失恋公務員と気弱パイロットと駆逐艦 7
我が小隊は、まだ気づかれていなかった。
距離は射程ギリギリの30万キロ、位置も敵艦隊のほぼ真後ろについた。
理想的な砲撃ポジション。ただし、敵は1000隻、3つの小隊、3隻の戦艦を有する3倍の敵である。
いよいよ、砲撃開始である。
「主砲装填!砲撃準備!!」
1バルブ装填、充填時間は約10秒。
約300隻が一斉に充填開始、高エネルギー反応により、敵は気づいた頃だろう。
同時に味方艦隊へ敵艦隊位置と救援要請を発信。
もはや、引き下がれない。
「目標、敵戦艦のエンジン!砲撃始め!!」
激しい砲撃音と揺れが艦内を襲う。
「全力後退!」
一撃離脱で、一斉に後退し始めた。
敵艦隊もこちらに気づき一斉回頭。しかし、我々の砲撃は3隻の戦艦に集中していた。
遠くで我々のビームが着弾した時に放つ光が見えた。しかし、どれくらいのダメージを与えられたか、この時点では分からなかった。
なにせ、逃げることに精一杯だった。
敵は当然、追いかけてくる。
我々は全力で後退する。
しかし、砲を向けた状態で補助エンジンによる後退と、メインエンジンによる前進とでは当然後者の方が早い。
砲撃しながら敵の前進を阻みつつ後退していたが、10分もすると敵も体制を立て直した。
ついに、敵艦隊の一斉砲撃が開始された。
こちらはとにかく逃げの一手、艦橋は灯火管制、妨害電波を出しまくりレーダーの撹乱を行う。
もちろん、妨害電波は我々の砲撃にとっても有害だが、我々はこれ以上当てる必要はない。逃げられればいい。
だが敵は不意打ちを食らってかなりお怒りの様子。しかも、相手は300隻。執拗に追いかけてくる。
外はビームの束が次々に通り過ぎる。時々、バリアをかすってすごい衝撃が艦を襲う。
食堂のモニターを見ていたが、生きた心地がしない。艦橋はこれを生で見ていると思うと、気の毒でならない。
我々も撃ち返していたが、撃ち返すにはバリアを一時解除する必要がある。ところがあまりに敵が撃ってくるので、バリアを解除するタイミングがとれない。だんだんと、砲撃できなくなってきた。
このままでは敵に食われる…果たして、1時間の間、耐えることができるのか!?
戦闘開始から20分経過、ついに撃沈される艦が出始めた。
我々のすぐ横の、7452号艦に直撃弾。
巨大な光の玉ができたかと思うと、光が消えるに連れもはや原型を留めていない艦の残骸が現れた。
乗員100名、一瞬にして全滅。
皆、血の気が引くのを感じた。
不意にアカリさんの肩を抱き寄せた。彼女を思って、というより私が耐えられそうになかった。
すでに5隻が撃沈、3隻のが損傷、そういうアナウンスが流れていた。
時々バリアに直撃弾があたる。毎回バリアの展開が間に合っているが、次の直撃もかわせるのか、不安ばかりが募る。
でも、こうなったら、なんとしてでも生き残る。
彼女と約束した。
いや、この艦内の皆んなとの約束でもある。
絶対、生きて帰りたい。
そう思った時、戦闘開始から30分。
敵艦隊に向かって、別の方向からビームが放たれた。
まだあと30分あるが、もう追いついたのか?
どうやら、先発隊の1000隻が到着したらしい。
1000隻対1300隻。形勢逆転だ。
敵艦隊は増援の1000隻の方に回頭、我々に右側面を向ける格好となった。
すかさず我々も砲撃。一部が回頭を中止して応戦してきた。
だが、我々は2方向から攻撃している。一方、敵は我々の正面に向かってしか砲撃できない。
こっちに向いている艦は増援隊に、増援隊に向いている艦はこちら側に側面を晒すことになるため、バリアの弱点である側面を狙われることとなった。
こちらとしては理想的な挟撃体制。
今度は、敵が後退を始めていた。そこを我々が追いかける。
さらに30分が経過し、ついに艦隊主力が到着。
もはや敵艦隊に勝ち目はない。180度回頭して後方からの攻撃を承知で全力離脱を図った。
2000隻ほどがこれを追撃したものの、撤退行動が確定的になった時点で攻撃を終了。
連盟の干渉を排除することに成功。我々の勝利だ。
ただし、味方艦艇は10隻を失った。我が小隊の戦艦も直撃弾2、1300人の命が失われた。
しかし敵艦隊は1000隻中少なくとも50隻が撃沈。
なにより、戦艦が3隻中2隻が航行不能となり、戦場に置き去りにされた。
ただ、戦艦を丸ごと捕虜にするのは大変なため、エンジンを一部修復し、武装を全て破壊した上で解放するという措置を取った。
ともかく、戦闘は終了した。
我々は辛くも生き残った。