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奴隷とフライパンと砲火 1

私の名はローレンス。出身は地球(アース)447だが、このほど地球(アース)730に赴任することになった。


この星は3年ほど前に発見されて、今はまさに惑星を挙げての軍備増強、新しい技術の取り込みを進めている。


その人材育成のために私が送り込まれたというわけだ。


私の専門は砲撃。艦隊戦の花形とも言える職業だ。


現地の砲撃手を育てるため、私が赴任して来たというわけだ。


3年も経っているので、宇宙港とその脇の街はすでに完成し、現地の人々が訪れて賑わいを見せている。


私もここ2ヶ月ほどはこの街から出ることなく過ごして来たが、さすがに飽きてきた。


近くにこの国の古くからの街があると聞いて、行ってみることにした。


ただ、誰に聞いても後悔するからやめとけと言われる。何があるかは教えてくれなかったが、胸糞悪くなるからあまり関わらないほうがいいとのこと。


そんなことを言われると、返って行きたくなるのが人情。


金曜日に早めに仕事が終わったため、ちょっとふらっと行ってみることにした。


現地までは車で10分ほど。


車は街の外におくしかない。中は道が細くて歩いて入るしかなさそうだ。


で、街の奥にすすんだ。一通り見てから、店などを物色しようとこの時は考えていた。


が、すぐに助言の意味を察した。


この街には、大きな「奴隷市場」がある。


奥の檻の中には年頃の娘が何人もいる。皆、自分を買ってもらおうと必死にアピールしている。


奴隷として買われたところで大して幸せなんて得られないだろうが、ここにいるよりはマシなのだろう。必死な表情がそれを物語る。


えらい場違いなところに来てしまった…すぐにでも離れようと思ったその時、端っこの小さな檻に、ぽつんとたたずむ娘がいた。


他の娘は必死にアピールしてくるのに、なぜこの娘は座り込んで黙っているんだろうか?


あまり話したくはなかったが、そこの店主に聞いてみた。


なんでもこの娘さん、ここに来て3ヶ月経つが、あの調子のため未だに買い手が見つからないという。


奴隷というのは、大体1ヶ月もすれば買い手がつくものだそうで、相場は我々の通貨で2000ユニバーサルドルくらいらしいが、この娘はすでに500ドルまで下がっている。


これ以上売れない状態が続けば、処分するしかないと店主の談。


その「処分」というのがどういう意味なのかはわからないが、なぜだか恐ろしいものを感じた。


ならばと、私が買うことにした。


もちろん、人なんて買う気はない。


とにかくこの娘を解放してあげたいと思った。


宇宙との交易が始まって3年も経つというのに、未だにこの風習がなくなっていないこの星の現状に落胆と憤りを感じた。


だが、むしろ我々との交易が、奴隷市場を活気づけているきっかけになってると店主は言う。


というのも、宇宙からの珍しいものを買うために、自分の娘を売りに出すんだそうだ。


なんともひどい親もいたものだ。もちろん、この星の住人の多くはそんな愚かなことをしないが、そんなことのために自分の子供をお金に変える非常な親が少なからずいるという現状を憂いた。


さて、彼女を買ったのはいいが、着ているものがボロ過ぎる。


何か着せてやるものはないのかと聞くと、200ドルで揃えてくれるという。


娘が500ドルで、着物が200ドルで。合計700ドル。ミドルクラスの携帯端末が買えるくらいの金額だ。


その場で現金払い、早速店内に通された。


そこで見たものは…裸にされたあの娘だった。


いやいや、いきなりその格好はないでしょう!ところが店主はなんら気にすることもなく、まるでペットでも扱うように私の目の前で彼女を洗い流し、200ドルで買った着物を着せた。


そして、奴隷の証である金属製の首輪をはめられて、私のところに連れてこられた。


「さあ、今日からこの方がお前のご主人だ。よかったな、やっと買い手が決まって。」


そういうと、私にこの首輪の鍵を渡した。


厄介払いができたのがよほど嬉しかったのか、私には愛想よく振舞ってくれた。今度はもっといい娘をお願いします、とまで言われたが、もう2度とこない。


この娘1人を救い出したところで、あまり意味はないし、むしろこの店にお金を落としたことでこういう事態を増長してしまうかもしれないという思いはあったが、今は彼女を助け流ことができた。


店から離れたところで、私は首輪の鍵を外し、彼女に言った。


「もうここから先は君は奴隷じゃない。どこか行きたいところがあれば、自由に行っていい。」

「でもご主人、私には帰るところがありません。」


だろうな、やっぱり。そもそも親に売られた娘、家に帰っても、また売り飛ばされるだけだ。


ということは、私が責任を取って住むところを確保しなければならない。


ところで、私は一人暮らしなのに、二階建てに住んでいる。


これは私だけでなく、我々の同僚全てがそうだ。


というのも、自宅に使用人を住まわせるためにあえてこうしているようだ。


現地の紹介所で家事手伝いをしてくれる人が雇えるとは聞いていたし、通いでも住み込みでも好きなスタイルの人を雇うことが可能だとは理解していた。ただ、なんとなく面倒で、そういう人を雇ってはいなかった。


なぜわざわざこういうことをしているのかといえば、人を雇うことで我々のお金を現地に流し、経済を活発化させるのが狙いだという。


あまりその意見に同意していなかったが、今回その重要性が身にしみてわかった。そうやって、この国の馬鹿げた風習を風化させることもできるのだと。


そんなわけで、私のうちの二階なら空いている。


不本意ながら彼女をかいほうしてしまった以上、最後まで面倒を見なければならない。


さて、そうはいっても問題がある。


私の街に現地の人が入ること自体は自由だが、暮らすとなると住民登録する必要がある。


もちろん、奴隷売買は禁止されているので、奴隷で買ってきたから住民登録というのは通らない。


ということで、手元の携帯端末で調べてみると、住民登録するいろいろなやり方があるそうだ。


もっとも手っ取り早いのは、現地の紹介所に彼女を登録してもらい、そのまま雇うという形を取ること。


大体1000ドルくらいで登録証を作ってくれるそうだ。


ということで、近くの紹介所へ行くと、果たして情報通り登録証を作成してくれた。


これを持って今度は私も街の入り口付近の事務所で、彼女の住民登録を済ませることができた。


こんなことをやっていたら、すっかり辺りは暗くなってしまった。まだ夕飯も食べていない。


彼女もすっかり引き回してしまった。さすがにお腹が空いていることだろう。


とりあえず、行きつけのファーストフードに行って、何か食べることにした。


黙々と2人、ハンバーガーなどを食べて、私の自宅に向かった。


「この2階は君の部屋だから、好きに使ってもらっていい。トイレも2階にあるが、お風呂場と洗面所、キッチンは下にあるので、この辺りは降りてきて使って。」


と言って、お風呂に入ることを勧めた。


ところが、お風呂場に入っていた彼女が突然、あられもない姿で現れた。


「ご主人、これどうやって使うのか?」


シャワーの使い方が分からなかったらしい。それにしても、もうちょっと自分の姿を気にして欲しい…あの店の生活って、人間の尊厳をここまで破壊してしまうものなのか。


しばらく更生に時間かかりそうだな。動揺しながら、眠りについた。

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