悪魔と女騎士と魔王 1
ドーン、ドーン!
城門の扉を何か大きなもので突く音が響く。ここから見る扉は、今にも破られそうだ。
そう思った途端、バリバリと音を立てて、城門の扉が破られる。裏から城門を突いていた太い丸太が飛び出してくる。
「城門が開いたぞー!」
外で誰かが叫ぶ。と同時に、門の向こうから、たくさんの兵が押し寄せてきた。
「中尉!城門が破られました!」
私の乗る哨戒機のパイロットが叫ぶ。
「了解、これより『悪魔作戦』を開始する!」
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私は地球296遠征艦隊所属の駆逐艦4450号艦の作戦参謀をしている、リーンハルトという者だ。年齢は28歳。階級は中尉。
話は数時間ほど前に戻る。
この未知惑星の探査を始めて2日目のこと。我がチーム艦隊の1隻から、由々しき事態を知らせる光景の写真が送られてきた。
その写真に写るのは城塞都市。外は数万もの軍勢に囲まれており、攻撃を受けているようだった。何箇所も煙が立ち上り、今にも陥落しそうな状態だった。
これを見つけた駆逐艦4447号艦によれば、城はまだなんとか持ちこたえている模様。もう日が暮れ、周りの軍勢も後退したという。
ただ上空から見る限り、もはや風前の灯火といった様相。明日にでも大軍で攻め落とされるだろうというのが、駆逐艦4447号艦からの報告だった。
そうなる前に、我々の手でこの戦いを止めなくてはならない。私は軍司令部に、防衛行動を行う旨を打診した。
状況が状況だけに、すぐに了承される。私は早速、哨戒機に乗ってこの城塞都市に降下することにした。
ところで、我々の哨戒機はちょっと変わっている。それは、機体が真っ黒なことだ。
宇宙空間での哨戒機の役割は、主に海賊船などの不審船の取り締まりだ。
海賊船はたいてい民間用の護身兵器で攻撃して来ることが多い。哨戒機につけられているビーム兵器だが、自動追尾ではなく、目視による攻撃のみが可能な兵器だ。
だから、黒い方が宇宙空間では目立たず、目視による攻撃に対して有効だ。そのため、機体を黒くしている。
この黒い機体のまま、我々はその城塞都市に降下する。
だが当たり前のことだが、文化レベル2の人々が空を飛ぶものを見て警戒しないわけがない。上空に現れた哨戒機を見て、明らかに地上は混乱している。
ここの城塞都市を見る限り、剣と鎧で身を固めた兵士が多数いる。遠隔攻撃は、弓矢のみのようだ。火薬兵器の存在は認められない。
しばらく飛ぶと、哨戒機が降りられそうな広場が見えてきた。そこに哨戒機を着陸させる。
ハッチを開き、まず私が降りた。周囲には、鎧を着た兵士が集まり始めた。
「あのー、すいません。どなたか、話を聞いていただきたいのですが…」
そうしゃべりかけて、私ははっとした。そういえばここが統一語が通じるかどうかを知らない。
周囲の兵士は、剣を抜いてこちらを睨んでいる。言葉が通じているようには感じられない。困ったな、コミュニケーションが取れそうにない。どうしたものか。
すると、奥から誰かが叫ぶ声がした。
「待って、私が行くわ。」
「いや、あんた、相手は悪魔かも知らねえんだよ、危ねえって。」
「大丈夫、女の私が行った方が、何かあっても犠牲は少ないでしょ?」
統一語だ。なんだ、言葉は通じるようだ。よかった。
だが、やはり警戒はされてるらしい。得体の知れない空飛ぶ乗り物、そこから降りてきた奇妙な格好の人物。「悪魔」と言われても仕方がないだろう。
奥から、上半身だけ鎧をまとった兵士が出てきた。さっきの会話からこの人が女性だと分かったが、これが驚くほど綺麗な人だった。
金色の長い髪を後ろで束ねて、真っ白な透き通るような肌の顔をしたこの女性。誰だろうか?腰に剣を備えているその姿から察するに、女騎士か?
