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洪水と地主の娘と技術武官 2

翌日には水がほとんど引いていた。それと共に、次々に遺体が出てきた。


その遺体を1箇所に運び、身内調査をする。その数、およそ240体。その中には、おリンさんの両親もいた。


「…いいんです。もうこうなることは覚悟しておりましたから。」


そういうおリンさんだったが、やはり目の前で肉親の遺体を目の当たりにすると、落ち込んでいた。


おリンさんの昼食は、お茶漬けだけだった。とても食事が喉を通る状況ではない。だが、生き残ったものはこの先のことを考えなくてはならない。


「おリンさん!」

「は、はい!」


私が急に大きな声を出すので、びっくりしてこちらを見る。私は紙を広げる。


「あのですね、この村のことなんですが、こういう風にしようと思ってるんです。地主のおリンさんにぜひ聞いていただき、許可を取りたいのですが。」


それは、村の大半を農場にして、区画を7つに分けてそれぞれの作物を作るというプラン。実は村自体の面積は大きいのだが、大半は湿地帯で開墾されておらず、わずかな面積で作物を作っている状態だった。


これを一気に広げる。治水対策も施して、数十万人分の食料を生産できる一大農場に変えるというのが私のプランだ。


「ここが今村人がいる社で、ここがあの大きい川です。その間をですね…」

「ええっ!?こんなに大きな畑を作るんですか!?で、でも村人は30人、そのうち働ける男は12人ほどですよ!こんなに大きな畑、一体どうやって…」

「大丈夫ですよ。大半は機械がやってくれます。足りない人は外から雇えば大丈夫です。」

「で、でも家はどこに作るんです!?」

「ここが居住区になります。洪水に備えて、10階建のものをここに建設します。我々も常駐するので、500人は住めるものを作らないといけませんね。」

「ご…500人!こんな場所に500人も住めるんですか!?」


敢えて驚く話をして、おリンさんの気を紛らわす。私が示すのは、村の新しく明るい未来像。暗い雰囲気をぶち壊し、先の未来を見てもらって、おリンさんに元気になってもらう。この話に、思わずのめり込むおリンさん。


「ですが、まずやらないといけないのが、この岩の除去ですね。」

「はあ、そうなんですか?」

「今回もここが決壊して浸水してます。川の流れが急に曲げられてますから、この辺りはよく氾濫するんじゃないですか?」

「はい、そうです。グレンさんのおっしゃる通り、ここでいつも水が溢れてきます。でも、あの岩を取り除かない限り、ここはこういう流れのままですよね。」

「その通りです。だからこの岩を破壊します。」

「ええっ!?破壊って、そんなことできるんですか!?」

「我々には可能です。おリンさんに同意していただければ、明日にでも行おうかと思ってます。」

「はい、ぜひお願いします。この村一番の悩みの種でした。本当にこれがなくなるなら、村人も大いに喜ぶと思います。」


おリンさんの同意を得た。早速、私は川の流れの改良工事プランを司令部に提出する。


3機の哨戒機の武装で一斉に砲撃すれば、これくらいの岩は破壊できる。その後パワーショベルと人型土木機械を投入して破砕した岩を除去すれば、あっという間に川がまっすぐになる。


このプランは了承され、翌日に早速私は取りかかる。


村人達が、少し離れた場所から眺めている。あんな大きな岩が取り除けるとは、とても信じられない様子だった。そんな村人を横目に、私は早速作業にかかる。


「これより『こぶ取り作戦』を敢行する。第一次隊、配置につけ!第二次隊は第一次隊後方400で待機!送れ!」

「第一次隊、準備よし!」

「第二次隊、配置完了!」

「了解、では作戦開始!」


哨戒機3機が前に出て、横一線に並んで待機している。私は、第一次隊である哨戒機に向けて、発砲の合図を送る。


「第一次隊、撃ち方用意…撃て!」


落雷のような音が周囲に鳴り響く。と同時に、あの岩が粉々に砕け散った。


一気に川の水が、岩の割れ目から溢れ出す。この岩がなければ重力に従いまっすぐ流れるところを、この岩が阻んできたのだ。その理不尽な構図を破壊されて、川はその本来の流れを取り戻すが如く一気になだれ込んできた。


