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奴隷とフライパンと砲火 3

翌朝、彼女はとっくに起きて、朝ごはんを作っていた。


昨日買ったフライパンで目玉焼きを作っている。さすがに朝からあのザリガニ パエリアは作らないらしい。


「ご主人、朝食だ。」


なんというかエレンさん、ちょっと投げやりっぽい話し方が気になる。愛想がいいとはお世辞にもいえない。


さて、今日も休み。また買い物でもいいが、どうしようか。


エレンさんに聞いてみると、またショッピングモールに行きたいらしい。


というのも、買い物をするにもどこに何があるのかわからないのでは何かと都合が悪い。どの店がどこにあるかを把握したいそうだ。


ごもっともなご意見。ついでに、街の中も見て回ることになった。


小さな街だが、さすがに今日1日では回りきれないので、来週、再来週の休みも街の探索で終わりそうだ。


昨日は調理器具、服、家電屋に行ったので、それ以外のエリアを制圧することにした。


といっても、探索するという以外にさして目的があるわけでもなく、店の並びを2人無言でぼーっと見て回るという味気ない作業になっていた。


とある雑貨屋で彼女は止まった。その雑貨屋はいわゆる「1ドルショップ」。同じ値段で様々なものが売られており、たまに役立つものが売られてたり、お手軽感もあって、この辺でも人気のお店だ。


目的もなく他の店をうろつくぐらいなら、ここならいろんなジャンルのものが売られてるし、彼女の嗜好もわかるだろうし、覗いてみることにした。


エレンさんは、とりあえず装飾品や化粧品、服飾品には一切興味がない。


なぜかDIYの工具や調理器具、食器に文具といったものに惹かれるようだ。


なぜと聞いても、本人にもわからない。なぜか、惹かれてしまうようだ。


はさみやペン、クッション、ついでに時計や物入れなど、意味もなく色々なものを買った。


物の数だけこのコインを出せばいいんだよと、1ドル硬貨を見せた。


そういえば彼女、ここの数字は読めるんだろうか?計算もできるんだろうか?


幸い、数字さえわかれば金勘定くらいはできるようだ。初等教育の学校には通ったことはあるそうだし、以前の暮らしで買い物もしてはいたらしい。


そう思うと、我々との交易が、彼女の人生を狂わせてしまったんだろうなと実感する。我々がここを見つけていなければ、今頃はまだ自分のうちで料理を作っていたかもしれない。


それにしても彼女の両親は、彼女を売ったお金で何を手に入れたんだろうか?娘を手放さないといけないほど、大事なものだったんだろうか?なんだか憤りを感じる。


この先は少しでも幸せになれるといいんだが。別に彼女の親というわけでもなく、主人という意識もない。我々の倫理観に照らせば、ごく当然の結論だろう。


なんだかぐだぐだな半日だったが、それはそれで彼女は満足しているようだ。元々、街や店の探索が目的だったので、これはこれで得られるものはあったのだろう。


さて、昼はどこで食べようか…と思って聞いてみると、昨日行ったあの店がいいらしい。


海産物を使った料理が多く、気になるのだという。


そんなに気に入ったのならまた行ってみようかということになり、小洒落たあのレストランを再び訪れた。


今度はエビを使ったムニエルに、カニの入ったオムライスを頼んでた。今までの分を取り戻そうとしているのか、よく食べる。


それにしても彼女、エビやカニの系統が好きなようだ。私の惑星にある有名な大型のエビを使った料理を見たら、きっと大喜びに違いない。


なにせこの料理を食べてるときの彼女の顔ときたら…本人は気づいてるんだろうか?いつもの無表情が嘘のようにニヤニヤしている。


さて、帰り際には例のショッピングモールで買い出し。明日から私は仕事だ。料理を作ってくれる人を結果的に雇ってしまったため、明日からも自宅で食事にありつける。


食材選びをしている間、私はちょっと買いたいものがあったので、少しの間別々に行動することにした。


目的を済ませて彼女の元に戻ると、何やらけたたましい声が聞こえてくる。


エレンさんが、誰かに怒鳴られてるようだ。


どうしたんだ?何があったんだろう?


どこかのおばさんが執拗に彼女に向かって何かしゃべっていた。興奮し過ぎてて、ここからでは何を行ってるのかわからない。


服装からすると、この星の住人のようだ。


彼女はというと、じーっとその人を見て黙っている。


それにしても、いくらなんでも公衆の面前で怒鳴りすぎだろう。ちょっと頭にきた。


「うちのエレンさんが、何かいたしましたか?」


彼女の肩に手をかけながら、その女性に声をかけた。


途端に怒鳴るのをやめて、すごすごと立ち去って行った。


「なんだ?そんなに強く言った覚えはないんだが…でいったい何があったの?」


彼女がぽつりと言った。


「あれは、私の母親だ。」


なんだって?なんだか急に腹が立ってきた。もしまだやつが目の前にいたら、間違いなく殴っていたところだ。


「なんで君を…追い出した張本人がああも偉そうなんだ?」


なんでもばったりここですれ違った時に、あの店から逃げ出したんじゃないかと思われて、それで怒鳴られていたとのこと。


私を待っているだけだと言っても聞かず。挙げ句の果てには言い訳がましいことも含め、自分の娘に叫び続けてたようだ。


腹立たしさとともに、彼女が不憫に思えてきた。実の親から売り飛ばされた挙句に街中で怒鳴りつけられる。世も末だ。


この星の倫理観は、まだ我々に比べるとかなり遅れていると言わざるを得ない。もう数十年は、こういう悲劇が続くのだろうか?


それにしても彼女は強いもので、あれだけ怒鳴られた後だというのに、もうザリガニ選びを始めてる。今日はいいのが手に入りそうだと嬉しそうだ。


ザリガニだけでなく、魚も何匹か買った。冷蔵庫も買っていくらか買いだめできるし、例のレストランで食べたムニエルが作ってみたいんだそうだ。


もう一つフライパンを買った。昨日二つ買ったが、パエリアを作ったので二つとも使ってしまったためだ。なぜだかわからないが、一つ未使用のピカピカのが欲しいとのこと。


そんなもので気がまぎれるんならと、いっそもっと大きなものを買ってみた。声には出さないが、顔がにやけてて嬉しそうなことがわかる。


家に帰ると、早速何かを作り始めた。多分、ムニエルだろう。かなり自己流だが、なかなか料理のセンスはある。


予想どおり、ムニエルっぽいものが出てきた。味は随分と違うけど、これはこれでいい感じ。


「明日からは仕事で昼間留守にするけど、今度の週末もあのレストランに行こうか?」


ちょっとにこっとした顔でうなづいた。


明日から仕事だ。週末はいろいろありすぎて休めた気がしないが、この3日間でかなりお金を使ったし、しっかり稼いで取り返さないといけない。


さて、お風呂はいってベッドで就寝…あらら、また来ちゃったよ、彼女。また大人の一夜がはじまりそうだ。

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