私の前までやってきたこの女騎士さん。私に向かって言う。
「私が話を聞きます。その前に、あなたはいったい誰ですか?この悪魔の使いのようなものは、いったいなんなの?」
戦場という殺伐とした場所に現れたきれいな婦人に見入ってしまって、私は思わず言葉がすぐに出てこなかった。気をとりなおし、私は女騎士さんに言った。
「私は地球297 遠征艦隊所属の駆逐艦4450号艦で作戦参謀をしているリーンハルトという者です。この城塞都市が危機に瀕しているのを見かけたので、救出するため参りました。」
「あ、アース297?くちくかん?よくわかりませんが、要するに、私達を手助けしてくれるというのですか?」
「はい、そういうことです。」
「そうですか…で、その対価として、何を要求されるのです?」
「は?対価??」
「悪魔が我々を助けるからには、それなりの対価を求めるつもりなのでしょう?でなければ、負ける側の城など助けてくれるわけがないはず。」
こちらのことをすっかり悪魔だと思っている。そんなに私はおっかない顔をしてるのだろうか?
そこで私はふと気づく。多分、おっかないのはこの哨戒機の方だ。空を飛んできた上に真っ黒だ。おまけに航空灯がちかちか点滅している。この星の人から見れば「化け物」だ。こんな化け物に乗ってくれば、そりゃ警戒されて当然だろう。
せめて一般的な白色だったら、もうちょっと警戒されずに済んだのだろうが、そんなことまで考慮していなかった。
「あのですね、対価など求めてませんよ。とりあえず我々は地上の人々の生命を守る義務があってですね…」
「そんな曖昧な契約では、あとあと揉め事の元になります!それでは我々は、あなたのことを頼るわけにはいきません!」
うーん、我々のいつもの口上はこの女騎士さん的にはダメらしい。
「私から一つ、提案があります。」
「は、はい。」
「この城と街を守っていただけたなら、私の身体をあなた方に差し上げます。悪魔は若い女の生き血を好むと言いますから、それで十分なはずでしょう。」
「ええっ!?い、生き血だなんて…要らないですよ、そんな物騒なもの!」
「私以外の住人には、一切手出しをしないで下さい!約束できますか?」
「は、はい!」
「ではこれで契約成立です。正式な書類はまた後程お持ちいたしますね。」
「はい、お願いします!」
思わず、返事をしてしまった…これが悪魔との契約ってやつか。悪魔じゃないのに…
この女騎士さんは、私の返事を聞いてにこっと微笑む。
「では、街の人達に説明してきます。どうかこの街のこと、お守りください。お願いします。」
「はい、必ず守ってみせます。ご安心ください。」
女騎士さんは住人のところに行こうとしたが、急に振り返って私に言った。
「そうだ、リーンハルトさん。契約した相手に名乗るのを忘れてましたね。私の名はカリマ。」
「カリマさんですね。住人の説得、お願いします。」
そう言うとカリマさんは、兵士のところに戻った。
私も行動を起こす。形はどうあれ、住人から救援要請が出た。駆逐艦4450号艦に連絡する。
「作戦参謀だ。艦長につないでほしい!」
私は駆逐艦10隻の派遣を具申した。同乗する文官殿の許可もすぐに得られて、早速駆逐艦の派遣が決まる。
それまではこの哨戒機で守るしかない。と言っても、いったいどこを守ればいいのやら…私は近くの兵に聞いてみた。
「あの~、すいません。」
「は、はい!?何でしょうか?あ、悪魔殿!」
…呼び名が気になるが、まあいいか。私は兵士に尋ねる。
「この城塞都市で、最も攻められると困る場所ってどこですか?」
「攻められて困るところ…そりゃ、南の城門じゃないですか?このサンドリオの街は、あそこからしか出入りできないっすから。」
なるほど、出入り口は一箇所らしい。相手は大軍だ。この高い塀を超えるよりも、大きな城門から入ってくる可能性の方が高いだろう。
と、その時だった。遠くから叫び声が聞こえる。
「敵襲だぁ!城門に、敵の大軍が攻めてくるぞ!」
言ったそばからいきなり大軍押し寄せてきてしまった。
まずい、まだ駆逐艦が到着していない。この哨戒機だけで、大軍を食い止めなければならない。
私は哨戒機に駆け込み、直ちに発進を命じる。
「哨戒機発進!南にある城門に向かってくれ!」
「は、はい、中尉殿!」
哨戒機なら、城門まですぐにたどり着いた。門の裏側では、こちら側の兵士が大急ぎで柵を築いている。
城門の扉を見ると、表側から何かでドンドンと突いているようだ。時折城門の扉が大きく膨らむ。破られるのは、時間の問題だ。
それにしても、思ったより大きな城門だ。哨戒機が簡単に通り抜けられるほどのサイズ。大きすぎて、哨戒機で蓋をすることはできそうにない。
と言うことは、別の手段であの城門から兵士が入り込むのを防ぐしかない。しかし、どうやって…
いや、待てよ?そういえばさっき、この真っ黒な哨戒機は「悪魔」呼ばわりされている。この見栄えを活用すれば、足止めできるのではないか?
