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星占いと星の落下と星の艦隊 2

翌朝、私はすぐに広場にいるあの船に向かう。


相変わらず人が多い。けれども、誰も船に近づこうとはしない。


「お嬢さん、大丈夫かい?ここから先はちょっと危ないんじゃないか?」

「私は大丈夫ですよ。領主様のお使いで、ここに来たんです。」


そう言って私は先に進む。


船の下にはパトリックさんが立っていた。


「おはようございます。マーリットさん。」

「おはようございます。パトリックさん。伯爵様のご返事をお持ちいたしました。」


私は再び船の中に入っていった。あの行き止まりの部屋を経由し、別の通路に出て再び広い部屋に行く。


そこにはもう一人別の人が現れた。交渉官のジェレミーさんとおっしゃるそうだ。


私は、伯爵様がお会いしたい旨をこの方たちにお伝えした。早速このジェレミー交渉官とマランツ広報官、そしてパトリックさんが伯爵様のお屋敷に向かわれることになった。


お二人にもまた水晶玉を当ててみる。新しい出会いを示す上向きの彗星が現れたが、特にそれ以外の何かは現れない。これから伯爵様と会われるので、それを暗示しているだけのようだ。


だがこの2人には水晶玉の中にある星は見えないようだ。見せてみたが、ただの黄色っぽい水晶玉にしか見えないとおっしゃっていた。宇宙人だからといって、だれでも見えるというわけではない。パトリックさんが特別なようだ。


そう考えるとパトリックさん、いったい何者だろう?一緒に伯爵様のお屋敷に向かう間、私はパトリックさんの方を時折見ていた。


見る限り普通の男性だ。少し背は高く、整った顔立ちにピンと伸びた背筋。まるで貴族のようなお姿だ。


近々結婚するようだから、よほどきれいな婚約者でもいらっしゃるのだろう。お相手がちょっと気になる。


そんなことを考えながら、伯爵家に着いた。


伯爵様と交渉官、広報官の方々はお屋敷の奥の部屋で話をされることになった。その間、私はパトリックさんと一緒に、お屋敷の入り口にあるテラスで待つことになった。


「あの…パトリックさん?」

「はい、なんでしょう?」

「しばらく待つことになりそうなので、この水晶玉の話を少ししてもよろしいですか?」

「はい、是非聞きたいですね。お願いします。」


私はこの水晶玉に現れる不思議な星図の話をした。現れる星の種類や向きによって、さまざまなことが予測できることを伝える。


「へぇ、不思議な水晶玉ですね。でもなんでそんなことができるんですか?」

「さあ、私にもわからないんです。14歳の時に祖母からもらって、それ以来不思議な星図が現れるんです。それで、これを使って生活しているんですよ。」

「そうなんですか。でもその水晶玉の話を他の人にしても大丈夫なんですか?他の人に盗られちゃいますよ?」

「それがですね、不思議なことに私にしか見えないんですよ。昨日までは。」

「そうなんですか?でもなんで昨日まで?」

「はい、もう一人見える人が現れたんです。」

「えっ!?もしかして、私?」


そして、私はその水晶玉に現れる星と、それに伴う意味をパトリックさんに話す。上向きの彗星は新たな出会い、月は近々結婚するという暗示。


「ええっ!?じゃあ私、結婚するってことですか?」

「そうです。」

「でも私、相手なんていませんよ?この船じゃ女性士官はほとんどいませんし、今のところ私に好意を持っている人もいませんけど。」

「ええっ!?そうなんですか?私てっきり婚約者の方がいらっしゃるのかと…」

「でも、その話が本当なら、私はだれかと出会って結婚するってことですよね。その水晶玉、どれくらい当たるものなんですか?」

「今のところ、確実に当たっていますよ。時々解釈に困る事象が出るので、その意味がわからないこともあるんですけど、月が出たらまず間違いなくひと月以内に結婚相手が見つかっているんですよ。」

「そ、そうなんですか?いやあ、緊張しちゃうな…いったい誰なんだろう?」


なんだかそわそわしている。でもパトリックさんには、まだお相手がいないようだ。


おとといの赤い星といい、昨日の月といい、このところ全く想像もつかない予想をもたらしてくれる水晶玉。いったい、どうしたというのだろうか?


