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至近戦と下っ端参謀と目眩し 1

「艦影多数視認!艦色識別、赤褐色!連盟艦隊です!」」


偵察のため、我々1000隻の分艦隊がとある星系に向かう途中、敵艦隊と遭遇した。


我々は地球295 防衛艦隊所属の分艦隊。普段は自星系周辺のみを行動する艦隊だが、稀に近接星系の偵察任務などを行うこともある。


私はこの分艦隊旗艦である戦艦ギレアデに勤務するものの1人で、名前はノラン。階級は大尉、主に戦術担当の作戦参謀として赴任している。


ところで「艦色」とは、我々連合側と連盟側を識別するために両者の間で決められた条約に基づく艦の識別色のこと。


我々宇宙連合側は薄灰色、銀河連盟側は赤褐色。どちらも同等のステルス性を有する塗装であるが、目視で確認できるよう定められている。


昔はこの決まりがなかったため、色はまちまち。一応識別信号を発する決まりもあるが、電波管制時は識別信号もカットするため、しばしば双方で「味方撃ち」が頻発。そこで、艦の色で識別できるように定めようということになったそうだ。


そんな赤褐色の艦隊が、ワープアウト先にいきなり現れた。


しかも、問題は距離である。


距離2000キロ。これは非常識なほどに近い。


従来の艦隊戦での最至近距離の記録は1万キロ。通常は20〜30万キロの射程ぎりぎりでの撃ち合いが多い中、1万キロでも近すぎるほどだ。


ところが今回はその記録をはるかにしのぐ2000キロ。目では見えない距離とはいえ、我々の常識ではありえないほどの近さだ。


「敵艦隊総数 1000!」


どうやら我々同様偵察任務の分艦隊のようだ。数は同じ。


旗艦艦橋に分艦隊司令が入ってこられた。敵艦隊発見の報を受けて、大急ぎで駆けつけた。


「艦隊戦用意!」


遭遇戦では、一分一秒を争う。ましてやこの至近距離、先に撃たれたら負けだ。


敵艦隊も回頭し、砲撃準備に入っていた。


「砲撃始め!!」


司令の指示が飛ぶ。各艦、一斉に砲撃を開始した。


敵艦隊もほぼ同時に撃ってきた。


ここに、かつてない至近距離での遭遇戦が開始された。


戦闘の定石で、1バルブ砲撃を行ったが、この距離では2〜3バルブ砲撃並みの威力のビームが飛び交っている。近過ぎるため、ほとんど減衰せず到達するためだ。


このため、通常は1バルブ砲撃の直撃なら耐えられるバリアが、今回は役に立たない。まともに受けると、バリアを貫いてくる。


だが、そのわりには双方あまり当たらない。


これも理由は「近過ぎる」からだ。


通常の戦闘では光の速さで0.6〜1秒かかる距離での撃ち合いなので、標準器に写っている艦影というのは0.6〜1秒前の姿ということになる。


ビームも光速で到達するため、今見ている姿から1.2〜2秒先の位置を想定して撃たないと当たらないことになる。


艦は自動でランダムな動きをするようになっているため、そう簡単には当たらないように工夫されている。これにこの遅延時間分を考慮して照準を定める。砲撃手の運と腕にかかっている。


ところがこの距離では、この遅延時間というのがほとんどない。そういう遅延時間なしの訓練をしたことがないし、システム側も対応していない。だから、近いのに当たらないという事態が起こる。


真横を凄まじいビームの束が通り過ぎる。遠征艦隊でも戦闘経験者はまれ。ましてや我々防衛艦隊にはほぼ皆無と言っていいほどである。ビームが横を通り過ぎるたびに、身が縮みあがりそうだ。


さて、私を含め作戦参謀が分艦隊司令に召集された。


この戦いを、どうやって切り抜けるか?という話し合いが行われた。


ここは単なる通り道で、重要な戦略拠点があるわけではない。放棄したところで、なんら問題はない。


ただ、問題を複雑にしているのがこの「近さ」だ。


射程ぎりぎりでの撃ち合いなら、こういう無意味な戦場では少し後退すれば、相手も合わせて後退して戦闘回避をしてくれる。ところがこの距離ではいくら後退しても射程圏外に出られない。


結局のところ、5時間ほど撃ち合って弾切れしたところで退散するしかないのでは?という意見が多かった。


だが、もし我々の方が早く弾切れしたらどうなるのか?それ以前にバリアの粒子切れが心配だという意見も出てきた。


これだけ激しい砲火の中ではバリアの消耗も早い。バリアが切れれば、かつてないほどの悲惨な消耗戦が繰り広げられることになる。


そんな時、オペレーターから報告があった。


「敵ミサイル群、急速接近!」


これだけ近いと、こういう兵器が使えることを思い知らされる。


ただ、速力が遅い兵器なので対空機銃で迎撃可能。


ただし、ミサイルの迎撃はここ何十年もやられたことがない。今でもこの迎撃システムは稼働するのか?


「やむを得ん。対空戦闘用意!各艦、距離10で迎撃!」


最近試したことのない兵器に頼るというのは正直不安だが、他に方法がない。


各艦、迎撃態勢に入った。


で、結論だけ言えば、99%以上は撃墜され、数発だけ命中。残りは外れたか、バリアやビームによって破壊されたかにどちらかだ。


通常弾頭のミサイルが艦に1、2発当たっても致命傷にはならず。


あちこちでミサイルの爆発に伴う光の玉が見られた。これが目の前で光ると敵艦を一時見失う。


おそらく敵の狙いは艦の破壊よりも、ミサイルによる混乱を期待したのではないか?


だが数秒もすると混乱も収まり、再び撃ち合いに戻っていた。


ミサイルの光は味方だけでなく、敵にも目標を見失わせることになったため、お互いが混乱しただけだった。


しかしこのことは、敵が素早く作戦立案して動いていることを示している。我々はようやく今話し合っている段階。明らかに対応が遅い。


そうした危機感はこの作戦会議でも皆が感じるところだが、だからと言って具体案が出てこない。


こちらもミサイルで対抗したらどうか?という意見は、結局さっきのようにお互いの混乱を招くだけで意味がないという結論。航空機による攻撃も提案されたが、ミサイル以上に意味がなく、人命を失うだけの結果になるという意見でこれも流れた。


第一、今は攻撃は激しくてバリアが解けず、航空機が発艦できない。航空戦力に頼ることは無理そうだ。


この作戦参謀の中で最も若く、階級が下の私はこれまでずっと黙って見ていたが、不意に意見を言ってみた。


「鶴翼陣形を取るというのは、どうでしょうか?」


戦局打開は陣形変化で行うというのが教科書にもある基本中の基本な戦術だ。魚鱗、鶴翼、雁行、偃月、方円、長蛇などなど、それぞれ長所短所があるものの、ただ撃ち合うよりは打開の糸口につながる可能性がある。


この場合、敵を包囲し混乱においこめる可能性の高い鶴翼陣形が最も有効と思われた。


早速、各艦に伝達。鶴翼陣形への移行を始めた。


約300づつの3隊に分かれ、敵艦隊の左右に展開。各小隊の感覚は500キロほどで敵を包囲するというもの。


だが、こちらが左右展開すると、あちらも左右に分かれ始めた。


結局、鶴翼陣形は封じられてしまった。


他の参謀からは批判の声が出てくる。この作戦は失敗だっただの、もっとましな提案はなかっただの、散々だ。ならば経験豊富で人徳のあるあなた方が提案すればいいでしょうが。一言言いたい気分だった。


こうして、戦闘開始から1時間が経過した。

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