失恋公務員と気弱パイロットと遭遇戦 1
我が地球597から20光年ほど離れたところに新たな地球型惑星が発見された。
発見のきっかけは電波。我々の惑星で、この星のラジオ放送電波らしきものがキャッチされた。
ということは、すでに電波を使って少なくとも20年以上経過した文明が存在することを示唆している。
早速、我々の遠征艦隊が探査に向かう。
私の名はラルフ。戦闘機乗りだ。
ただし、軍大学では地質学を専攻。本当はそういう方面の職業につきたかったが、軍に入らねば学費を払わなければならない。
そこで、惑星探査任務を単独で行えるよう、航空機の操縦資格を取得した。
その操縦資格と地質学の経歴が、今回役に立つ。
私の任務は、この地球739と登録されるであろうこの惑星の地質調査。
我々が使用する高エネルギービーム砲にはある鉱物資源が必要である。
わりとどこにでもある鉱物だが、これが入手できる場所を早く探し出し、ビーム砲の源を確保することは、戦略上非常に重要である。
私の搭乗する駆逐艦は、第23小隊の7455号艦。
なぜか艦内では「メンチカツ」と呼ばれるこの艦、全長300メートルのごく普通の駆逐艦だ。
搭載される機体は、複座の戦闘機タイプのが2機。これも、普通の駆逐艦と同じだ。
探査と住人との接触が目的なため、艦内には140人が搭乗。交渉、調査、法務など、戦闘関係以外の文官殿が40人ほど乗り込んでいる。
私は武官でありながら、資源調査担当という珍しい立ち位置。お陰で、複座機に単独搭乗し降下することになっている。
単独調査なんてずいぶんとブラックな業務だといわれそうだが、知らない人を乗せて飛ぶより1人で飛んだ方が気が楽だし、私は単独任務をむしろ歓迎している。
大気圏突入し高度2万メートルに差し掛かったところで降下する。
この星の事前調査で、テレビとラジオ放送が行われていること、ジェット旅客機が存在すること、空軍も存在し、レーダー監視が行われてることが確認されている。文明レベルは4だ。
このため、はじめはあまり刺激しないように、ステルス機である複座機を使う夜間調査を実施することになった。
悪いことをするわけではないのに、こそこそと調査をするのはあまり気持ちのいいものではないなぁ。できれば、昼間に堂々と飛びたい。
この地域は、時間にして午前2時ごろ。深夜だ。
ラジオ、テレビ放送を調べた結果、この辺りが統一語圏であることは確認済み。言語調査が不要なのはありがたい。
だが今回は人との接触を避けるため、小さな町からやや離れた山奥を調査することにした。
資源調査といっても、調達物資の調査であるため、先々には採掘することが必要。あまり人里離れた場所で目的のものを見つけても、採掘のための人員確保が難しいところでは意味がない。
てことで選ばれたのがこの場所というわけ。
でも、真夜中に一人きりでこんな山奥に降りるなど、おっかないにもほどがある。
お化けの類は信じていないが、夜行性のどう猛な野生動物に襲われる危険はある。
気楽な単独調査と喜んでいたが、これは危険だぞ…
命令なので今更断れないし、とにかく早めに調査して戻ることにしよう。
「ブーメラン2よりメンチカツ、離陸許可願います」
ブーメランとは、戦闘機のコールサインだ。
「メンチカツよりブーメラン2、進路クリア、ロック解除、発艦されたし。」
左下格納庫のハッチが開き、複座機発進。人里近くの調査のため、なるべくエンジンを吹かさずゆっくりと降下する。
目的の地点上空でホバリング、とりあえずヤバそうな動物はいません…ねと。
着地してハシゴを出し、地上に降り立った。
さて、機体下部につけられた採掘機を取り外すため、ライトをつけた。
するとそこに、見知らぬ人が1人、突っ立っていた。