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崖っぷち所長と生真面目少尉と料理ロボット 2

翌朝になった…と思うのだが、ここは窓がなくて、今が朝なのかどうかが全く分からない。


横ではロッシーニさんが、寝息をたてて寝ている。


私は、昨日のことを少し整理してみた。


仕事のミスで事業部長に怒られて、それでやれかぶれになって山奥に入っていったら宇宙人に会って、食堂でドリアを食べながら話をしていたら、いつのまにかこの少尉さんと一緒に寝ていた…


そういえば私は今、素っ裸だ。急に恥ずかしくなってきた。


それにしてもこのロッシーニさんという男。なぜか一緒にいると安心してしまう。


私のような者でも心の安らぎを覚えられる人が、わざわざ140光年も離れた星からやってきたんだ。不思議な巡り合わせだ。昨日の朝には、そんな出会いが待っているとは思いもよらなかった。


しかし、身近にこういう人はいないなあ。やっぱり私、宇宙人としか気が合わないのだろうか?


そんなこと考えていたら、ロッシーニさんが起き出した。


「ああ、トワネットさん。おはようございます。どうしたんです?ぼーっとして。」

「あ、いや、どうしてこうなったんだろうなあって考えてて…」

「そうですね。私もそう思います。でもトワネットさん、お肌がほんと綺麗ですよね。」


この人は思ったことをすぐ口にするタイプなのだろう。言いたい放題だ。この言葉のおかげで、朝からもう一回してしまうことになった。


着替えて、朝食を食べに行く。朝から激しい運動をしてしまったため、お腹が空いた。


おまけに足が痛い。昨日はそれほどでもなかったが、一晩経ったら急に痛み出した。薬をもらっておいてよかった。


朝はトーストと目玉焼きを食べた。ロッシーニさんはパスタを食べている。


宇宙人といっても、私達と同じようなものを食べている。姿格好も、そして男女がベッドの上でやることも一緒。140光年なんて遠くから来てるのに、どうしてこんなにも同じなんだろうか?昨日とは違う疑問が出てきた。


ロッシーニさんに聞いても、よくわからないようだった。同じような人が住む星というのは半径7千光年のリング状に分布していて、明らかに何か人為的なものが背景にあると考えられているが、それがなんなのか、未だにわからないそうだ。


「でも、円形に分布してるのなら、その中心に行けば何かあるんじゃないの!」

「そうです、そう考えて昔、調査隊が向かったらしいんですが、あったのは赤色矮星ただ一つ。他には何にもなかったようですよ。」


で、唱えられているのは、そこにかつて人類が存在しており、その星が滅びに瀕した際に、脱出した人類が生存可能な惑星に降り立って暮らしているという説。


ただ、それならそれぞれの星に巨大な宇宙船の痕跡や、宇宙からきたという伝承があっても良さそうなものなのに、そういうものがない。おまけに、星ごとに文化のレベルが違いすぎるそうで、宇宙船を持った人々が降り立ったというには、ほぼ全ての星で他の星に行ける宇宙船を持たないことが説明できないそうだ。


いくらなんでも、宇宙船を飛ばせるほどの人々が、星に降り立って急に旧時代の生活に逆戻りして、そこから徐々に文化を育てていくなんてこと、するはずがない。結局、なぜ広大な宇宙に同じ遺伝子を持つ人類が生存しているのかは、今もってわからないとのことだ。


「まあ、そういうもんだと思うしかないですよ。いつかは分かるかもしれませんが、分かったところで、私のやるべきことは変わりませんし。」


つくづくこの人は面白い。人類の起源など、自分の使命を変えるものではないとおっしゃっている。私よりも5歳年下だというのに、どうしてこんな境地に達したのだろうか?不思議だ。


「あ、そうだ。トワネットさん。今日はお仕事に行かなくてもいいんですか?」

「ああ、大丈夫。今日は土曜日で、会社はお休みだから。でも私、休みでも会社に行ってたから、今日は珍しくこないなあと思われてるかもしれないけどね。」

「休みの日は休んだほうがいいですよ。骨休めもお仕事だと思うことです。」


いちいち発想が面白いな、この人。私にはない感性を持っている。


食堂にいる他の人の会話を聞いていても、宇宙人だからといって、この少尉さんのような人ばかりではなさそうだ。他の人はむしろ私達と同じような人。この変わった感性は、この人特有のものだ。


なぜか私はこの感性に惹かれる。真面目すぎる使命感に、なんでも肯定的に解釈する独特の感覚。これがこのロッシーニという人の魅力だ。


「ところでトワネットさん。」

「は、はい!」


急に話しかけられるから、焦ってしまった。


「実は我々、交渉すべき人を探してるんですよ。この星の人達と交渉しなきゃいけないんですが、そのためには政府やお役所といったところとつながりを持った人に会わないといけないんです。誰かそういう人、知りませんかね?」

「ああ、それなら仕事で関わっている人で…」


この話を聞いてピンときた人は、経済省の人だった。仕事柄、公的な機関とも関わりがあるため、その人の話をした。


で、私がその人とこの宇宙人達とを仲介することになった。


こうして私は地上に帰ってきた。やれかぶれになってさまよった山の麓に降り立つ。そこでロッシーニさんと別れを告げる。


さて、開けて月曜日、早速その公的機関の人とコンタクトを取る。さすがにいきなりは信じてもらえなかったが、実際に会えばわかりますと言ってなんとか会ってもらうことになった。


