星占いと星の落下と星の艦隊 1
私はマーリット。21歳。このブラウワーの街で占い師をしている。
私が14歳の時、不思議な水晶玉を祖母からもらった。少し黄色っぽいこの水晶玉。なぜか私だけがその中に無数の光の点を見ることができる。
まるで星座のようなその水晶の中の光の点は、向ける人や物によって、微妙に配置や出る星が変わる。
その不思議な現象を追いかけているうちに、その水晶玉の中の星座や星の種類を見れば、なにが起こるのかが分かるようになってきた。
例えば、人に向けた時に下向きの彗星が現れたら、その人は怪我か病気になってしまうことを表す。逆に、上向きだと素敵な出会いが出会いが待っている。水晶玉に映る場所は、それが起こる方角を示していて、それによってその出来事に出会ったり、回避できたりする。
私の占いはよく当たると評判になり、多くの人がやってくるようになった。特に騎士や一部の貴族の方には大変好評で、戦いの前には軍勢を前に勝ち負けを占う仕事まで受けるようになった。
なぜこんなことができるのか、自分でも分からないけれど、分かってしまうのだから仕方がない。せっかく身につけた能力、私はこの力を活かして生活していた。
ある日のことだった。
その日も何人かの人の占いをした。大抵は新たな出会いだとか、商売の成否だとか、生活に関する占いが多い。どの方角に行けばいい巡り合わせがあるのか?そんなことを聞かれるのが常だ。
私は、貴族だろうが貧乏人だろうが、占い一つあたり銀貨1枚と決めている。それ以上もらっても、私は使い切れない。別に贅沢したいとは思わないし、多過ぎる財産は、自分にとってろくな結果を生まない。それは、私自身を占った結果だ。
さて、その日の夜のこと。私は何気なく水晶玉を持ってベランダに出た。
夜風が心地よい。夏の終わりで、少し涼しくなった街の空気は、暑がりな私にとっては気持ちがいい。
そんな街にはどんな明日が待っているのだろうか?そんなことを考えて、ふと水晶玉を街に向けて見た。
そこには、見たこともない星図が出ていた。
真ん中には赤い大きな星、そして、たくさんの彗星が上向きに流れている。
赤い星は、突然起こる不幸を示している。高いところから落ちたり、溺れたり、上から物が落ちてきたり、そういう類の出来事の象徴だ。しかしこの星は、今までに見たことのない大きさ。街全体に起こる巨大な不幸だから、ものすごい出来事なのは間違いない。
だが、その周りの無数の彗星は何を示しているのだろうか?上向きということは、不幸の象徴ではない。だけど、同時に現れた赤い星の意味とは大きく矛盾する。
見ている私にもさっぱり分からない星図だ。確実なことは、明日何かが起こるということだ。
翌朝、私は占いを休み、伯爵様のところに向かう。この街の領主様で、私も占いで何度か関わったことのあるお方だ。
その伯爵様に、昨日の占いの結果をお知らせすることにした。
突然朝早くに占い師の娘が現れ、伯爵様に御目通り願いたいなどと言ったものだから、伯爵家では大騒ぎになってたようだ。それはそうだろう。いきなり占い師が血相を変えて領主様の家に押し掛けてくるなど、どう考えたって不吉な予感しかしない。
伯爵様はすぐにお会いになってくださった。私の話を聞く伯爵様。
「…ということで、何が起こるのかわかりませんが、何かが起こるのは間違いないのです。でも、どうしたらいいのでしょうか?私にはさっぱりわからなくて…」
「うーん、わしにもよくわからんな。だが、その赤い星はともかく、無数の彗星というのが気になるな。どういう配置をしているんだ?」
「はい、この赤い星をまるで取り囲むように並んでおりました。」
「なるほど…で、今朝はどうなっていた?」
「今朝…ですか?まだ見ておりません。」
「昨日の晩から今で、どういう変化が起こっているのか、それを見れば何かわかるかもしれん。」
私はお屋敷のベランダに出て、再び水晶玉を街に向かってかざした。
すると、無数の彗星が現れた。が、不思議なことに、赤い星は消えていた。いったい、どういうことだろう?
