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失恋公務員と気弱パイロットと駆逐艦 6

朝になった。


昨日ほどではないが、駆逐艦周りにはまだ報道関係者や、昨日の夜に到着した軍関係者がいた。


まずは、艦内に軍関係者を招いた。いきなり報道機関でもいいのだが、こういうことは軍事関係の者が先にした方がよい。昨日の複座機のはしごを壊されて、つくづくそう思う。


こちらの大佐、少将クラスの人がやってきて、艦長が艦橋に案内していた。


なお、駆逐艦の艦長は中佐があたる。10隻に1隻だけ大佐が艦長を務めるが、これは小隊内のさらに小集団リーダーとなる駆逐艦の艦長の場合だ。艦に割り振られた番号の一桁目が0の艦がそのリーダー艦ということになる。


うちは7455号艦。下っ端艦だ。当然、艦長は中佐。


そんなところに大佐だの少将だのが押し寄せてきたわけだ。大変だなあ、艦長って。


下っ端艦のそのまた下っ端の少尉な私は、朝食を貪ってた。


「おはよう~。」


おっと、アイドル様のお出ましだ。


「おはようございます。寝れた?」


私も少しづつ、タメ口になってきた。


「うん、でも考えたら昨日は自宅で寝ればよかったんじゃないかな。ここ地上だし。」


そうですよね、駆逐艦勤務だからといって、地上にいる時くらい、地上で寝てればよかったんじゃないかと。


でも昨日はあの報道っぷりだったから、自宅周辺に人が押しかけてた可能性もある。変な話だが、ここが一番安全だ。


軍の方々が帰ったら、今度は報道機関のお相手。今日は艦長にとって、長い1日になりそうだ。


そうそう、彼女にこの艦の正式名である「7455号艦」という番号を教えておいた。我々が勝手に呼ぶ「メンチカツ」では通じないし、第一かっこ悪い。


どうしてそんな変な名前がついたのかは諸説あるが、初代艦長の好物だったとか、昔の戦闘で直撃喰らってこんがり焼けたからだとか、色々だ。


だが就役して50年以上経つこの艦、今の世代の人間にはわからないことが多い。


ようやく報道機関の相手も終わり、この地を発艦することとなった。


この星の政府関係者、軍関係者を数名乗せて、戦艦に立ち寄るためだ。


その後、艦隊の主力と合流して、今後の駐留について話し合う…ということになった。


さて、戦艦に合流して先の関係者を下ろすと、今回は1時間ほどで切り離された。


せっかくの寄港なのに、今回は補給が目的ではないため、あっさりと出港させられた次第。おとといに立ち寄ったばかりですし。


ただ、アカリさんだけは艦内に残った。彼女の赴任先はこの駆逐艦なためで、他の関係者との扱いの違いにひどくご立腹なご様子…でもなかった。


ここの人たちとはかなり顔なじみになり、今更見ず知らずの人達と見ず知らずの戦艦内に移乗しろと言われても困るようだ。


さて、我が小隊は艦隊主力と合流すべく、発信した。


艦隊は今、二つ外側の惑星軌道上付近にいる。この恒星系のワームホール帯と「地球」惑星との中間地点付近だ。


1日にほどで合流予定、このまま1万隻の船に驚く彼女を見てほくそ笑む…はずだった。


が、あと1時間ほどで到着というあたりで、艦内に警報音が鳴り響いた。


艦内放送から流れてきたのは、信じられない状況だった。


「敵艦隊捕捉!総数1000隻!惑星に向かって航行中!」


数からして、威力偵察のようだ。


艦隊はここから1時間の距離だが、我々は300隻ほど。現状では兵力差3倍。到底、太刀打ちできない。


だが、相手はまだこちらに気づいていない様子。このままやり過ごして艦隊と合流、しかるのちに反転、迎撃するんじゃないかと思われた。


だが、小隊司令の判断は、この300隻で先制攻撃をかけるというものだった。


もし合流後に追いかけても、敵艦隊が惑星に取り付いて盾にされる可能性がある。そうなると厄介だ。