第二次隊の重機部隊は、空に浮かんだまま岩の破片の除去を行う。その破片は川の両脇に置かれて、堤防の代わりとして積み上げられる。


この力技な河川改修の様子を、村人は唖然としてみていた。手には我々が配ったおにぎりとスープを持っているが、もはや食べてる場合ではない様子。これは、私の隣にいるおリンさんも同様だった。


夕方までには破片除去も終わり、川は新しい流れを形成していた。


これには村人も驚いていた。我々を恐れる人もいたが、大半は我々のこの力に感激していた。


私のプランは、村人もおリンさんも半信半疑だったが、この一撃が与えた影響は大きい。やはり口で説明するより、一回の力技を見せつける方が手っ取り早い。百聞は一見にしかず、だ。


それからというもの、村人は私のプランに協力してくれるようになる。私は、次々とプランを実行に移す。


第1区画として、宇宙でも地上でも需要の多い小麦の畑をまず作る。小麦畑自体はたいして難しいものではない。これはあっさりと完成、1ヶ月もすると青々とした畑になる。


居住区も完成した。地上10階建の団地が完成。村人や我々の技術者達はここに移り住む。


ちょうど近くの城下町そばに宇宙港ができて、その町との往復バスが走るようになると、生活レベルは一気に向上した。


とまあ、ここまではよかった。


問題はここからだった。


やはり物事というものは、そう上手くはいかないものだ。


第2区画は根菜類を植えた。これも需要が高い。広範囲を耕して、芋類や大根などを育てる。


だが、私はこの土地の特性を見誤った。


ここは元々湿地帯。海抜が低く、すぐに水浸しになる土地だった。そんなところに根菜類を植えてしまったため、多くが水浸しの土地にさらされて腐ってしまった。


作物が一気に全滅する。田畑の開墾を始めて3ヶ月目。これはとてもショックな出来事だった。


「なあ、地主様よ。どうするんだよ、これは!」


私はいつのまにか地主様と呼ばれていた。少し有頂天になっていたのだろうか?この全滅劇で、一気にやる気を失う。


「グレンさん、あの、大丈夫ですか?」


心配したおリンさんが、私のところにやってきて声をかける。だがこの時私は呑んだくれていた。


「ああ、おリンさんですか?大丈夫ですよ~なんとかしますって!」

「あの、グレンさん、ちょっと飲みすぎじゃありませんか?控えたほうがいいですよ。」


それから私はおリンさんと何かやりとりをしたはずだが、あまり記憶にない。


だが翌日、目を覚ますと、なんとおリンさんが横で寝ていた。


私は飛び起きる。よく見ると、おリンさんは真っ裸で寝ている。ちょっと待て、いったい何があったのだ?


全く記憶にない。だがこの状況は、どう見てもただ事ではない。おそらく、大人なことをしてしまったのだろう。だが、そんな記憶が全くない。


年齢イコール彼女いない歴な私が、初めて一夜を共に過ごしてしまった出来事の記憶がないなどとは、一世一代の不覚。いや、それ以前になぜおリンさんを自分の部屋に連れ込んでいるのか?


「ううん…」


まずい、おリンさんが目を覚ます。私は目のやり場に困った。


「あら、グレンさん。おはようございます。」


にこっと微笑むおリンさん。私はおリンさんをシーツでくるむ。


「あの…おリンさん?」

「はい。」

「非常に申し訳ないのですが、この状況、私にはさっぱり記憶になくてですね。これは一体どういうことなのでしょうか…」


おリンさんはニコリと笑って言った。


「あなたがお誘いになったのですよ。私が一緒に寝れば、あなたはやる気が出るとおっしゃるので。」


ええっ?そんなことを言ったのか?全く記憶にないぞ、どうなっているんだ?


「しかもあなた、私の裸を見るのは初めてではないとおっしゃってましたよ?どういうことかは分かりませんが、ひどく自信満々でしたよ。」


えええっ!?なんてこと言ったんだ、私は。それ一番言っちゃいけないことじゃないか。我が事ながら、腹立たしく思った。


「で?やる気は出たんですか?グレンさん!」

「あ、私、そんなことを言った記憶が…」


狼狽する私を見て、おリンさんは急に怒り出す。


「あなたは、それでも殿方なのですか!覚えがあろうとなかろうと、一度交わした契りを守るのが務めではありませぬか!?私も我が身を捧げてまであなたを奮い立たせようとしたのですよ!それをあなたは…もういいです!」


そういうとおリンさん、さっさと着替えて、部屋を出て行ってしまった。


…最低だ。どう見ても最低の男だ。お酒が入っていたとはいえ、これはいくらなんでもやりすぎだ。しかし、これが私の本性なのか?そんな最低なことを平気で口走るような、そんな人間だったのか?