「ところで、私もマーリットさんの水晶玉のようなものを一つ持っていますよ。」

「ええっ!?そうなんですか?」

「といっても、大したものじゃありません。誰でも使えるものですよ、これは。」


そういって、懐から四角くて黒いものを取り出した。


パトリックさんがいじると、突然その四角いものから何かが飛び出してきた。


昨日見た、青くて丸い、私たちのこの大地の姿だといわれたものが映っている。すごい、水晶ではなく、空中に映し出している。


「な、なんですか、これは?」

「これはスマートフォンといって、こうして空中に出したい映像を簡単に出すことができるんですよ。他にもこんなこともできます。」


今度は人の姿が現れた。何か踊っている。おまけに音楽のようなものが聞こえてきた。


私の水晶玉は星しか映さないけれど、パトリックさんのこのスマートフォンとかいうものは、星だけじゃなくて人や風景まで映すことができる。


「ただ、これはあなたの水晶玉のように何かを予想することはできないんですよ。ただ単に見たいものを見せてくれるというだけの道具ですよ。」

「いやあ、でも驚きました。そんなものをパトリックさんは使えるんですね。」

「いえいえ、交渉官殿や広報官殿も使えますよ。多分今ごろ、伯爵様の前で使っていると思いますよ。」


聞けば、誰でも使える機械だという。試しに私も触ってみたが、慣れれば確かに簡単に使えそうだった。


「じゃあ、パトリックさん。代わりに私の水晶玉も使ってみます?」

「はい、でもどうやって使うんですか?」

「簡単です。人や物にかざしてみるだけですよ。」


で、パトリックさん、早速私にかざしてみた。


パトリックさん、少し驚いた様子だった。


「あの…マーリットさん?」

「はい。」

「…月が出ていますよ。」

「えっ!?ええっ!!ほ、本当ですか!?」


全く予想もつかない結果が出てきた。それってつまり、私に結婚相手が現れるってこと?


パトリックさんの手の上の水晶玉を覗いてみた。確かにそこには、月が映っている。


なんだか少し、怖くなった。私には当然、相手なんていない。いったいどこから現れるのだろうか?


2人そろって、まだ見ぬ結婚相手にそわそわしていた。なんてことだ、私までそわそわする羽目になるなんて、思わなかった。


いったい、どうしたというのだろう?この3日間というもの、水晶玉の出す占いが想像を超えた何かを暗示してくる。


2人でそわそわしていたら、伯爵様と交渉官、広報官の方との話が終わったらしく、3人とも表に出てきた。よほどいい話し合いだったようで、3人とも笑顔だ。こちらは、占い通りになったようだ。


しかし、私に現れたという「月」には困ったものだ。いや、別に結婚が嫌だというわけではない。相手がわからないから、なんだか落ち着かないのだ。だから困っている。


パトリックさんと別れた後、私は周りを見渡す。


しかし、どう見ても日常の風景。出会いなどあろうはずもない。大体、親のいない私に言いよる男もそうそういない。


そう、私は幼いころ、親を亡くしている。


まだ物心つく前のことだから、私は覚えていない。祖母の話では、私の両親は家に入ってきた強盗によって殺されていたとのことだ。私だけは幸い生き残り、祖母の手で育てられた。


その祖母も2年前に亡くなった。亡くなる直前、この水晶玉のことを祖母が教えてくれた。


この水晶玉は、元々両親の持っているものだったそうだ。何に使っていたのかはわからない。ただ、自宅から出てきたので、祖母が持ち帰ったものだという。


それを14歳の時に私は受け取った。そんな力があるなどとは祖母も知らなかったし、私も最初は何のことだか分らなかった。ただ、探っているうちにこの不思議な力の存在を知ったのだ。


だから、私はこの力は、きっと死んだ両親が与えてくれたものだと思っていた。


だが、その水晶玉を覗き見ることができるもう一人の人が現れた。


どういうことなのだろう?遠い星からやってきたこの人が、どうしてこの水晶玉を覗き見ることができるのだろうか?


その意味が、私にはわからなかった。ただ、特別な人物には違いない。


そんなことを考えながら、1週間が過ぎた。


伯爵様と交渉官たちの話し合いは進み、いよいよ国王陛下への謁見が叶うこととなったようだ。


だが、そこで一つ悩ましいことが起こる。


国王陛下が交渉を進めるにあたり、誰かを彼らの船に乗せたいと仰せになったそうだ。


宇宙という場所を知る者が王国に存在しないまま、交易交渉を始めるなどということはいささか腑に落ちないという陛下のご意向により、5人の者を彼らの船に派遣せよということになったのだ。


