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失恋公務員と気弱パイロットと駆逐艦 4

その日の夜は、駆逐艦内の空き部屋を使ってもらった。


その夜のうちには大気圏突入し、再び高度2万メートル上空に戻ってきた。


さて、今日は彼女を地上に送り届ける日だ。いよいよお別れである。


地上を騒がせずにさりげなく帰宅してもらうため、彼女の自宅の位置を確認する必要がある。


ということで、彼女の部屋を訪れた。


「おはようございます。ご気分はいかがですか?」

「…最悪…」


いつもの毒舌モードに戻っている。どうしたんだ?


「あの~、どうしちゃいました?」

「明日から仕事だと思うと、憂鬱なの。」


ああ、とりあえず私のせいではなかった。


「私を振った相手、同じ職場なの。」

「なるほど…それはすごくバツが悪いですよね。」

「そうよ!どうしてくれるのよ!」


そんなこと言われても、私にはどうしようもないでしょうが。


「ああ~っ、いっそあんたが悪い宇宙人で、私をどこかに連れ去ってくれた方がマシだったのにぃ!」


そんな当たり方されても困るんですが。


「…まあ、時間が解決してくれるでしょう、多分。」

「解決できなかったらどうするの!また私が山奥に入り込んじゃって、そこでまたひろってくれるの!?」


ああいうのは二度とごめんだ。


「ああ~っ、いっそ宇宙人が役場を襲って吹き飛ばしてくれればいいのに。あの男の顔なんて見たくもない!」


男の顔を見ることよりも、異星人による武力制圧を期待するとは、怖い娘である。


しかしこっちは確かに強力な武器を持ってますが、地上では極めておとなしい集団。いまこの艦内では、多分あなたが最強です。


なだめる手段もないまま、ともかくどうにか落ち着いてもらおうと思った矢先、急に2人に会議場に来るよう連絡が入った。


なんだろう?彼女に貢物でも渡すのか?軽い気持ちで向かったが、事態は思わぬ方向に進んでいた。


「おお!きたきた!えらいことになっとるよ。」


艦長が出迎えてくれた。


どうも室内の空気がぴりぴりした感じだ。ただ事ではない。


「まずはこれを見てくれ。」


この惑星の、この辺りで今朝放送されたテレビ番組だという。


これを見て、2人とも事態の深刻さを知った。


内容は「マツオ アカリさん 失踪!?街の上空に怪しい飛行物体!?宇宙人による拉致か!?」というもの。


どうやら、友人が彼女の家に訪ねて行ったが姿がなく、彼女の実家やいきそうな場所を訪ねても見当たらないことから、通報したらしい。


一方で、この町の上空に怪しい飛行物体を発見したという天体マニアの話と、その写真が紹介された。


この艦影…やばい、この船だ。


昨日の朝のうちに飛び去ったところを目撃されており、彼女の失踪と合わせて大騒ぎになっているようだ。


地上をみると、何機かヘリが飛んでいる。おそらくこの星の報道機関のものだろう。


「う~ん、困った。あなたを穏便に帰す手段がなくなってしまったようだ。申し訳ない。」


艦長が、頭を抱えながら言った。


「どうしたものかなあ、これでは我々は住人を拉致した悪い宇宙人ということになる。まずいぞ、これは。」


その場には艦長のほか、副長に参謀、交渉官に法務官、そうそうたるメンバーが集まっていたが、皆どうしたらいいかわからないと言った様子だ。


急に彼女が口火を切った。


「私、戻ります。戻って説明します。」


皆一斉に彼女の方へ振り向いた。


「私が真実をいえば、わかってくれると思います。足の怪我を治してくれた上に、宇宙に連れて行ってもらい戦艦の中の街まで案内してくれた。拉致だなんてとんでもない!私がちゃんと話します。」

「だがどうやって地上に戻る?予告もなしに降り立ったら、地上は大騒ぎになって話どころじゃなくなる。」


参謀殿の発言だ。


「じゃあ、予告すればいいですよね?」


彼女の話はこうだ。


町には町内放送を流すスピーカーがあるそうだが、これは役場から無線によって発信されてるそうだ。


地上の時刻で正午にスイッチが入るので、その際に無線機に割り込み、予告をすればいいという提案だ。


ちょっと強引だが、それしかない。


降下する時間は、この地域の時間で午後3時、艦隊標準時で1400。時差は1時間。


大急ぎで戦艦長の承認をとりつけ、ハッキング準備にかかった。


艦隊標準時で1100、地上では正午。


「アカリ殿地上帰還作戦」が開始された。


「こちらは、町内放送です。本日の町内行事のお知らせをします…」


放送が流れてきた。


「きました!周波数特定!こちらからも発信可能です。」


マイクを渡されたアカリさん。町内放送にかぶせるように、大声で叫んだ。


「私は土木・建築課のマツオ アカリ!15時に役場前に行きます!!」


おそらく、この地に集まった報道機関をはじめ、町長など役場関係者などにも届いたであろう。


もう、後には引けない。


さて、誰が地上に彼女を連れて行くかだが、これは私がすることになった。


元々連れて帰る役は私だったが、事態が事態だけに、それなりの人物が同行したほうがいいのではという意見も出た。


だが、ここは彼女自身が最も関わった相手がいいという彼女自身の意見で、結局私が同行することになった。


ということは、私が報道陣の質問責めに合うということになるわけか。気が重い…


さて、地上が15時になるまでの間、想定質問と対策を詰め込まれた。


とはいえ、そんないきなり詰め込まれても、覚えようがない。詳細は改めてご説明します、とだけ答えておけと念を押された。


この艦が見られてる以上、一度地上に降りて披露した方がむしろ変な疑念を抱かれずに済むが、さすがに地上の政府機関の承認がないと動かせない。パニックが起こってしまう懸念もある。


ということで、艦の降下を町長殿に具申する旨も頼まれた。


そんなこんなで、約束の15時になろうとしていた。

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