「そうか…赤い星は消えていたか…もしかするとだが、その彗星というのが鍵ではないのか?」
「彗星が、ですか?」
「わからんが、彗星だけ残って、赤い星が消えていた。ということは、その彗星がその赤い星をどうにかしてくれるということの暗示ではないのだろうか?」
「そ、そうですね。でもいったい、それが何なのでしょうか?」
「いずれにせよ、今日のうちに何かがありそうだな。街の住人には、今日はなるべく外に出ないよう、知らせておこう。」
早速、街中に領主様からの知らせが流布される。街は一気に静まり返ってしまった。
だが、昼間のうちにそれは起こらなかった。何事もなく日は暮れる。
私の占いは、外れたのではないだろうか?そう思ったその時だった。
「なんだあれは!?」
夜空に、まっすぐこちらに向かってくる赤い星。それはまるで、あの水晶玉に現れた赤い星そのものだった。
まるで太陽のように輝きながら、こっちに向かってくるその赤い星。でも、まさか本当に赤い星が落ちてくるなんて思わなかった。。
と、その時、今度は反対側からなにかが現れた。
灰色の大きな城塞のようなものがいくつか、ものすごい速さで街の空に滑り込むようにやってきた。
これがもしかして「彗星」の正体?でもいったいこれは、何なの?
その灰色の物体は街の真上で止まる。その灰色の物体の一つから、何か大きな叫び声が聞こえてきた。
「地上の住人にお知らせいたします。これより当艦隊は、地上に落下中の隕石に対し、特別砲撃を行います。大きな音と爆風による衝撃が発生します。耳をふさぎ、頭を伏せてください。」
よくわからないが、とにかくあの赤い星に対して何かを仕掛けるようだ。私は言われた通り、耳をふさぐ。
「全艦、砲撃準備!撃ち方用意!」
この号令のあと、空に並んだその灰色の物体の先端が一斉に青白く光った。
「装填完了!撃てっ!!」
この合図と同時に、ものすごい光の束が一斉に放たれた。続いて、雷のような轟音がいくつも鳴り響く。
「きゃあああっ!」
あちこちで悲鳴が起こっている。この発光に伴い、地上には激しくて生暖かい風が吹き荒れる。
ほこりが舞い上がって、周りが見えなくなった。私はその場でうずくまり、風が収まるのを待つ。
ようやく風がおさまった。空を見ると、真っ白な光の玉が広がっている。先ほどの赤い星が、あの光によって破壊されたようだ。直後にバーンという大きな音が鳴り響いた。
「目標、完全に消滅!撃ち方やめ!」
空の灰色の物体から、終了を知らせるような号令がかかった。どうやら終わったらしい。
私は、伯爵様のもとに走った。
ブラウワーの街は大混乱だ。今日何かが起こるとは言われていたが、全く予想もつかない出来事が起きた。子供や女の人は泣き叫び、男はおろおろしている。
「おお!来たか、占い師!」
「はい、やはり何かが起こってしまいました。」
「そうだな、だがいったいこの空を飛ぶ城のようなものは何なのだ?」
外に出ていた伯爵様と話す。いたって冷静な伯爵様。だがさすがの伯爵様も、この突然起こった出来事に戸惑っておいでのようだ。
私にも、これがなんなのかわからない。ただ、これが彗星の正体なのは間違いない。
水晶に現れた彗星は上向きだった。つまり、これは何かの「出会い」を暗示している。過去の例からも、どちらかというと幸運な何かが起こることを意味している。
でも、こんな恐ろしい光を発する城塞のようなものが「幸福な出会い」をもたらすとはとても考えられない。しかし、私の占いには今のところ外れたことがない。いったい、これから何が起きるのか?
