人間そっくりのものを作って、呪い以外に何に使うというのだ!」


いやあ、飾ったり遊んだりしてますが、私のところでは。


しかしちょっと悪いことを思いついた。ならば、この人形以上のものをみせてやろうかと。


そう考えて、胸ポケットからスマートフォンを取り出した。


この端末は画像から飛び出す3D映像を表示することが可能だ。


たしか、最近手に入れた3D動画が入っていたはず。木彫りごときで驚く連中にこれを見せれば、一体どういう反応をするだろうか?


「生きた人間そっくりの人形というのは、こういうものをいうんですよ」


手に載せたスマートフォンから、約30センチほどの女性の姿が飛び出してきた。


周りがざわめき始めた。


彼らからすれば、まさに”魔法”である。


なおこの3D動画、最近手に入れた、いわゆるアイドルの映像である。


が、この映像はいささか刺激的過ぎた。


大体木彫りを人間そっくりに彫っただけで”魔女扱い”する人々である。


それがこんな動く3D映像を出した私のことを、どう思うか?


どう考えても「魔法使い」だ。


一気に、緊張が走る。


処刑の対象に、私も加わったのを感じた。


「こ…こいつも、魔法使いだ!!」


槍を持った住人が数人、こちらに向かって走ってきた。


やれやれ、もはや無事ではすまない。


しかし、住人に危害を加えるわけにはいかない。


そこで、私は腰に手をやった。


ところで、私が所有する武器は2種類ある。


1つは、高エネルギービームを発射可能な拳銃。


実弾ではなくビーム兵器なため、、手のひらサイズながら対人兵器から家一軒を吹き飛ばせる威力まで出力調整が可能。


が、今回使うのはもう1つの兵器。「耐衝撃粒子散布機」と呼ばれるものだ。


これは武器というより、盾といったほうがいい。


発生させた磁界が金属などの接近により変化すると、その磁界変化部に粒子が自動で散布される。この粒子は侵入物の力方向に反発する性質があるため、つまりは侵入してきたものをはじきかえしてしまう。


早い話が「バリア」だ。


私の腰についたベルトにバリアのスイッチがついており、このスイッチを押してる間だけバリアが発動するようになっている。半径50センチ以内に入ろうとするものを弾き飛ばす。


一人の槍を持った住人が、私めがけて突いてきた。


さて、本当にこのバリア、ちゃんと動作してくれるんだろうか?


私は実際に使ったことがないので、内心不安ではあった。


が、凄まじい火花とともにバリアは槍を弾き飛ばしてしまった。


槍先は真っ二つに折れ、この住人もろとも後ろに吹き飛ばした。


全く手を触れることなく、凄まじい光が槍もろとも村人を弾き飛ばしたものだから、その場にいた数十人の住人たちは息を飲んだ。


ああ、ちょっと刺激が多かったかなぁ…すでにこの時点で正当な理由なき武器の使用、民間人への危害、もはや軍事法廷ものだ。


ただこのときはあまり冷静ではなかった。ここであきらめたら、一人の命がこの世から消える。そんな正義感だけが私の中にはあった。


今度は、例の神経質男が剣を片手に迫ってきた。


「貴様…怪しい技を…」


などとつぶやいたかと思うと、いきなり切りかかってきた!


が、これもバリアでなんとかしのぐ。


剣の刃は砕け、衝撃で神経質男も倒れこんだ。


先ほどの住人といいこの神経質男といい、バリアにはじかれたものの幸いやけどやけがはしなかったようだ。


しかし、この集団のリーダーに手をかけてしまった以上、もはや収拾がつかないのではないか?


この先は、バリアだけではすまないか?


と思ったその時。


一人の老人が、突如口を開いた。


「もうやめよ!」


ゆっくりと立ち上がり、神経質男の方に歩み寄る。


「魔法使い相手にこれ以上やっても勝ち目はなかろうて、剣を収めよ。」


「いや、村長!このままでは、我々はこの悪魔に殺されるだけですぞ!」


「本当に、この魔法使いはわしらを殺そうとしとるんじゃろうか?」


その老人はこちらをちらっと見た。


「この男が我々を殺す気なら、わしらと話すことなくいきなり殺しにかかったことだろう。これだけの力を持っていながらいきなり襲い掛かることなく、わしらと対話で解決しようとしていた。おそらく、わしらと戦うつもりなどなかったのではないか?」