仕事そっちのけで、私はこの宇宙人との交渉を優先した。私が他人のために動くなんてことは珍しい。おかげで、私はなんとか目的を果たした。


「君にしては珍しく、仕事が捗っていないじゃないか。」


事業部長から呼び出されて、私は早速叱られた。


「だが何だろうな?珍しく熱心に取り組んでることがあるようじゃないか。以前は機械のようだったが、ここ2、3日は急に人間らしくなったぞ。どうしたんだ?」

「はあ、これからお話しすること、信じられないかもしれませんが、聞いてもらえますか?」


そこで私は、宇宙人のことを話した。まだ治りきっていない足の傷を、その時の証拠として見せた。


「彼らはいずれ我々の前に現れます。その交渉の手助けをしただけです。」

「なるほど、そりゃ信じがたい話だな。ところで、我々の立場でその宇宙船とやらを見たら、何か発見はあったのかね?」

「はい、あります。我々よりも明らかに進んだ機械がありまして…」


そこで私は、食堂で見た大きなパネルの話や、裏で料理を作る機械の話をした。


「ブラウン管ではない方法で映像を表示する上に、手で触れただけで反応して料理が注文できる。そんな機械、我々には到底作ることができません。」

「うん、聞いたことがないな。」

「しかし一番気になったのは、料理を作る機械の腕です。たった2本の腕で、あらゆる料理を作り上げていました。まるで人間のようです。でもあれが身近になれば、大変なことになります。」

「そんなものがあるのか!?それが本当なら、飲食店にとっては大変なコストダウンになるし、産業構造が大きく変わることになる。興味はあるな。」

「私としては、共働きの主婦が欲しがる機械だと思いました。我が社がこの機械の製造権を獲得できれば、大変な利益になります。それに…」

「それに?」

「多くの主婦が喜ぶと思います。お客様が喜んで使っていただける製品を我々が届けられることは、多くの社員にとってもこれ以上にない励みとなります。」

「うん、いいレポートだ。分かった、少し君の好きなようにしたまえ。私も応援しよう。」


事業部長が私の行動を認めてくれた。最後は無理やり会社に絡めた話にしたが、おかげで事業部長にも事の重大さが伝わったようだ。


こうして1週間、私は宇宙人の交渉ごとに専念した。所長の仕事は、課長に代理をお願いしてもらった。


そして1週間後の金曜日。この日は、ついに宇宙船が降りてくることになった。


私のいるこの本社ビルの向こうに広い河川敷がある。ここにロッシーニさんの乗る駆逐艦が着陸することになった。


前日に、政府から公式発表があった。宇宙船や宇宙人のことがテレビで一斉に報道されて、突然やってくる宇宙人という存在に、皆戸惑っているようだった。


私はその日、机に座って書類を見ていた。しばらく所長業務を放置していたから、随分とたまってしまった。


急に職場内が騒がしくなった。何が起こったのか?皆窓の外に集まっている。


私も外を見た。


そこには、巨大なビルほどの大きさの灰色の物体が、悠然とビルの前を横切っていくところだった。


どう見ても重そうな物体なのに、まるで気球のようにふわふわと浮かんでいる。


その物体は、ちょうど河川敷の真上で空中に停止した。


ああ、ロッシーニさんの乗る駆逐艦だ。とうとうきたんだ。周りが大騒ぎしている中、私は嬉しくなっていた。


そのままゆっくりと、河川敷に向かって降りていく。下には、何台かの警察や消防の車両が並んでいた。立ち入りを制限するために呼ばれたようだ。


その車両が作る囲いの中に、駆逐艦がゆっくりと降りていく。無事着陸したようだ。


事前に告知されていたとはいえ、突然の宇宙人の訪問。しかもどう見ても戦闘艦というこの船に、職場内でも不安の声が上がっていた。


「あれ、宇宙人の船だって。先端の大きな穴は、多分ビーム砲か何かだよ。」

「ええっ!?なんでそんな船をここに呼んじゃったのよ!政府ったら、何を考えてるのよ!」

「でもあの船に乗ってるのは、私達と同じ格好の人だって言うよ?本当かなあ。」

「そんなわけないでしょう。絶対ぬるぬるしたのが化けてるんだって!」


その宇宙人と一夜を共にした人物がここにいるとも知らず、皆好き勝手に言っている。


「はいはい、おしゃべりはそこまで!仕事するわよ!宇宙人の話は、まず自分の業務を終わらせてからにしてちょうだい!」

「所長は怖くないんですか?宇宙人ですよ!?どんなやつが乗ってるかわからないんですよ!?」

「たとえぬるぬるするやつが乗ってたとしても、ドライヤーくらいは買ってくれるかもよ?大儲けのチャンスなんだから、やることをやりましょう。」


何気無く言ったこの一言が受けたようで、皆笑いながら業務に戻っていった。


時々外の様子をちらっと見る。駆逐艦の下には、何台かの黒い車がやってきていた。おそらく、政府高官だろう。


今日はうちだけでなく、どこも仕事にならないだろう。あんな大きな宇宙船がやってきて、気にならないはずがない。


ということで、今日は早めに業務を終えることにした。1日くらいサボったって構わないだろう。骨休めも仕事だと、宇宙人だっていってたし。


皆を早めに帰らせて、私の早く上がろうかと思ったその時、事業部長から電話で呼び出された。何だろうか?急に。


私は事業部長の部屋に行く。


「お!来たな。」


事業部長はえらく笑顔だ。何があったんだろうか?


「君に辞令がきている。」

「えっ!?辞令ですか!?」


こんな中途半端な時期に辞令とは、一体どういうことなのだろうか?私は事業部長の言葉を待つ。


だが、次の一言は、私には衝撃的なものだった。


「トワネット君、本日付で、君を所長職から解任する!」

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