そんなことを考えていたら、灰色の城塞の一つがゆっくりと広場に向かって降りてきていた。
「は、伯爵様!あれ!」
「うむ、何かが下りてきておるな。」
「どういたします?」
「誰かを使者に送った方が良さそうだな。」
ということで、誰が使者にふさわしいかを私が占うことになった。
伯爵家に集まったのは、街の役人、騎士など数人。それぞれの手に水晶を当てると、誰がふさわしいかが分かる。
が、よりによって、一番ふさわしいと出たのは、私だった。
「伯爵様ぁ~!」
「自分の占いの結果であろうが、仕方あるまい。諦めて、行って参れ。そなた自身の占いの結果だ、大丈夫だろう。」
そう言われて送り出される私。今回の占いほど、嘆かわしいことはなかった。自分の占いなのに。
単身送り込まれたものの、大きな城塞に近づくにつれて恐怖心が襲いかかる。
せめてその場にいた騎士殿に、途中までの護衛を頼めばよかった。少しはこの恐怖心を紛らわすことができただろうに。
広場の周りには、たくさんの人が集まっていた。私はその人混みをかき分けて広場に入る。
広場といっても、ここはただ一面砂地が広がっている場所。元々はここに王宮を建てるつもりだった場所だが、急遽王宮を別の場所に立てることになったため、ただの広場となっている場所だ。
普段は子供が遊ぶ場所となっているが、特に使われることなく今に至る場所。そこにさっきのあの大きなものが一つ降りてきたのだ。
さすがに街の住人は誰も近づかない。私もできれば、近づきたくはない。けれども、自分の占いによって決められた役割、逆らうわけにはいかない。
それにしても、不思議な城塞だ。今にも転がりそうなほど地面とは接していないのに、全く微動だにしない。いや、そもそもこんなものが空中に浮いていたことが驚きだ。
恐る恐る私は近づく。すると、この巨大な城塞の麓から、誰かが出てきた。
人だ、人が乗っている。考えてみればあの灰色の空飛ぶ城塞、さっき街の人に向かって何か叫んでいた。誰かが乗っていて当然だろう。
だが、こんな大きな空飛ぶ城塞を持っている国などあっただろうか?我々のいる王国はもちろん、隣の王国にもない。海のはるか向こうにまだ知られていない大陸があると言われているが、まさかそこからやってきたのだろうか?
いや、彼らは空からやってきた。もしかして、神の国からやってきたのか?
そういえば、聖書には七つの頭を持つ強大な悪魔の話が出てくる話がある。その悪魔が地上に降臨し、人々を滅ぼすために赤い炎で地上を焼き払いはじめたそのとき、神が下した一筋の雷でその悪魔は倒され、地上に安穏がもたらされたという。
さっきのはまさにそれではないか。あの青い光は、きっと神の雷だったのだ。空からやってきた悪魔を、あの城塞はいとも簡単に倒してしまわれた。おそらくあれは、神の使いなのだ。
だとしたら、私などではなく、教会の牧師様の方がよかったのではないか?私のような占いだけの小娘が会うべき方ではない。そう思って、私は引き返そうとした。
「ああ、ちょっと待ってください!」
しまった、あろうことか神の使いの呼び止められてしまった…
私は占い師だ。しかし、わりと正確に先のことを知ることができる。
この行為は「予言」とも言えなくもない。神ではなく人間が予言を行うことを、神の言葉が書かれている聖書では固く禁じられている。つまり私は、神の冒涜者として裁かれかねない占い師なのだ。
迫り来る神の使い。私は急に恐ろしくなった。これはまずい、私は捕らえられ、地獄に落とされてしまうかもしれない。
が、この神の使いさん、私のところに来るや、こんなことを言い出す。
「先ほどは緊急事態だったので、前触れもなく砲撃を行い、地上の人々を驚かせてしまった。本当に申し訳ない。」
神の使いさんがいきなり冒涜者である私に謝ってきた。どういうこと?
「あの…どうかされました?」
「あ、いえ、その…あなたはどこからいらっしゃったのかなと思いまして…」
「ああ、そうでした。自己紹介がまだでしたね。」
そういうと突然、この人は足を揃えて直立し、右手を斜めに額に当てた。
「私は地球299の第1遠征艦隊所属、第16小隊、駆逐艦5270号艦の主計科士官のパトリック少尉と申します。」
えっ?なんて言った?全く聞き取れなかった。アース…299?駆逐艦?
