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失恋公務員と気弱パイロットと駆逐艦 5

格納庫には複座機が準備されていた。


今回は人を乗せて降下するだけの任務なので、武装、装備の類は全て外された。


機体としては、最も軽い仕様。重いのは私の気分だけだ。いや、彼女も同様か。


発艦許可が下りた。ハッチが開き、降下開始。


場所は役場の前の広場。この機体なら着地するのに十分な広さがあるとは聞いていたが…


いざその場所を見ると、報道関係者や見物人、役場関係者などでごった返している。


まあでも仕方がない。上空でホバリングし、どいてもらうのを待つか、最悪着地場所を変えよう。


ヘリが4機ほど円を描くように周回しながら飛んでいた。その円のど真ん中へ進入。ゆっくりと降下していった。


明らかにこの星にはない飛び方をする機体で、おそらく宇宙人がやってきたと大騒ぎになっていることだろう。


さすがに役場前は誰かが開けてくれたようだ。地上からはカメラでカシャカシャ撮られてるのがよくわかる。


で、やや灰色の複座機は役場前に着地した。時刻はちょうど15時。


キャノピーを開ける前に、後ろを向いて言った。


「これから大変だ。私も援護するんで、覚悟していこうか。」

「うん。」


短く、彼女はこたえた。ひ弱なパイロットがバックアップしたところで大して役には立たないだろうが、それでも乗り切るしかない、このビッグイベントを。


キャノピーを開く。カメラのシャッター音が鳴り響く。


「申し訳ありませんが、はしごを下ろすので、この辺りを開けてもらえますか?」


宇宙人…のはずなのに、同じ言葉を話してる?と言いたげな不思議そうな顔で皆こちらをみている。


はしごを下ろすと、早速テレビカメラが押し寄せてきた。


私が降りようとすると、


「待って、私が先に行く。」


と彼女が先に降り始めた。


カメラのフラッシュとシャッター音の嵐が巻き起こる。テレビカメラも何台か押し寄せてきた。


遅れて、私も降りる。正直あまり気は進まないが、彼女一人をこの中に孤立させたままというのはなんとも忍びない。


早速、報道陣の人々が質問する。


「アカリさんですよねー!どうしてこの宇宙人と思われる方と一緒にいるんでしょうかー!」

「宇宙人に拉致されたのではないかと言われてましたが、どうなんですかー!」


その宇宙人が目の前にいるというのに、彼女以上に遠慮のない質問だ。


ここでアカリさんが口を開いた。


「皆さん誤解されてるようですが、この方は私をさらったわけではなく、助けてくれたんです。」


そう言って、足の包帯を見せた。


「山で遭難してるところを偶然訪れたこの方が私を保護してくれたんです。」


すると今度は、彼らの矛先が私に向けられた。


「えーと、宇宙人…さん?なぜあなたは彼女とたまたま出会えたんですか?」

「ここの人間を連れて行こうと思っていたとか、そういう意図はなかったんでしょうかね?」


まあ、報道陣なんてどこの世界もこんなものだ。まず憶測でものを言う。自分に向けられるとは思わなかったけど。


「この惑星の調査のためです。大気とか気温とか地質とか、あなた方との接触前の事前調査だったんです。」

「ええ?そんな調査してどうするつもりだったんですか?」

「なぜ、強力な武器を持ってそうなのに、我々を攻める意思はないんでしょうか?」


好き勝手聞いてくるな…最初の質問は答えるのが面倒だし、無視しておくか。


「ええと、まず我々は確かに宇宙から来ましたが、あなた方とはほとんど違いはありません。この宇宙にはこの星のような人類が住む星が今現在700以上あるんです。」


カメラのフラッシュが激しくなった。700も人類が住む星がある、これはかなり衝撃的な内容だったようだ。


「我々の目的は、他の星同様に我々と同盟を結んでいただくこと。いずれ正式に説明いたしますが、少なくとも征服、略奪をするつもりはありません。」

「ところで、なぜ我々と同じ言葉を話してるんです?本当に宇宙人なんですか?」


きた!よくある質問 第2弾だ。


「我々にも良くわかっていないのですが、どこの星にも通じる言語があるんです。我々は「統一語」と呼んでますが、それはこの言葉なのです。宇宙人かどうかを信じていただくには…この航空機ぐらいですかね?」