その前に攻撃をかければ、相手は侵攻を止めざるを得ず、艦隊もこちらに気づいて駆けつける。小兵力といえど1時間耐えられれば、こちらの勝ちだ。


なんとも無茶な作戦だ。いきなり、3倍の敵に攻撃を仕掛けることとなった。


作戦では、敵艦隊後方に回り、射程ぎりぎりの30万キロから3隻いる戦艦に砲火を集中させる。


一撃後に全力後退しつつ敵から離脱をはかる。


戦艦を狙う理由は、補給物資を満載している船だからだ。この船の足を止めれば、艦隊の侵攻を食い止められる。


ただし、こちらのリスクはかなり大きい。怒りに燃えた敵艦隊が猛反撃してくるのは必定で、1時間も耐えられるかどうか。


少なくとも、全ての艦が無事で済むとはいかないだろう。


このメンチカツも撃沈する恐れがある。


戦艦ならば少々被弾してもビクともしないが、駆逐艦は一発でも致命傷となることが多い。


しかも、ここにはアカリさんがいる。


せめて彼女だけでも戦艦に移乗できないか具申したものの、すでに作戦開始されており、隠密行動のため、航空機の発艦が許可できないとのこと。


ああ、さっき一緒に戦艦に乗せておけばよかった…こんなことになるとは予想だにしなかったため、悔やまれる。


艦長に私と彼女が呼び出された。


私に下された命令は「非常時のアカリさん脱出任務」。


もし駆逐艦が被弾した時は、2機の複座機のどちらかを使って離艦し、戦艦か艦隊主力に拾ってもらえというものだ。


この星の住人の生命が最優先であり、私はパイロットなのでこの任に向いているとのことで任命された。


非常の決断が、いよいよ激しい戦闘が近いことを思い知らされる。


さて、艦橋を後にした直後、艦内全員に船外服着用の命が下された。


彼女用の船外服をもらってきて着用。


駆逐艦の食堂は艦の中央付近にあるため、被弾時に助かる確率が高い。また、戦闘中の艦橋からの様子がモニターに映されてるため、非番や戦闘に関われない乗員はここに集まってくる。


我々も、食堂にて待機することとなった。


戦艦内の街でショッピングを楽しむどころか、生命の危機にさらされてしまったわけで、正直申し訳ない限り。


こういう場面でかけられる言葉といえば「何があっても、私が守ってあげるから」という言葉くらいのものだろう。


が、いつもの調子でこう返してきた。


「あまりあてにならない気がするんだけど。」

「そんなことないよ、私は与えられた任務は必ずやり遂げるんだ。今回だって大丈夫。」

「でも私を助けた時の任務は、結局やり遂げられてないじゃないの?」


痛いところをついてきた。


「別にあんたに期待してないけど、1つだけ約束して。」


なんだろうか?約束って。死なせない用の頑張ると宣言したばかりだし、他に何かあるんだろうか?


「この戦いで生き残ったら、私と一緒になって!」


…はい?


「だから!結婚してって言ってるの!わかんないの!?」


意外な展開だった。これが「戦場告白」ってやつか。


「…返事が欲しい…」


食堂にいる皆は、目の前で突然始まった人生劇場に、息を飲んで見守っている。


主演男優としては、答えは1つだろう。


「願ってもいない申し出、お受けいたします。アカリ殿。」


もっと気の利いたことを言えるとよかったんだが、三流役者はこのあたりが限界だ。


もう周りがお祭り状態。大胆だねぇ、アカリさん。


「おめでとう!」「ハネムーンはぜひメンチカツで!」


祝福の言葉が飛び交う。まだ生き残ると決まったわけではないんですが。


「じゃあ、皆さんも生き残って、ぜひ結婚式に来てください!」


もう食堂内は歓声の嵐、全員総立ち、食堂内の飲み物で乾杯までしている輩もいる。


つい数分前まで緊張状態だったこの場はすっかり祝福・お祭りムード。


でも、生きてるってこういうんだろうなぁ。


本気で生き残りたい。みんなで一緒に。


そしてついに、戦闘が始まった。

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