私はすっかり落ち込んでしまった。が、ともかく一言謝ろう。そう思って私はおリンさんの部屋に向かう。


ところが、呼び鈴を何度鳴らしてもおリンさんは出てこない。よほど怒らせてしまったのか、あるいは私のような人間を信用してしまったことを後悔して落ち込んでいるのか。


私は失意のまま、自分の部屋に向かう。ああ、これで私はもうおリンさんと顔を合わせることはできない。そう思った。


そう思った途端、私はあの第2区画に行こうと急に思い立つ。なぜか失敗などどうでもよくなってきた。おリンさんのことが吹っ切れたら、途端に第2区画をやり直そうと思ったのだ。


多分私は、今の気持ちを紛らわすための何かを求めていたのだろう。私は早足で第2区画に向かう。


そこは湿地帯と化していた。地面はベタベタで、腐ったまま放置された芋類の苗がたくさん残っている。私は考えた。このまま根菜類にこだわるか、それとも他の種に鞍替えするか?


根菜類にこだわるなら、このまま植えたらまた全滅だ。せめて水浸しにならないような施策を施さなくてはならない。そう考えた途端に、私はあることを思いつく。


私が呼んだトラックには、いっぱいに積まれた土。これは粘土だ。これをまず今の土壌の上に敷き詰める。その上から土をかぶせる。これで半日ほど放置した。


粘土層にある部分だけは、全く水分が上がってこない。これなら、根菜類を植えることができそうだ。


そこで私は翌日、第2区画の改良を行った。大量の粘土を空中から投下し、その後さらに上から土を敷き詰める。


無線で連絡しながら、私は輸送機に指示を出す。夕方までには、土壌整備が終了した。


これで、あの湿地問題も解決、明日からはまたチャレンジだ。そう考えていると、後ろに誰かがきた。


「ああ、ご苦労様、明日にはいよいよ苗を植えて…」


てっきり私は農業開拓担当の人がきたのかと思って、明日のことを言いかけた。ところがそこのいたのは、なんとおリンさんだった。


「…あ、あの…」


予想外の出来事に、私は言葉を失う。だがおリンさんは、にこっと笑って私に話しかけてきた。


「やはり戻っていらっしゃると思ってました。あの嵐の中、命の危険を顧みず私を助けてくださったあなたが、簡単に諦めたりしないと思っておりました。」


それを聞いた私は、思わず涙が出た。こんな私をまだ見捨ててはいなかったのだと思うと、私はつい心の奥につかえていた何かが外れたように、感情が込み上げてきてしまったのだ。


「自信満々に話されたかと思えば、急に自信をなくして狼狽して、おまけに今度はお泣きになる。忙しい方ですね、グレンさんは。」


裕福な家庭から急に両親も財産も失ってしまうという、私などよりも辛い境遇を味わっているというのに、自分以外の人のことも気にかけてくれている。そんなおリンさんを、私は急に愛おしく思った。


その日の晩、再びおリンさんは私の部屋にくる。


「…あの、おリンさん。私はご覧の通りのダメ人間ですよ。いいんですか?そんな男の部屋に乗り込んでこられて。」

「いいですよ。今宵は私から願い出てきたのですから、何も気にすることはありませんよ。」


そういうとおリンさん、ゆっくりと服を脱ぎ始める。私は素肌を晒すおリンさんを抱き寄せて、私はこう言った。


「あの、おリンさんと一緒にこういうことをするのは2度目のようですが、私の記憶では初めてのことです。お手柔らかにお願いします。」


するとおリンさんは笑いながらこう言う。


「大丈夫ですよ、グレンさんが私を抱くのは今宵が初めてですよ。前の時はグレンさん、布団に入るやいなや、すぐに寝てしまわれましたから、結局何もしていないのですよ。」

「えっ!?そ、そうだったの?じゃ、じゃあ、今日が最初ということなんですね!?はあ~、そうだったんだ…」


そういうと私は、おリンさんをベッドの上に押し倒す。


おリンさんはまだ20歳になったばかりだという。私よりも6歳も年下で、私よりも肝が座ってるこのお嬢さんを、ついに私は「開拓」してしまった…

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