「ええと…さすがは神に使われるお方ですね…長いお名前で…」
「ああ、名前はパトリックですよ。別に神の使いでもなんでもありません。私はただの宇宙人ですよ。」
「えっ!?う、宇宙人?」
また謎めいたことを言い出した。何?その宇宙人っていうのは?
「あの…なんでしょうか、宇宙人というのは…」
「宇宙の別の星からきた者のことです。そうですね、少し詳しくお話しいたしますので、こちらにいらして下さい。」
そう言ってこのパトリックという宇宙人さんは、私を空飛ぶ城塞の中に招き入れた。
思わず私はついて行ってしまったが、よく考えたらここはとんでもないところではないのか?
かといって逃げるわけにもいかず、私はパトリックさんについていく。
奥で左右に開く扉の奥に乗り込む。そこは行き止まりだが、パトリックさんはその小さな部屋に私を導く。
私は言われるがままにその行き止まりにたどり着く。すると、急にその後ろの扉が閉まった。閉じ込められた…私は思わず不安になった。こんな狭いところに閉じ込めて、いったい何をするつもりか?
が、その部屋は少し揺れて、すぐに開く。
扉の向こうには、さっきとは全然違う通路が見える。なにこれ、どこに来ちゃったの?私にはわけがわからない。
「あの。」
「は、はい!」
ぼーっとしている私に、パトリックさんが声をかけてきた。
「着きましたよ。こちらです。」
手招きされる方に向かって歩く。もうここから出ようにも、出られなくなってしまった。
通路を少し歩き、広い部屋に通された。そこには、2人の方がいらっしゃった。
「ようこそおいで下さいました。私はこの駆逐艦の艦長、マクシミリアンと申します。こちらは広報官のマランツです。」
「どうも、マランツです。あの、あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?」
「あ、はい、私はマーリットと申します。この街で占い師をしているもので、本日は領主様の代わりに参りました。」
「そうですか、領主様の代理人とはありがたい。では、我々のことをお話しいたします。」
そういうと、広報官のマランツさんというお方がなにやらごそごそとし始めた。
「そうだ。少し長い話になるので、何かご用意致しましょう。少々お待ちください。」
そういうとマランツさんは、手元にあった白い四角いものを取り出して、なにかを話し始めた。
なんだろう、呪文か何かだろうか?誰もいないのに会話をしている。
すると部屋の入り口から、パトリックさんが入ってきた。なにかを持っている。
「どうぞ、お茶とお菓子をお持ちいたしました。どうぞお召し上がりください。」
マクシミリアンさんとマランツさんにも同じものを置いていった。私は恐る恐る、お茶を飲んでみた。
なんだろう、とてもいい香り。これ、すごくいいお茶だ。
お菓子も手にとって食べてみる。黒くて少し苦味があるが、とても甘いお菓子。なんだろう、これ。こんな味は初めて。
すると今度は部屋が薄暗くなった。で、部屋の壁の一部が光り、何かが映っている。
なんだろう、この大掛かりな仕掛けは。そこには、白い筋模様がたくさんのっている青色の球体が映されていた。
「これはあなた方の星を宇宙から見たものです。あなた方の星はいずれ地球781と呼ばれる予定になっています。我々がここにたどり着いたのはつい3日前のことで…」
広報官のマランツさんの話は続く。
要約すると、この方達はつい3日前にここにきたばかりだったが、今日になって突然ここに隕石と呼ばれる大きな岩が落下していくのを見つけた。それで大慌てで駆逐艦と呼ばれる船を10隻派遣して、この岩を破壊したという。
もしこれが地上に落下していたら、この街の人々は完全に消滅していたらしい。
さっきのあの雷は、この街を守るために放たれたものだったんだ。私はそこで真実を知る。
で、そこからこの人達の話に移った。
この人達は、ここから250光年という距離を隔てた地球299と呼ばれる星からきたのだという。光でさえも250年かかる距離なんだそうだが、そう言われても私にはしっくりこない。