「機内の全員に告ぐ!これより、この哨戒機を『悪魔』にする!私の指示通り動いてほしい。」
「えっ!?悪魔!?」
私が唐突に変なことを言ったので、機内の全員がきょとんとする。
「ここの住人には、この黒い機体がまるで悪魔のように見えるらしいんだ。だから、いっそこの哨戒機をより悪魔らしくして、外の兵士を城塞内に入らせないようにする。」
「なるほど、そういうことですか。しかし、どうやって?」
「私に考えがある。外部スピーカーと、ビーム砲発射準備。少尉、城門が破られたら直ちに私に知らせよ!」
「りょ、了解!」
面はガーン、ガーンと城門を打ち破ろうとする音が響き渡る。裏ではどうやら破城槌を使っているようだ。
そしてついに扉の裏の太い閂がばりばりと音を立ててへし折れる。その向こうから、丸太が飛び出してきた。
「城門が開いたぞー!」
叫び声がする。最後の守りの要が破られて、城門の裏側は一気に緊張が高まる。
「中尉!城門が破られました!」
パイロットが叫んだ。
「了解、これより『悪魔作戦』を開始する!砲撃準備!3バルブ装填!外部スピーカーのスイッチを入れてくれ!」
「了解!スイッチ入れます!」
私は手に持ったスマホの音をスピーカーに出す。
スマホには、映画「魔王」シリーズの魔王登場のシーンを再生している。
『ふははは、よく来たな、愚かな人間ども…我はこれよりこの世界を統べる魔王なり…』
先日ダウンロードしたばかりの新作だが、おどろおどろしさがたまらない。まさに「悪魔」だ。
城門を突破しようとする兵士の動きが止まる。この夜の闇の中から、突然現れたどす黒い空飛ぶ物体。そこから発せられる不気味な声。これを見て突進してくるやつは、この地上にはいない。
『私に楯突こうなどと、身の程も知らぬにもほどがある…では、貴様らの残り少ない命に、さらなる恐怖を刻んでやろう。見るがよい!魔王の力を!』
「中尉!ビーム砲装填完了!」
「よし!城門の中をめがけて撃て!」
合図とともに、哨戒機からビーム砲が放たれた。雷のような大きな音とともに、青白い光が城門を抜けて暗闇の中を貫いた。
門の前にあった破城槌の屋根を吹き飛ばして、城門の先にある小高い丘に着弾、そのまま大爆発を起こす。闇夜の中に大きな火柱が立ち、爆発音が響き渡る。
とてつもない音と光に、城門の外も内も大混乱だ。
さらにちょうどいいところに、駆逐艦10隻が到着した。
「ミネストローネよりピロシキ1へ、駆逐艦群到着!現在の状況を知らせよ!」
「ピロシキ1よりミネストローネへ、ちょうどいいところに来ました!私の合図で、10隻一斉に未臨界砲撃をおこなってはいただけませんか?」
「未臨界砲撃の斉射を!?なぜ?」
「タイミング的もちょうどいいんです!お願いします!」
「わ、分かった!艦長に伝える!」
ちなみに「ミネストローネ」は駆逐艦4450号艦の、ピロシキ1はこの哨戒機のコールサインだ。どうしてこう呼ばれるのかは、私も知らない。
そんな最中でも、魔王のセリフは続く。