それで、例によって私の占いでその5人を決めたのだが。


またしても、私自身が入っていた。


残りの4人は男爵に騎士、商人に執事と、私などと比べて明らかに選ばれるべき素質を持つ人々ばかりだ。


私だけが平民で、占い師という得体の知れない職を持つ者だ。


当然、他の4人からは白い目で見られていた。多分、陰口を叩かれているだろう。占いにかこつけて、自分自身を売り込んだと。


元々私は平民でありながら、占いのおかげで伯爵様に取り入っていると思われているようで、薄々妬まれていることは承知していた。これがこの件で、一気に吹き出したようだ。


実際、彼らに水晶玉をかざすと、もやもやとした真っ黒な煙のようなものが映る。とても星には見えないものが映った時は、心に何か不平不満を抱えている時だ。


そんな彼らの冷たい視線から私を守ってくれたのは、パトリックさんだった。この方だけは、何かと私をかばってくださる。


こんな状態なので、他の4人は交渉官殿が、私だけはパトリックさんと一緒に行動することとなった。


こうして、ついに宇宙へ行く日が訪れた。5人は艦橋と呼ばれる場所へ案内された。


「両舷微速上昇。規定高度まで上昇を開始。」

「機関出力7パーセント!両舷微速上昇!」


艦長と航海士の掛け声と同時に、この船が動き出す。


徐々に空に浮き上がる船。私だけでなく、5人とも空を飛ぶのは初めてだ。王国でももちろん、空を飛んだことのある人はいない。


徐々に上昇する船。地面がどんどん遠くなっていく。そのうち、まだ昼間だというのに、空が暗くなってきた。


「高度4万メートル、規定高度到達!」

「よし、ではこれより大気圏離脱し、合流地点であるラグランジュポイントに向かう。仰角3度、両舷前進いっぱい!」

「仰角3度、機関出力最大、両舷前進いっぱーい!」


この号令のあと、ゴォーッという音が鳴り響く。私の座っている椅子がビリビリと震え出した。


あんな大きな船だというのに、それを軽々と前に押し出しているようだ。周囲の風景が、ものすごい速さで後ろに流れていく。


私は窓のそばに行ってみた。そこには、私がこの船で最初に見せてもらったあの青い球があった。だけど、実物は本当に大きい。あれが私達の住んでいる地面なんだ。その青い球は、どんどん遠くに離れていく。


逆に月がどんどん迫ってくる。しばらくすると、月の真横を通り過ぎた。表面はでこぼこしていて、普段見ている月とは違った風景が見える。ここも丸い地面で、海はないけれども山が見える。


私につられて、他の4人も窓の方にやってきた。月がこんな風だったなんて、皆驚いている様子だ。


月を通り過ぎたら真っ暗になった。星が見える。もうここは昼間なのか夜なのか、さっぱり分からない。


やがて、星の一部が次第に大きくなってきた。いったい、何だろうか?


いや、よく見るとあれは、船だ。この船と同じ船がある。それもたくさん。その船の群れの中に、この船も入っていく。


パトリックさんによると、ここには100隻もの船が集結してるそうだ。そんなにあるんだ、この船。でも、100隻で驚いていたら、パトリックさんはもっと驚愕の事実を教えてくれる。


「我々の艦隊は、全部で1万隻あるんですよ。今からその艦隊が集結する場所にご案内するんです。」


さらりとおっしゃいますが、1万隻という数は、もはや私の想像の範囲を超えてる。ここにいる100隻でさえ驚いてるというのに、これは艦隊のごく一部なんだ。


私達はまずアステロイドベルトと呼ばれる、大小さまざまな岩のような星がたくさん浮かんでる場所に行く。ここにその1万隻の大半が集結しているそうだ。


そこまで行くのに半日はかかるため、まずは腹ごしらえということになった。私は食堂という場所に行く。


パトリックさんに連れられてやってきた食堂という場所では、何人かの人が食事をしていた。ああ、食べ物を食べる場所なんだ。


だけど、不思議と料理を作ってくれる人が見当たらない。皆、奥の方で食べ物を受け取っている。


パトリックさんに聞くと、まず入り口にあった光るパネルで料理を選ぶ。そのあと、奥で食べ物が出てくるから、これを受け取る。


全く人気が感じられないが、いったいどうなってるのかと聞くと、機械がみんなやってるらしい。


私はキッシュ・ロレーヌという食べ物を選ぶ。パトリックさんはブイヤベースという魚介類を使った料理を選んでいた。


カウンターで待っていると、奥から人もいないのに料理が出てきた。その奥を覗き込むと、何やら腕のような仕掛けが動いていた。あれが料理を作ってるんだ。


そんな仕掛けが作った料理なのに、とても美味しい。信じられない技だ。私は彼らの持つ底知れぬ力に改めて驚く。


これは、他の4人も同様だったみたいだ。出てきた料理を見て驚いている。


料理を食べ終えて、私と他の4人はそれぞれの部屋に案内される。しばらくここで過ごすことになる。


部屋にはベッドと机、それに妙な真っ黒い額縁が壁に貼られていた。


これはテレビというものだそうだ。パトリックさんがそばにあった小さな箱についた突起を押すと、突然額縁の内側が光り、動く絵が現れた。


そこに映るのは、野原の風景だったり、料理を作っているところだったり、見たことのない建物が立ち並ぶ街だったりする。


そして、真っ暗な画面が映った。


これは今の外の様子だという。よく見ると、そこには他の船が映っていた。


しばらく私はそこでテレビというものを見ていた。出てくる文字は分からないが、言葉はわかるのでそれなりに楽しめる。


ただ、分からない言葉が多い。地球(アース)299では、ジョギングとかいうのが流行ってるらしい。なんだろうかと思って見ていたが、ただ走っているだけだ。


ウォーキングというのも人気らしいが、こちらはどう見ても歩いているだけ。歩いたり走ったりすることが流行るなんて、変な話。お店に行ったり隣の街に買い物へ行けば、歩いたり走ったりするでしょうに。歩くことや走ることそのものが流行りものになるということは、皆さん普段は歩いていないってことだろうか?


そんなことを思いながらテレビを見ていたら、突然けたたましい音が鳴り響く。なにかしら?何かが起こったようだ。


パトリックさんが私の部屋にくる。


「マーリットさん、大変です!ちょっと艦橋まで来て下さい!」


なにが起こったのだろうか?よく分からないまま、私はパトリックさんについていった。

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