このご老人、なかなかの賢明な方だ。よく状況を分かっていらっしゃる。


「して、そなたはいったい何者じゃ。この辺りでは見かけぬ顔、どこから参られた。」

「実は、私は遠くの星から来たものでして…」


急に冷静になった私は、ちょっと控えめに話し始めた。


そういえばスマートフォンの中に、この宇宙の概要を説明する3D動画があったはずだ。再びホログラフィを表示させ、この星のこと、宇宙船のこと、宇宙は2つの勢力に分かれていて我々はこの「地球」と友好を結ぶためにやってきたこと、などなどをざっくり説明した。


「うむ…なるほど、よくわからんのぉ。」


まあ、いきなりそんな話されても、わかるわけがないですかね、普通。


「しかしなぜこれだけの力を持っていて、わしらと仲良くしようなどといってくるのか。そこが一番わからんのぉ。どの国もそうじゃが、強いものが武力で弱いものを従わせる。それが普通ではないのか?なぜ、わしらと友好何ぞ結ぶ必要があるんじゃ?」


未知の惑星探査でよく投げかけられる質問、第一位はこれ。武力で制圧すればいいじゃないの?なご意見。


それが今の分裂の宇宙を生み出すきっかけになったわけで、いまさらそんな愚行を犯すわけにはいかない。


そんな話を村長殿にしてみた。


「なるほど、まあ、その通りだろうなぁ。戦では結局、人心が離れてしまう。」


さて、あれだけ緊迫した状況が村長のおかげで収まってしまった。なかなかの実力者のようだ。


だが、魔女狩りという愚行をこの村長でも抑えられなかったのは不思議だ。


「あの、そろそろあの娘をおろしてやってはもらえませんか。」

「おお、そうじゃったな。」


村長はそばにいた住人に命じて、その女性を処刑台より降ろさせた。


「思えば彼女が本当の魔女であれば、おぬしのようにつかまえることもできなんだはずじゃろうな。そう考えると、今までの魔女も…」


ため息をつきながら、村長殿は言った。


とりあえず、一人の命は救われた。ちょっと無計画に飛び出したが、結果オーライだ。


さて、ここまで来てしまったら村長殿とさらに今後のことを話し合いたいところ。


しかしすでに夜中なので、明日の昼、太陽が真上に登る頃に再び訪問するという約束を交わし、今日のところは引き上げることにした。


ただ”魔女”だった彼女をどうするかを相談した結果、私が引き受けることになった。


なんでも、処刑に先立ち彼女の自宅は破壊、元々両親も無く独り身だったため、この村での居場所がないそうだ。


幸いなことに複座の機体に単身で乗り込んだため、もう一人分の座席はある。


結局、彼女を背負って戦闘機まで運ぶことになった。


なんとか彼女を後部座席に載せて、私も操縦席に座った。


さて・・・うちの艦長にはなんと話そうか。


その前に、まずは彼女の受け入れ許可をもらうのが先だ。


無線機で、わが駆逐艦に連絡する。


「デルタ2よりラーデベルガーへ。」


「こちらラーデベルガー。状況を報告せよ」


「地上にてけが人を確保、受け入れ許可と医療班の待機を求む。詳細は着艦後報告する。」


「ラーデベルガーよりデルタ2へ、艦長へ報告する、しばし待機せよ。」


ちょっと合間ができたため、彼女に話しかけてみた。


「大丈夫?痛みはない?なにか飲む?」


初めて、彼女が口を開く。


「何か飲みたい…」


ちょっと脱水気味のようで、手元の水筒を開けて渡すと一気に飲み干した。


多少ぐったりした感じではあるものの、緊急を要するほどの状態ではなさそうだ。


そうこうしているうちに無線から連絡が入る。


「ラーデベルガーよりデルタ2へ。受け入れを許可する。直ちに帰還せよ。」


「デルタ2 了解、これより帰還する。」


エンジン始動、キーンという甲高い音を立てながらホバリング。10メートルほど上昇したところで推進機始動。一気に加速・上昇し駆逐艦に向かう。


ただ機内は慣性制御のためGはかからないため、まるで周りの風景が後ろに流れるような感覚を覚える。


調査場所が艦からほど近いところだったため、数分で駆逐艦に到着。側面格納庫に着艦した。


すぐさま待機していた医療班が彼女を担架に載せる。機体の周りには整備員が寄ってくる。いきなりたくさんの人が現れて彼女は驚いていたが、看護婦さんに付き添われながら運ばれていった。


さて、私はというと、報告のため艦長のところに向かう。


さてここでようやく冷静になってきた。


いくら人を助けるためとはいえ、どう考えても軍規から外れた行動をとってしまった。どうしようか…

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