『ふははは!この程度で驚くのはまだ早い!冥土の土産に、わしの本当の力を見せてやろう!見るがいい!』
私は無線機に向かって叫ぶ。
「今です!未臨界砲撃始め!」
私の合図に呼応して、上空の10隻の駆逐艦から一斉に未臨界砲撃が放たれた。
先程の哨戒機のビーム砲など、問題にならないほどの強烈な砲撃音が鳴り響く。青白い光が、城塞都市の周囲を明るく照らす。
正規の砲撃ではないので、音と光だけの威嚇射撃にしかならないが、さっきよりも大きな衝撃で目の前の軍勢はかなり混乱している。
『…さあ、これより世界は漆黒の闇に包まれ、魔物が地上を埋め尽くす世界へと変わる…もっとも、お主らがそれを見ることは叶わぬであろう。今からお主らは、今よりわしにまるで焚き火の前の羽虫のように焼かれて、冥府の旅路に出るのだからな…』
ここで私はスマホの音を切る。城門の外は右往左往の大混乱、我先にと城門から離れていった。
やれやれ、これで一件落着…と思いきや、そうもいかない。
よりによって、城門の内側でも恐怖に包まれていた。哨戒機を見て恐怖のあまり逃げ出そうとするもの、その場で立ち尽くすもの、絶望のあまり泣き叫ぶもの、いろいろだ。
…ちょっとやり過ぎたようだ。私は哨戒機のスピーカーを使って、城門の中に向かって話しかける。
「えー、状況を報告いたします。外の兵士は撤退しました。とりあえず皆様の危機は去ったことをお知らせいたします。速やかに扉を修復されることを勧告いたします。」
そういうと、この哨戒機を着陸させる。ハッチを開き、私は地上に降りる。
必要以上に怯えさせてしまったようだ。誰一人、こちらに近づこうとしない。でもそんな中でも1人、こっちに歩いてくる人がいる。カリマさんだ。
周りが怯える中、彼女だけは平然と歩いてくる。なかなか剛胆な方だ。さっきまでつけていた鎧と剣は身につけておらず、民族衣装姿になっている。
「ありがとうございます、リーンハルトさん、いえ、魔王様でしたっけ?本当に敵を追い出してしまわれましたね。さすがは世界を統べると豪語されるだけのことはあります。」
こういうと、カリマさんは手を胸のあたりでクロスして、私の前でひざまずく。
「お約束通り、私の身をあなた様に捧げます。身を焼かれようが、生き血を吸われようが、いかなる苦痛も受け入れる覚悟です。」
淡々と言う彼女だが、やはり自身のこれから訪れる悲惨な運命に恐怖しているようで、体が小刻みに震えている。
周りの人も、カリマさんのこの先の悲劇を嘆き、涙している。街を救うために身を捧げた悲劇の女騎士。彼らはその姿を目に焼き付けている。
…というか、この場では私はすっかり「魔王」ということになっている。これから契約に従い、この女騎士さんに酷い運命をもたらす張本人というわけだ。
いやいや、私にはそんなつもりは毛頭ない。そんな恐ろしいこと、私にできるわけがない。だいたい軍に長くいるせいで、まだ女の人とまともに付き合ったことなどない。カリマさんの手を握るのにもドキドキするような男が、どうして彼女にそんな酷いことをするだろうか?