今度は複座機がバシャバシャ撮られてた。やっぱり、この星では異質な機体なんだろうな、きっと。


ここで、奥からぴしっとした風格の人物が現れた。彼女がこそっと、町長だと教えてくれた。


「あーみなさま、いろいろお聞きしたいことはあるでしょうが、役場としても事実把握のためにしばしお時間をいただきたい。この辺りで一旦質問を締め切らせてください。」


うまいこと報道陣から我々を引き離してくれた。


「あー、宇宙人さん、戻られるまで、この飛行機を撮影しててもいいですか?」

「構いませんけど、ハシゴは壊れやすいので一人以上は決して乗らないでくださいね。」


別に大した軍事機密でもない機体なので、好きなだけ写しといて下さい。でも、帰れなくなるので、壊さないでね。


町長に連れられて、役場に入っていった。


さっきまでの喧騒から急に静かな場所にきたため、まだ耳が慣れないのかキーンと耳鳴りがする。


奥の会議場のようなところに通された。


町長が口を開く。


「わざわざ役場の職員を保護していただき、ありがとうございます。役場を代表してお礼申し上げたい。」


深々と頭を下げられた。


「いえ、民間人の救出・保護は我々の義務ですから、役目を果たしただけです。」


思わず敬礼した。


「さて、マツオ殿、本当のことを話していただこうか?」


なんとなく、報道陣向けの話が胡散臭いと感じてたようだ。


「さっきの話は本当です。ただ…」


この役場の職員である男に振られたこと、その時動転して山奥まで入ってしまったこと、そこで偶然保護されたことなどを彼女は話した。


さらに駆逐艦のこと、宇宙に出て大型の宇宙戦艦の中にある街に行ったことなど、簡潔にこれまでの経緯を話していた。


「なるほど、それなら合点がいく。だが、この騒ぎになりながら、彼からは何も聞いていない。君の友人より、彼が先に通報するべきことだったんじゃないのかね。」


そういえば、目の前で山に向かって走り去られたというのに、追いかけられた形跡もない。心配された形跡もなさそうだ。この振った彼というのは、あまりにも薄情じゃないか?


「ところで、あなた方は我々との同盟を希望すると先ほど言われていた。我々はどう対処すればいいかね?」

「我々の交渉官との接触、およびこの国の政府機関との仲介をお願いいたします。報道関係者に向けては、我々の広報官よりこの宇宙に関する詳細な情報をお伝えする手はずになっております。」

「なるほど、了解した。早速、我々の政府に連絡することにしよう。」

「もう一つ提案ですが、上空で待機中の我々の駆逐艦をここに立ち寄らせてはいただけませんか?」


すでに姿を確認されており、このまま見せないのも何かと疑念を生むのではないか?という艦長の言葉を伝えた。


「その件は政府関係者と協議して返答したい。だがおそらく、その際は我々の軍関係者を同席させることになるが、よろしいか?」


国防を考えるなら至極当然の対応だ。


「ええ、むしろ歓迎です。艦内もご案内いたします。」


軍艦といえば、普通は軍事機密の塊ゆえに、公開をためらうのが普通だが、一兵卒からあっさりとOKされるとは意外だったのだろう。


しかし、艦も航空機もすでに200年以上ほとんど進化もなく、敵である連盟も同じ技術を保有しており、しかも連合に入った惑星にはいずれ開示される技術なので、無条件に受け入れる方がむしろ好都合だ。


町長殿は早速政府へに確認のため、しばし席を外した。


やっと、私もアカリさんも、緊張から解放された。


「はぁ~!疲れた~!」


さすがの彼女も今度ばかりは参ったようだ。


「あんたも休んだ方がいいよ〜、まだ第2弾がありそうだから。」

「いえ、そんなに簡単には休めませんよ。」


自分の星ではないからね、ここは。


そこに、男が一人、入ってきた。


アカリさんの顔色が変わった。


おそらく、こいつが元彼だ。そう直感した。


「随分と有名人じゃないか。大変だな。」

「あんたのせいでしょう!気安く話しかけないで!」

「おお!怖い怖い、宇宙船に行っても相変わらずのようだ。気をつけた方がいいよ、宇宙人殿。」


アカリ殿も大概毒舌だが、こいつはなんというか、神経に障る物言いをしてくる。


振った後にフォローもせず、この場で労いの言葉もなし、振られて正解だったんじゃないか?