そんなに遠くからわざわざここまできたのは、私達の星に宇宙統一連合と呼ばれる陣営へ加入してもらうためだそうだ。加入した暁には、この船の建造技術をはじめとする様々な技や、交易による莫大な利益が得られるという。
「…で、私は、このお話を領主様に取り次げばよろしいのですね。」
「はい、是非ともお願いしたい。」
私はこっそり水晶玉を彼らにかざして見たが、特にウソを言ってるわけではなさそうだった。
明日にでも伯爵様のところに伺いたいそうだ。私は明日もう一度ここに来て、伯爵様の返事を伝えることとなった。
私は部屋を出た。そこにはパトリックさんがいらっしゃった。
「お疲れ様でした。マーリットさん。出口までご案内いたします。」
またあの行き止まりに行く。扉が閉まってしばらくすると、また別の場所に出た。
さっき通ったところだ。これで出られる。
「今日はありがとうございました。これ、お礼です。」
パトリックさんがなにやら透明な袋に入ったものをくれた。これはさっき食べたお菓子だ。
「今はこんなものしかありませんが、いずれまたちゃんとしたものでお返しいたします。」
「はい、お心遣いいただき、ありがとうございます。」
そう言って、私はふとパトリックさんに水晶玉をかざしてみることにした。
「綺麗な水晶玉ですね。なんですか?それは。」
「あ、いえ、私の商売道具なんです。ちょっと失礼します。」
そう言って、パトリックさんにかざして見た。
そこに現れたのは月だった。月の出現は、結婚を暗示する。この人、近々誰かと結婚することになるんだ。宇宙というところからやってきた人なのに、あまりに普通の人にありがちな占い結果が出てきて面白い。
「あれ?この水晶玉、月が出るんですね。なんですか、これ?すごい技術ですね。」
…えっ?この人まさか、この水晶玉に映るものが見えるの?
「あの、ここに映ってるものが見えるんでしょうか?」
「はい、はっきりと見えますよ。なんですか?これは。」
試しに、街の方にかざしてみた。たくさんの彗星が上向きに並んでいるはずだ。
「あの、これも見えます?」
「はい、白い筋のようなものがいっぱい並んでますね。なんですか、これは?」
「ええと、また今度お話しいたします。今日はもう遅いので…」
「そうですね、ではまた明日、お会いいたしましょう。」
私は早足で伯爵様のところに向かった。
それにしても、なぜあの人には水晶玉の中が見えたのだろうか?あんな人、初めてだ。
私は伯爵家のお屋敷に着くと、大急ぎで伯爵様にお会いした。
で、あの船の中のことを話す。とりあえず、もらってきたお菓子をお見せする。
伯爵様も、紅茶とともにこれを食べてみた。中が透けて見える不思議な袋に、苦味と甘味が組み合わさった不思議な味。伯爵様も初めてのようだ。
私は、その船の中で聞いてきた宇宙というところの話をする。もっとも、私が理解できた範囲の話をするのが精一杯であり、すべては伝えられなかった。ただ、その時に見せてもらった不思議な光る壁の話も付け加えておいた。
「そこには、たくさんの星の絵や、あの方々の星の姿、そして私たちの住んでいるこの大地を遠くから見た時の姿まで映っていたんです。不思議な仕掛けでした。」
「そうか。で、マーリットさんは彼らのことをどう思う?」
「そっと水晶玉をかざしてみましたが、嘘をついているようではありませんでした。彼らの話すことは、どうやら本当のようです。」
「そうか。ならば、一度会ってみるのがよさそうだな。」
伯爵様は、彼らをこの屋敷に呼ぶことになった。明日、私がもう一度あの船に行って伝えることにした。
私は家に戻る。ベッドの上で、パトリックさんのことを考えていた。
不思議と、あのお方のことが気になった。私以外に水晶玉の中を見ることができる人。そこに何か運命のようなものを感じてしまったのだ。
でもさっき、水晶玉には月が出ていた。誰かと結婚してしまうんだ、あの人。相手は誰なんだろうか?もう婚約している人はいるのだろうか?そんなことを考えながら、私はいつのまにか寝てしまった。