「ええと、カリマさん。」
「はい。」
「もう戦いは終わりました。私はあなたを連れ去ろうという意思も理由もありません。だから、街に戻っていただいてよろしいんですよ。」
そう彼女にいうと、急に険しい顔つきで反論される。
「いや、それでは困ります!それではかえって他の者が不安になってしまいます!私1人が一心に背負うと言いうことを聞いていたから、ここの街の人々はあなたの繰り出す魔術の恐怖に耐えてきたんですよ!?ここで私が戻ってしまえば、いったい誰が生贄にされてしまうかと、皆が恐怖に押しつぶされてしまう!だから、私は街に戻るわけにはいかないんです!」
えーっ…なんでそんなめんどくさいことになるの…そのまま何も考えず戻ってくれれば、万事うまくいくのに…
困った私は、無線で艦長に相談する。事情を聞いた艦長は、彼女を来客として一時受け入れることを決めた。
「あの…私はこれから駆逐艦に戻ります。ご一緒についてきてくれますか。」
「分かりました。仰せの通りにいたします。」
おかしなことになってきた。半ば誤解によって生贄を志願してきたこの人を、駆逐艦に連れて行くことになった。艦に戻って私がまずするべきことは、この誤解を解くことだ。
「作戦は終了!これより帰投する!」
「了解!これより帰投します!」
哨戒機のエンジン音が唸りだす。ゆっくりと上昇して、駆逐艦4450号艦に向かう。
「ところで中尉殿、そちらの女性は先ほど無線で知らせていた…」
「そうだ。来賓として迎えるよう、艦長から言われている。」
「はい、分かりました。」
兵器担当の少尉がジーッと彼女を見ている。突然現れた綺麗な女性に、思わず見とれているようだ。
駆逐艦4450号艦は、城門を塞ぐように着陸していた。すぐそばにいるこの駆逐艦へ、我々の哨戒機は直ちに着艦する。格納庫が開き、中からアームが伸びてきて哨戒機をつかむ。そのまま艦内に収納される。
ハッチを開き、私がまず降りる。続いてカリマさんも降りてきた。周りをキョロキョロ見ているカリマさん。奇妙なものばかりが並ぶこの格納庫が気になるらしい。
そのまま私は、カリマさんを連れて艦橋に向かう。通路を抜けて、奥にあるエレベーターに乗り、最上階にある艦橋に向かう。
室内のはずなのに明るい通路、勝手に開け閉めするエレベーターの扉、時折現れる自動掃除機、彼女から見れば、奇妙なものばかりだろう。
艦橋に着き、艦長の元に行く。ちょうど駆逐艦4450号艦は着陸しているところだった。城門の前に降りて牽制するとともに、城塞の内外の人々と交渉を行うためのようだ。
着陸すると、艦長は私とカリマさんを連れて、会議室に向かう。
そこで私は、この街に降り立ってからカリマさんを連れてくるまでの一部始終を話す。じっと耳を傾ける艦長。
「…つまり中尉は、この街の人が黒い哨戒機を悪魔の使いだと勘違いしたのをいいことに、それを逆手にとって城外の兵士を脅して追っ払ってしまったと、そういうわけなんだな?」
「はい、そうです。」
「駆逐艦が来る前で、哨戒機だけであの大軍を無傷で追い払うというやむを得ない事情があったにせよ、ちょっとやり過ぎだな。」
「…はい、申し訳ありません。」
艦長と私は立ち上がり、カリマさんの前に立つ。艦長がカリマさんに話す。
「この度は、あなた方に必要以上の恐怖感を与えてしまったようで、大変申し訳なかった。私とこの中尉共々、お詫び申し上げます。」
艦長が頭を下げる。私も合わせて頭を下げた。
「いや、そんな、私達はおかげで助かったのですから、何も謝ることはありません。どうか頭をあげてください。」
カリマさんは予期せぬ事態に驚いている様子だ。生き血を抜かれると思って覚悟してきたのに、いきなり偉い人から頭を下げられた。何が起きているのか、理解できない様子だ。
ともかく艦長からは、地上の誤解が解け混乱が収まるまで、カリマさんを艦内に留めるよう言われる。その間に、私は彼女の誤解を解くよう命令された。
こうして、私はカリマさんのお世話役となった。私は彼女に言う。
「あの、もう夜遅いですし、明日改めてご説明いたします。とりあえず、お休みになりませんか?」
「はい、分かりました。でも、どこで休むのでしょうか?」
「部屋を一つ借ります。女性士官に行ってお風呂にも連れて行ってもらいます。今日はゆっくりお休みください。」
そこから私は主計科に行って部屋の鍵を受け取り、女性士官にお願いして彼女の身の回りのことを説明してもらった。
ようやく寝たのは、この地上の時間で午前2時ごろのこと。あまりにいろいろあったので、私も疲れてすぐに寝てしまった。