と、そこに町長殿が戻ってきた。


「何をしている!?君がここにいる必要はないはずだが。」


思いの外早く戻ってきた町長に、この男はちょっと不意を打たれたような顔をした。


「後で少し聞きたいことがある。しばし隣の部屋で待ってなさい。」


男はすごすごと出て行った。


「さて、我々の政府よりの回答、提案を申し上げる。」

「お願い致します。」


直立して返答を聞いた。


テレビを見たこの国の大統領が、直接町長殿に連絡を入れてきたそうだ。どおりで戻ってくるのが早いわけだ。


我々の文官受け入れ、および駆逐艦の降下は即時に許可してくれることとなった。当面、この町役場を窓口として接触する。


この国の軍関係者の派遣も要請された。


そして、思わぬ提案が町長殿より出された。


それは、アカリさんを惑星代理人として、我が艦隊に赴任させるというものだ。


さすがに、私の意思では決められることではないため、彼女次第だと答えた。


が、彼女はあっさりと承諾。


ここで、正式に彼女はこの星の文官殿として、我々の艦隊に赴任することとなった。


もうここでお別れだと思っていただけに、私はなんだか嬉しかった。でも彼女は…


「さっきの男と顔を合わすことを思えば、またあの戦艦でお買い物できるし、宇宙の方がいいかな。」


そういう事情もありますね。ともかく、しばらくは顔を合わせることとなりそうだ。


家に戻って荷物を取ってくると言って、彼女はこの場を離れた。私はその間に無線で連絡、町長の言葉を伝えることにした。


さて、複座機に戻ると、2つのはしごのうち1つが曲って壊されていた。周りの人たちはかなりバツの悪そうな顔をしてこっちを見ている。


おそらく先を争うようにコクピット内部を撮ろうとした結果の惨事だろう。どこの世界の報道関係者でも、こういうところは共通なのだろうか?おかげで、さっきよりは行動が控えめだった。


私はその中を無言で抜けて、無事な方のはしごからコクピットに乗り込みキャノピーを閉じた。


壊れたはしごは、中から切り離した。このままでは格納できないし、つけてても仕方がない。がしゃんと音を立てて、はしごの一つは落ちていった。無言の抗議である。


さて「メンチカツ」に無線でつなぎ、艦長を呼び出してもらった。


そこで先ほどの町長の言葉を伝えた。


早速、艦の降下を始めるとの返答。効果場所に指定されたのは、この役場の運動場。


さて、地上の人たちにも知らせないといけない。


キャノピーを開けて、叫んだ。


「みなさーん、もうしばらくして、我が艦がそこの運動場に降りたちます!ご注意願います!」

「ええ?軍艦がここにくるんですか?」

「こちらの政府とは合意済みです。ついでに広報官も来るので、あなた方が知りたがってる我々のこと、宇宙のことに関する情報を詳しく説明してもらえます。」


こう言い残して、私は再び役場に入った。


これで、私の報道陣対応は終わり。あとは艦内の文官殿が相手してくれるはずだ。


しばらくして、アカリさんが戻ってきた。


「お待たせ!どうなった?あの船、メンチカツだっけ、こっちにくるの?」

「今向かってます。もうまもなくくるんじゃないかな。」


そんな会話をしてると、人が二人、アカリさんの元を訪ねてきた。


彼女の両親だ。


失踪の話を聞いて、故郷からわざわざ訪ねてきたらしい。ちょうどここについた時に我々が降りてきて、目の前で質問攻めになってるところを見ていたようだ。


しばらく親子でしゃべっていた。今度は宇宙に赴任、果てしなく遠い赴任地に、親としては不安なのだろう。


私の親も、私が遠征艦隊への赴任が決まった時、同じようにずっとしゃべってたっけ。思わず、故郷の親と重ねてしまった。


突然、3人でこっちに向かってくる。どうしたんだろうか。


「アカリの親です。娘を助けていただいて、本当にありがとうございます。」

「これからお世話になりますが、アカリをよろしく頼みます。」


深々と頭を下げられた。私もお世話になりますというようなことを言って、同じく頭を下げていた。


役場を出る両親。次に会えるのはいつの日か?ちょっと寂しげな彼女だった。


さて外を見ると、すでに駆逐艦「メンチカツ」は上空にいた。


指定場所の運動場にまさに着陸態勢に入ったところであった。


総重量10万トンクラスの、我々からすると小型のこの艦も、ここの人たちから見ると巨大な未知の宇宙戦艦といったところ。本物の戦艦を見たら、どう思うだろうか。


もっとも運動場は150メートル程度で、50メートルほどはみ出るものの、艦底部が接地するだけの広さはあったので、なんとか着地できた。


すると先を争うように報道関係者が走り寄ってきた。想像以上のものが上から降りてきたため、彼らは先を争うように写真や映像に収めていた。今日はきっと特ダネだらけで、興奮気味なのだろう。元気だねえ。


艦底部のハッチが開き、中から広報官と、機材を持った乗員が現れた。


報道関係者に詳細説明するための場所を借りたいとのことだったので、役場の人にお願いして、会議場をお借りした。


明日までには、この星の人々は報道を通じて今宇宙で起こってることを知ることになるだろう。連合、連盟のこと、艦隊のこと、我々のこと。


交渉官も降り立ち、町長殿と会見。今後の交渉にあたっての予備交渉、場所や人数などの確認を行っていた。


人口が2千人程度のこの町は、我々のおかげでずいぶんと騒がしいことになってしまった。


さて彼女と私はというと、艦内に戻り食堂で夕飯をとっていた。


すでに時刻は地上の時間で21時過ぎ、とっくに夜も暮れている。


覚悟していたこととはいえ、2人とも疲れ切っていた。この時ばかりは、あまり会話をしていない。


おかげで、部屋に戻るや否やすぐに寝てしまった。


長い1日が、ようやく終わった。

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